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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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095  『探し求めた人』

 クロストルは少しの間だけ動きを止める訳だけど、ハッと我に返った瞬間から即座に動き始める。だからその隙を逃さずに彼の足へ銃弾を撃ち込み、放たれた風の刃を回避して、ついでにもう一発を肩に打ち込んだ。

 故に彼はその場に膝を付いて痛みに苦しむ。


「ぐっ……!」


「もう終わりだ。諦めろ」


 ユウは彼を殺す訳ではなく倒す為に戦っていた。だからこれ以上の負傷は彼の命を脅かすものと判断して降伏宣言を強要させる。

 無慈悲に考えるのなら暗部の組織なんだから殺したって問題はないだろう。でも彼はユウの人見知りで一度は信頼した相手だ。その人を殺すだなんてユウには出来ない。……そんな甘すぎる考えを抱きながらも銃口を突き付け続ける。


「このまま交戦を続ければ本当に死ぬぞ」


「それでも構わない。彼女に会えるのなら……!」


「そこまでして殺したいのか」


 クロストルの言葉に小さく呟いてラディを見る。幸いまだフードは剥がれてないからユウの味方と認識されているだけみたいだった。きっと彼にとってラディの殺した暗部の人達は親しかったのだろう。それならこんな殺意を選んでもおかしくはない。

 だからと言って殺させる気なんてさらさらないが。


 この調子じゃ彼を止めさせるのは意識を奪う事くらいだろうか。その隙にレジスタンスやリベレーターに引き渡せばラディの身の安全は確保されるはず。

 と、そう思っていた。ラディが叫ぶまでは。


「――ユウ、上だ!!」


「っ!?」


 咄嗟に叫ばれるから釣られて上を見る。すると巻き上げた土埃を裂いて落下してくる空気の玉みたいなのがあり、それはユウの脳天目掛けて落下して来ていた。だから回避しようとするも既に遅くソレに叩き潰される。

 身体が地面にめり込むくらいの衝撃を受ける中、ユウは立ち上がるクロストルを見た。


「悪いな。これも俺の目的の為だ」


「っ……!」


 そう言ってクロストルはラディの方向を向いて歩いて行った。そんな事はさせちゃいけないのだけど、空気の塊が圧力をかけてとてもじゃないけど抜けられる様な物じゃない。せめて微かな隙間で腕がいくらかマシだったのだけどそれも叶わぬ夢。

 最終的に残ったのはラディの名だけとなる訳で。


「――お前の狙ってるラディはもう遠くに逃げてる」


「なに?」


「囮だって気づかないのか。早くしないとまた追いかけっこが始まるぞ」


 正直言って嘘もバレバレの作戦だ。だからこそほんの微かな時間稼ぎにしかならない。そしてクロストルが目の前に立っているのはラディだと確信させてしまうような物でもある。

 でも、その隙をラディが埋めてくれた。


「――ッ!!」


「うぉ!?」


 突如振り上げたナイフにクロストルは態勢を崩す。直後に意識が逸れたおかげで空気が軽くなり、ユウは即座に起き上がって抜け出した直後に拳銃を構えた。それも寝転がった態勢で。少し辛いけど、ここはもう脳天を狙って殺すしか――――。

 そうしてユウは弾丸を放つのだけど、気力を振り絞って弾丸を背中へと逸らした。


 ――外したか!


 奥歯を噛みしめて悔しがる。直後にラディを蹴り飛ばして風を発生させ、周囲の物を全て吹き飛ばした。それに巻き込まれてユウもラディも吹き飛ばされる。同時に彼自身の血も含めて。

 だから血が周囲に飛び散りつつもクロストルは立ち続ける。その意志の強さに驚愕した。


「何で、止まらないんだよ……」


 ふとそう呟いた。普通ならあそこまで血を流せば自然と倒れるはず。毎回ユウも割と同じ状況に陥っている訳だけど、こればっかりは彼の気強さが恐れる程だった。

 ここまで来たら普通の人間とは思えない。もう、化け物だ。


 ラディを逃がさなきゃまずい訳だけど、彼女は吹き飛ばされた衝撃で起き上がれないみたいだった。このままじゃ――――。そう思っているとクロストルはある所まで歩いて行く。自分の持っていた荷物へと近づき、ジッパーを開けてある物を取り出そうとした。

 だからユウはその腕を撃ち落とそうとM4A1を構える。

 でも、その直前には既にMDRを取り出していて。


 ――アサルト、ライフル!?


 咄嗟に地面を蹴って横へ転がる。すると今さっきまで座っていた場所に銃弾の雨が打ち込まれ、そのまま走り続けて銃弾を避け続けた。

 ラディを見るとまだ銃弾は打ち込まれていない様子。今のまま行けばきっとクロストルは自滅するはず。それまで耐えれる事が出来ればこっちのはずだ。

 と思ていたのに、更に一手、加えて来る。


「これで……!」


「二丁!?」


 直後に取り出したのは二丁のサブマシンガン。両手に握っては遠慮なしに解き放ち、足や腕を撃ち抜かれる中で柱に隠れた。本当に殺す事も厭わない攻撃に驚愕する。相手が殺す気ならこっちも殺す気でなければ勝てないのだけど……正直な所、銃も魔法も使える相手に勝てるビジョンなんて見えない。


 いくらアルテや例の魔術師並の強さではないとは言え、銃と並行して魔法を駆使してくるのだ。その厄介さたるやとてもじゃないけど油断出来る物ではない。殺す気で行かないとこっちが殺される。

 しかしどう考えても次の手は必ず防がれてしまう訳で、ユウはその対策について頭を悩まされた。もしクロストルが自己治療をしない限り血は流れ続けるだろうし、そうすれば彼が勝手に倒れるのも時間の問題。でもそれまでの間何もしなければもちろん彼の行動は変わる訳で。


「そうか。なら君の仲間を……」


「ッ!」


 ラディは今だ痛みで動けない。となれば狙われるのは当然で、ユウは柱から飛び出すのと同時にグレネードを投げ飛ばした。その爆発を利用して注意を引付けては銃弾を放ちながら急接近する。あんなボロボロの状態なら遠距離よりも近距離の方が安全なはずだから。

 銃で牽制しつつも接近して剣を振りかざす。これで倒れてくれると嬉しいけど……。


「――らぁっ!!!」


 そう思いつつも雷の刃を全力で振り下ろした。けれどやっぱり風を凝縮した刃で受け流され、床を叩きもう一度粉塵が周囲を覆い尽くす。

 それからはもう連撃の応酬が続いた。クロストルは風の刃で、ユウは雷の刃で互いに全力を振り絞って激しい攻撃が繰り返される。


 もうじき体が限界を迎えるはずなのにクロストルは止まらない。それどころか死んでもおかしくないのに、彼は血を流しながらも抵抗を続ける。それも、ユウすらも押しのける程の勢いで。

 あとどれだけだろう。どれだけ耐えれば、彼は倒れてくれるだろうか。そんな事を考えながらも必死に抗い続けた。


 ――速く。もっと速く……!


 きっとクロストルは限界を超えてでも戦い続けるだろう。彼にとってラディを殺す事だけが生きる意味のはずだから。

 しかしそんな事はさせないと偏に言ってもそう簡単に出来る訳ではなく、クロストルを止める為には殺すしか道はない。やりたくないけど、ラディの身を守る為にもここは安全策でそうするしかないだろう。


 彼女の過去を聞いてしまったのならそうしない訳にはいかない。だって子供の頃から兄を探す為に精一杯頑張って生きて来たのだ。なら、会うまでとはいかずともせめて見付けるくらいまでは行ってほしい。それがこうして戦っている理由なのだから。


 やがてユウは脆い床を思いっきり踏み込むと足元を軽く揺らした。

 すると微かにでもバランスを崩したクロストルは体を傾け、ユウは思いっきり刃を突き出した。その瞬間に刃は頬を掠り微かに血を流させる。


 でも、重大なのはそこじゃない。頬を掠めたと思ったら剣先に引っ張られて皮膚が剥されていくのだ。だからクロストルの顔面は歪んで引っ張られていく。そんなグロテスクな光景に一瞬だけ目を瞑ろうとしたのだけど、これまた驚愕する光景が目の前に映って。

 クロストルの顔にノイズが掛かって変形していく。顔面の皮膚が剥されたら肉が見えるはずなのに、その下には新たな顔があった。


 そんな光景を見つめていると彼の隣を通り過ぎて着地する。やがて即座に振り返るとそこにはクロストルじゃない誰かがそこにいて、目元に傷があるイケメンフェイスの男が目の前に立っていた。次に剣先に垂れ下がる顔の皮膚を見てようやく理解する。


「な、え……これ、マスク? でも輪郭が……え!?」


 マスクを被っていた事だけは確かなのだろうけど、明らかにさっきまでとは輪郭が違う。だからマスクだという事に理解はできても目の前で起っていた現象には理解出来なかった。

 そして、そんなユウを追い詰めるかのように更なる現象が襲って来る。


「……にい、ちゃん?」


「はい!?」


 今お兄ちゃんと言ったのだろうか。誰が? ラディが? クロストルに向かって?

 立て続けに起る現象に頭が追い付かない。いやだって、まぁ、たまにラノベとか漫画とかである展開だけど、まさか本当にそう言ったことがあるのだろうか。本当に、クロストルがラディのお兄さん……?

 そう思っているとクロストルはラディの方角を向き、彼女は自らフードを外して姿を露わにした。だからいつでも対処できる様にM4A1を構える。

 でも、その心配はいらないみたいだった。


 突如撃ち込まれた即行性の麻酔弾。それは上手くクロストルの首元へと命中し、彼は数十秒もしない内に横へ倒れた。故にラディはクロストルに駆け寄って必死に体を揺さぶる。

 そうしていると外の方から銃声や爆発音を聞いて駆けつけたリベレーターやレジスタンスがいて、戦闘でボロボロになったユウを見付けてはすぐに駆け寄って応急措置を始めた。でもユウはそんな事よりも目の前で起っている光景に見入る。


 ……ようやく見つけたって事でいいのだろうか。何年も探し続けて見付けられなくて、それでも諦めなかった兄が、今目の前にいる。どうしてなんて疑問は当然ある。何故という疑念も当然ある。それらを差し引いてもユウは残酷な現実を見つめていた。

 暗部に関わっていた時点で、処罰を受けなきゃいけない兄を探していたという現実を。

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