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「あ、その影のせいで、君はカトレッド公爵家の一人娘になりそうだから」
つまりは今後姉と妹はカトレッド公爵令嬢を名乗る事が許されないと言う事で、そんな事態に陥ると言うことは……
「……そんなヤバい事してました?」
「してましたねぇ」
多分違法な事に手を出して居た、もしくは当事者として巻き込まれた、と言う事である。大方味方を増やすために背伸びした弊害だろうと見た。権力に群がろうとするのは大概野心を持った人間で、善人だけでは無いのだから。
うん社交って怖いね!
「そろそろヤバめだから言うけど、俺、痺れてる」
「メンタル的にですか? フィジカル的にですか?」
「……肉体的にの方。原因はこれ、君に付いてる腕輪のせい」
態度に出さないから本当かと疑いの目で見るが、確かに腕輪から微かな魔力を感じた。
「……色々機能が付いていると聞いておりましたが」
「多分、浮気防止機能が働いてる」
「浮気、ですか? なんつー機能……と言うかコレ、浮気です? ただのダンスで社交ですよね?」
しかも踊るように勧めたのはサフィア殿下だ。何なんあの人。
「君が楽しそうに話している様に見えてんだろあいつ。ちなみに普段は、君の素肌にあいつ以外の異性の肌が触れると相手に電撃が流れる仕組みになっているから気を付けてくれ」
「了解しました。でも今はお互い手袋しています、素肌じゃ無いですけど?」
「……あいつの気分次第でも異性が近くにいると発動する仕組みだ」
「……何と言うか思いが重いし怖いし」
でも独占欲にちょっとだけときめいてしまったのはナイショである。
「全くだ。ミスティーナ嬢は俺の好みじゃないから心配すんなって言ってんのにコレだ。俺守り甲斐のある小動物みたいな女が好きなんだがな」
「好きでもない男に、告白して無いのにフラれるという、巷で聞いた微妙な気分になるものを初めて味わいました」
半目で睨むが相手は何処吹く風と言った体である。
「いや、見た目だけなら好みの範疇だけど、中身がなぁ。話していてハッキリした。君は脳筋ゴリラ……ああ、友人としては楽しそうだと思っているけど、俺と思考似てそうだし」
「ゴリラ良いじゃないですか、強いし賢いしカッコいいし。見た目重視で脳ミソちっちゃい癖に繁殖力だけ高い小動物よりはマシです」
「つまりアホカワでエr……そこが良いんだろ……なかなか居ないけどな」
「変態かよ……でも、それならそこらにチョロそうなの転がってません?」
「ふ、寄って来るやつには興味無いんだよ、あいつら猫の毛皮を被った肉食獣だ。俺は、俺を見て震えて逃げ出す感じの子ウサギちゃんが良い」
「うわ変態だよ」
「何とでも呼べ、俺が変態ならサフィアはもっと変態だからな。あいつは好きになった相手を……、そ、そろそろ戻るぞ? これ以上は流石に無理だ、こっちを見ないでくれるとありがたい」
「あわわわわ」
気安さにゆえにポンポンと話していたら、ルビス殿下に限界が来たらしい。組んでる手がプルプルしている。申し訳のなさを若干感じたので、若干急ぎ足で元の場所に戻る事にした。
元の場所、もといサフィア殿下の周りには人が群がって居たが、ルビス殿下と一緒に近付くと人波が割れた。この兄弟の人混みを割る顔のよさは本日も健在である。ちなみに人波に紛れて姉と妹が憤怒の表情でワイングラスを持っていた。
「お帰り、ダンスは楽しかったか?」
人波が割れて現れたのは、にっこり笑って君臨するタイプの魔王だった。魔王がここにいる。
去年倒した自称魔王なんてサフィア殿下と比べたら赤子みたいなもんだと思う。
脳筋ゴリラもサフィア殿下の前では生まれたての子羊です、はい。
「ああ、有意義な話が出来た」
「ええ、私の知らないサフィア殿下の事をお聞きできました」
合ってる? ねえこれで合ってる? 青ざめながら隣のルビス殿下を周りにバレないようにさりげなく肘でつつけば、軽く縦に首を振った。信じてますからねルビス殿下!
「でっ!」
頭に小さく『い』が入って『いでっ!』ですね! わかります。電撃を食らったんですよね、わかりま……せんよ!?
何で? セーフじゃないの!?
「サフィア、ミスティーナ嬢は立て続けに踊って少し疲れたみたいだ。二人で少し休んで来たらどうだ?」
痺れているんだろうが、いかにもな台詞を普段通り話せるのは流石だなぁと思った。けど、
裏切りやがったなこいつ!
私を生け贄に捧げて魔王様のご機嫌を直そうって魂胆かこの野郎!!
「そうだな、少し休もうかミティ」
隣のルビス殿下がほっと息をついたのを私は聞き逃さなかった。電流が止まったらしい。でもイラッときたので軽くルビス殿下に触れて真面目な顔を作る。
「両殿下のお心遣い、嬉しく思います。しかし私は先ほど姉妹に言われたことを気にしておりますので、卒業生の皆様とお話に花を咲かせたいと思っておりますの」
意訳、社交ダメ出しされたから今日は頑張るぞ! 引っ込んで休憩とかしないぞ! 感を全面に出して抵抗する。
それにせっかく、多分ワインを用意した姉(成年)と多分ブドウジュースを用意した妹(未成年)が居るし、どうせならドレスの防汚機能も試してみたい。
「ルビス殿下もそう思いませんか?」
駄目押しの余所行き笑顔で微笑めば、ルビス殿下は、また短く小さめに「てっ」と悲鳴を上げていた。
ふふふ、一矢報いてやったぞ。
魔王様の不機嫌電流を食らうが良い。難点は私にも後から被害がありそうな事くらいか、言わば肉を切って骨を断たれた、的な状況な訳だ。
……アレ駄目な方じゃないか?
「ミティ、無理はいけない。皆、君との会話は楽しみにしているだろうけど、これからたっぷり機会は有るだろう。王太子の婚約者なら茶会の招待状も増えることだろうし、なあ、皆?」
サフィア殿下が流し目で辺りを見回せば、頭を垂れたり、首を縦に振ったり、サムズアップするご令嬢方のお姿が。
モ、いやギャラ、……皆様は長いものに巻かれたようです。私もそちらに巻き込んでもらえませんかね?
……ちょっと待て、ご令嬢がサムズアップはナシじゃないでしょうか?