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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter2 始まりの刻限
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074  『カミサマのお告げ』

 何も感じない。風も、空気も、匂いも。理解出来るのは自分と言う存在が何もない空間に存在しているという事だけだった。真っ暗で何もない、虚無を体現したかのような空間。

 ……知っている。この感覚を。

 忘れられるはずがない。だってユウがこの空間を知っているのは、例の忌まわしき存在に導かれた空のはずだ。だからこそユウは眼を開けて目の前にいる彼女を睨んだ。


「ようやく会えたな」


「ええ。ざっと三か月ぶり」


 すると目の前にいたのは真っ白な髪と肌をした絶世の美女――――そう、例のカミサマだ。今まで途轍もなく恨んだ相手が目の前にいるのだ。だからこそユウは彼女の喉元に狙いを定めて牙を剥く。

 彼女だけは何が何だろうと絶対に許せない。どんな償いをしたって、これからどれだけ人類に貢献しようと、ユウは絶対許す事はない。


 前と同じようにチェック柄の床に座っている所を見るに同じやり方でやっているのだろうか。前回は魂を転移がなんとかかんとかって言っていたけど。

 何はともあれユウは立ち上がると彼女を見据える。


「お前に会ったら聞きたいと思ってた事がある」


「あら。私はてっきり、私に会った瞬間から激怒する人だと思っていたのだけど」


「何が言いたいんだクソ野郎」


 彼女の言葉に拳を強く握りつつもそう言う。「クソ野郎」だなんて言葉、初めて使った気がする。それもカミサマに使うのだから本来は天罰物だろう。でも、それでも「クソ野郎」という言葉は彼女に言うにはまだ優しすぎる言葉だ。

 聞きたい事があったけど、まず最初に宣言する。


「俺は……。俺だけは何が何でも絶対にお前を許さねぇぞ」


「許さねぇぞ、か。それがあなたの本性って訳ね」


 全てを分かり切っているかのような眼。それを向けられてユウは感情を逆なでされた。話せば話す度許せなくなる。

 彼女の態度が。瞳が。声が。言葉が。存在が。


「その眼をやめろ。何もかもを分かり切ってるような、その眼を――――」


「だって全て分かり切っているもの」


「……は?」


「あなたの感情も。この世界の運命も。全て私は理解している。人知を超えた存在だからね」


 そう言われて黙り込む。カミサマなのだからそれくらいは出来て当然だろう。だって運命すらも操ったっておかしくはないのだから。

 だからこそ怒りが湧き上がった。これまでにないくらいの殺意が。

 あの世界を分かっていて、どんな感情かを知っていて、それでも尚彼女があの世界を許容する。だから奥歯を噛みしめた。

 すると彼女は話し始める。


「あなたが聞きたいのは私がこの世界を許容する理由。そうでしょ?」


「お前は……。何でお前は、そこまで平気でいられるんだ!! あの世界じゃ何人もが死んで、辛い思いをして、悲しんで、苦しんで、尚も今を生きようと必死で抗ってる!! なのに何でお前は!!!」


「へぇ、自分の事でもないのにそこまで怒れるのね」


「――――」


 その一言で分かった。こいつは根元から何もかもが破たんしているんだって。感情も何も持っていない、最低最悪のクソ野郎だ。こんなの、まだアメコミで大暴れしてる悪の親玉の方が好感を持てる。

 ユウが驚愕や葛藤と殺意で悶えている中、彼女は隙を見ると素直に話してくれた。まぁ、それは到底ユウに理解出来る物ではなかったが。


「いいわ。全て教えてあげる。私がどうしてあの世界を許容するのか。あんな世界へと仕立て上げたのか。――単に興味があるからよ。あの世界は殺伐としていて、全てが絶望に覆い尽くされ、救いなんてどこにもない。私はその世界を望んでいた。だからあんな世界に仕立て上げた。運命を操作した。それによって引き起こされる血みどろの戦いは興味深かったわ。正義と正義が捻れ歪み絡み合い、互いに虚無感を覚えつつも正義と生存本能に身を任せて生き続ける。生きる事は辛く死ぬ事は怖い。その中で人はどうやって生きていくかを知りたかったの。人だけじゃない。あの世界に住む全ての存在がどうなるのかを知りたい。何をして、何を変えて、何を殺して、何を犠牲にして、何を得て、何を失って、何を選び、何がどうなるのか。その最果てに存在する私でも憶測が出来ないモノ。それを観測してみたいの。その為には剣と魔法の世界なんてくだらない世界を消し去らなきゃいけない。だから軽く運命をいじるだけでああなったのよ。私が予測し私が望む結末なんていらない。だからこのダイスを転がして運命を決めていた。出目の確率が多い程私でも予測しえない結末に辿り着くかも知れないからね。それを繰り返して繰り返して繰り返し続けて、それで辿り着いたのがあの世界。良い事も悪い事も含めて全てダイスの出目で決めていたの。まぁ、人類が分裂して正規軍とやらが出て来たのは意外だったけどね。それでも中々興味深い記録を得れたわ。でもあんな世界になってからずっと運命は進展しないの。どれだけダイスを振っても停滞したまま。だから私はその世界に飽き飽きしてて、それで思いついたの。外の世界から外部の人間を引っ張って来れば面白い事になるんじゃないかって。どうせ向こうの世界の人間なんて一人くらいいなくなったって平気だろうし、心が荒んで自殺を図ってる人を送ればきっと面白くなると踏んだわ。だからあなたを選んだって訳。そして言い包めてあの世界へと送った。それもこれも全てあの世界の結末を見たかあったから。どうせ死のうと思ってたんだから向こうの世界に送ったって同じと思ってたしね。丁度良かったの。だから期待してるのよ? あなたが向こうの世界でどんな変化をもたらし、何を変えてどういった結果へと導くのが。私はそれを知りたい。全てを知りたい。何千年も剣と魔法の世界を見て来たからこそ刺激がほしいの。だからお願い。私を楽しませて? ……っていうのがあなたの知りたいあの世界と私の全て。さぁ、それを聞いた貴方はこれからどうするつもりなのかしら?」


 ようやく話し終わった長い言葉。それを聞いてユウは黙り込んでいた。一度に大量の情報が送られたからというのもあるけど、何よりも彼女の事を理解したくなかったから。

 やがてユウは口を開くと静かに言った。


「……お前は神なんかじゃない。ただの怪物だ。今の台詞で、それを知ったよ」


 退屈していた。だから残酷な世界にして、その最果てにある結末を見たかった。要約するとこういう事だろう。彼女が退屈だからという理由だけで運命を操作してあんな世界へと変化させた。それだけで彼女がどんな奴なのかを理解する。

 人を人として見ていないんだ。その過程で何人死のうと、何人絶望しようと、全て興味がない。彼女が知りたいのはこの世界の最果てだから。


 今ので知りたい事は全て知れた。もう、十分だ。

 驚きも義憤もある。けれど何よりも彼女に対する殺意がユウの体を駆け巡っていた。ここまで殺意に燃えた事は一度だってない程に。

 ユウは彼女の事は決して理解出来ないだろう。いや、理解したくもない。


「一応聞くけど、俺が止めろって言ってもやめる気はあるか?」


「ない。あの世界に住む住人なんて、どうでもいいからね」


「お前……ッ!!」


 命を軽はずみにする発言にユウはついに動き出す。今までは我慢してやってたけど、今ばっかりはもう限界だ。拳をキツク握っては頬を殴ってやろうと全力で振りかざした。カミサマだろうと何だろうと関係ない。今は彼女を殺したくて仕方なかった。

 でも背後から伸びて来た真っ白な鎖に縛られて身動きが出来なくなる。


「無駄よ。あなた程度の力じゃ私には届かない」


「お前だけは! お前だけは絶対にぶっ殺す!!」


「ふ~む……。どうしてそこまで怒れるのか、私には理解出来ないわね。だってあなたは誰の命もどうでもいいんでしょ? それなのに何で関係ない人達の命でそこまで怒れるの?」


「みんなは俺にとっての仲間だからだ! その人もそれ以外の他人も、全部俺の守りたい人達なんだよ!! それをどうでもいいだの死んだっていいとか言ったお前だけは絶対に許さない!! 何が何でも必ず俺の手で殺してやる!!!」


「殺してやるねぇ」


 すると彼女は歩み寄っては右手を伸ばし、襟首を掴むとぐいっと引き寄せて顔を近づけた。だからユウの瞳は彼女の瞳を捉える。――深淵の様に何もない、虚無の瞳を。

 真っ暗だ。そこに光は一つもなく、微かな星すらも存在しない。まさに無限に暗闇が続いている様な、宇宙を模したかのような蒼い瞳をしていた。

 やがてそんな瞳を見せながらも言う。


「――あなた如きに出来ると思ってる? 本当の生死も見えてない、人として……生命として存在が破綻してるあなた如きに」


「っ……!」


 彼女の言う事は正しい。だって今のユウは何か理由がなきゃ生きていけないのだから。きっと何もかもを失くした時、きっと飄々と自害するだろう。

 でも、失わせたくない物がある。だからこそユウは彼女を睨んだ。

 しかし彼女はある物を閃くと意味不明な事を言って。


「そうだ。じゃあ私と組まない? あなたが私を許容してくれるのなら、みんなは運命の輪から外してあげる。それならあなたは仲間を守れて私は好きな結果へと行ける。Win-Winってやつじゃない? 使い方あってる?」


「――――」


 何を言ってるんだろうか。彼女は。今まで散々極悪非道な事を言っておきつつ、今更協力しようだなんて、狂ってる。

 もしユウに感情がなかったら手を取っていただろう。そんな憶測が出来るからこそ彼女の事をまた一つ理解してしまった。


「……お前には感情がないんだ。だから俺の感情を、みんなの感情を汲み取る事が出来ない。だからこそ、お前の手は取れない」


 恐らく彼女は感情がないからこそ自分の追い求める物にしか興味を持てない。誰もが苦しんでも、悲しんでも、どうでもいいんだ。そうなれば必然的に世界の住人を無視して最果てを見届ける事にしか興味を向けなくなる。そうして出来たのがあの世界だ。

 ユウは鎖で繋がれる中、限界まで体を伸ばして牙を剥くと言った。


「……待ってろ」


「ん?」


「絶対に、お前の喉元を噛み千切ってやる」


 殺す。ただそれだけしか頭になかった。

 あの世界を許容する彼女が。あの世界に生きる人々をどうでもいいと言った事が。彼ら・彼女らはあいつの作った世界で精一杯生きているんだ。どれだけ絶望的であろうと、救いがなくたって、全力で抗い生きてる。ユウはその人達と肌で触れ関わり合った。

 怒る理由なんてそれ十分すぎる程だ。


 食らってやる。ユウの手が彼女に届いた時、どれだけ死ぬのを嫌がったって喉元を噛み千切って殺す。血の色は知らないけど、その真っ白な髪と肌が鮮血に染めるくらいまで食い殺してやる。そんな覚悟を決めた。

 ……でも、彼女は優しい微笑みを浮かべると言って。


「いいわ。待ってる」


「は?」



「――必ず、私を殺しに来てね」


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