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殿下方は何もかもそっくりで、外見では見分けが付かない人が多い。
唯一魔力の色だけは違うらしく、その色に似た宝石をもじった名前になったのだそうだが、見えない物は見分ける判断材料には出来ないために中々に厄介だ。
魔力は自分だけの色が有るらしく、産まれた時から死ぬまで変わらない。出生時に特殊な水晶を用いて調べるが、その特殊な水晶以外では魔力を見る事は出来ないらしく、それ以外で見えるとか言うお話は大体オカルトである。
つまり皆が赤い魔力がルビス殿下で青い魔力がサフィア殿下と理解しているが、見えない物で日常的に見分けるのは不可能だ。
よって私の答えはこれである。
「殿下は殿下ですからねぇ」
「……それは両方に使える便利な言葉だな」
「いやぁ間違えたら失礼だなと思ってまして」
「だから分かりやすいようにリボンを着けているだろう」
「あー、なるほど」
赤いリボンの他に、カフスやタイピンなんかにもルビーが付いている。なるほど、小物でどっちの名前なのか判断すれば良いわけだ。
「今さら気がついたのか……」
「いえ、リボンは気がついてましたけど名前と一致していると認識しておりせんでした。申し訳ございません」
「……君が私達にとてつもなく興味が無いのはわかった、後、聞こうと思っていたことも君は関与していないだろう事がわかった」
「ちなみにお聞きしますが何の話だったんですか?」
興味が無いのはお互い様じゃないかと思いつつも話題を替える。多分この人、家の姉妹が関わってないと私の存在を忘れているだろう。姉妹が関わる事でも忘れていてくれてもいいのに。
「イモットゥーリ嬢が姉二人に辛く当たられていると相談してきた。特にミスティーナ嬢、君に嫌がらせを受けていると言っている。婚約者に選ばれないであろう焦りと嫉妬から行為はエスカレートしてきて、部屋を荒らされたり怪我を負わされそうになって困っていると、友達にも相談出来なくて悩んでいると言っていた」
「いや、私は殿下や王子妃に興味は無いですし、って言うかそんな地味な事して何になるんですか?結果覆したいならもっとエグいことしますよ。もしくは社会的な意味で再起不能に追い込みます、出来るかどうかは別として」
「前半は何か納得いったが後半色々はどうなんだ……」
「カトレッド家は弱肉強食ですので」
主に存在感的な意味で。と心の中で付け加える。
猛獣のエサにならないよう、草食動物のごとく影をうっすーくして生きて来たのに。なぜ今さら噛みつきに来たのだろうか?
理解に苦しむが大人しく食われる気もない。
「まあ、仕掛けられるのが分かった以上、黙って食べられるのを待つ気は無いですけどね」
掛かる火の粉は払うに越したことはない、特に私は弱肉の方なので、後手の対処では間に合わないだろう。
と、なれば取れる手段はただひとつ、先手必勝、仕掛けられる前に完膚なきまでに叩き潰す。……事が出来たら良いのだけれど手段も方法も無いので、私に構っていられなくしておこう。
「いや、イモットゥーリ嬢が君達を貶めようとしたと決まった訳ではない。勘違いと言う事もあるからあまり責めるな」
「……とは言いますが殿下、女の戦いは基本口が多い方が勝ちます。つまり味方の数ですね。イモットゥーリは取り巻き……ゴホン次期王妃候補のお友達枠を狙うハイエナ「待て、言い直した方がひどい」
「では将来の権力に群がる有象無象……羽虫ども?」
「余計ひどい、素直にお友達で良いだろ」
ここでやり取りしても話が進まないのであきらめて王子に譲歩してやることにした。
「イモットゥーリには彼女の将来性に賭けているお友達がたくさんいらっしゃいますので、妙な噂を立てられれば孤高の存在的な私は対抗策を失います」
「……つまり、君は友達いな「群れを嫌う私が、群れに勝つには財力、権力、智力が必要です。残念ながら私が打てる術は智力のみ……叡智を溜め込んだ私の灰色の脳ミソが囁くのです、口は開く前に塞いでしまえ、と」
「……方法は」
「内緒です」
「ん?」
「わざわざ敵に塩を送る真似しませんよ」
「敵……か?」
「ルビス殿下はイモットゥーリの味方だと認識しておりましたが違うのでしょうか?」
「……まだ婚約者候補というだけだ。それとしても、妹にずいぶんと手厳しいんだな」
「複雑な家族構成並びに格差教育の賜物である姉妹ヒエラルキーの最下層で育ってますから、潰されないように必死なだけですよ」
「……何割かは王家のせいだな、すまない。だが今回は私に免じて収めてくれ」
さらっと間違いを認め、話を収める様に動けるうちの国の殿下は、素直に凄いと思う。
が、それとこれとは話は別だ!!
「嫌です」
「は?」
まるで幻聴でも聞いたかのような顔をする殿下に、耳の穴かっぽじってよく聞きやがれと悪態を口に出さずについて、もう一度同じ言葉を放つ。
「だから嫌、です」
「……私の顔に泥を塗る気か?」
「いいえ、そんな大層な事ではございません、ただ家族同士で話し合うべき事なので殿下を巻き込む訳にはいかないと思っただけです」
「しかし相談を受けたのは私だ」
「さっき殿下ご自身がおっしゃったじゃないですか婚約者候補だって」
「そうだな」
「婚約者でもねーのによそ宅の事情に口出しするんじゃねーですよって事です」
「……それもそうだな」
やけにあっさりと引き下がった殿下に意表を突かれたものの、授業開始のチャイムで我に返る。
やっぱり朝御飯は食べられなかった。