097 『集合会議』
数日後。
あれからクロストル……本名で言うならガルドの身柄はリベレーターで預かる事になったらしく、暗部の組織にいた事もあって色々と事情聴取が続いたらしい。と言ってもリコリスからの一方的な報告のみでの情報だからその真偽は定かではないが。
そしてユウもユウで色々と大変な事となり、十七小隊の本部で監禁されてガミガミと今回の件について沢山のお叱りを受けた。特にイシェスタやテスなんかはユウの暴れ様を知っているから結構遠慮なしに叱られる。
それだけじゃない。本格的に治癒を受ける為にユノスカーレットと会えば彼女からも飽きるくらい怒られ、軽いチョップを食らいながらも「まぁ、君だから仕方ないか」と半ば呆れられる事となった。
けれど治療はしっかり受けて生きてる事を安心される。何と言うか、関わる人が多ければ多い程大きな事件に首を突っ込んで迷惑をかけてる気がする。
以上の経緯を得てユウはまた注目の的となった。
ちなみに今回も色々と不運が重なり、暗部の組織の生き残りを捉えたという功績はかき消された。どうやら二人が戦ったのは改装予定のビルだったらしく、戦闘の跡で滅茶苦茶になり最終的に派手な損害になったそうな。
まぁ、床とか普通に粉々にしたし銃弾も数え切れないくらい飛び交ったし、当然の結果といった所か。普通なら悔しがる所だけど慣れてしまったので何ともない。……本来慣れちゃいけないのだけど。
そして今日、ユウ達は本部からの招集で隊長だけではなく全隊員が本部へ向かう事になっている。と言っても前みたいに大隊は揃わず一部の中隊と小隊のみでの召集となるらしいが。
きっとベルファークの事だ。どうせ戦いがあるから云々カンヌんとでもいうつもりなのだろう。そう思いながらも本部へと向かった。
――――――――――
しかしユウも彼の事を十分信頼しているという事の裏返しにもなるのだろう。予想通りの招集に半ば呆れていた。
だからそう思いつつも講義室でラナの言葉を聞き続ける。
「――との事なので、今回は皆さんに“連合小隊”として集まってもらいました。説明は以上になりますが、何か質問とかありますか?」
そう言うととある小隊の一人が手を上げて立ち上がる。その人の疑問に答えては新たな質問を探し、完全に理解してもらうまで質疑応答を繰り返した。
やがてそんな中でユウは頬杖を付くと小さく呟いた。すると隣に座っていたテスが軽口ついでに相槌を売って来る。
「連合小隊、ねぇ」
「意外だったか?」
「いやまぁ、予想通りだった事に意外だったと言うか何と言うか」
「…………?」
曖昧な答え方をすると首をかしげる。
しかし、まさか本当に例の事を言うとは。前は敵に隙を見せる為にわざと伝えなかったと言っていたけど、ここで伝えるという事は途轍もなく大きな事が起るのだろう。それも万全な準備が必要と言われる程の戦いが。
恐らく侵略作戦よりも多くの損害が出る事になるはずだ。そう考えていると質疑応答を追えてラディは説明会の幕を閉じた。
「では、説明は以上になります。繰り返しますが、期間は今より一か月半です。以上、解散してください」
するとその言葉と共にラディは講義室から急ぎ足で出て行った。同時に他の隊はすぐに準備を整える人や他の人の意見を聞く為に居残り話し合いを始める。
ユウも前者でなるべく早く準備を整えようとしたのだけど、その時にとある数人の人物がやって来た事で立ち止まる。そしてその内の一人がリコリスへと抱き着いた。
「リっコ~リス~!」
「にょわあ!?」
飛びついて来たのは腰まで伸びた紺色の髪をした女性。いきなり飛び込んで来る当たり、活発そうな見た目の通り結構明るい人なのだろう。
その後にも続々ど各隊の隊長達が詰め寄って来てリコリスへ話しかける。
「よぉリコリス。久しぶり」
「ひ、久しぶりだね」
だからいきなり集まって来たのに驚いているとみんなの視線は困惑するユウに集まって一気に注目を浴びる。せめて普通の隊員ならもっと別の反応が出来たのだろうけど、こればっかりは隊長クラスなのだからびっくりせざるを得ないだろう。
やがてリコリスへ問いかける。
「あれ、リコリス。彼は?」
「あ~……。彼はユウ。最近巷で噂されてる問題児だよ」
「おお! 君がそうなのか!」
するとみんなは問題児と言う言葉でユウの事を照らし合わせて納得した。まさかそれで納得されるとは……。
そうしているとリコリスは立ち上がってそれぞれの隊長を紹介してくれた。
左から順に逆立った黒髪の少年と、スキンヘッドの全身日焼けした大柄な男と、さっきの紺色髪の女性だ。
「えっと、紹介するね。この人が第三大隊五番隊隊長のアルスクで、こっちが第十六小隊隊長のボルトロス、でさっきから忙しいのが第十五小隊隊長のエルピス」
「おっし。よろしく頼むぜ、少年」
「ああ、はい……」
紹介し終ると間髪入れずに番長系のアルスクは手を伸ばして両腕をぶんぶんと振り回した。しかし第三大隊の五番隊隊長と友達だなんて、リコリスは意外と顔が広いのかもしれない。ここにいないだけで他の中隊長たちとも仲がいいのだろう。
何よりも噂もあってかユウの話を耳にしている隊長は多いみたいだった。リコリスの言葉に他の隊の人も反応しては顔を見て来るし、今まで自覚してなかったけど、それ程なまでの問題児らしい。
そうしていると今度はアルスクを押し出してエルピスが両手で手を包み、キラキラに輝いた瞳で顔を近づけて来る。何だかアリサがいる時のネシアに近しい雰囲気を感じながらもユウは問いかけられた質問に答えた。
「君が噂のユウ君なんだね! 会ったら聞いてみたい事があったんだけど、今まで出会った敵とかって――――へぶぁッ」
「いきなり問い詰めるんじゃない。困惑してるだろ」
「だって~……」
「だってじゃないの」
するとボルトロスはエルピスの頭を鷲掴みにしてユウから引き剥した。何というか、思ったよりも騒々しい人達だ。
少しだけ驚いているとまたアルスクが割り込んで入って来るし、それに負けじとエルピスも突っ込んで来る。それをボルトロスは剛腕にて二人の頭を鷲掴みにしてめりめりと力を入れつつも引き剥す。
「びっくりさせてすまない。この二人は凄い活発だから気になる物には首を突っ込まずにはいられないタチでな」
「ああ、リコリスみたいな感じなんだ……」
「何でそこで私?」
彼の言葉に妙な納得の仕方をするユウにリコリスがツッコむ。リコリスというか、テスみたいな感じでもあるらしい。
しかしいつまでも苦手意識を持ってる訳にもいかない。連合小隊の編成はこれから発表される訳だけど、そこでみんなと一緒になるかも知れないのだ。そうなった時にいつまでも苦手意識を持ってるようじゃ到底チームプレイなんてできない。
だからユウは頭を下げると軽くお辞儀をした。
「えっと、よろしくお願いします」
すると予想とは少し違う性格だったのだろうか。礼儀よくお辞儀をしたのに対してみんなはきょとんとした表情を浮かべる。まぁ、そりゃ、ラナでさえ戦績から荒っぽい新人と捉えた訳だし、みんなからはヤクザ系の新人と捉えられてもおかしくないだろう。
けれどエルピスはそんなユウに対して両腕を広げて飛び込んで来る。――瞬間、ユウの危機回避能力が発動して両腕を振り上げるとその飛び込みをガードした。
「ふふん、それじゃあお姉さんが戦いのイロハを教え――――ハッ!?」
「エルピスの飛び込みを初見で見抜いた!?」
「あれ、これそのまま受けた方が良かった感じ……?」
するとアルスクからそう驚かれるので口を引きつらせながらも呟く。まぁ常に気を抜いているのなら食らって当然の飛び込みだろう。と言ってもユウの場合は単なる脊髄反射でしか無ない訳だが。
困惑しているユウにリコリスはそれが正しいとグッドサインを返す。
「いや、むしろその対応が正しい。エルピスは誰にでも飛びつく癖があるから注意してね」
「子供か!」
「これでも二十だ―――――ッ!!」
「そこで威張るな」
もう一度ボルトロスに頭を鷲掴みにされて引き剥される。何と言うか、ボルトロスは基本的にボケ一筋の二人を仕切る苦労人みたいな立ち位置なのだろうか。
会話の合間に少しだけ静寂が流れ込むとリコリスはすかさず会話に割り込み、何かを思い出したかのように話しかけた。
「そうだ。ユウ、ちょっと先に戻っててくれないかな」
「え、何で俺だけ?」
「会わせたい人がいるの」
「……?」
会わせたいのなら先に戻るって言うよりここで待機するかその人の元に向かわせるべきなのだろうけど、リコリスは本部へ戻らせようとユウにぐいぐい押して来る。だから少し疑問に思いながらも指示通りにして講義室から出て行った。
その際にエルピスがもっと話したさそうにしていたのは無視だ。
しかしリコリスが会わせたい人物とは想像もつかない。それに話し方からするとみんなとは関係ないみたいだし、ユウだけに会わせる気なのだろう。そこから見ても彼女の不自然さが垣間見える。
一体戻った先に誰が待っているのか――――。
と考えていると、外に出た瞬間に真横から誰かが衝突して来て思いっきり倒れ込む。
「うわっ!?」
「あだっ」
すると突っ込んで来た人も同じく転んだみたいで、その声とこの状況にデジャヴを感じて誰かを予想する。そうして顔を上げると、あの時にも同じ出会い方をした黒髪の少年を見た。
「いったた……。わりぃなにーちゃん。大丈夫、か――――」
「あっ」
顔を合わせる事で確信する。そして向こうもユウが誰なのかを理解したのだろう。だからこそ互いに数秒間制止した後に指を差すと同時に言った。
ついでに互いに驚きながら。
「あ~! 迷子の人!」
「おっ! 良い人!」
そんな奇怪な覚え方をする中で考えた。まさかリコリスが言っていた会わせたい人ってこの人なのかって。
しかし彼もここに来ているだなんて思えなかった。確か彼は第五中隊の一員だし、一部の中隊しか来てないから彼は来てない物だと思っていた。そうしていると彼は立ち上がって手を差し伸べるのとついでに名乗り出す。
「いきなりぶつかってごめんな。そういや、あの時は名乗ってなかったっけ。エンカクだ、よろしく」
「エンカク……? ゆ、ユウだ」
明らかに日本語っぽい名前に困惑しつつも立ち上がる。まぁラーメンとか将棋とかが伝授されているこの世界じゃ驚く程でもないか。
ユウはエンカクが待ってる人だと思って話しかけようとするのだけど、彼は忙しそうに軽く謝罪をしては走っていってしまう。
「そう言えば俺を待ってる人ってエンカ―――」
「わりぃユウ。俺、今急いでるから!」
「え!?」
「じゃーなー!」
そうして嵐の様に登場しては自己紹介だけして嵐の様に去っていってしまった。あの時と同じように流されるがままだったなあと思いつつもその場で立ち尽くす。じゃあユウを待ってる人って一体――――。その考えを読んだかのように声をかけられる。
「ユウ」
「? ああ、クロスト……」
けれど振り向いた先にいたクロストルとラディを見て驚愕する。
だって、右の二の腕にリベレーターの腕章をしていたのだから。




