087 『過激派の抗争』
「ほら、乗って!」
「あ~いや~、俺は別の――――アッ」
「逃がさないわよ」
アリサが運転席に座った直後から別の車に乗ろうとするのだけど、その瞬間に肩をガッシリと掴まれて車の中へ引き込まれる。まぁ、仮に逃げられたとしても運転なんて出来ないから変わらないのだけど。
引き込む際に瞳を光らせながら笑顔で言うのだから怖いったらありゃしない。
やがて強制的に助手席へ座らせるとアクセルを踏みながらも言った。
「シートベルトした方がいいわよ」
「せめて発進する前に言ってくれないかな!」
そんな風にしてアリサだけがシートベルトをした状態で車は急発進される。だから慌ててシートベルトをするのだけど、その頃にはアリサはヘリを追って右へ左へと実に雑なカーブでハンドルを切って行く。
でもテスの指示通りに言われた方角へ進むのだから凄い物だ。
『少し曲がった! 右に六度!』
「OK」
普通なら暴走車とも捉えられる運転をするのだけど、市民はリベレーターのロゴが付いた車を見た瞬間から極力道を開けようとしてくれている。それもアリサが雑な運転をするせいで掠ったりするのだけど。
だから振り回されない様に必死にしがみ付きながらも訴えた。
「ちょっ、運転雑じゃないですかね!?」
「早くしなきゃ逃げられちゃうでしょ」
「そりゃそうだけど……!」
ヘリは建物を無視して進めるのに対しこっちは道路に沿って進まなきゃいけない。その差は途轍もないし、テスがへりの進行ルートを押さえてくれなきゃ今頃とっくのとうに見失っていただろう。以上を踏まえてもフルアクセルで進むのは得策ともいえる。
しかし、まさかここまで激しい運転になるとは。イシェスタよりも荒い運転に酔いそうになり、口元に手を当てながらも通信で問いかける。
「ってか、リコリスは!? あれならすぐに追いつくのに……!」
『生憎手の届かない所にいてな』
「そうだったよちくしょう!」
ここまで来たらもう二人で追いかけるしかないのだろう。ヘリが向かうところが分からない以上追い抜く訳にはいかないし、どこかビルに着陸されてもそれはそれで厄介だ。
となると予測が大事になってくるはず。そしてユウが知る中で唯一予測の手助けを出来る人と言えば……。
「ユウ、何やってんの?」
「ちょっと頼りになるかも知れない知り合いがいてさ!」
吐きそうになるのを堪えながらもスマホを取り出してある人に電話をかける。これに答えてくれるだけでもかなり対応が変わって来るから、必死になって出てくれる事を願い続けた。
そうしていると彼は早速電話に出てくれる。
『やぁユウ君。君から掛けて来るなんて――――』
「クロストル、知りたい事がある! 代金なら後で払うからなるべく早くお願いしたい!!」
『……色々とお取込み中らしいね』
車から顔を出してヘリの方角を確かめつつもクロストルに押し掛けると、彼はカーブする時の甲高い音で即座に普通じゃない状況だと見抜いた。
だからこそクロストルはすぐに対応してくれた。
『後払いは苦手だが……何が知りたい?』
「過激派の根城だ。今過激派のリーダー格の護送をやってたんだけど、完全武装のヘリに邪魔されて追ってるトコ」
『OK。それならすぐに情報を送ろう。三十秒待ってくれ』
するとクロストルは一時的に通話を切り、後払いなのを信じて情報を用意してくれる。緊迫している場面だから三十秒が割と長く感じたけど、スマホに通知が来てから即座に開くとGPSのマップに幾つかのピンが刺されているのを見付ける。
だからそれをアリサに見せると即座にハンドルを切って。
「アリサ、ここが過激派が根城にしてる候補らしい!」
「なるほど。さすが情報屋様様って所ね!!」
テスは依然としてヘリの向かう方角を逐一報告し、ユウはその方角とピンの場所を照らし合わせ、アリサは二人の指示通りに荒い物の的確な運転をしていく。
やがてヘリの降着地点の予測が終わるとユウはすぐに報告する。
「ここだ。この先を斜め右に行った所にある大きな空き地!」
「OK。マップで確認すると……大体ここね」
アリサは呟くと車のマップで斜め右にある空き地にピンを差し、最短ルートを検索してその通りに走りだす。
しかし先回りしたら駄目だ。敵が待ってると分かってて降りる奴なんかいないだろうし、そうだとしたら別の所まで移動するはず。だからヘリが着地して対象が地面に降りた瞬間。そこを狙うしかない。
予想通りヘリは突如として方向転換しては空き地の方へと移動していき、アリサはアクセルを踏んでさらに加速させる。
「ユウ。今のうちに準備しときなさいよ」
「りょーかい」
そう言われてM4A1を手に取って機械生命体用の剣も腰に携える。アリサもチョーカーを首に付けて戦闘準備を整えた。すると車は空地へと続く荒く整備された砂利道へと入り込み、振動で微かに跳ねる中ユウはいつ敵が現れてもいいようにと構えた。
そして曲がり角を曲がると丁度ヘリから降りている包帯まみれの人がいて、その人が今回のターゲットだと理解する。
――あれ、何か暗殺ミッションみたいになってる……?
脳裏で呟きつつもアリサの掛け声で顔を出し、銃口をターゲット以外に向けて乱射し始めた。だから銃を構えてた人だけは重傷を背負わせる。次にアリサが車の右側をヘリに向けるとドアを蹴り破って飛び出し、剣を抜くのと同時に雷の刃を振りかざした。
その斬撃に当てられて半分の人が行動不能になる。
「無力化だからね!」
「分かってるっての!!」
銃弾は実弾を使っている訳だけど、流石に止めてくれるのなら殺しはしない。……逆に言うなら、止めてくれない限り止まらないって事になるけど。戦闘になると感情的になってしまうから足止め係が必要になってしまうらしい。
「やれ! やれー!」
「ッ!!」
そう言って残った人たちが拳銃を構えるから大きく右に飛んでスライドしながらもM4A1を撃ち尽くす。武装さえあればこんな回りくどい真似しなくてもいいのだけど、ない物は仕方ない。
更にターゲットの足を撃ち抜くと行動不能にさせた。以上をもってこの場は制圧した事になるのだけど、まぁ、わざわざヘリで飛んで来る程なのだから当然まだまだいる訳で。
「ぞろぞろ出て来るわね……!」
「そりゃ根城の一つだからな」
アリサも駆けつけてAR-15で援護射撃をしてくれる。だからそれに乗っかってユウも引き金を引いてやって来る敵を討ち続けた。
せめてゴム弾なら安心して打てるのだけど、状況が状況だからこそ仕方ない。今はリベレーターの態勢を完全に立て直すまで油断は抜けないし諸々理由もあるし。
そうしていると内側からどんどん人が倒されてくのを見て手を止める。
「奥のやった?」
「俺はまだ……」
互いに確認すると第三者がいると分かり更に警戒した。他の組織が殴り込みに来てると言う可能性もあるのだから。……それは不要な心配だったらしい。
何故なら、建物の中から過激派を引きずって出て来るネシアがいたのだから。
「なっ!?」
「えぇ~……」
「あれ?」
しかし当の本人は我が物顔で歩いては驚愕までいかずとも驚いていた。でもこっちとしてはネシアがそこにいるだなんて考える事は出来ず、まさか過激派の一員なのか、なんて事を考えつつも呆然とした。
だからアリサが質問を飛ばす。
「えっと、何であんたがここに?」
「何でって依頼を受けたからだけど……」
「ちなみにそれって誰から?」
「ベルファーク」
「「――――」」
仕組まれた事だったのかと即座に考える。ネシアは既にベルファークからの連絡でリベレーターともコンタクトを取っているはず。傭兵みたいな身であるからして報酬から任務を受けるのは何もおかしな事ではないけど、ここまで来ると流石に少し疑ってしまうと言うか。
ベルファークは常にユウ達では見れない先を見てる。それが出来るからこそ、きっとこんな事が可能に――――。
「過激派が活発化してるからちょっと退治してくれって連絡があってさ。それでここに来たんだけど……二人も同じみたいだね」
「ええ。私達もそんなところよ」
次第と状況が読めていく。これがベルファークの策略なのかは別として、今はもっと別の問題と向き合わなきゃいけない。
先ほども言ったようにここは過激派の根城の一つ。いくら本来の任務が違ったとしてもここまでくればもうやけくそで対処するしかない。それにここで過激派の一角を潰せるのなら一石二鳥という物だろうし。
「――右に飛んで!!」
アリサが鋭くそう言うから全力で体を右に投げ飛ばす。すると今さっきまで立っていた所に銃弾の雨が降り注ぎ、ユウは態勢を立て直しながらも銃弾が放たれた方角を見た。そこには銃を構えた連中がビルの中から覗いていて、一斉に銃口を構える。
確認出来る範囲でも三人がLMGという事はかなりの弾幕を張って来るはず。となれば出来る事は只一つ。
「ッ!!」
三人で一斉に駆け抜けてはネシアが出て来た建物の中に避難する。同時に数多の銃弾が降り注いで間一髪の回避を実現した。
そうしているとアリサは拾ったAK-12をネシアに投げ渡して戦闘準備を整える。だからユウもM4A1を構えて敵影が出るのを待った。
「ヘリでもなけりゃここまで来るのに全力疾走で約十分。それまでに耐えるか倒すのよ!」
「りょーかい!」
既に位置情報をリベレーターへ送ったのだろう。アリサはそう言いながらも引き金を引く。さっきは八分くらいで着いたのだけど、二分も上乗せされてるのは編成をする時間も加算されてるからのはず。敵の数がそこまで多くなければ勝てるのが……過激派自体どういう組織なのかも分からないから勝敗も不明。
まぁ、最低でも耐えきれればこっちの勝ちなのだけど。
これもベルファークの策略なのかと思いつつ突っ込んで来る敵を撃退する。だってネシアをここに突っ込ませてるという事はユウ達がここに来るのも計算済みだったという事だ。元々過激派なんて言う如何にも危なそうな組織に、いくら強いと言っても単独で送り込むなんて無謀にも近い。それこそ増援があると分かっていない限り。
今一度ベルファークへの好感度が下がる中でユウは必死に撃ち続けた。こんな所で負ける訳にはいかないから。




