相容れぬもの_前編
ランキング御礼!
「シャー」
ごきげんよう! 私、ミスティーナ!! 今、緊急でお伝えしなくてはいけないことが……
「見事に戦闘態勢ですねぇ。え、なんで??」
ネコに威嚇をされているとお伝えいたします。
なんて心の中で実況しているが、問題は目の前の猫である。
毛を逆立ててすごい形相でこちらをみている猫。素早い左端前足のジャブが飛んできた。
どうにかネコと和解出来ないか?
「猫、なんであなたは、なんにもしていない私に、そんな威嚇をするんですか!?」
爪の出た右ストレートがとんできたので、避けながら猫の機嫌を損ねた理由を探る。
状況を確認しよう。
私はたまたまこの裏路地に入って歩いていたら道端で寝ている猫を発見した。
気持ちよさそうに寝ているので、起こさないように音を立てずに静かに通り過ぎようとしただけなのに。
「なあぁぁん!!」
ちょっとだけ靴が鳴ったのだ。それで猫は驚き、攻撃でもされたかのような鳴き声とともに戦闘態勢に入って冒頭へと戻る。
「いいですか、猫。私はあなたを攻撃する意思はありません。ない、ないのでゆる、ゆるし……ああああ」
気がつけば飛びかかられた後であった。
◆◇◆
「あんた、どーしたのそれ」
猫の攻撃により、ヨレヨレの格好になり、まあいいかとそのままギルドへ向かうと受付の顔なじみのおねーさんにそう問われた。
「猫にやられました」
「……いや、猫って。特Aランクの名が泣くわよー、猫に負けるだなんて」
ニヤニヤとこちらを笑いながら冷やかしてくる顔なじみのおねーさん。
笑い事では無いんですけど!
「吐いちゃいなさいよ、どんな事件に首突っ込んで来たらそうなるの?」
まるで人のことをトラブルメーカーのように言うけれど、私はそんなに好奇心旺盛で、事件があったら野次馬するような性格……ではないと言い切れない。
騒ぎがあればそっと様子をうかがうくらいはするし、面白そうな事件であれば聞き耳をたてる、気はする。
結論。残念ながら完全に否定できる要素がなかった。
「昼寝している猫の横を通り過ぎたらこうなるんです」
不機嫌を前面に出してそういえば、受付のおねーさんは真剣な顔になる。
「……え、本当に猫なの?」
「だから、猫ですって。襲撃されました」
……
「アンタ、猫、猫ってアハハハ、特Aが猫に負けるとか、プププっダメェ面白すぎる。どんな猫よ! そんなに強い猫って!!」
一瞬の間のあとバシバシとカウンターを叩きながら笑っているおねーさん。
解せぬ。こちらはいたって真剣なのだが。
「だって相手は猫ですよ! か弱き生物ですよ!? 反撃なんて出来ませんし!!」
猫をかぶった令嬢の修羅場は、遠巻きに眺めてきたからそれなりに対応出来るつもりだが、猫本体は私とあまり絡みがないのだ。
ちょっとどうしたらいいか、まだわからない。
「いや、フフっその前にっクククっなんで猫に襲撃されるなんて、アハハハッどうやったらそんなに嫌がられるのよっフフフっ。普通猫って、逃げるのが多くてそんな襲いかかってこないでしょプププ」
「笑うか喋るかどっちかにしてもらえませんかね!?」
「アッハハハハ」
どっちかにしろと言ったら笑う方にしたらしい。
なんで!?
いや、どっちかにしてと言ったのは私だけれど!
「もー。正直に言って損しました」
「まあまあ。面白い話を聞いたから教えてあげるけど、動物に嫌われるタイプの人けっこう冒険者には多いのよ。なんか威圧感あるみたいで」
「威圧感ですか。あるんですね! 私に!!」
「うーん、そうねぇ……きっと動物も人間には感じ取れない何かを感じてるのよきっと」
ウッキウキで威圧感があると思い発した言葉だったが、おねーさん的には威圧的に見えないらしい。
それはそれでなんかちょっとシャクに触るというかプライドが傷つく。
私だって威圧的な歴戦の猛者感がほしいんですが。
「まあ単純に、その猫との相性が悪かっただけかもしれないし、他の猫とか動物で試してみれば? メジャーどこで犬とか」
なんか話を逸らされた気はするが、まあ嫌われる原因を突き止めてみたいような気はする。
私だって動物に好かれる乙女! みたいなのをしてみたい欲はあるのだ。
撫でてみたいのだ!!
「なるほど犬はいいかもしれません」
犬は人に従順と聞くし、もしかしたら仲良くできるかもしれない。絡んだことないけど。
「気になるようなら猟犬連れている冒険者に声をかけておくけど? 笑っちゃったお詫びに無償で」
「それは有難いです」
そうして犬(の飼い主)と予定を合わせていざ対面の日――
ごきげんよう、私ミスティーナ。今私ったらね……
「ガルルルルルル」
「あれ? こいつ普段は人懐っこいんだけどな」
犬に威嚇されてるの!
いや、なんでだ!?
「き、今日は、ご機嫌斜めなんですかね?」
頼むそうであってくれと、期待のこもった目で飼い主を見つめるが、無情にも首を横にふられた。
「あー、さっき餌も食わせたし、今日は比較的機嫌がいい方だったよ」
だった。過去形、つまり機嫌がいいのは過去の話で、今現在は機嫌がよろしくないらしい。
「……もしかしなくても私のせいですかね?」
「わからねえ。おい、シーバ」
「クゥーン」
飼い主がしゃがんで犬の名を呼ぶと、犬は高い声で飼い主に甘え始めた。ひっくり返って腹まで出している。
ま、まあ。飼い主に対しては懐いてるからね普通……
「あらもう来てたの! あ、シーバちゃん」
「キューン」
言いながらギルドから出てきた、顔なじみの受付おねーさんも犬にかけ寄って撫でている。
その顔は飼い主に撫でられているよりもご満悦だ。
目はトロンとしているし、舌もはみ出している。
お前、飼い主じゃなくてもいいんかい!
心なしか鼻まで伸びている気がする犬にイラッとする。
「し、シーバ?」
「ガルルル」
「ッく、シルビア、ふふふ」
イラッとしながらも、名前を呼べばおねーさんと同じ反応をしてくれる可能性に賭けたが、呼んだだけでお怒りモードのシーバ(推定オス)。
「あー悪いな、シルビアちゃん。こいつ、特に女性にはなつくんだけど……おかしいなぁ?」
「……えーっと、それは」
「ブァッアハハハハ」
先程から肩を震わせていたおねーさんがこらえきれずに吹き出していた。
なんだ、私はこの犬っころに女として認識されていないのか。
いや、ベツニイインダヨ? 犬に女性扱いしてほしくないし……?
「ヴゥゥゥ」
牙を見せながら今にも飛びかかって来そうな犬に対し、これはもしやナメられているのではないかと悟る。
よく犬は順位をつける生き物だというではないか。これは私を下に見ているからこんな態度なのであって、ここで立場を逆転させれば少なくとも反抗的な態度ではなくなるのではないだろうか?
「……あんまり反抗的なら、私が直々に躾ますよ」
「ギャン」
半分冗談のつもりだったのだが、そう言ったら悲鳴に近い鳴き声を上げて尻尾を下げて尻を隠し、飼い主の後ろへと隠れる犬。
なるほどこれが尻尾巻いて逃げるというやつか。
「……シルビアちゃん。うちのシーバをいじめないでくれ」
「どちらかというと私がいじめられてますけどね!?」
飼い主がジロリとこちらを見るが、いじめられているのはこっちである。
「ププッ、特Aが犬にいじめられているって、アハハハ」
まだ笑っている受付のおねーさんを白い目で見ながら、私が触れ合える動物はいるのだろうかと考えを巡らせた。
明日も続きがあります!




