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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter3 遥かなる予兆
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078  『迷いと葛藤と謎の事情』

 翌日。

 ユウは誰も居ない病室で目覚めてそこそこ見慣れた天井を見た。それから即座に昨日あった事を思い出す。作戦が終わった事や、手紙を貰った事、そしてリコリスにリストカットの跡を見られた事を。

 反射的に腕を抱いて体を震わせながらも呟いた。


「……行かなきゃ」


 仲間でいる事は許されない。そう思ったけど、やっぱり希望は捨てたくなかった。……自分から切り離したとしても、もう独りになるのは嫌だったから。

 きっとリコリスはみんなにあの事を話しているだろう。ならみんなの対応が変わるはず。それを見てからでも答えを決めるのは十分に間に合う。だからユウは病室を出るとみんなが集まっているであろう即席キャンプへと足を運んだ。もちろんリストバンドもしながら。


 でも、過去の記憶を思い出して咄嗟に足を止める。いや、記憶を思い出さなくったって結末は理解出来てる。こんなのもう何回繰り返したかも分からないから。

 自殺願望を持った人が仲間だなんて言われたらみんな拒絶するに決まってる。気味悪いって、もう近寄るなって、突き放されるのがオチだ。ならいっその事逃げてしまった方が得なのではないか。


 ふとリストバンドに手を触れさせる。その裏側に隠されたリストカットの跡にも。

 果たしてこのままみんなと会ってもいいのだろうか。拒絶される結果が分かっていながらも希望に縋るのは、それこそ――――。

 そう思っているとアリサが問いかける。


「あら、ユウ」


「っ!?」


 すると武装して歩いていたアリサと会い、直後に体を硬直させた。でも彼女はその反応に首をかしげては何も知らないような仕草をする。


「こんなところでボケーッと突っ立って何してんの?」


「あいや、その、ちょっと考え事を……」


「ふ~ん。まぁいいわ。暇ならちょっと面貸しなさい」


「えっ、えっ?」


 そう言うとユウの手首を握って病院の中を進んで行く。

 リストカットの事について何も聞かないから困惑して思うがまま連れて行かれるのだけど、その道中でユウは恐る恐る問いかけた。


「あの、アリサ。その……何も聞いてないのか?」


「聞いてないって、何が?」


「――――」


 まさか言ってないのか。脳裏で即座にそう呟く。

 だって仲間内に自殺願望者がいるのだ。そんなの気味悪くて黙ってはいられないはず。なのに何でみんなには黙っているのか……。

 取り合えず怪しまれない様に受け流す。いやまぁ、今ので十分怪しまれるだろうけど。


「ごめん、なんでもない」


「あっそ」


 するとアリサは特に気にする様子もなく歩き始めた。ユウも渋々その跡を追って歩きながらも考える。

 果たして彼女がわざと知らないフリをしているのか、本当に知らないのか。それにリコリスがみんなにリストカットの事を話さなかったのに凄く驚愕する。

 まさか本当に話さないなんて。


 ――何で……?


 今まで会った全ての人はたった一人を除いてユウの事を気味悪がって遠ざかって行った。どんな人も「気持ち悪い」と、「近寄るな」と、そう言ってユウを突き放していた。でも、それは当たり前の反応に過ぎない。自殺したい人と一緒にいるなんて誰も彼もがお断りのはずだから。

 だからこそ必死に隠して来た。騙している事を知って、自殺願望がある事を知って、それなのに何で。


 そんな言葉を脳裏で駆け巡らせていると、アリサはある病室まで辿り着いて扉を叩いた。中から声が聞こえるとアリサは病室の中へ入り、いつの間にか入院していたベルファークにお辞儀をする。だから彼がいる事に驚愕しながらユウも咄嗟にお辞儀をする。


「何の御用でしょうか、指揮官」


「そんなにかしこまらなくてもいいさ。特別な席と言う訳でもないし。……彼は?」


「暇そうにしてたので意味もなく連れて来ました」


「君は相変わらず人を巻き込むのが得意だな……」


 彼もアリサの性格は十分に理解しているのだろう。その言葉に呆れたような表情を浮かべつつもそう言った。ベルファークすらもスルーする様な性格とは思わなかった。

 そしてベルファークは咳き込んで間を開けと用件を話し出す。


「君を呼んだのには少し頼みたい事があってね。……君の戦友にコンタクトを取ってもらいたい」


「っ――――」


 するとアリサの体が一瞬だけ震えた。その意味は分からない。

 ベルファークはその反応を見ると少しだけ目を閉じ、考え事をすると付添人らしき二人の秘書――――あの時にもベルファークと一緒にいた二人に指示を出す。


 片方が亜麻色の長い髪に清楚なイメージを醸し出す女性で、もう片方は短い赤髪で活発なイメージを醸し出す女性。髪型と色は違うけれど、それ以外の体型や身長を見れば同じ人なんじゃないかってくらい酷似している。

 その二人は指示を出されると素直に頷いた。


「必要な物があるなら二人に頼むと良い。一応、住居まで案内してあげてくれ」


「「かしこまりました」」


「――質問が、一つだけあります」


 けれどアリサは会話を遮ってそう言う。普通なら指揮官の会話を遮るだなんてあってはならない事なのだけど、アリサは眼の色を変えて問いかけた。だからその戦友って言うのが只者じゃないのを理解する。

 やがて彼女は本質的な事を問う。


「何をする気なんですか」


「備えあれば憂いなし、ってやつさ。また、今回の様な戦いが起きるかも知れない。そうなったら部外の人に頼るしかないんだ」


「……分かり、ました」


 呑み込めない事だってあったのだろう。それでもアリサはベルファークの言葉に頷いてみせた。だからそれを横から見ていたユウは顔をしかめる。どうしてそんな顔をするのかって気になったから。

 双子の秘書はベルファークの指示通りにユウとアリアを案内し始めるとお辞儀だけして病室から出て行った。ユウとアリアもそれに習って病室から出ていくけど、最後にベルファークの目線が気になって咄嗟に振り向いた。だって、彼はユウ達ではなく外を見つめていたのだから。

 まるでそこに何かがあるかの様に。



 ―――――――――



「この先が目的地でございます」


「ありがとう、ニアルさん。メアルさん」


 移動中、双子の秘書……ニアルとメアルからある程度の話を聞いていた。ベルファークがどんな人なのか。何を望んでいるのか。どれだけ優しい人なのかを。

 そして、二人が正真正銘本物のアンドロイドだという事も。そう聞いた時は本当に心から驚愕した物だ。

 ちなみに亜麻色髪の方がニアルで、赤髪の方がメアルである。口調も少し差があり、ニアルは丁寧で、メアルは少しだけ距離感が近い。


 元々二人はリベレーターが遠征した先で倒れていたらしく、ベルファークが拾ってくれたから彼に尽くすと決めたらしい。と言っても発見されたのが正規軍の基地だったのもあってかなり警戒されていたものの、記憶容量を調べて貰った末に敵意がないと判断され秘書になったそうだ。

 暗殺されるかも知れないのに秘書にする度胸は凄い。逆に言えば馬鹿みたいに優しい、ともいえるのだけど。


「にしても、そうしてるとアンドロイドには見えませんね」


「それは私達が意識を持っているからです。己はニアル=メアルであると認識してますから」


「え、ニアル=メアル? ニアルとメアルじゃなくて?」


「私達は同じ型番で名前だけが違うの。だからニアル=メアル。そう言われてるんだ」


「へ、へぇ~……」


 やっぱりアンドロイドにも型番とかそう言うのはあるんだ、と再認識する。見た目が全く同じの双子であるのもその影響なのだろう。

 しかし当たり前の様に意識を持ってると言うけど、普通なら十分あり得ない事なのではないか。だってプレミアと同じなら理解出来るけど、彼女達は機械生命体という訳ではない。いやまぁ種類としては同じものとなるのだけど。


 しばらくするとアリサはある物に気づいて足を止め、案内はもう大丈夫だと伝えた。その直後から軽快な足取りである建物まで向かっていく。


「ありがとう。ここまで来ればもう大丈夫よ」


「え? でも……」


「いいからいいから。ここまでありがとね!」


 そうしてアリサはケーキ屋さんまで突っ走って行くと颯爽と中に入っては色々と物色を始める。お土産……って事なのだろうか。となるとアリサの戦友は甘党なんだ。

 そしていきなりそう言われた二人は困惑したようで、選択を求める為にユウへと視線を向けた。だから少し考えてから帰る様に言う。


「えっと……もう大丈夫だと思います。目的地も部屋の番号も分かってるし、送ってくれてありがとうございました」


「ああ、えと、分かった」


「かなりフリーダムな人なんですね……」


 二人もその自由奔走な姿に驚いているみたいだった。まぁそれがアリサの性格って言うか性みたいなものだし、仕方ない。

 やがて二人は状況を呑み込んで帰って行き、それと入れ替わる様にケーキを片手にスキップしながらアリサが近づいて来る。


「二人は帰ったみたいね。じゃ、行くわよ」


「えちょっ」


 するとまた手を引っ張られて無理やり連れて行かれる。何と言うか、今に限ってアリサが強引になって来てるような……。そう感じながらも目的地のマンションを見付けた。アリサの戦友と言うからにはかなりロックな所に住んでると思ったのだけど、どうやら住んでいるのは普通のマンションらしい。

 そう言うのも相まって彼女に問いかける。


「なぁ、アリサ。戦友ってどんな人なんだ?」


「簡単に言うと元レジスタンスね。といっても実力はリベレーターの隊長級だけど。当時は数々の逸話を残した有名人なのよ」


「え? じゃあどうしてマンションなんかに?」


「引退したのよ。過去に大怪我を食らってね」


 その言葉で思い出す。確か大怪我とか後遺症でリベレーターとかレジスタンスを引退した人って、ある程度は金を貰って平和に過ごしてるんだっけ。となるとやっぱり今から会うのは凄い人なのだろう。アリサがそんな人と知り合いなのも凄いけど。

 続けてユウは呟いた。


「そんな凄い人が大怪我で引退するなんて……。それにアリサが知り合いってびっくりする」


「でしょうね。私だってアイツが有名人なのを今でも信じられないもん。――有名人にさえならなければ、引退なんてしなかったのに」


「――――」


 何か重い理由でもあるのだろう。だからあまり踏み込まないまま、ユウはその言葉の深さに黙り込んだ。きっとこればっかりは仕方のない事だから。

 やがてマンションに入ってから目的の部屋に向かうとアリサから忠告される。


「五百五号室……ここね。一応言うけど、かなり活発なヤツだからユウは苦手かも知れないわ」


「え、そうなの?」


「主に私の前じゃね。まぁ、そこら辺は見れば分かるわよ」


 そう言いながらもインターホンを押した。すると部屋の中から女性の声が聞こえ、歩いて来る音も聞こえる。だから女だったのかと驚愕した。……のだけど、アリサはユウに耳打ちすると嘘を付くようにと指示を出して。


「ユウ。応答があったら宅配便ですっていいなさい」


「え? でも……」


「いいから」


 どうして戦友なのに嘘を付く必要があるのだろう。そう思いながらもアリサの指示通りに「宅配便でーす」と言ってその人を誘導する。一体これに何の意味があると言うのか。

 次にアリサはケーキの箱を開けると何かの準備を整え、走る音が聞こえると右手に持って左手を前に翳した。その綺麗な投球フォームから嫌な予感を感じ取る。


「あの、アリサ?」


「静かに」


 あ、コレ駄目なやつだ。

 そう確信して彼女の後ろへと移動する。だって何か言われたらそれはそれでやだし。

 やがて扉が開いて女性の顔が飛び出すとアリサは全速力でケーキを投球し、その人の顔面に向けて思いっきりスパーキングをかました。


「お届け物でぇぇぇぇぇすッ!!」


「ええええぇぇぇぇぇぇ!?」

今回から第三章の前半がスタートしますよー! 前半ではここを書いてる今現在で作中一番の希望を持てる内容になっておりますので、ぜひご期待して輝く希望をお見送りください! といってもそこが描かれるのはまだまだ先の話ですけど。


まぁ、希望の中にも微かな絶望は描かれますがね!

またまたやらせていただきましたァん!

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