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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter1 灰と硝煙の世界
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008  『体力測定』

 翌日。

 ユウはリコリスに案内されて測定場にやって来た。いわゆる体育館である。と言っても、どっちかというと海外の体育館みたいな感じだけど。

 そこには様々な器具が用意され体力測定には持って来いの状況を作り出していた。


「今日はここで体力測定をやってもらう。これで記録した数値を元に訓練内容が変わったりするから、分かってると思うけど全力でね」


「まぁ手を抜く気はさらさらないんだけど、一つだけ言いたい事があります」


 そう言ってリコリスに振り向く。

 確かにここで記録した数値が高ければ高い程序盤のステップをかなり吹っ飛ばせるだろう。それによって兵士になれる期間も短くなるはず。けれど一つだけ巨大な問題がユウの前に立ち塞がっていた。それというのが――――。

 人差し指を立てるとむしろ自慢げに言う。


「この世界の平均と俺の体力は明らかに合わないのでそこだけ注意していただきたい!」


「そこまで自慢げにい言う事じゃないよね」


「異世界人の体力の低さを舐めないでいただきたい」


「だから自慢げにいう事じゃないよね」


 こういうのは大抵兵士になる人のスペックは必然的に高くなる。だからきっとリコリスも凄い筋力があったりするはずだ。となれば相対的にユウの体力はこの世界の基準に比べて低くなるのは必然。

 その証拠としてリコリスが見せてくれるデータでも読み取れた。


「大丈夫だよ。一般人も兵士になったりするし、その時の記録もまとめられてる。これが平均値ね」


「どれどれげええぇぇぇぇぇ」


 握力は十八の男子の平均が五十九㎏。女子でも四十八㎏という高記録を叩き出している。持久走なんか男女共に千五百mなのに三百二十秒とかいうぶっ壊れな記録が載っていた。

 十八歳だから大体高校三年生辺りだけど、それでもここまでの記録だとは思いもしなかった。


「なに、この世界の一般人のスペック高くない?」


「えっ。そうなの?」


「だからこっちは平和ボケしてる世界から来たって言ったよね!」


 するとリコリスは困惑した様な表情を浮かべる。そりゃ世界観からして住人の行動はかなり変わって来るのだから当然な気もするけど。

 しかし気にも留めない彼女はユウの背中を押すと測定を開始させた。


「まぁまぁ、騙されてやってみてよ」


「騙されたと思ってでしょ? 最初から騙す気満々じゃん」


 そう言って渋々測定器を手に取った。結果は分かり切ってるような物だけど、とりあえず全力で取り組もうとする。何事も前向きにやらなきゃ上手く行かない訳だし。

 やがてリコリス指導のもと次々と測定をしていった。

 ……まぁ、スポーツが好きでもないユウは散々な結果になったが。



 ―――――――――



「これは中々酷い結果になったね」


「だから、言ったでしょ……!」


 息切れながらもホログラムで記録した数値を見る。平均と比べて壊滅的な結果だ。唯一身体が柔らかかったから長座体前屈だけはいい記録だけど。

 残るは持久走だけになるものの結果は今までの数値が語っている。だからリコリスはやらなくてもその結果が分かり切っていた。


 この世界の人々は通常でも力仕事が殆どだ。働かざる者食うべからずが常識なのだから子供でも手伝いの為に働くし、動かずに過ごしてる人なんて大怪我したから兵士を引退した人くらいらしい。

 だからこそユウと同い年でもこれだけの差が出る。それも天地の差と言うくらいの。


 更に同い年であるイシェスタとテスはこれらを当たり前の様に軽々と超えているのだから、子供の頃から鍛えないとダメなんだって事が思い知らされる。

 やがて愚痴のように呟いた。


「俺のいた世界はここと比べて圧倒的に平和なんだ。だから基礎体力でもかなりの差が出るんだよ……」


「で、でもこの記録でも兵士にはなれるし、努力次第でどうにでもなる。と、思う、から頑張ろう!」


「まぁ頑張るけどさ」


 絶対に厳しいヤツだ。そう悟りつつ頷いた。

 けれどこれをこなせなきゃ兵士にはなれない。今の所それしか道が見えていないユウにとって絶対に通らなきゃいけない道だ。


「これから俺はどうすればいい?」


「そうだね~。とりあえず兵士になる為の必要最低限のラインはギリギリ越えてるから、次は銃についてとか身体の動作とかについてかな。それらを一通りクリアしてようやく合格ラインって感じ。本当にギリギリだけど」


「控えめに言うと?」


「入口の蜃気楼が薄っすらと見える程度」


「うっわ……」


 控えめに言ってもそこまでしてようやく蜃気楼が見える程度だ。兵士になる為のラインといっても現状の全力で必要最低限だし、ここから銃の扱いや身体の使い方にも慣れて行かなきゃいけない。正直地獄だ。

 けれど空気を入れ替えたリコリスは遥か彼方を指差して言う。


「でもこれはユウの決めた道。ならばもっと先へ、Plus(プルス) Ultra(ウルトラ)しなきゃ!!」


「地味にスペイン語まで伝わってるし……」



 ――――――――――



 その後、体力測定だけでヘトヘトになった体を引きずりながらも渡された携帯端末の指示に従って訓練場を目指していた。

 太陽は既に真上を通り越していて、時間的にも今日中に出来る事は戦闘の適正検査らしい。体の扱いと言ってもそこまで自信がないけど大丈夫なのだろうか。

 そんな風に思っているとついに目的地まで付いて立ち止まった。


「ここかな。それっぽいロゴもあるし」


 リベレーターの管理している建物には全てロゴがあるから、それを目印にするといいとか何とか。やがて少し迷いながらも建物に入って色んな確認を済ませると、そこ先にはこの前会ったばかりの人が待ち受けていて、ユウを見た瞬間に手を振った。


「おお、来た来た」


「あ、この前の!!」


 セーフシティでユウにちょっかいを出して来た金髪の少年。彼が訓練場にて待っていたのだ。だから駆け寄って服装を見ると大体は納得する。

 リコリスと同じ隊の腕章。それだけで確信が取れた。


「意外と早かったな。どうだった、体力測定は?」


「うん。まぁ、ぼちぼちでした」


「そ、そうか……」


 口元を引きつらせながら目を背けて言うと状況を把握してくれる。けれどそれとこれとはまた違って来るらしく、彼は腰に手を当てると言った。


「でも戦闘基礎については反射速度とかそういう感じだから気にしなくてもいいかな」


「え、そうなのか?」


「他にも体の動かし方とかがあるけど、基本は反射速度だから」


「へぇ~」


 そう言うと彼はちょいちょいと手招きしては色んな道具が揃ってる所まで誘導した。見た目がコロシアムっぽいから古い武器も登場するかと思ったのだけど、机や棚に飾ってあったのは如何にも近代的な近距離武器。折り畳み式とか電気をチャージする事で本領を発揮する武器が殆どだった。

 やがて彼は自己紹介をしていなかった事に気づくと振り向いては手を差し伸べて名乗り始めた。


「あ、そう言えば名乗ってなかったな。テスだ、よろしく」


「高幡裕。分かり易くユウって呼んでくれればいいよ」


「おーけー。よろしくなユウ」


 意外とフレンドリーな性格なのだろう。手を握ると嬉しそうにぶんぶんと振り回していく。だからあまり慣れない性格に戸惑っているとテスは早速武器に目を付けて呟いた。


「で、武器なんだけど……ユウ、何かしらの武器使った事ある?」


「そりゃ直剣みたいなのは似たようなの触ったことあるけど……」


 と言っても竹刀を少し振り回した程度だ。それ以外には何の経験もない。この世界の住人なら護身用に鉄パイプくらい携帯しててもおかしくないのだけど、そこはもう例の如くと言った感じだ。

 だからテスは竹刀に似た形状の物を取るとユウに渡した。


「じゃあこれかな。で、戦闘基礎って言うのは反射速度もそうだけど技の動きとかも見る。兵士といっても化け物や機械生命体だけじゃなく、最も基本的に相手をするのは人間だからな」


「え、そうなのか? てっきり兵士になった瞬間から化け物と戦うのかと……」


「それは十分慣れてからな。リベレーターは各隊で守る区域を決められてるんだよ。任務がない時はその区域を巡回してトラブルがないかを見守る。だから、基本的には対人が相手なんだ。化け物を相手にするのはリコリスみたいな強者だけだよ」


「ふ、ふ~ん」


 やっぱりリコリスって強い方に入るんだ。あの戦い様で分かってはいたけど。

 やがてテスは自分も武器を手に取ると少し移動しては早速撃ち込むように促して来る。


「じゃあ、まずは自分なりに攻撃してみてくれ。遠慮はいらないぞ」


「わかった。じゃあ遠慮なく……!」


 テスは自分よりも遥かに強い。だから遠慮何てする必要なかった。こういうのは攻撃後の隙や視覚を最大限まで削る物だけど、例の如くユウはそんな技術なんて持っていない。故に連続で攻撃してはそれを余裕で避けるテスから指摘を食らう。


「う~ん、やっぱり動作が甘いな。控えめに言っても隙だらけだ」


「そりゃこっちは一度も対人で戦った事なんて――――いや、一度はあるけどさ」


 そうしてテスからつば競り合いに持ち込むとユウは声のトーンを変えて言った。すると今までとは違う声に反応したテスは当然問いかける。


「あるのか?」


「まぁ、致し方なくってヤツだ」


「ほぉ、そうなのか」


 その瞬間からテスは剣を斜めにしてユウの攻撃を受け流し、思いっきり態勢を崩した。そこから一撃だけ当てるつもりだったのだろう。振り向きざまに攻撃を仕掛けて来る。

 ――でも、その姿がある光景に繋がる。

 直後から地面に手をついては体を捻らせて反射的に攻撃を回避した。普通なら絶対によけられない様な攻撃を。


「っ!」


 だからテスもその事にびっくりいていた。そりゃ戦闘経験もロクにない一般人がそんな動作するだなんてあり得ないから。

 しっかりと受身を取って起き上がるとテスは硬直したままユウを見つめていた。


「ユウ、今の動きって……」


「特に意識した訳じゃないけど、体が勝手に」


 すると二人の間に静寂が流れ込んだ。互いにこうなるとは思わなかったのだろう。ユウだって反射的に体が動いた事にびっくりした。いくら脊髄反射と言っても普通の動きじゃなかったから。

 やがてテスは呟く。


「防衛機能って奴か? なら、もしかして……」


 深く考え込んでは宙を見つめ、戸惑うユウをそっちのけで一人考え続けていた。だから隙を突いて軽く攻撃して見せるとユウの事を無視しながら攻撃を回避すると言うカオスなシーンが生まれる。

 それからしばらくするとテスは顔を上げ、脳天に軽く叩きつけられる事も無視してユウに言った。


「聞いてくれ、ユウ。お前もしかしたら行けるかも知れないぞ」


「行けるって、何が?」


「――推薦試験だよ」

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