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「さ、皆もこう言ってくれてるし少し休もうか」


 サフィア殿下に腰に手を回され、ドレスのボリュームで見えない足元を周りからは見えないように払われた。


 え、何で?


 疑問と同時にコケるなら諸共コケてやる! と謎の対抗心を燃やしたのが運の尽き。


 殿下の襟元をしっかり掴み、転ぶだけじゃ物足りない、寝技でもかけてやると息巻いた所で、膝裏にしっかりとした感触が。


「ほら、立ちくらみする位、疲れているんじゃないか」


 ぐいっと抱き上げられました。ええお姫様抱っこです。

 それも私が疲れによる貧血で殿下にしがみついた形に見える。


 や ら れ た !


 飛び交う悲鳴を浴びながら、殿下の足はすたすたと危なげ無く講堂の外に私を運ぶ。待ってサフィア殿下、やり場のない赤ワインとブドウジュースが可哀想じゃないか。


「ちょ、ちょっと待って下さい、何処に行く気ですか!?」


 悲鳴に隠れそうな位小さな声で訴えたが、殿下は無視して講堂を出た。静まり返った廊下に、コツコツと殿下の足音だけが響いている。


「あの、サフィア殿下、お、怒ってます?」


 意を決して聞いてみた。だって怖いんだもん、無言止めてほしい。


「……そう見える?」


 控え室として整えられた空き部屋に着くなりそう返され、首を縦に振って肯定すると、サフィア殿下はふっと自嘲気味に笑った。


「ただの男の醜い嫉妬だよ」


 ふむ、しっと……嫉妬?


「嫉妬するような事有りました?」

「ルビスと楽しそうに踊っていた、僕の前ではあんな顔しない」


 あんな顔? はて? どんな顔でしょうか? ともあれ気が抜けていたのは確かだ。


「それは、まあ。サフィア殿下といると緊張するので」

「ルビスの方が自然体でいられるんじゃないかと思って」


 殿下が少し寂しそうで拗ねているように見えるのは多分間違いじゃ無いはずだ。そして私に対して自信が無いのも何となく理解した。


 私の態度も悪いからだろうか? うん思い返してみれば反発しかしてないね。折を見てルビス殿下への仕返しにサフィア殿下の嫉妬心を煽ったことを謝っておこう。


「何で拗ねているのか分からないですけど、私は好きな人と一緒にいて、それも口説かれていて、緊張しない位に経験豊富な訳では無いので」


 結局、幸せ未来計画を簡単に投げ出して、面倒な次期王妃を渋々全うする気でいる位にはちゃんと好きだ。芽生える度に摘んでいた芽を、再び芽吹かせたのはサフィア殿下なのだからしっかり責任を取ってもらいたい。


「……え? 好き?」

「はい、好きです。特に顔が」

「……ルビスも同じだし」

「うーん、同じはずなんですけどね、何故か昔からサフィア殿下の方が破壊力があると言いますか、クリーンヒットと申しますか、どストライクなんですよね。好きですよサフィア殿下」


 サフィア殿下は言うや否やで、私をぐいっと引き寄せ、肩に顎を乗っける形で抱き締めた。


「嬉しい不意打ちだ」


 言いながら露出している首筋にチュッと……ちゅ?


「で、殿下こそ不意打ちは止めて下さい」


 何処に何してくれとんじゃぁ!?

 いや首筋に接吻されたんですけど!

 いきなり首? 初めてが首!? いやさっき手に口付けされたような……


「あ、首まで真っ赤になってる、可愛い」


 パニックになっている私と引き換えに、余裕と自信が元通りになったいつものサフィア殿下は、結構意地が悪いと思います。


 と言うか婚約者だからね! まだ夫婦じゃないからね! 過度な接触は禁止すべきです!


「ちょっと殿下! 止めて下さい!」

「やだ」

「!?」

「ミティは真顔で好きとか言ってしまうから、こうでもしないとこんな顔見られない」


 顎に手を添えて殿下の方を向かされる。


「ねえ、この顔は僕だけに見せてね」


 え、人様に見せられないほどヒドイ顔になってるの?仕方ないじゃん、私は何しても絵になるような美人じゃないし。


「サフィア殿下じゃないとこんな顔になりませんよ」


 若干いじけた気持ちでそう言うと殿下の顔の距離が気になった。あの、近くないですか?


「本当、ミティは」


 言いながら殿下の唇はそれ以上の言葉を発することはなく、変わりに私の唇に押し当てた。


「ちょっと、まっ!!」


 て下さいと続ける事は許されず再び口を塞がれる。人の話を聞きやがれ!

 唇が離れた瞬間に手でサフィア殿下の口を塞いだ。


「私たちは婚約状態です、これ以上は……」


 止めて下さい? いや、ちゅーなら良いって言ってるみたいだし……


「段階を踏んで?」

「そう、それです!」


 言い悩んでいるところに助け船を出された気がして全力で乗り掛かった。しかしサフィア殿下はなぜか悪い事考えているような良い笑顔をしている。


 ……もしかして私は泥船に乗り掛かったのかもしれない。


「そう、じゃあ段階を踏んでキスから始めよう?」

「いや、え?」


 ちょっと待て、そう言う事じゃない。でも徐々に近付いてくるサフィア殿下の顔が。覚悟を決めて目を閉じるが一向に唇にあの感触が来ない。


「嫌なの?」


 やられた。重なると思っていた唇の持ち主はあざとく首を傾げ、クスクスと笑っている。止めてくださいその仕草。昔からどストライクなので。


「い、嫌ではないですけど」


 目を瞑って待ってしまった位だ、嫌ではない。むしろ好きかもしれない、と言ったらはしたないだろうか?ただ、心臓が持ちそうにない。よって


「……あの、お手柔らかにお願い致します」


 顔から火が吹き出そうな位恥ずかしいが、殿下には手加減してもらわなければ。私の死因はサフィア殿下の顔面兵器直撃による心臓麻痺になりそうだ。


「……善処する」


 こっちは必死の訴えだったのに何故か真顔でそう言われた。解せぬ。


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