094 『暗部の関係者』
――作戦はこう。君が囮となって私が奇襲する。で、仮に上手く行ったら君も手伝って彼を無力化するの。
――見込みは?
――彼がどれだけ気張ってるかによるね。まぁ、運次第だよ。
そんな会話をした直後から作戦は開始される。こればっかりはユウが自分自身で首を突っ込んだ事だし、本当の意味でピンチにならない限りみんなの手は借りたくない。と言っても、みんなからすればそれでも手を貸してくれるのだろうけど。
と、下手な憶測をしつつもユウは自らクロストルの前に姿を現す。不自然に見せちゃダメだ。本気で隠れている素振りを見せつつも地味に見える様に姿を現せばきっと釣られていくはず。
という指示の下ユウは陰で動き始めた。
すると離れた所にいたクロストル――――と言っても既に変装した後の姿になるが、彼は隠れるのが下手なユウを見付けて動き始めた。
『いた。一人君の元に向かってる』
「それがクロストルって訳か……」
ここまで来たならクロストルの事は暗部の組織の一員と見ていいだろう。となれば、いくら顔見知りとは言っても手加減する事は許されない。痛い目を見たくなければ全力で抗わなければならないはず。
どっち道、生きたいのなら抗えって訳だ。
ラディの指示の下ユウは路地裏まで誘導され、同時にクロストルも跡を追って路地裏に入って行く。こっちからしたら相手の気配を感じないのだから彼の気配を隠す技術は凄まじい。ラディがいなければ絶対に気が付けない程に。
けれどそこで新たな指示が入る。
『はい、そこで路地裏を抜けて』
「え?」
『いいから早く!』
そう言って疑問に思いつつも指示通りに路地裏を抜けて大通りへ出た。こういうのって路地裏の方が奇襲に向いているのだろうけど……。
人混みの中を縫って歩いて行くとクロストルはユウを追って更に動作を激しくして追いかけた。だからユウでもある程度は捕捉できるようになる。
『このまま前に進んで』
「何を狙ってるんだ?」
『その時になれば分かるぞ』
「…………」
絶対にロクな事じゃないよなぁ、と思いつつも必死に人混みの隙を縫って進んで行く。しかしこうも人が多いとラディも二人を捕捉するのが難しいだろうし、奇襲なんてもってのほかだ。それなのにどうして。
そう考えているとある物が見えて来てラディの狙いを悟る。
だからユウは一瞬だけ途轍もなくやりたくないという意思に襲われるのだけど、やらなきゃやられると言い聞かせてその場所まで近づいた。直後に鋭く指示が入り、ユウはその指示に合わせて全力で前に走り始める。それに合わせてクロストルも追いかける為に走り始めた。
向かうはとある廃ビル。ユウは大通りから抜けて脇道に入ると廃ビルの中に入ってクロストルを誘導した。
「あれ……」
するとクロストルは突如として姿を消したユウに足を止めた。しかし現場は廃ビル。隠れられる所は少ないし、簡単に探せばすぐに見つかる所だ。
――でも、一番気が抜けやすいその瞬間を狙って不意打ちをかました。二人同時に飛び降りてはクロストルの脳天に鉄パイプを叩き込もうとする。
けれど彼はそれに対応して見せて。
「ッ!?」
だからユウは反射的にラディを蹴ると振りかざされた掌から途轍もない風圧を受けて浮かび上がった。掌から風なんて普通はあり得ない。つまりクロストルは魔法を使えるのか。
直後にもう片方の手で拳銃を引き抜くと容赦なく引き金を引いた。
幸いと言っていいのか、空中に浮いていたのもあって弾丸は頬を掠める距離で飛んで行くのだけど、何よりもマズい事が今目の前で起っていて。
ユウは空中で姿勢を整えながらも脳裏で必死に叫んだ。
――失敗した!? って事は、ラディが!?
彼女は戦い向けの戦いではないと言っていた。だから奇襲を選んだのだけど、奇襲が失敗してしまっては元も子もない。だからユウはラディへ視線を向けると今にも倒れそうになっている彼女がいて、クロストルはすかさずその方向へ銃口を向けた。
未だまだ正体を見抜かれてはないと思うけど、どっちにせよ殺させる事だけは絶対に避けなきゃいけない。だって、顔見知りでも他人でさえも助けると誓ってしまったのだから。
「――らぁッ!!」
故に着地した瞬間から鉄パイプを投げて牽制するのだけど、クロストルは左手でソレを簡単に掴んで見せる。だからそれだけでも彼が普通の人間ではない事を察する。高速で回転しながら飛んで来る鉄パイプを片手で容易に掴むなんて、普通ではないから。
剣を使う訳にはいかないからこそ左手を伸ばすとラディに叫んだ。
「パス!」
「っ!!」
するとラディもユウに向かって鉄パイプを投げ、同じ様に左手で掴むと突っ込みつつも右手に持ち替えて思いっきり振りかざした。やがて真正面から激突すると微かな火花が散って互いの顔を明るく照らす。直後につば競り合いにまで持っていくとユウは問いかける。
「お前、明らかに普通の情報屋じゃないな」
「そうだな。少なくとも君達と同じくらいの実力は持ってるつもりでいる」
「っ……!」
会話の隙間にも視線を動かしてラディを見る。特に大きな武装をしている訳じゃないラディはこの中では一番戦闘には向いてないし、銃も魔法も使うクロストルに狙われれば守り切れるかどうかなんて分からない。その時は最終手段として剣とM4A1を解放するしかないだろう。
結果として手を抜いてる訳なのだけど、ユウは精一杯足掻こうと反撃に出た。
「うおっ」
「――――!!!」
パイプを斜めにずらしてはクロストルのバランスを崩させ、ユウはその隙に腹を思いっきり蹴り上げようとしたのだけれど、逆に腹を殴られて一瞬でも気が吐き出される。
となれば当然反撃を食らう訳で、カウンターのカウンターを食らったユウは拳から発生した風に巻き込まれてかなりの距離を吹き飛んだ。
「ユウ!」
「さて、次は君の番だ。お仲間さん」
「……!」
強い。その言葉しか脳裏に浮かばなかった。
拳で殴るついでに空気を捻りながら暴風を発生させ、結果的にユウは幾重にも重なった螺旋状の拳を叩き込まれたのだ。同時に風を爆発させる事によって衝撃波を生み吹っ飛ばし力もさる事ながら全身への攻撃も可能にしている。
つまり、ユウは彼に勝てる要素なんてどこにもない。
「またこの展開かよ……!!」
そう愚痴りながらも腰のホルダーからM1911を取り出して引き金を引いた。M4A1はまだまだ使う場面ではない。せめてラディが射線上からいなくなってくれないと安心して使えないだろう。
全くどうして、何でユウは毎回こうやってエンカウントする敵が強いのか。
一瞬の隙を突いてもう一度つば競り合いにまで持ち込むとクロストルに問いかけた。
「何でお前はそこまでラディに固執するんだ。何でそこまで!」
「彼女こそが俺の生きる全てだからだ。その為ならどんな手段だって使う」
「っ……!」
要するにラディを殺せれば後はどうだっていいと言う事なのだろう。そして今はユウが彼の邪魔をしているからこうして交戦していると。って言う事は、ユウさえ戦う気を失くせばクロストルはラディを探しに行くはずだ。それだけは絶対にさせてはならない。
ユウは奥歯を噛みしめながらも喉の奥から声を絞り出す。
「どうしてそんな、俺は……」
「君が勝手に信じてただけだろう。俺は信じてくれなんて一言も言っていない」
あれが表の顔で、これが裏の顔なのだろう。表じゃ善意で人助けをしているように見えるけど、裏ではラディを殺す為ならどんな手段も厭わない。クロストルはそんな人間性をしていたんだ。
だからこそユウは更に力を入れる。だってそれは自分にとって、許容できない“敵”なのだから。クロストルが手段を選ばずラディを殺すと言うのなら、ユウは全身全霊をかけてラディを守るだけだ。
「……分かったよ。なら俺は、お前を倒す」
息を止めて瞬発力を高める。そしてクロストルの鉄パイプを弾くとユウは左手でM4A1を握り、どこでもいいからと乱射し始めた。しかしクロストルは風で軌道を逸らす事により致命傷以外は全て避けて見せる。
次に鉄パイプを投げると弾く為に攻撃させ、その隙を雷撃で攻撃する。
――何でお前が、暗部の組織なんかに……。
内心でそう思いつつも連撃を重ねた。その度にクロストルは人間離れした動きで雷撃や銃弾を回避し、反撃で風の刃を解き放つ。当然見えない刃なんて避けられる訳がなく真正面から受け止める。
「っ!?」
「流石にこれには反応出来ないみたいだな。なら、これで!」
するとクロストルは幾つもの刃を生成してユウへ照準を絞った。いくら何でも連続で食らえば体も真っ二つにされかねないし、今のクロストルなら容赦なく殺して来るはず。対処法なんてそう簡単に見つかるはずが――――。
直後に全力で雷を発生させると地面を叩き割って粉塵を発生させる。それで飛んで来る刃を捕捉して対処しようと動き始めた。
当然全てという訳にはいかないけど、それでも首や心臓とかの致命傷は全て避ける事に成功する。しかしそれだけじゃ攻撃は止まらず、今度は《A.F.F》が背後に熱源を探知すると即行で刃を振りかざし、背後を取っていたクロストルの攻撃を間一髪で弾く。
その後も激しい連撃にユウは耐え続けた。
「君はどうして彼女を守ろうとする。君にとってはただの情報屋でしかないはずだ!」
「そうだよ。ラディは俺にとってただの情報屋にしか過ぎない。でも、過去の話を聞いたら守らずにはいられないだろうが!!」
クロストルの言葉にそう答えつつも右足を突き出して腹を蹴る。その隙に雷撃を叩き込むと激しく感電しては一瞬でも気を抜いた。
だからこそその体に銃弾を打ち込むが、同時に風の刃を生成して反撃。ユウも同じくダメージを受けて体から血を流す。
「ラディはずっと大切な人を探し求めてるんだ! それなのにここで殺すだなんて、俺には出来ない!!」
「っ!?」
すると攻防の間に一瞬だけ体を硬直させ、今度は全力の回し蹴りを顔面に食らって後ずさりした。クロストルに限ってそんなのあり得ない。だから少しだけ離れて土埃を発生させると、いつでも反撃できる様に剣と銃を構えて様子を伺った。
でもクロストルはそのまま動かない。
硬直したまま、唖然とした表情で立ち尽くしていたのだ。




