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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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088  『助けたい衝動』

 複数の銃声が重なって鳴り響く中、鼓膜が破れそうなくらいの衝撃音を聞きつつも突っ込んで来る敵を撃ち続ける。最初は数十人程度が上から撃って来るだけだと思っていたのだけど、どうやらそうでもないらしく、少なくとも既に三十人は短時間の間に潰していた。

 となると過激派の数は――――。


「なぁアリサ。確認出来てる中でも過激派ってどれくらいいるんだ?」


「正確な数は分かってないけど、少なくとも千は軽く超えるって聞いたわ」


「それって軽い軍隊なんですけど……」


「そりゃ過激派も民間軍事組織の一つだからね!」


 これならエセスラムに住んでいた人達の方がよっぽどマシだ。彼らの場合は遠距離武器を使ってこないし、なによりある程度の話は通じていた。でも今回は過激派の名の通り物凄い過激な戦い方をするし、きっと話は聞いてくれないだろう。

 全く、ベルファークはどこまで読んでいるのやら。


 やはり三人対数十人は一方的な防衛線となるようで、敵が増えれば増える度に弾幕を張られてユウ達は下手に身動きが出来なくなる。だから柱の陰に身をひそめながらもどうするかを考えた。

 するとネシアが提案する。


「この建物には二階がある。そこで迎え撃つってのは?」


「そりゃいいわね。二階なら遮蔽物も多そうだし!」


 直後にアリサはグレネードのピンを口で抜き、思いっきり投げ飛ばした。そして爆発した瞬間から一斉に駆け出して二階へと全力疾走する。

 撃ち出された弾丸に足を掠めながらも二階に到達すると早速銃を構え、突っ込んで来る過激派を真上から打ち下ろした。


「そっちは大丈夫?」


「大丈夫だ! 問題ない!」


 アリサの言葉に答えながらも銃弾を掠めた足を撫でる。まぁ、これくらいなら戦闘に支障もないし大丈夫だろう。そう言い聞かせて立ち上がる。

 さて、ここから敵がどう動いて来るのかで行動が変わって来る。突っ込んで来るようなら籠城戦を続けて救援が来るまで待つだけだし、爆発物を使う様なら一時撤退も視野に入れなければいけない。


 今は階段に突っ込んで来るだけだから上手く籠城戦を出来ているけど、敵の数が数百もいるのなら話は別だ。弾だって有限なのだから節約しなきゃいけない。となるとやっぱり残された手段は一つなわけで。


「――上から来るわよ!」


「上!?」


 すると上の窓枠からロープを伝って侵入して来て、三人を見るなり銃を構えた。だからこそ集中砲火で倒すのだけど、そうしていると背後から迫って来る敵への防御が疎かになり、本当に危機一髪で回し蹴りを入れる事により死を回避する。

 その他にも数々の兵士が突っ込んではユウ達に銃弾を浴びせようとした。


 既に右手にM4A1で左手にM1911というスタンスで戦っても圧倒的な敵の数に対処する事が難しくなって行き、銃弾が体に掠める事も多くなる。

 だからそれを回避するためにユウは敵を誘導する事を選んだ。


「ちょっ、ユウ!?」


「やってみたい事があるんだ!」


 そう言うと右手からM4A1を離して剣を掴み、振り向きざまに全力で振り抜いた。直後に電気を帯びた斬撃は柱を叩き折って粉塵を発生させる。そこへ突っ込んで来た敵を熱源探知だけで索敵してM1911で撃ち抜いた。


 ――やっぱり視界が遮られると弱いんだ。なら……!


 以前の戦闘じゃ柱は柱として機能してなかった訳だけど、今回はコンクリートを穿つ魔術師がいる訳じゃない。だからユウは安心して柱に隠れては奇襲する作戦で動き始める。

 アリサとネシアもユウの狙いを悟ったようで、ギリギリカバーできる範囲にとどまりながらも戦闘を続けていた。


 と言ってもネシアの強さは本物で、普通なら対処出来ない数の敵をバッサバッサと薙ぎ倒していく。それも武装を使用してないはずなのにアリサ以上の手際で。話を聞いた当時はアリサのツッコミもありそこまで信じていなかったけど、千切っては投げ千切っては投げの話は本当だったのかもしれない。


「ったく、数多過ぎ!」


「そりゃ奴らにとって私達は邪魔者同然だからね!」


 どうしてユウの戦闘って毎回追い詰められてるのだろう。いやまぁ、エンカウントする敵の強さがおかしかったり数が多過ぎるのが原因なのだけど、少しくらいは苦労しないで戦闘を達成したっていいじゃないか。大きな戦闘が起ると必ずと言っていい程その功績を物の破壊で補われる訳だし。

 と言っても小さいかつ余裕な戦闘でもそうなったのだが。


 次々とやって来る敵に翻弄されつつも精一杯の反撃を続ける。せめて銃も電気製なら雷でショートさせる事も出来たのだけど、銃だけは近代化されてのに舌打ちをしながら銃の引き金を引く。

 もう何十人を斬って撃っただろう。不本意とは言え死者も出てるはず。あとどれだけの人達を殺せばこの戦いは終わるのか――――。


 そうしていると今までとは違った類の敵が現れ、巨大な鉄の腕みたいな物を装備した敵は大きく振りかぶるとコンクリートの壁を粉々にして見せる。

 更に留まる事を知らずに粉塵の中から飛び出すともう一度殴って床をぶち抜いた。


「ちょっ!?」


 あまりの威力に撤退を余儀なくされる。距離を離しては純粋な筋力から繰り出される蹴りで一気に近寄り、何度も何度も柱を殴り飛ばした。その余波に当てられるだけでもかなりの距離を吹き飛ばされ、前かがみになりながらも左手で床に手を突くとその態勢のまま電の刃を生々する。


「なら、これで!!」


 機械音が聞こえるからには機械である事は確実。なら強い雷撃をぶち当てる事が出来れば、機能を失ってただの荷物と化するはず。そんな憶測を持ってして雷撃を解き放った。

 でもそれをいともたやすく弾いて。


 ――雷撃を弾いた!?


 すると一瞬の隙を突いて急接近され、もう一度その剛腕を振り下ろす。幸い元から重心が後ろにあった為顎を掠る距離での回避は出来るけど、続く連撃への対処は難しく、ユウは態勢を崩しながらも果てしない威力の攻撃を回避し続けた。


 だから仕方ないと判断して巨大な雷を発生させ、それを全力で生身の体に叩きつけた。あまりの電撃から自らの腕も焼けそうな熱さを感じつつも完全に振り切る。普通の人間ならこれで絶対に気絶して倒れるはずなのだけど――――残念ながら目の前の大男には利いてない様子。

 それどころか白目で攻撃を続ける物だからユウはその謎の正体を即座に見抜いた。


 ――分かった。こいつ、薬を!?


 気絶しないのは薬で痛みを緩和してるからだ。その証として大男は口の端から泡を吹きつつも白目で攻撃してくる。

 だから、やる事の非道さに怒りが頂点まで沸き立ち、ユウはいち早く彼を解放する為に飛び上がった。剛腕を足場にして回転し、振り向きざまに首を刎ねてその男を殺す。


「ったく、どうなってんだよこれ……!」


「ユウ、危ない!」


「え?」


 しかしアリサから突如そう言われ、ユウは咄嗟に周囲を警戒した。でも危ないと言ったのは周囲からの危機ではなく、外からの危機という意味だ。

 その言葉通り外からは突如としてヘリが顔を出す。それも、備え付けられている機銃はこっちを見ながら。


「え、何コレ……。やだコレ……」


「――走れ!!」


 即座に放たれた強めの口調でようやく体が動き始める。直後に銃弾の雨が降り注ぎ、脚を何発か撃たれるものの生きながらえる事には成功した。次に高さを合わせて射撃を開始するから横へ転がって遮蔽物に隠れる。

 するとアリサが駆け寄って傷を見てくれる。


「ユウ、大丈夫!? ……大丈夫じゃなさそうね」


「っ……!」


 自分から力の出やすい右足に回復剤を差すとネシアも集まって服を破りズボンの上から巻いてくれる。けれどいつまでもそうしている訳にはいかなくて、数を増す敵の猛攻に三人は窮地に追い詰められていた。

 そうしていると激しい轟音と地鳴りが連続して三人を襲う。


「っ! なに!?」


「爆発物でも使ったんでしょ。何をする気かは分からないけど……」


 最初は連続して爆破する事から攻撃ヘリかと思ったのだけどそうでもないらしい。爆破の威力や連続する速度から見て手動……恐らくRPG-7とかで建物を攻撃しているはずだ。でも屋上ら辺に味方はいないはず。もうじき駆けつけくれる頃だとは思うけど、そうだとしたら連絡が――――。

 そこまで考えた時、異変に気づく。


「……揺れてる?」


「揺れてるって、地震? でもなんで今――――」


 瞬間、三人で狙いを悟った。これは地震でも何でもない。建物が倒壊する音だ。証拠として周囲の柱や床には亀裂が入り始め、天井は刻一刻と崩れ始める。だからその考えを見抜いた時から三人そろって走り出した。


「あいつらまさか建物ごと!?」


「滅茶苦茶しやがる!!」


 ここは二階だから飛び出したらただでは済まないのだけど、潰されるよりかは遥かにマシだ。そう思って三人同時に二階から身を投げ出そうとした。

 でも、その時にネシアが足元に入った亀裂でバランスを崩して。


「ぁ――――」


「ネシア!?」


 アリサが鋭く叫んだ。そして反射的に手を伸ばすのだけど、到底届くはずがなくネシアは落っこちていく。この距離じゃ助けたとしても誰かが犠牲になるのは確実だ。流石に建物の倒壊に巻き込まれたら生存率は絶望的。

 しかしアリサにとってネシアは絶対に死なせたくない対象なのも確実なのだ。


 ユウも瞬間的に脳裏で様々な言葉が浮かぶ。

 見失う、距離は、間に合わない、身代りになるか、倒壊するまで何秒。そんな疑問の数々が頭の中で渦を巻いていた。


 このまま助けに行けば共倒れになるかも知れないし、助けられるかも知れない。と言っても自己犠牲の結果には変わらないが。けれど助けた所で自分はどうする。死んでしまえばそこで終わり。あのカミサマの性格上生き返られてくれる事も無さそうだ。

 この場で倒壊しても生き残れる可能性のある人間。そんなの一人しかいない。


 アリサは自分が間に合わなくてもと動き始めた。その行動にはネシアがどれだけ大切な存在なのかが露わされていて、必死なその表情が教えてくれる。ネシアがここで死ぬという事は、きっとアリサにとって死よりも残酷な結末だから。

 約束したはずだ。アリサを救うと。その他のみんなも、ネシアでさえも。

 それを差し引いたとしてもユウの手は既にネシアの手を掴んでいた。


「え?」


「らあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」


 左手でネシアを掴んでは力一杯外へと放り投げ、アリサはその後を追う。でも絶望的な瞳がこっちを見た。絶対に助からないと分かり絶望する彼女の瞳が。――それでもアリサはユウに向かって手を伸ばした。到底届くはずのない手でユウを助ける為に。

 でも、その時には既に倒壊によって巻き込まれていて。


 記憶が途切れる寸前、視界全体に電が迸った。その後は、覚えていない。

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