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「些末ですか?」

「それは私達貴族に対する殿下の認識と見なして宜しいのでしょうか?」

「いや、何を勘違いしたのか知らないが、そのように受け止めるとは、貴女方は本当に社交が得意なのだろうか? 私は現在社交が得意でない事が些末だと言った」


 姉と妹を、ざっくりと皮肉ってサフィア殿下はにっこり笑って特大の一言を放った。これにはギャラリーの皆様も押し黙る。こちらも皮肉られた方だからだ。


「行く行くは王妃になるのが見えているミスティーナ嬢と、近付きたく無い家は無いだろうからな」


 ですよねー、王妃殿下蔑ろにする社交界とかあり得ないですよねー。と会場内に一致した空気が流れた。特に先ほど長いものには巻かれて見せた皆様ならこの意味を正確に理解するだろう。


 姉や妹に付いていたお友達だって大半は、仲良くしてきなさいと、家のために仲良くしていたに過ぎないだろうし。


「話は付いたみたいだな、他に異論が有るものはいるか?」

 ルビス殿下の問いに、異論を唱えるものは誰一人として居なかった。姉は憤怒の形相でこちらを睨み付けているし、妹はハンカチ噛みながら悲哀を漂わせているけれども。


 いや、そんな簡単に諦めんの? もうちょっと粘ろうよ! じゃないと私の外堀埋まっちゃうじゃないか!?


 ……うん、でもまあ逃げるし関係ないか。


「国王陛下、お待たせ致しました。私はミスティーナ嬢を婚約者に望みます、お許し頂けますでしょうか」

「私は婚約者を望みません、お許し下さい」


 サフィア殿下が私を離して頭を垂れて国王陛下に問い、ルビス殿下も頭を垂れて許しを乞う。私も倣って頭を下げておいた。


 だって婚約者候補としてふさわしい言動をする約束の期限は今日までだし。長いものには大体巻かれる主義である。


「皆面を上げよ。どちらも許す。決め事の通り本日より婚約者を持ったサフィアを王太子とする。ミスティーナ嬢」

「はい」


 なんてこと無いように返事をしたが、背中には一瞬で滝のような汗をかいた。衆人環視で国王陛下と会話だよ!? 緊張しない方が無理だ。有り難うドレスの防水防臭機能! それを着けてくれた大好きな王妃様。


 そう王妃様は好きなのだ。王妃様は。


 国王陛下は王妃様と違って、気心知れないこの国の最高権力者だ。殿下方の王太子選定だって、巷に知られる判断力が無かったから遅らせた説よりも、殿下方がある程度自己防衛出来るであろう年齢まで守る意味だったと思っている。だから水面下で派閥は有ったものの、国を二分するほどでも無かった。


 つまり私は国王陛下の事を食えないキツネだと思っている。


「将来の王妃として、未来の国母、そして我が息子の伴侶として、期待をしておる」

「……ご期待に添えるよう精進して参ります」


 型通りのお辞儀をして姿勢を戻す。ご期待に添うのは今日1日のお話だ。明日逃げる予定なのでご期待に添えないですよーごめんなさい。


「さて堅苦しい話は終わりだ、卒業生諸君卒業おめでとう。本日の善き日を迎えられた事、誠に喜ばしく思う。これからは国を担う一翼としての働きを期待しておる」


 パチンと国王陛下が指を鳴らすと控えていた楽団の方々が曲を奏で始める。


「卒業生諸君、羽目を外して許されるのは今日までだ、我々は退席するので存分に羽ばたくがよい」


 国王陛下並びに王妃様が、退席し、続けて娘達に一瞥もくれずに公爵も去って行く。


 うん、ドレスのお礼はいっか。あの狸だ、先行投資位にしか思って無いだろう。


 にわかに騒がしくなってきた講堂内は、国王陛下の仰る通り、羽目を外し始めた人がちらほら見えた。


 国王陛下が言った言葉だが言葉通りじゃない事くらい公然の秘密だ。羽目を外すのはあくまでほどほどに。でないと成人後痛い目に遭うのだ。


「さて、僕らが先に踊らなきゃね」


 耳元でサフィア殿下が囁く。卒業パーティーのファーストダンスはその年卒業する一番身分の高い者が務める習わしだ。つまり王太子として指名されたサフィア殿下並びにその婚約者となってしまった私だ。


「お相手お願い出来ますか、レディ?」


 そう言って手を差し出すサフィア殿下はまるで王子様みたいだった。いや、この人正真正銘王子様だった。芝居がかった仕草でも様になるのはやはり顔が良いからだろう。


「はい、喜んで」


 手を取って今度はニッコリ笑ってお答えしたが、このセリフを言うのは一回で良かった事を思い出し、若干損した気分になった。


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