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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter2 始まりの刻限
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075  『かも知れないの話』

 まず目覚めてから一番最初に見知らぬ天井が映る。とにかく真っ暗な世界じゃなくて安心するけど、それでも今だ警戒心は抜けきっていなかった。

 今さっきまで話していたカミサマの事を思い出す。あいつは感情が理解出来ないからこそこの先の運命をダイスの出目で決めるだろう。となればきっといつか全滅する様な運命が訪れる。それまでの間にどうにかして対策を整えないと。


 と、そこまで考えるのだけど、次に今がどうなっているのかが気になって起き上がった。確か気絶する前は超大型が討伐された直後だったと思うけど……。

 しかし自分の両腕を見てから理解した。


「終わった、でいいのかな……」


 両腕にこれでもかってくらいに巻かれた包帯。手首から先は巻かれていない所を見るに、包帯が巻かれているのは氷で剥がれた皮膚の所だけの様子。その他に頭にも包帯が巻かれているし、胴体には湿布っぽいのが張られている。しかし点滴を打ってないという事は峠を越えた、という意味なのだろう。

 そしてユウは次に左下へ視線を動かした。前と同じように、ベッドに突っ伏して寝るリコリスに。


「あの時と一緒だな」


 そう呟きながらもそっと頭を撫でる。あれからどれだけの時が経ったかなんて分からないけど、きっと辛い事や苦しい事が沢山あったはずだ。それなのにここにいるだなんて、一体どれだけ心配すれば気が済むんだって話だ。

 馬鹿みたいに優しい人なのは変わらないって事だろう。

 やがてリコリスはゆっくり目を覚ますとユウを見た。


「ユウ……?」


「おはよ」


 何か、大きな戦闘がある度にこうしてリコリスに会ってる気がする。それ程暴れてるって事なのか、それ程エンカウントする敵が強いって事なのか。

 するとリコリスは目をパッと開けると咄嗟に飛びついた。


「ユウ! よかった、起きたんだね!」


「うん。でもちょっと苦しいかな」


「ああ、ごめん」


 そう言ってリコリスは少しだけ距離を開けた。今みたいな反応になるって事は、きっと気絶してる間に結構な時間が経っていたのだろう。それを知る為にもユウは落ち着いてリコリスへ質問した。


「……それで、あれからどうなったか聞いていいか?」


「うん。大丈夫だよ。今は防衛作戦から三日が経ってる。被害は後々言うとして、かなり危険な事になってる。ちなみに機械生命体の軍団だけど、ユウが気絶してる間に全て爆発とかミサイルとかで片付けたよ」


「そっか。で、その、リコリスは大丈夫だったのか?」


「始末書で済んだ。それだけが唯一の救いかな」


 するとリコリスはそう言って苦笑いを浮かべた。やっぱり犠牲や作戦を実行した責任があっても、その大半が超大型の討伐で相殺されたのだろう。本来なら褒め称えられるべき事だけど、今回ばかりは仕方ない。

 というか、ここまで来ると既視感が沸いて来る。


 ふと病室から外を見つめた。前までは綺麗な街並みだったのに、今は戦後かと言う様な光景になっていた。残っている建物以外は全て瓦礫で埋まり、リベレーター達が銃を持ちながらも捜査活動を行っている。

 それを見て今度はまた別の質問を飛ばす。


「みんなは?」


「アリサとイシェスタは兵士の治療に行ってる。ガリラッタは偵察に行って、テスはそこら辺をうろうろしてるはずだよ」


「テスだけ何もしてないのな……」


 ある意味では自由奔走な彼らしいといえば彼らしい。イシェスタはともかくアリサが治療を行っているのは意外だし、ガリラッタが偵察に行ってるのも意外だ。彼はてっきり壊れた機械を直すのに没頭している物だと思っていたから。

 やがてリコリスは立って手を差し伸べるとユウをベッドから降ろそうとした。


「さ、ユウ」


「俺動いても大丈夫なのか?」


「血が足りないだけで動くには問題ないって」


「それだけでも大問題だと思うんですが……」


 そう言いながらも手を取ってベッドから降りた。溜りに溜まっていた疲労は気絶している間に消えたらしく、体は結構軽く動いてくれた。だからその軽さにびっくりしながらも立ち上がる。

 するとリコリスは背中を叩いて言った。


「さ、みんなに顔見せて来な」


「いいの?」


「みんなも心配してたからね。きっと安心すると思うよ」


「……分かった」


 きっとまだまだ言いたい事は多かったはずだ。それなのにユウの背中を押してはみんなと会うのを優先してくれる。だからユウはそれに応えて頷いた。

 確かに三日も起きないのならみんな心配するだろうし、一回くらいは顔を合わせないと安心しないだろう。多分ユウが同じ立場だったら絶対に心配するだろうし。


 リコリスに押されるまま病院の出入り口まで歩くと彼女は手を離し、笑顔でユウを見送っては中に戻って行く。まだ何かやらなきゃいけない事でもあるのだろうか。

 取り合えずユウはキャンプへ行こうとするのだけど、外の階段にテスがいるのを見付けて声をかける。すると彼は凄い喜んでくれて。


「テス、おはよう」


「ん? おお、ユウ! よかった起きたんだな! 三日も起きないから心配したんだぞ!!」


「話しはあらかたリコリスから聞いた。心配かけて、ごめんな」


 彼はユウの手を取ると激しく上下に振った。それ程なまでに心配してくれていたのだろう。少しの間だけ上下に振った後、テスは不安そうな表情に変わると問いかける。それも腕や足をチェックしながら。


「そう言えば傷は大丈夫なのか!? えっとアレ、ああいう……えっと、アレ何だけ、アレだよアレアレじゃねぇか?」


「アレのゲシュタルト崩壊起きるからやめんしゃい!」


 テスの肩をガシッと掴んで制止させる。とりあえずこれでゲシュタルト崩壊を防ぎ、一安心した所で街を見つめた。

 ……明るい会話に似合わない荒れ果てた光景。それはどれだけ激しい戦いがあったのかを教えてくれる。きれによって家を失った人が多くなり、難民的な扱いになる人が増えるだろう。その事についてテスもコメントを残す。


「どうしてこんな、とか思ってるだろ」


「そりゃ……。仕方のない事だってのは分かってる。でもどうしてもそれを許容出来なくてさ……」


「許容出来なくて当然の事だ。俺だってそう思ってるんだから」


 ふと前の広場で遊ぶ親子を見た。いや、見た目的には義母って感じだろうか。小さな男の子と戯れる女性は確かに楽しそうだったけど、背景のせいでより一層悲壮感が漂って行く。


「悲しいな」


「ああ。せめてもっと小さければいいんだが」


「……?」


 言葉の一旦に何か食い違いが発生してる気がして顔をしかめる。意味としては噛み合っているのだけど、本質的な何かが食い違っている気がした。

 けれど特に気にせず続けて呟いた。


「俺達がもっと頑張ってれば、こんな事には……」


「こればっかりは仕方ないんだ。どれだけ頑張ったって小さくはならない」


「……?」


 あれ、やっぱり何か食い違ってる? 次第とそんな確信を得て行った。何だか最近テスのキャラが当初とはブレて来ている気がするし、もしかしてこれが彼の本性という事なのだろうか。

 そんなはずはないと思うけど、何気なく今までの言動で確信を得る。

 だから話題を逸らすとテスは答えた。


「アリサ達はどうだ?」


「いやぁ~、あれはどっちかと言うと小さすぎてむしろまな板っていうがッ――――」


「あぁ、やっぱり」


 今になって胸の話をしていた事に気づく。どうせ子供と遊んでる女性の胸が大きくてそっちに吸い寄せられたのだろう。ここまでおバカキャラだったっけこの人……。

 そう思っているとゴム弾を発射したアリサが近づいて来る。


「こんな所にいたのね。元気?」


「ああ。片方は元気だったけど今死んだトコだ」


 何でゴム弾なんか持ってるんだよってツッコミをしたくなるけど、アリサに対してのツッコミは色々と怖いからそのまま受け流す。だから別の言葉に形を変えて質問した。すると彼女は素直に答えてくれて。


「即席キャンプで医療してたんじゃ?」


「布とか包帯が足りなく取りに来たって訳。丁度いいから暇なら手伝って」


「わかった」


 そう言って病院の中へ戻っては医療品を持ち、せっせと即席キャンプへと向かう。その道中でテスには見向きもしないって事はどうせすぐに復活するという事なのだろう。

 壊滅状態の街中を歩く最中、ユウは周囲を見つめながらもアリサの後を追った。これが全て一瞬にして起ったような物なのだから、本当に驚愕する。

 すると即席のキャンプへ辿り着いてはその光景に軽く驚いた。


 だって、誰も暗い表情をしていないのだから。みんなレジスタンスや一般人が進んで作った料理を楽しそうに食べ合っていて、三日前に戦争状態にあっただなんて到底思えない光景をしていた。

 けれどアリサが向かった先ではこれまた物凄い光景が繰り広げられていて。


「……この人達は? なんか骨でも折られた様な顔してるけど」


「ああ、これはみんな元から――――」


「アリサさんがやったんですよ!」


 すると彼女の言葉を遮りながらもイシェスタが走って来る。どうやらそこそこ焦っているみたいで、ユウの持ってる医療品を半分くらい肩代わりすると概要を話しながら案内してくれる。まぁ、それは想像通りだったのだけど。


「手伝ってくれる所までは良かったんですけど、手当する度に全員の怪我を悪化させて……」


「間違えちゃった。まぁ、治るからいいわよね」


「とか笑顔で言って次々と失敗を繰り返してこうなったんです」


「それなんて新手の拷問?」


「医療品を頼んだのもガーゼとか包帯が足りなくなったからなんですよ」


 イシェスタの言葉を彼女自身が埋めながらも説明してくれる。その容赦のなさと無慈悲さに全力で引く中、自業自得としか言いようがない状況に呆れた表情を浮かべた。

 しかし当の本人はそれをなんとも思わない様子で歩き続ける。そこはもう慣れなのか。慣れるしか選択肢はないのか。


「っていうかそれなら最初の数回でやめればいいのに」


「止めたら手数が減っちゃうでしょ」


「アリサがやった方が手数が増えるっつってんの! 大体不器用な上に馬鹿力なんだから瓦礫をどかして救助活動とかした方が――――」


「骨にするわよ」


「洒落になんないから止めてね!?」


 そうな風にツッコんでは芸人の様なやり取りを繰り広げる。その声は周囲の人達にも届き、イシェスタを筆頭に周囲から笑い声が上がった。絶望なんて一つもない、代わりに希望もない訳だけど、それでも退屈の無い楽しそうな笑い声が。 

 だからソレに包まれてユウとアリサも微笑んだ。


 ……でも、そうなるからこそ心にズキンとした痛みが訪れる。もっともっと頑張っていれば、生きていた人がいたんじゃないかって。街がこうなったのは爆殺女を止められなかったユウの責任でもある。だからきっと――――。

 そう考えているとアリサが問いかけた。


「……今、もっと頑張ってたら救えてたかもとか考えてたでしょ」


「ああ、まぁ」


 そりゃ限界すらも超えてれば爆発は引き起こされなかったかもしれないし、あと一秒でも早く引き金を引けていればこんな状況にはならなかったかもしれない。だからユウはその問いかけに黙り込んだ。

 するとアリサは軽くチョップをかまして。


「あんたがそう言う事を気にするにはまだ早い!」


「あだっ」


「そう言うのはもっと経験を積んで、そこで初めて気づけばいい。一々そんなのに突っ掛ってちゃいつまで経っても成長出来ないわよ」


 叩かれた所を押さえているとそう言われる。確かに新米が心配するにはまだ少し早いだろうけど、気にしてしまうのは仕方ないじゃないか。だってユウはまだこの世界の絶望に順応出来てなんていない。だからこそ気にかけてしまうだけ。

 しかし、叱るだけだと思っていたけど、そうでもないらしくて。


「……それに、救えなかったって思ってるんなら大間違いよ」


「え?」


「あなたの行動で救われた人もいる。それをちゃんと噛みしめなさい、問題児」


 そうしてアリサは一枚の手紙を渡した。

 手紙にしてはやや薄汚れてしまった手紙を。

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