その後とその前2
「で、話は大いに逸れましたが、結局王宮をウロウロしていてルビス殿下とお会いしない理由ってなんででしょうか?」
「会いたいの?」
「いえ、ただの疑問です」
次期宰相候補として名前が上がっていると噂を聞いたので、てっきり腹黒狸の補佐でもしているのかと思っていたのだが、そうでもなさそうなので、ただ単に疑問に思っただけだ。
「えーっと、自分の好みに当てはまる女性を探しに一人旅へと出た」
「いやいや……嘘ですよね? 誰かお供がいますよね?」
仮にも王族がそんな気軽にに出歩けてたまるか。……いや出歩いてSランク冒険者も目の前にいるけども、出歩いて特Aなんて公爵令嬢もいるけども。
……あれ? みんな結構気軽に出歩いてる?
「一人旅は本当だし、嫁候補連れてくるって言ってたのは本当。それが許された理由は別だけど」
「つまり何らかの理由は有るんですね」
「うん。ミティの血縁絡みの事件なんだけど、隣の国も関わっているから、ちょっかい出される前に潰しておきたいよねって話。ルビスは下調べだよ」
つまりラミーネト伯爵家か血縁上の叔父絡みの話らしい。私にはつくづくマトモな血縁がいないな、私を含めて。
「私達もカチコミに行きます?」
「うーん、それは最終手段かな? 今回はちょっと夢から覚めてもらう程度で」
言っておいてなんだが、手段としてはアリなのかカチコミ。
「夢、ですか」
「うん、隣の国は二十数年前の夢から目覚めて無いんだ」
二十数年、と聞いて顔をしかめる。近代史で学園でも習うような大きな出来事が有った。登場するのはうちの国の王家、隣国、そしてカトレッド公爵家。
なんて事はない、国家転覆を狙った隣国と、その息がかかった王族、それを阻止した二人の為政者の話だ。
「概要は知っていますが、その話は聞きたくないです」
ブスッとして言うとサフィ様が困った様に微笑んだ。その出来事のおかげで今後醜聞にまみれたとしても、きっとカトレッド公爵家の名前は揺るがない。
「僕も複雑だけどね。でも、それがなきゃミティが婚約者候補になることも無かったから」
サフィ様がソファーの隣に座り、ポンポンと頭を撫でてくれたので遠慮無く肩にもたれた。
「私も思うところは有りますが、今は持って生まれた地位と権力はフルに使うべきだと思っています。サフィ様の婚約者として、カトレッドの名前は強力な後ろ楯ですし」
捨てるのは簡単だ、だが得るのは大変なものだと知っている。逃げないと決めた以上、フル活用したほうがお得である。せいぜい今まで煩わされた分以上に利用してやると決めている。
「嫌になったら遠慮なく言ってね、潰すから」
「物理で対応出来ない場合はお願いします」
クスクスとどちらともなく笑い声がこぼれる。お互いに頼まないで有ろうことを理解しての事だ。
「でもいいですね、旅。頼まれた用事が大変でしょうがルビス殿下が羨ましいです」
「本人も喜んでいた。今のところそこそこ暇で、能力が有って、居ない理由が付くのルビスだけだったから。まあ、怪しまれないように単独行動させるなら適任だと思うよ」
「サフィ様達は意外と仲良しですよね?」
状況的に仲違いしていても不思議では無いが、殿下達はお互いに信頼しているように見える。
やはり親か、王妃様の力が偉大なのだ。
「いや、普通だと思うよ?」
「私の普通をお忘れですか」
「なんかごめん」
ジトッと睨むとスッと目を逸らされた。
「ルビス殿下が可愛い義妹候補を連れてきてくれたら許してあげます」
「ハードルが高いね、まあ頑張ってもらおうか。でもその前に」
言いながら山ほどある課題を指差して言った。
「課題をやらなきゃね?」
あらためて課題の山を見てため息を吐いた。
「まあ、頑張りますけど、休みは休ませろ、と思うわけですよ」
そして振り出しに戻る。そもそも休ませる気がないなら休みとか言わないでほしい。家庭学習期間とか適当な文言を付けておけばいいと思う。
「そうだ、これが終わったら約束の手合わせしようか? 北の方で魔物が活発になっているみたいだし、ついでに討伐しながらだけど、どう?」
「イイですね、速攻で片付けます」
ちょっとやる気が出た。だってSランク冒険者と手合わせなんて滅多に出来ることではない。Sランク自体が希少だからだ。実際うちの国ではSランクを見かけたことはない、あまり立ち寄らないのだそうだ。
「せめて終わったのを確認してあげる」
「じゃあこれお願いします」
魔方陣を活用してオリジナル魔法を組み立てろ、という課題である。既存の魔方陣に適当な文言をチョイ足しすればいい課題なのだが、どうせなら、と一から組み上げた。結構好きな課題でもあったのでかなり頑張った。
「ええーと、複数魔方陣を使用した安定的な物資の移動魔法……これ試してみてもいい?」
「はい、むしろお願いします」
バリバリと他の課題を書きながらお願いする。
凝り性が爆発して組み上げたはいいが、お試し使用はしていない。少なくとも魔法が使える人間二人は必要だったからだ。
「ミティ、受け取り側をやってもらえる?」
「はい」
手を止めて魔方陣に手をつく。ティーカップが殿下の方の魔方陣からこちらの魔方陣に現れた。よし、と内心でガッツポーズを決める。
「離れてても大丈夫かな?」
「やってみますか」
こうして試した結果、この魔方陣は課題として提出不可と判断された。なんでも便利すぎて広く知られると厄介、だそうだ。仕方がないので違う魔方陣を書くも、これまた却下を何回か繰り返した。
結局春休みで一番時間が掛かってしまったのはこの課題となってしまった、真っ先に終わらせたはずだったのに。
解せぬ。
そんなこんなの春休み、楽しみにしていた手合わせは、自称邪神に邪魔されて決着はお預けとなる。腹が立ったので自称邪神は二人できっちりと処しておいた。
二度と出てくんな。




