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しかし何故サフィア殿下が私にこだわるのか疑問だ。
「見分けられるだけの私に、そこまでして頂けるだけの価値が有るのか疑問です」
一人で考えていても仕方がない事なので直接本人に聞いてみる。婚約者なら姉と妹が適任だと思う。見分けられる事が重要だと大袈裟に語っていたが、本人達の努力次第でどうとでもなる事だろう。多分。
「価値ね、君で有ることが重要なんだけど」
「はあ」
それはアレか? 孤高の存在過ぎて政治的な派閥とかしがらみが無いから面倒が無くて良いとかか? それとも私は自分で稼いでくるから国のお金が節約出来るとか?
あら? 意外と私に価値は有るんじゃないか。
「何か色々考えているみたいだけど、僕がミスティーナ嬢の事が好きだから、君以外は嫌なだけだ」
あー、なるほど好きだからかぁ……
え?
「その顔を見るとやっぱり伝わって無かったか」
間抜けな表情の私の顔が殿下の瞳に映る。それくらい近くで囁き合っていた、と言うのに気が付いたのは離れた後になってからだった。今はただ、ど直球で投げられた好意を受け止められず困惑しか出来ない。
「赤くなった君も可愛いよ」
そうトドメを刺して来るのは止めてください、急所に刺さります。イケメン有罪! 顔面兵器使用の罪でギルティ!
「うーん、このまま君を独り占めしていたい所だけど、これ以上は無理かな」
私達はいつの間にか続けて二曲踊っていたらしい。婚約者に許されるのは続けて二曲までなのでここで一旦引かなければ。良かった、やっとサフィア殿下から解放される。
と、思ったのもつかの間、腰に回した手は離さないし、離れようとすると腕輪を介して魔力を吸いやがる。
「あのぅ、いささか距離感が近すぎませんか?」
「うん? 態度と言葉で伝わるまで示そうと思って。好きだよミティ」
いつの間に呼び捨て通り越して愛称呼びになってやがる。止めてください、愛称で呼ばれた事無いんで、慣れてないんで、反応に困るのでぇ!!
そんな私に顔面の兵器乱用とか止めてもらっても良いですかね!?
「人前ではほどほどにしておけ」
私が頭から煙を出す寸前で止めてくれたのは、呆れた顔のルビス殿下だ。
「二人っきりなら良いのか?」
「……段階踏んでやれ。いきなり距離詰めて逃げられても知らないからな」
「そーだそーだー」
小さめの声でくルビス殿下の言い分に乗ったら、サフィア殿下が物凄い笑顔で笑った。
「ルビス、踊ってきたら? 一回だけなら許してあげる」
「だ、そうだ。ミスティーナ嬢、お相手願う」
そう言って差し出されたルビス殿下の手を、天の助けとばかりに掴み、
「はいぃぃ、喜んで!!」
脱兎のごとくその場を離れた。
「怖っ」
「何であんなに怒ってるんですか? あの人」
物凄い怖い笑顔で送り出されたので、とりあえず踊り始める。婚約者を指名しなかったルビス殿下は、兄の婚約者とファーストダンスを踊った方が角が立たない、と言う判断だろう。
「俺が邪魔をしたから、もしくはミスティーナ嬢が俺の方に理解を示したから、もしくは両方だろうな」
「懐激狭ですね」
「かれこれ十何年拗らせているからな、あいつ」
気軽い感じで苦笑しながらルビス殿下が答えるが、え?
「私が見分けられるから執着してるんじゃ無くて、ですか?」
「出会った時の一目惚れだそうだけど、自覚は?」
「ありません」
「だよなぁ、今までが今までだもんなぁ」
あいつの距離の詰め方極端なんだよなぁ、とルビス殿下がぼやいた。
「あ、今後も気軽に話してくれお義姉さま」
「姉と呼ぶには早い気がしますけど?」
諦めたが反発しない訳ではない。
言葉通り気軽くルビス殿下に返事をする。殿下方の性格は実は結構違うと判明した。取り敢えずルビス殿下は話しやすい。私に対しては顔面兵器も効果半減だし。
見た目でわからなくても会話で意外と気が付ける人は多いのではないだろうか?素で話してくれればと前置きが付くが。
「逃げられないだろうからまあ、時期が早い位じゃないか?」
「うぐぐ、そのお相手は本当に私で間違いないでしょうか?」
流石にアレだけ言葉と態度に出されれば疑い様も無いのだろうが、念のために確認しておく。
「ああ、違わない。君が顔は好み、なんて王妃殿下に言ったから、あいつ拗らせすぎて、俺に牽制してきたんだぞ? 君と話すなってな」
確かに言った記憶はある。ウチの息子どう? って気安く聞かれたから、顔は好きって言った。それも初めて顔を合わせた時に本人の目の前で言った。
仕方がないじゃないか、その時顔しか知らなかったし!!
しかし同じ顔を持つ人がすぐ近くにいて、顔が好みと言われたら確かに牽制もしたくなるのかもしれない。
「……もしかしてサフィア殿下がリボン変えながら私と話していたのも、ルビス殿下とまともに会話した記憶が無いのもそのせいですか?」
「そのせいだな」
「思いが重い……でもサフィア殿下のお相手は姉だと思っていたんですが」
「あー、あれな」
ルビス殿下は少々バツが悪そうに視線を宙にさ迷わせた。
「君はあの家で味方が居なかっただろう?」
「ええ、全く」
「助けてくれる大人が居ないあの家で、あの二人に敵認定されたらどうなる?」
「社会的か、精神的か、肉体的にかはわかりませんが、確実にお陀仏ですね! 誰も助けてくれませんし、相手は権力増し増しですし」
そうなのだ、こちら公爵令嬢とか結構高位な立ち位置にいるはずなのに、私は公爵家の権力なんて使えた事が無い。姉と妹はそれぞれ公爵家以外の後ろ楯があったのにね。私はカトレッド公爵家カースト使用人以下だから仕方ないね。
「だろうな。だから気取らせないようにするためにあんな態度をとっていたんだ。ミスティーナ嬢に気の無いフリするの大変そうだった」
「演技とは思えない位完璧に、認識されてないと思ってました」
「実際はその逆だった訳だ。表立って守ってやりたかったみたいだが、流石に表向き何の落ち度も無い公爵家に手出しする訳にはいかなかったから、俺らの本命は君じゃないと思わせる必要があったんだ。王妃様の助言も有ったがな」
「なるほど、それはありがとうございます?」
私が影の薄さを保っていられたのも殿下方の協力も有ったと言うことだろう。
「で君ら三人に監視用の王家の影とか付けて動向は探って居た訳だけど」
で、の意味がよく分からないですよ殿下。でも、シルビアバレと色々バレの疑問が解消された。そうか監視されてたかぁ、全く気が付かなかった。優秀なんだな王家の影。
「君に付いた影はいつも半泣きで辞めたがってたよ、付いてくだけであの世が見えるってね」
「……その方は鍛え方が足りないんだと思います」
姿を隠す意味では一級品だろう、私は気が付かなかったし。でも、確かにそれなりにヤバい所行ったけど、公爵令嬢が行けるレベルだし、きっとその影の人が鍛え足りないだけだと思う。
私が規格外? ハハッそんなバカな。




