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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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086  『かも知れない事』

「え、警備?」


「そうです」


 翌日。

 アリサとネシアが合流する場所を決めて色々とプランを考えていたのだけど、早朝からイシェスタにそう言われる。それもアリサとテスも同じ話を聞きながら。

 そうしているとテスが当然の疑問を提示する。


「警備って何の警備だ? ってか、この状況で警備される様な奴が外に出るなって思うんだけど……」


「いえ、偏に警備と言っても人物じゃありません。三人には病院に来る輸送車を守ってもらいたいそうです」


「輸送車?」


 どうしてそんな物が病院に。三人同時に頭の上にはてなを浮かべる。

 重要患者がいるのならいざ知れず既に重傷者は治癒が終わり回復を待つだけだと聞いた。わざわざ輸送車を出さずともいいと思うのだけれど。そんな事を考えているとイシェスタはAR上にウィンドウを表示させて三人に資料を見せた。


「どうやら先の戦闘で隠れていた過激派が重傷を負って、ユウさんのいた病院で治療を受けていたらしいんです。で、せっかくの機会なので掴まえて過激派の情報を吐かせようという魂胆です」


「過激派のリーダー格ねぇ。って事は、襲撃があるかも知れないから警備しろと?」


「そう言う事です」


「こんな状況じゃ襲撃もクソもないと思うんだけどなぁ」


 アリサとテスは素直な感想を並べて過激派の事を話すのだけど、まずこの街に過激派がいるとも知らなかったユウは置いてけぼりにされる。っていうかこういう話を聞く度に思うけど、この街のセキュリティガバガバすぎるのではないか。

 街が半壊した今じゃ仕方ないとは思うけれど。


 しかし気づかぬ内に過激派が入院していただなんて、それ程なまでに患者の治療で忙しかったって事なのだろうか。下手をしたら今まで無防備だったって事になるし、いくら数人の警備兵がいるとは言え奇襲なんかされたら目も当てられない。

 やがてイシェスタは任務の概要を今一度簡潔に伝えた。


「ってな訳で、三人には輸送車の警護をしてもらいます」


「でも何で俺達なんだ? 他にも適任はいっぱいいるだろうに」


「テスさんはよくふざけますし、アリサさんは不器用ですし、ユウさんは抜け出してどっかに行きますし。暇なら警護でもしろってのがベルファークさんの判断です」


「「は~い……」」


 何も言い返せない言葉に小さく返答した。まぁユウの場合はさておき、二人もそんな風になっているとは知らなかった。といってもテスはふざけてそうだしアリサは力仕事は無理そうだし、当然の判断だろうか。

 資料を見た辺り過激派のリーダー格と言ってもそこまで重要人物ではないらしいし、全力で奪いに来るという事もないはずだ。

 そう思っているとアリサはある事に気づいてイシェスタに問いかける。


「あ、そう言えばリコリスはどこにいるの? 今日も朝から姿が見えないけど」


「リコリスさんは「気になる事がある」と言って凄い真剣な表情で例の魔術師が暴れた所へ行きましたよ」


「例の魔術師……。あいつね。それと何か関係あるの?」


「分からないです。ただ、リコリスさんは手掛かりなのは間違いないって言ってました」


「暴れた跡になんの手掛かりがある事やらね」


 言われてみればそうだ。ここ数日リコリスの姿は早朝から見えないし、姿を見たとしても何か慌ただしい感じだった。最初はリストカットの件でこうなってるのかと思ったけどそうれも無いらしい。

 あの魔術師が暴れた跡。そこはただの爆破地点と何ら変わりないはずだ。手掛かりだと言ってもそこで得られるのは魔術師が暴れたという事実だけ。――もし特殊な機械や能力を持っているのなら話は変わって来るが。


 魔術師を見た時のあの違和感。その感覚を今一度思い出して考え始める。あいつには初めて会ったはずだ。それなのにどうして既視感というか、一度会ったような感覚が訪れたのだろう。

 こういうのは過去に一度会ってるとかいうシチュエーションが多いけど、ユウはこの世界に来てから三か月しか会ってないし、それまでの過程に彼女を見た事はない。なら、何であんな感覚を――――。

 そうしているとアリサに背中を叩かれて我に返る。


「ほら、ぼさっとしてないで行くわよ」


「あ、ああ」


 その言葉で気持ちを入れ替えた。いくら奇襲をしにくい状況だと言っても油断は出来ないし、この世界じゃ何が起こっても不思議じゃないんだ。まぁ、ユウは過激派の事をこれっぽっちも知らないからどんな武器を持ってるかも分からないけど。


「しっかし、ベルファークはよく私達を指名したわね。問題児が二人もいるってのに」


「一応指揮官なんだからせめてさんを付けろよ……。それに最近の俺の戦績はそんなに悪くないだろ。ユウは別だけど」


「返す言葉もないのが腹立つ」


 呑気な事を話し合いながらも病院に向かっていく。病院の近くは比較的建物も残っているし、夜間の間に近づかれでもしてたら大変な事になる。それを理解してか、既に何人かの警備兵がボロボロになったビルの中で捜索を始めていた。

 やがて子供達が遊ぶ広場を超えて病院のロビーへ辿り着き、ユウ達はそこで待っていた警備員に声をかける。腕章のロゴが違うと所から見て、どうやら警備兵と警備員じゃ配属先が異なるようだ。


「来たわよ。で、早速だけど何をすればいいの?」


「お疲れさまです。今回は輸送車の警護ですので、周辺に異常がないかを確認していただければと」


「なるほどね。移動中は警備員がいるから大丈夫と」


「そう言う事になります」


 話しを聞いて思うけど、それってユウ達がここに来る意味はあるのだろうか。だって既に周囲は様々な警備兵によって安全確保されているし、もっと言えば更にその前にリベレーター達によって索敵されている。状況から見ても過激派がここへ来れる可能性がないのは確実。

 念には念をって意味なのだろうけど、それなら別の警備員を動員させればいいのに。


「じゃあ俺達がここにいる意味って……」


「もしかしたらがあるかも知れないって事でしょ」


 テスもその疑問を抱いてアリサが颯爽と答える。どうやら警備員の人も不合理的なのは分かっているのか、どうにも納得がいかないような表情をしていた。普通の警備員も納得できないだなんて、どうしてベルファークはこんな事をしたのか。


 もし仮にこの先の未来で奇襲されるのを読めているのなら納得は出来る。その為にベルファークを信頼して警護に徹するだろう。でも今回言い渡されたのは“かも知れない”の話だ。

 あのベルファークがかも知れないの出来事を言うだなんて到底信じられない。


 ――君は何を選ぶ? 君は、何を見据える?


 反射的に先の戦闘で問いかけられた言葉を思い出す。あの時のベルファークには確実に何かが見えていた。何かが見えた上で、ユウにそれが見えているかの質問をしていた。じゃあその何かって言うのはどんな物なのか――――。

 ここ最近、ベルファークへの好感度が下がる一方だ。


 この病院にはベルファークもいるはず。彼に答えを聞くチャンスと言ったら今くらいしかないだろう。と言っても今は任務中なのだから外れる事は出来ないが。

 一体何を狙っているのか。それを悟れなきゃ、ベルファークの思考は読めないだろう。


 そこまで考えた時だ。銃声が鳴り響いたのは。


「銃声!?」


「行くわよ!!」


 同時に警報が鳴り響き、手続きを済ませようとしていた警備員と共に銃声が聞こえたフロアまで走り抜ける。道中で先導していたアリサが曲がり角で左手を振るからユウが分かれ道を曲がり、多少遠回りになるものの包囲しようと二手に分かれる。

 それから看護師などが駆け抜けるユウを見てびっくりするけど、構う余裕なんてないからそのまま銃声がした所まで駆け抜けた。


「そこまで――――うおっ!?」


 しかし角から顔を覗かせた瞬間から銃弾の雨が飛んで来て、咄嗟に隠れる事で一命を取り留めた。T字路で左右から挟み撃ちに出来たのはいいけど、持ってる武器がサブマシンガンじゃ打つ手が限られる。銃声が聞こえた所から他のリベレーターも集まって来るだろうけど、それまで足止めできるかどうか。

 やがて男は咆哮すると発砲しながらも唯一塞いでいなかったルートを進んで行く。


「いいか! テメーらそこから動くんじゃねぇぞ!」


「動くなって言われて動かない警察はいないけどな……!」


 小声でそう言いながらも後を追う。どうやらT字路で挟み撃ちにするのは失敗したらしく、奴らは屋上まで進んで行った。

 しかし屋上に行くのなら逃げ道はない。後は全員で一斉射撃でもすれば倒せるはず。

 アリサも同じ事を思ったのか、通信で似たような事を行った。


『屋上まで追い詰めたら一斉射撃するわよ』


「OK」


 そうして屋上に続く階段の陰に隠れる。交渉出来ればそれでいいのだけど、奴らは過激派組織の救出班のはず。そんな奴らが交渉に応じるとは思えない。

 やがて屋上の扉が開く音が響くと、三人そろってドアへと駆け抜けた。そして顔を覗かせてはそれぞれで銃を構える。逃げ道がないのなら諦める道しかないのは当然の事――――。

 と考えていた。


「ユウ!」


「え? ――ぎぶすっ!」


 咄嗟に襟を掴んで引っ張られる物だから変な事を言いつつも引き込まれる。直後に立っていた所へ銃弾の雨が降り注ぎ、無数の弾丸が途轍もない速度で打ち込まれた。でも奴らの持ってる銃じゃこんな弾幕なんて張れる訳がない。

 いや、違う。これは普通の銃じゃない。発射レートから見てよく輸送機とかについてる重機関銃だ。同時に聞こえて来るプロペラの音でヘリが来てるのだと分かった。


「ヘリ? 何でここまで接近出来てんの!?」


 扉の陰から覗き込みつつもそう叫んだ。でも誰も答えられない。だって周囲の警備は万全なはずだし、怪しいヘリが近づいて来てるのならすかさず兵士が何とかするはず。なのに病院までヘリが来ているという事は、理由はたった一つ。


「恐らく完全武装の輸送ヘリなんだろうさ! 現状でそんな完全武装に襲撃されちゃ誰も手が出せない!」


「過激派なんだよね!? 先の戦闘で損害を負った過激派なんだよね!?」


「ごちゃごちゃ言わないで何とかする!!」


「何とかっつっても……!」


 指一本でも陰から出せば撃たれる状況で飛び出せる訳なんて無く、ユウ達はただずっと顔が出せない状態でヘリが去るのを待つだけだった。

 やがてテスがある事を思いつくのだけど、残念ながらその作戦は出来なくて。


「そうだ! ユウ、お前武装は!?」


「えっと、その、武装はまだ完成してなくてですね……」


「はぁ!?」


 するとアリサから遠慮なしの声が届いて心に刺さる。次にテスが落胆して二人は即座に作戦を変えた。アリサはユウを連れて地上へを駆け出し、テスは屋上に残ってその場で通信を開く。


「しゃーない。追いかけるわよ」


「えっ、何で?」


「車で」


「……え!?」


 ある意味での地獄が始まるのは、ここからであった。

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