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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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091  『信じてくれる人』

 ユノスカーレットとは約束を交わした。ベルファークからは答えを聞いた。次はアリサとネシアの事について動こうと思ったのだけど、ユウはある事を思い付いてある場所へと足を向ける。

 その道中でテスに見つかって声をかけられる。


「あ、ユウ! よかった、目覚めたんだな! 瓦礫に潰されたって聞いて心配したんだぞ!? 何でお前は毎回心配される様な事ばっかりするのか……!」


「ごめんごめん。でも、結果的には全員助かったんだ。結果オーライ」


 確かにテスがいう事は正しいけど、あの状況の中で全員が助かる方法と言えばユウが身代りになるしかなかった。アリサとネシアは特に大きな武器を持っている訳じゃないし、ユウは雷を放つ剣を持っていた。となれば必然的にユウの方が生存率が高くなるのは事実。

 とは言っても両足を潰されてソーセージみたいになる程のダメージを受けたみたいだが。


 何はともあれ全員助かった。その事実さえ残っていればユウはそれでよかった。だって守れなことには何も変わりないし、誰も苦しんでないのだから。

 でも、その考え方は間違っていた様子。


「……少なくとも、そう思ってるのはユウだけだぞ」


「え?」


「リコリスはその場に居合わせなかった事に後悔してる。ガリラッタも早く武装を作り直せなかった事を後悔してる。そして俺も追いかけられなかった事を後悔してる。自分だけ傷つけばいいだなんて考えを抱いてるのなら大間違いだぞ」


「――――」


 突如として鋭い視線を向けられて黙り込む。今まではただユウを心配してるだけかと思い込んでたけど、違うんだ。みんなはユウの事を本当に心配して、自分の事でもないのに自分の事の様に悔やんでくれている。

 それはユウがみんなの仲間であるから。

 やがて彼は超直球な言葉で叱った。


「今ので分かったよ。いいか、お前は馬鹿だ。大馬鹿野郎だ。自分が傷ついて何もかもが無事で終わると思うな! お前が傷つく事で誰かが悲しむ事を忘れるんじゃねぇ!」


「――――――――」


 独りじゃない。さっきベルファークにも言われた事だ。そしてその前にユノスカーレットから言われた事でもある。

 だからその言葉を聞いて反射的にその言葉を脳裏で再生させた。


 ――だから忘れないでほしい。この世界には君を理解しようとしてくれる人。信じてる人がいるって事を。


 ――例え独りだったとしても、今は独りじゃない。君の周りには、一緒に抗ってくれる仲間がいるはずだ。


 ああ、通りで大馬鹿と言われる訳だ。というより、今まで自分がどれだけ愚かで惨めな事をして来たのかをようやく理解する。心配してくれる人がいる事を知らずに自分が傷つけばと突っ込んで助けようとしていたのだから。

 全てが全て、自分で周囲の人達を決めつけていただけ。

 死ねない理由。それはリコリスが悲しむから。それを分かっていたはずなのに。


「……本当に、ごめん。心配をかけて」


「分かってくれればいいんだ。それに、本当に頭を下げなきゃいけない奴ならあそこにいる」


 テスはそう言うと酷く崩壊している区域を指さした。そこにリコリスがいるから謝って来いって事なのだろう。……彼女には本当の本当に迷惑をかけた。ずっと謝りたいと思っていたし、何よりこのまま絡まったままなんて絶対に嫌だ。だからこそユウはその方向に向かって走り出した。


「分かった。ありがとう、テス」


「おう」


 リコリスには話さなきゃいけない事。謝らなきゃいけない事。他にもたくさんあるのだ。それも多分言い切れないくらいに。

 故に全力疾走で彼女の元へ向かった。

 勇気さえでれば、本当の事を話す為に。



 ――――――――――



「リコリス!!」


「ユウ、どうしたの?」


 結局、彼女の元に辿り着いたのは走り出してから実に十五分後の事になった。それまでの間必死になって走っては色んな人にリコリスの事を聞き、後を追いかけていたのだけど、まさかここまで時間が掛かるとは。

 息を切らしながらも名前を呼ぶとリコリスは驚いた様な表情を浮かべる。


「って言うか目覚めたんだ! よかった、かなり心配して――――」


 するとリコリスもユウの元へ駆け寄って手を掴もうとした。けれど即座に手を引っ込めては少しだけ距離を開けてユウを警戒する。そりゃ、前にあれだけ嫌がって拒絶し、それからほとんど会ってないのだからそんな反応になったって当然だろう。

 でもユウはそんな反応をさせる為に来たんじゃない。だから少しだけ息を整えると荒いままでも喋りかけた。


「あ、その、ごめ――――」


「謝るのなら俺の方だ!」


 そう言って真剣な眼差しでリコリスを見る。彼女へ最後に見せた視線とは段違いに違う、本気で覚悟を抱いた瞳で。それを見てリコリスは少しだけ驚いた。

 やがて真っ直ぐ向くと即座に頭を下げる。


「ごめん。俺が勝手に決めつけてた。距離を離されるって、自分勝手に決めつけてた」


「え?」


「優しいのは知ってるのに。きっと信じてくれるって思いながら、自分を見失って、自信も、勇気も、覚悟も、何もかもを見失ってた。先に拒絶する事で、自分を傷つけない様にしてたんだ」


 こればっかりは全てユウのせいだ。リコリスなら信じてくれるかも。許してくれるかも。そんな事を考えつつも過去の出来事を元に勝手に決めつけ、自分が傷つかないように自らリコリスを拒絶してた。もう傷つくのは、痛い思いをするのは嫌だったから。

 でも違うんだ。ユウは自分勝手に決めつけて保身に走ってただけ。答えを確かめる事すらもせず、ただ怖いと言う理由だけで――――。


「本当にごめん。本当に……。リコリスは優しくしようとしてくれたのに、そんな優しさを俺は――――」


 何度謝ったって謝り足りない。それにユウはそんな捻れた状態で瀕死になって帰って来たのだ。その時の心肺と言ったら途轍もないだろう。だから、そうしてしまった事に対しても謝らなきゃいけない。ユウは次第と言葉を羅列させて同じ様な言葉を繰り返して行った。

 今ばっかりは謝りたかった。リコリスがどんな思いなのかを知ろうともせずに自ら距離を離していたのだから。


 拒絶に拒絶を重ねた。一度は完全に仲間じゃないと自分自身で思い込んで勝手に絶望した。故にリストカットの事を知らないテス達に縋っていた。

 当然リコリスからも拒絶されておかしくない行いだ。こんなので許されるとは思ってない。挽回するのならせめて……。

 すると、ふと頭部に温かい感覚を得る。


「大丈夫だよ」


 その言葉に前を向く。するとリコリスはユウの頭を撫でてくれていて、軽蔑どころか慈悲を与える様な柔らかく、泣きたくなるくらいに優しい目でこっちを見つめていた。

 それも、透き通った透明な声と共に。


「大丈夫」


「大丈夫って、だって……」


「分かってますから」


 何もかもを分かったような瞳。……でも、今までとは違う。ベルファークやカミサマが向けていた様な冷酷な瞳じゃない。優しく透き通った様な、綺麗で美しい――――。その瞳には涙が浮かんでいた。

 だからそれを見てリコリスだけは違うと知る。


「何で……」


「色んな痛みを知ってるから。仲間を失う痛みとか、誰も守れない痛みとか、自分を失う痛みとか。だから、分かるの」


「――――」


 根拠も何もない言葉に黙り込む。だって、リコリスの言う言葉には重みこそあるものの根拠も何もないし、ただ自分の過去から記憶を参照してユウの痛みに共感しただけ。……向こうの世界じゃ数え切れない程にやられた手法だ。

 でも、それなのに、リコリスだけは今までと違った瞳を浮かべて来る。


「分かる……」


「うん。完全にって訳じゃないけど、見てるだけでもユウの声が伝わってくるもん。――私達はユウの味方だよ」


 その言葉でもう一度ベルファークの言葉を思いだした。そしてテスに背中を押された事も。どれも分かっていた事なのに。

 やがてユウは瞳に涙を浮かべて行った。


「今まで話せない事があったんだよね。話す事が、怖かったんだよね。だから私達を騙し続けて、秘密がバレた時に保身へ走った。全部、分かってるから」


「――――っ」


 普通なら分かるはずがない。信じてくれるはずがない。向こうの世界の人々はこんな世界の絶望なんて触れてはないし、だからこそユウの事は誰も理解しようとも、信じようともしてくれなかった。

 でもリコリス達はユウと同じ――――いや、場合によってはユウ以上の絶望をその身で体験しているのだ。故にユウの事を信じてくれる。理解してくれる。それだけで、救われる理由には十分だ。


「俺……。俺っ……」


「大丈夫だよ。話せない事があっても、ゆっくり話せる様になっていけばいい。自分のペースで進んで行けばいいんだよ」


 エトリアからの手紙にも書かれていた事だ。ゆっくりゆっくり、なりたい自分になれればいいと。焦る必要なんかない。ただ自分のペースで進んで行けばいいと。

 本当にそれをしていいのなら。

 本当に、そんなユウを信じてくれる人がいるのなら。


「今のユウは一人じゃない。私達がいる。だから、大丈夫」


 話したい事があったはずだ。それなのにそれらは喉に突っかかってしまい、代わりに涙として形を変えて頬を流れた。

 ふと力を抜くとその場に座り込んでしまって、ユウは膝を付きながらも俯いて小さい声で語り始める。


「ずっと、独りだったんだ。誰からも理解されなくて、誰からも信じてもらえなくて、誰からも、必要とされなくて……っ」


「うん。うん」


 本当は謝りに来たはずなのに気が付けばこうなっているだなんて、なんて格好悪い事だろうか。きっと明日になったら死にたくなる事だろう。そう考えつつもユウは涙を流した。本当に自分を必要としてくれる人がいる事。信じてくれる人が、今は何よりも嬉しかったから。

 リコリスはそんなユウに優しい相槌を打ち続ける。

 ユウが平常心を取り戻す、その時まで。ずっと。

【お知らせ】

今回から一話ずつの投稿となります。新作も同時に書いてるので期待しててね!!

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