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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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090  『答え合わせ』

 ユウがユノスカーレットと約束を交わして病室から出た後、みんなに見つからない様素早く移動しながらもある所に向かった。目指すはベルファークが休んでいるVIPの病室へと。

 すると近い所にラナが立っているのを見付け、ユウが近づくと自然と彼女が反応してくれる。


「あら、ハロー。どうしました?」


「少しだけ、ベルファークさんに様があって」


 彼はこの街にとって大統領みたいなものだ。総理事長みたいな感じではなくてもかなり位の高い位置にいる事だけは確か。故にユウが会いたいと言っても普通なら会える物ではない。

 でもユウはベルファークが気にかけている事もあってか、ラナはユウの瞳を見て話しの本質を理解して案内してくれた。覚悟が決まっている様な瞳を。


「……分かりました。案内するね」


「お願いします」


 答えを聞かなきゃいけない。今までの事全てじゃなくても、せめて今回の件だけは答えてもらわなきゃここまで考えた意味がないって物だ。

 やがてベルファークのいる病室まで辿り着くとラナはノックをして部屋を開け、ユウと一緒に部屋へ入って来た。すると特に驚くわけでもなく分かっていたかのような視線を向けた。――カミサマにも似た、ユウがこの世で最も嫌いになりそうな類の眼を。


「おや、何の用だい?」


 分かってクセに。脳裏でそう返答する。何だかここ最近でことごとく彼への信憑性が低下しているからなのか、無遠慮に疑う様な目線を向けてしまう。

 でもみんなはこれが普通なのだろう。ベルファークを信じているからああやって従うはず。異世界人であり、初見から彼の信憑性が低かったユウだからこそ抱く疑問……。


 質問されているのだから答えるのが礼儀だろう。でもベルファークは恐らく全てを読めている。そう察する事が――――信じる事が出来たから、ユウは一言目からラナにとって意味深な事を言い放った。逆にベルファークには理解出来る様な言葉を。


「答え合わせに来ました」


「え、答え……えっ?」


「なるほど。そう言う事か」


 するとベルファークはやっぱりかと言う様な顔をして呟いた。やっぱり、ベルファークは全てを分かっていたんだ。過激派が乗り込んでくる事も。連れ去られる事も。ヘリが到着する場所も。ユウが疑問に思ってここへやってくる事も。

 カミサマにも似た何かを感じてユウは軽蔑の色を浮かべた。もしそれが本当なら彼だってユウにとっての怪物になるのだから。


 前々から怪しいとは思っていたのだ。質問が意味深めいていたり、全て計画通りみたいな瞳をするその眼が。今こそがそれを晴らす絶好のチャンスだ。

 やがてベルファークはラナを部屋から追い出す。


「すまない。少しの間だけ、二人にしてくれないか」


「え、あの……はい。分かりました……」


 普通なら疑ってもおかしくない状況だと言うのに、ラナは特に気にする事もなく部屋から出て行った。そして静かに扉を閉じては病室にユウとベルファークだけを残す。

 彼は体を起こすとユウの目をまっすぐ見ながらも言う。


「さて、答え合わせ、だっけ」


「せめて今回の件くらいは答えてもらいますよ。じゃなきゃ、あなたを信頼する事も出来ないので」


 もしかしたらベルファークは裏切り者かも知れない。そんな事は本気で信じたくないけど、想像の中の一つに入ってる事も事実だ。何もかもを見通すその眼はカミサマに酷似しているのだから。

 遠慮なしに疑惑の目線を投げつける中で、ユウはついに問いかけた。


「――全部知ってたんですか。今までに起った、全ての事を」


 今回の件だけじゃない。ユウがこの世界に来てから起こった事件の全てを知っていたのだとしたら、きっとユウは失望するだろう。そして絶対に許さないと思う。だって彼はリベレーターの最高責任者だ。言葉一つで軍隊をも動かせるんだから、先の戦闘でもきっともっと犠牲者を減らせたはずだ。

 彼の眼からそんな事を考える。

 するとベルファークは喋り出して。


「最初に言わなきゃいけないのは、最低でも、私は君達の味方だと言う事だ」


「え……?」


「私はこの街に住む全ての人を守りたいと思ってる。もちろん君も。だから私は、私の守りたいと思う人達だけは必ず裏切らない。それを頭に入れておいてほしい」


 帰って来たのは少々意外な言葉だった。と言ってもユウが悪として認識してしまっていたからこそ生まれた驚きなのだけど。

 そこまで言うという事は本当に味方で在るのだろう。リコリスみたいに真偽の魔眼があれば楽だったのだけど、ないからこそユウはその言葉を少しだけでも信用してみる。


「それじゃあ答え合わせと行こう。結論から言うなら半分は正解で、半分は間違っている」


「という事は肯定すると見ていいんですね」


「ああ。と言っても、予想外の事も度々起きていたがね」


 やっぱり知ってたんだ。全てとは行かずとも彼は今まで起った事の半分は理解していた。せめてその中に先の戦闘が含まれていなければいいけが……。そう考えながらも続けて言葉を聞く。


「だが今回の件については全て予想通りだったよ。過激派がここへやってくる事や、君達が戦闘していた所に降り立つのも。だから私は君達を警護として選んだ」


「その意味は?」


「アリサとネシアを引き合わせる為だ。と言っても私用で二人は絶対に合わない。それにこの先大きな戦闘が起る。だから、その為の布石という事だね」


「…………」


 かも知れないと言わない限りその事は既に確信してるんだ。先の戦闘と同じくらいか、それとももっと大きな戦闘か。いや、そこまで行くのなら戦争って言った方がいいのかもしれない。

 何はともあれ今回の件は完全に仕組まれていたという訳だ。彼はアリサの意志を理解しているからこそ、偶然という形を装ってネシアと引き合わせたんだ。つまりかつて有名となった人の手を借りなければ勝てないくらいの戦闘が起るって事にもなる。


「じゃあ先の戦闘は知ってたんですか。機械生命体が囮だと言う事も。正規軍が機械生命体を利用したことも。知ってて、言わなかったんですか」


「そうなるかな」


「……!」


 その瞬間にユウは右拳を振り上げては彼の頬を全力で殴打しようとする。でもそれだけは絶対にやっちゃいけないと自制心をかけ、拳を握りしめるギリギリの位置で心を保った。

 分かっていたのならみんなに知らせればいいだけじゃないか。そうすればもっとちゃんとした準備が出来た。そうすればもっと犠牲者を減らせたかもしれないのに。

 そう思っていると彼は殴らなかったユウにお礼を言う。


「……ありがとう。だがこれには理由があるんだ」


「その、理由って?」


「この街に正規軍が隠れている事は私も知っている。そしてその正規軍が本部との連絡手段を思っている事も。正直な所、正規軍が全力で攻めて来れば私達は負けていたんだ」


「は? え、全力じゃない、っていうんですか」


「そうだ」


「っ!?」


 その言葉を聞いて硬直する。二度に渡って出会った例の魔術師。あれが正規軍の切り札だったんじゃないのか。あれだけの大進軍を起こして尚、正規軍は本気じゃないと言うのか。

 もしその言葉が本当ならかなりまずい事になる。だって本気で攻撃されたらみんなが死ぬ事になるのだから。その点も含めて解説してくれる。


「相手が準備万端で構えているのなら戦力を上げて攻撃するのは当然の事だ。相手の気が緩んでいる隙に攻撃する。それが奇襲と言う物だからね。だからあえて言わなかった。だからこそ、私は相手が出撃した瞬間から準備を整えさせた。……と言っても、地中から超大型が現れた事ばっかりは予想外だったがね」


「…………」


 要するに敵の戦力を削ぐためにわざと隙を見せていたって事なのだろう。それなら納得できなくもないけど、やっぱり無謀過ぎる気がする。まぁ、今更言っても過ぎてしまった事だから遅いのだけど。

 続けて彼は更に予想外の事が起きてた事を言う。


「更にあんな実力の魔術師が現れるとはね。正直、驚愕した」


「それは読めなかったんですか」


「ああ。あればっかりは」


 そりゃベルファークは策士タイプだし、策を破られる時ほど驚愕する事はないはずだ。だからこそベルファークは残念がって悔しそうにしていた。

 まだまだ驚愕は残っている訳だけど、ユウは別の事を質問する。


「じゃあ、その他の事件については? アルテが暴れた件や、正規軍の囮作戦は」


「もちろん知っていた。……まぁ、その大半に君が首を突っ込んでいたのは流石に予測できなかったが」


「あはは~……」


 今一度自分がどれだけ命を投げやりにしていたのかを理解する。今となっては生きる意味を見付けたけど当時は無茶苦茶してた訳だし、当時の自分を今の自分がどんな違いを得たのか、それが手に取るように分かる。

 やがてベルファークは本筋とは関係ない事を話しだすのだけど、その内容に惹かれて詳しく聞いた。


「だが、君がそうしてしまう人間だと言う事は知っていた。初めて会ったその時からね」


「え?」


「平和な世界から来てこんな世界に対応できる人間なんてまずいないだろう。そして当時の君は深い深淵の様な瞳をしていた。そこから私は過去に辛い事があったんだと知ったんだ。……辛い思いをした人は、優しくなれるはずだからね」


「…………」


 ベルファークへの疑いは晴れた訳だけど、今だ妙な違和感が引き摺って完全には信じられなかった。目を見ただけでそこまで善悪が分かる物なのかと疑問に思ったから。……だからこそ、自分も異常なんだって理解出来る。ユウも嘘つきの眼くらいは普通に判別できるのだから。

 彼は少しだけ間を開けると静かに綴った。


「……君にとっては荷が重いかも知れない。だが、私は君を信じている」


「信じてる……?」


「ああ。この世界を知らないからこそ希望を抱ける君を。希望を抱けるからこそ、誰よりも強く在れる君を」


 そう言われて黙り込んだ。そこまで肩入れされるのは実質初めてだったから。それに最高責任者にそう言われたのであれば、普通なら飛んで喜ぶべき事だろう。でもユウは冷静にその言葉を受け入れながらも言った。


「強く在れる訳、ないですよ」


「そんな事ないさ。例え独りだったとしても、今は独りじゃない。君の周りには、一緒に抗ってくれる仲間がいるはずだ。その人達と一緒に抗ってほしい。……この世界を、なんていうつもりはない。ただみんなの希望になってくれないか」


 みんなの希望。それは即ちリコリスみたいになれという事だ。誰も彼もが絶望する中で、リコリスみたいに手を差し伸べて前ばっかりを見る人になれという、果てしない道のりの背中を押す言葉。

 ……他にも疑問はある。疑念もある。でも、みんなを救うと決めた者としてその言葉には答えなきゃいけなかった。


「当たり前です。俺はその為にここにいるんですから」


「……ありがとう」


 するとベルファークは優しい微笑みを見せつけた。安心した様な表情を。あるいは、ようやくゴールが見えて来たような表情を。

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