その後とその前3
自称邪神討伐後、王宮に戻った日には元姉と元妹とその他大勢が芋づる式に逮捕されたニュースで持ちきりだった。
血縁であっても容赦無しに裁いたカトレッド公爵が、二十数年前の後始末をつけた、とか言われて株を上げていて、そのせいでうっすらと知ってしまったことがある。
公爵が私の母親と結婚した理由と、多分あの後妻を引き入れた理由は、およそ二十年前の出来事が関係しているらしいと。
王妃様なら知っているのだろう、訳知り顔で公爵の復讐は終ったのね……なんて言ってたし。
でも私は知りたくない。知ったところで、私の過去は変わらないからだ。
しかし公爵は殿下方王族と協力体制だったらしいが、美味しいとこ持って行きやがった。
解せぬ。
……いや本当は分かっているのだ、多分サフィ様が功績を譲った理由は私のためだ。カトレッド公爵家になるべく傷を付けないために譲った。
決して公爵のためではない、私の後ろ楯だからだ。私の心情的には紙の楯だとしても、次期王妃となるなら必要な楯である。
使えるものは使わなければ……分かってはいる、けど。
とりあえず腹立たしい。私の後ろ楯もより強力なものとなったし……余計腹立つなぁ。無性に腹が立ったのでとりあえずサフィ様へ八つ当たりしに行った。
「今日はずいぶん積極的だね?」
「甘えたい気分でしたので」
若干タックルになってしまったが難なく受け止められ、頭を撫でられる。
タイミングを見計らってサフィ様の執務室にお邪魔したが、邪魔なときは言ってくれる。意外にもその辺の公私はキッチリしていたりするので。
「渦中の存在となって学園に戻らなきゃいけない私へ癒しを下さい」
明日には寮に戻り、明後日から登校である。今まで名前すら認知されて無かったのに一気に注目の的になるのが面倒すぎる。
「うーん休学扱いにしてそのままここに居る?」
「後ろ楯が強力になったとはいえ、なるべく私自身への攻撃材料は増やしたくないです」
「その後ろ楯のせいも有るんでしょ? 甘えたいの」
図星だったのでグリグリと頭を押し付けた。
ちょっとやりきれない思いが爆発しそうだったので甘えに来ましたが何か?
「一緒に逃げる?」
「それだと負けた気がするので嫌です。それに」
言葉をいったん切った。私はカトレッドの名前を利用すると決めたのだ、どんなに複雑な思いを抱えていたとしても。だって
「サフィ様が好きです、冒険者をしているのも好きですが、王太子としてキッチリ役割をこなしている一面も好きです。そんなサフィ様の事をずっとお支えしたいので、国王陛下をお支えする王妃様みたいに」
だからカトレッド公爵令嬢のままでいい。サフィ様の、王太子殿下の隣に居るため。腹立つけども。なんなら今だって、心の中で何回も利用してやると決意し直している。
「ありがとう。ミティが隣に居てくれるのは凄く嬉しい」
優しく腕の中に閉じ込められた。もっとしてくれてもいいのに、その、甘えたい気分なので。
思いが通じたのか額に口づけが落とされた。……オデコですか、そうですか。
「ミティは癒しをご希望だったから楽しいことでも考えよっか?」
私の不満を読み取ったようで少し明るくそう提案される。
「楽しいことですか?」
「うん、復讐の話とかどう?」
サフィ様、それは全然明るく言い放つ話題ではないし、多分楽しい話ではない。
顔面にそれを出したがサフィ様は構わず続けた。
「例えば、僕らの結婚式の時に公爵はミティのエスコートを禁止、バージンロードには一歩たりとも近付けさせないとか」
「メンツは潰せそうですけど、そんな事出来ますかね?」
一人でサフィ様の所まで歩くのも悲しい気はする。公爵と歩くのも嫌だけども。
「当日急病にかかってもらおう、代役は一番保護者をしていた王妃様で」
「あ、それは嬉しいです」
むしろ途中で変わってほしくないかも。
「あとは僕とミティの子どもは絶対に抱かせてやらない」
「そんなの気にも止めなそうですけどあの狸」
子どもだろうが、孫だろうが、公爵にしてみれば政事の駒に過ぎないだろう。
「それでもいいよ、公爵には自分が守って大事にしたものだけ抱えて生きてもらおう」
「それは復讐になるのでしょうか?」
「うん、公爵に僕達が家族として幸せそうにしている姿を、蔑ろにしたものはこんなものだと、富や名声を得た代わりに失ったものはもう手に入らないのだと見せ付けてあげよう」
それでもやはり狸は気にも止めないと思うが。
「家族を蔑ろにして守っていたもの、国や家が、公爵だけ家族扱いしない僕らや、その子供の手に渡る。公爵が捨てたものを持ちながら僕らがそれを守れたら、それは皮肉が利いているとは思わない?」
「……物は言い様ですね」
でも心は少し軽くなった。確かに、幸せに過ごすことが復讐になるのなら、そうしよう。鬱屈しているよりは楽しいはずだ。
「でも、その復讐は楽しそうなので乗ってあげます、一緒に復讐してくれますか? 将来の旦那様」
「もちろん、未来の奥様」
今度は鼻先に口付けが落とされた……いや嬉しいけども、うん。
これ、言ったらはしたないのだろうか? ちょっと不満ありの顔でサフィ様を見上げる。
「ごめんね、ここにすると仕事どころでは無くなるから」
プニっと唇を押さえられた、どうやら意図は通じていたらしい。ちょっと恥ずかしくなってきた。
「続きは晩餐前にしようか、呼びに行くから待ってて」
そう言って頬に口付けをくれた。
これだけで幸せだと感じるのだから、復讐は案外簡単なのかも知れない。
スピンオフ始めました。
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