目立たぬ様にひっそりと
私の名前はミスティーナ・カトレッド。カトレッド公爵家、三姉妹の影の薄い次女である。
まあ、世間的にはカトレッド公爵家は姉妹である。私の姉のアネットーカと妹のイモットゥーリで姉妹。
何故私が入ってないのか、それは前述の通り影が薄いからだ。他人に聞けば、ああ、あの美人姉妹の! え、もう一人居たの? なんてレベル。
その薄さたるやフレーバー水の水割りのごとし。
地味な外見と諦めが早い性格のせいで、もはや普通の水の中のかすかな香り程度の私は、使用人は勿論、家族にも存在を忘れられがちだ。姉と妹の外見の派手さと自己主張の強さ、親類の愛情の傾け方が偏っているせいである、と言っておこう。
まあ、ずいぶんヘソが曲がっているのは自覚している。
「仕方ないよね」
心の話に自分で合いの手を入れる。だってやるせないし。
「ヘソが曲がるレベルでお腹がすいているもの」
しゃくっと、食糧庫からくすねてきたリンゴを丸のままで噛る。お行儀が悪いのは分かっているがそれを咎める人も居ないので、お腹を満たす方が先である。
今日はうちの国の宰相である父が仕事で王城に行ったっきり、義母は妹と、母方の祖父母は姉とに別れ、それぞれ繋がりのある貴族邸にお呼ばれしており不在だ。
ほとんど義母の息のかかった使用人しかおらず、雇い主である父が居なければ、普段からナメられている私は無視される。まあ私が文句言わないから純度100%の故意だろう。しかも私が家に居るのかどうかも把握していないに違いない。
父に文句を言った事は有るが、使用人の教育は女主人である義母の役目だとぬかしやがった。確かに徹底教育されてはいる。私をないがしろにする方向で。
「別にいいけどねーあと少しの辛抱だし」
あと三月程でこの国の王子達が学園を卒業する。それと同時に命の恩人である王妃殿下との約束も切れ、この国にいなくてはならない理由は無くなる。
そしたら―
「こんな家なんて捨ててやるんだから」
私の幸せ未来計画への第一歩を踏み出すのだ!