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その後とその前1


 本日は怒涛の卒業式&婚約者発表から一週間後の春休み。


 そう休みである!


「休みと言うなら休ませろ、と思うわけですよ。なんで先生方はこんな量の課題出すんですかね?」


 山ほど出された課題にうんざりとしながらページをめくる。


「手伝おうか? それとも去年の課題を写す?」


 カトレッド公爵家の内部情報をめくっていたサフィ様にそう声をかけられる。


「堂々と不正の手伝いしようとしないでくださいよ」

「いいの? 役に立つのに。これでも学年首位で卒業だよ?」

「同率首位でしたよねぇ、知っています」


 耳の上にペンを挟んで頬杖を突いた。


 目の前に座るサフィ様は、性格以外がパーフェクトな御仁である。チキショー、天は二物以上を与えすぎではないか? もっと人々に分け与えたまえ。


「そう言えばルビス殿下はどうしたのですか?」


 同率首位のサフィ様の片割れをふと思い出した。


 まったり寮生生活を満喫していたら長期休暇は寮を閉めるとの事で、追い出される事となった。冒険者ギルドで融通してもらって部屋でも借りるか、とか思っていたら王妃様からお声がかかりました。


 春休み王妃教育すっから、王宮で寝泊まりしろや、と。


 つまりは大義名分が出来たから気軽に泊まりにおいで、とのことだ。王妃教育だって候補のうちに大体仕込まれているので、残っているのは社交関連の実地、お茶会の主催とかそれ系である。


 そんな訳で王宮にお邪魔して、あちこちうろうろしているのだが、ルビス殿下を見掛けない。サフィ様同様あの人の家も王宮〈ここ〉のはずなのだが。


「気になる?」


 笑顔で首をかしげていたが、部屋の外では騎士がうああ!? と悲鳴を上げていた。


 ……申し訳ない、流れ弾だ。いや、流れ電撃だ?


「ルビス殿下の事よりも、今はこれのせいでとばっちりを食らったドア前の騎士さんが可哀想でならないです」


 左手の腕輪を指差しながら言う。サフィ様の嫉妬で発動するこの機能により、一番近くのサフィ様以外の男性が痺れる仕様はちょっと面倒である。今まで何人か巻き込んでしまっている。


 バカップル被害者の会とか出来る前になんとか対処しておきたい。


「結構弊害があったね。自分でも驚いているけど、思っていたよりも嫉妬深かったみたい」

「今は何とかなっていますけど、よその国の要人なんか来たら大変ですよね」


 特にご年配なんかは心配になる。いいや問題になる。


「と、言うわけで外してください」

「えー」


 文句を言いながら、渋々と腕輪に指を乗せぶつぶつと呟いた。ぱき、と音がして腕輪が外れる。およそ一週間振りの解放感だ。


 早速該当箇所の呪文を探す、が。


「呪文細かっ! これ彫らされた方が可哀想!!」


 細い金属部分の裏側に彫られた小さな呪文は、彫金師さんの汗と涙の結晶のように思えた。


「とてもいい勉強になりましたって笑っていたけどね」

「うわー」


 きっと笑の前に苦いの文言が入っていたに違いない。

 すまない彫金師の方よ、そんなに頑張って貰ったのにサクッと消すことをお許しください。


 収納魔法に入れていた分厚い耐火性の手袋を片手にして腕輪を持ち、彫られている部分を補うために金糸を乗せる。ぶつぶつと詠唱して、呪文に触れ無い程度で指を滑らせる。


 焼き加減はレア、と何度も心の中で呟きながら、表面だけを溶かし呪文だけが消えるように魔力を調整し慎重に進めていく。ついでに強制で魔力提供の部分も消しておく。


「よしっと。サフィ様イイ感じに段々と冷ましてもらえます?」


 自分でも出来るが、細かい温度調整ならサフィ様の方が適任だ。


 サフィ様は頷いて、ぶつぶつと唱えると、腕輪の回りの空気が段々と冷えてくる。いい感じに室温となったのでカシャンと腕にはめた。


「え」

「え?」


 何故か驚かれた。

 解せぬ。


「……もう着けてくれないかと思った」

「デザインは好みですし、便利機能も付いてるなら外す必要性はそれほど感じないです。いらないやつは今消しましたし」

「追跡とかは?」

「まかり間違って誘拐とかされたら便利でしょうね」

「勝手に外せない」

「同じです」


 逃げると言う選択肢が無くなった今、べつに行動を知られて困ることも特に無い。むしろ王太子の婚約者の肩書きが付いたため居場所は知られたほうが安全な気もする。同じ理由で勝手に取れたら困る。


「異性に電撃とか」

「婚約者がいる異性に、素手で素肌を触りに来るやつは電撃食らえば良いと思います」

「強制魔力提供」

「それはついでに消しました」

「だよね」

「はい」


 それっきりサフィ様は黙り込んでしまった。固まった、の方が近いかも知れない。


「サフィ様、これを頂けたのは嬉しいことでしたよ? いらない機能は付いていましたし、頂いたときはグダグダ並べていましたけど、特別扱いは素直に嬉しかったです」

「……結構強引に物事を進めた自覚は有ったから」


 サフィ様はそっぽを向いた。でも耳が赤い。意外にも攻められるのは弱いと知っている。


「はい」


 外堀埋まっていましたしね。罠にもハメられましたし。


「腕輪はミティにとって邪魔なもので、引き留めるための道具だと思われているかなって、思ってて」


 まあ、これのせいで逃げられないとは思ったけど。すでにもう逃げる気はない。やると決めたからには全力ですよ。サフィ様は腕輪を外したら私が逃げるとでも思ったのだろうか?


「喜んでくれているなんて思ってなかったから」

「好きな人の色を使った装飾品を本人からもらえるなんて、喜ぶしかないですけど」


 サフィ様の髪色の金と、目の色である金に近い琥珀色のサファイア。琥珀にしなかったのは、きっと名前にも拘りが有ったから。


「ほら、そう言う喜ばすようなこと真顔で言う……」


 サフィ様はごん、と目の前のテーブルに頭突きをしていた。大丈夫か、テーブルよ。


「それでも負い目が有るのなら、今度はお揃いで便利機能満載の腕輪を作りましょう? もちろんお互いの色で。プレゼントしてくれますよね?」

「ミティが僕より男前過ぎる……」


 そこはいい女なんて褒めるところではないかと抗議しておいた、これでも一応女子なので。


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