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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter2 始まりの刻限
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073  『犠牲』

 巨大な火災旋風が消えた後、全員は灰色の空を見つめていた。灰色の空に大量の火の粉が舞い散る光景と言うのは十分に綺麗な光景だったから。

 でも、空に残っていた超大型のパーツが放射線状に落下してくるのを見て状況は一変する。


「あれ、これって……」


 大小様々なパーツが雨の様に降り注ぐ。それを見てようやく現実を見初めた人が増え始め、少しずつ移動しては建物の陰に隠れてパーツの隕石から逃れようとした。

 ユウもとにかく移動しなきゃと思い至るのだけどどこに隠れていいのかなんて分からずにその場で立ち尽くした。だからこそイシェスタが雷で作った砂鉄の鞭で回収してくれる。


「こっちです!」


「え、うおぉっ!?」


 鞭に引っ張られて空へ体を投げ飛ばされると不格好な姿勢で落下し、リコリスが連携を取って空中でキャッチしてくれた。それもお姫様抱っこで。

 だから魔術師の彼女がどうなったのかと視線を向けるけど、どうやら一斉射撃を食らってある程度は負傷した様だった。その隙に投げ飛ばされたユウを回収したという事なのだろう。


「ユウ、大丈夫?」


「何とか……。そっちも大丈夫そうでよかった」


 そんな会話をしつつも倒れた超大型の陰まで滑り込む。その直後からパーツの隕石が地表へと落下し、激しい轟音を立てながらも周囲に落下を続けた。大半の人は避難出来た訳だけど、避難し遅れた人や正規軍は降って来るパーツに潰されてペシャンコになってしまう。

 その内の一人が走って来ている最中に潰され、やがてユウの目の前に腕が飛んで来た。直後にイシェスタは胃から逆流して来た胃酸を吐いて苦しそうに息をする。


 今さっきまで響いていた歓喜の声が嘘の様に絶叫へと書き換えられていた。超大型を討伐して大団円で終わるはずなのに、直後に降り注ぐパーツの隕石に何人もが落ち潰される。だから周囲には人の四肢やパーツの下から沸き出る血で染まった。


「――――」


 その光景に言葉を失った。今まででもこの世界で残酷な光景は見て来たはずだけど、こればっかりは段違いだった。確かに機械生命体に食い荒らされる光景もかなりのトラウマ級だ。でも人が脳天からペシャンコにされる光景と言うのは、それ並か以上にグロテスクな光景であった。

 中には割れた頭蓋から脳みそがはみ出る人がいたり、半分だけが潰されても尚生きて苦しんだり、顔が離れても体が痙攣したりしている。


 更に恐怖と死の絶叫が重なって逃げ惑う誰もかれもが意味のある言葉を発してはいなかった。だからこそ響く轟音で絶叫が掻き消されるのは精神を追い詰めていく。

 反射的に耳を塞ぐも轟音は未だ響き続ける。イシェスタも同じ様に耳を塞いでいて、ケモ耳の方を押さえていた。でもリコリスだけは耳も塞がず目も逸らさずじっとその光景を見つめる。……それだけでも彼女がどれだけ死線を潜り抜けて来たのかが悟れる。


 やがてリコリスは肩を叩くと悲劇が終わったのだと報告してくれる。だから目を開けて前を見るのだけど、その光景は今さっきとは全然違っていて。

 言葉を失いつつもリコリスが飛び出て安全確認するのを見つめていた。


「……大丈夫。出て来ていいよ」


 その他にも複数の人が飛び出していて、全員がそう言うのを合図に隠れていたリベレーターは陰から出て来た。ユウも出ようとする訳だけど、その時にイシェスタが袖を掴むから立ち止まった。


「イシェスタ……?」


「――――」


 恐らくイシェスタには生理的耐久がないのだろう。精神的にも追い詰められているのは見ただけで分かる。だからユウは彼女の手を取ると優しく言った。


「行こう」


「……うん」


 するとイシェスタはうろたえながらもユウの手を取って立ち上がった。そして一緒に歩いてリコリスの元へと歩いて行った。直後に安全確認を済ませたアリサやテスも集合し、最後にガリラッタが武装の戦車から飛び出して来た。

 やがて全員は周囲を見て奥歯を噛みしめた。


「これは……中々ね……」


「まさかここまで残酷な結果になるとはな」


 テスもこの光景には流石に動揺を隠しきれない様だった。その証として目を皿にして驚愕している。もちろん今この場にいる全員もそうだ。イシェスタに至っては眼を開かないようにユウに縋る様に背後へ隠れた。

 パーツに潰された人々。そして飛び散る四肢、内臓、脳みそ。


 超大型を倒せたのは間違いない。でもここまでの犠牲が出るだなんて誰が予想できただろうか。こんな何人もの犠牲が重なり、死に行くだなんて。

 リコリスはこの作戦の立案者として緑の信号弾を空に放つと、作戦が成功したことをベルファークに伝えた。通信でも可能だったのにわざわざ信号弾を選んだのはきっとこの現状を喋りたくなかったからだろう。言動では隠せても表情では一切隠せていなかった。


「……これにて、超大型機械生命体討伐作戦は終了。各自、警備に移って」


 生気の無い声でそう言う。これでベルファークの編成した部隊が駆けつけて助けに来てくれるはずだ。そして超大型を倒した今、リベレーターの全勢力が正規軍や機械生命体の残党に牙を剥く。機械生命体は攻撃的だとしても正規軍は撤退するはず。

 その証拠として既に魔術師の彼女も姿を消していた。


 誰も喋ろうとはしなかった。ただ静かに救援部隊が来るまでの間、周囲の警戒を続けるだけだった。そりゃ、リコリスの立ち場も考えれば当たり前の気もするけど。

 火災旋風での討伐は誰もが思いついた事だ。でもそれを実行しようとする人なんていなかった。それは立案者が、指揮者が責任を負う事になってしまうから。つまりリコリスには何十人も犠牲にした責任が伸し掛かっている。その重さはとてつもない物だろう。


 命の代償は重い。仮に超大型の戦績で責任を少しでも免除する事が出来ても、きっとリコリスの心にだけはその重さが刻まれ続けるだろう。

 ユウもこの戦いで何人を殺しただろうか。全て死にそうだったからとは言え、奪った命は全て奪っていいはずのない正義を持った命だ。リコリス程ではないとはいえ人を殺した重みはしかと乗りかかる。

 ――命を奪った重さではなく、“同胞”を殺した重さ、ではあるが。


「イシェスタ、大丈夫?」


「ちょっと、今は……」


「そりゃそうよね。あんたはこういう光景、初めてだっけ」


 イシェスタの様子にアリサはそうコメントを残す。確かイシェスタは訓練兵から駆け上がって十七小隊に入ったんだっけ。それでまだ大きな戦いに赴いていないのなら、この光景は彼女にとって大きな変化をもたらすはずだ。

 ユウは推薦試験で十分思い知らされたからある程度の耐久はあるが、ユウでも辛いこの光景はイシェスタからしてみれば地獄以上の物のはず。


「ユウ。お前は平気なのか?」


「平気……って言ったら嘘になるけど、まだ正気は保ててる。ありがとな、テス」


 どんな嘘もリコリスの前じゃ筒抜けだからこそ正直に答える。

 とはいっても精神的にはかなり堪えている様だ。その様子が自分自身でも分かる。だから遠回しに狂いそうと答えた事にテスは不安そうな視線を向けた。

 でも、本当に心配になるのはここからで。


「あれ……」


 突如大きな目眩が訪れてフラついた。目眩だけじゃない、平衡感覚も、五感も、全てが失われていく。まさか体を酷使し過ぎた代償なのか、なんて考えていると体は次第といれる力を失って行き、前へと倒れ込んだ。

 だからテスが支えてくれるのだけど、その声はほとんど聞こえなくて。


「ユウ? おい、どう――――んだ。――ウ、おい、――――! み―――――」


 ――お疲れさま。ゆっくり、休んでね。


 意識が切れる直前、誰かの声が脳裏に響いた。優しくて、透き通っていて、暖かくて、声を聞いただけでも涙が出そうなくらい慈悲深い声が。

 この声は、一体誰の声なんだろう。



 ――――――――――



 結局、侵略防衛作戦と銘打っておきながら、街の六割を損失した。主な原因は爆弾の超大規模一斉起爆。それによりいたる所のガス管が破裂し、二次災害として更に被害を加速させた。

 それだけじゃない。ガス爆発による炎は様々な建物を燃やし尽くし、大火災までをも引き起こして三次災害までに進展する事となる。


 これまでに類を見ない損失。その修復は一年で終わるかどうかの境目まで大きな物だったという。一年で済むのならかなり凄い方なのだけど、それでも苦しい状況というのだから、今一度この世界の技術が恐ろしい。


 研究所等の重大基地は守りを厳重にしてあり警備アンドロイドもいたから損害はないらしいが、三次災害にまで進展した物の余波は確実に受けていた。そのせいで実験途中のレポートとかが消失して大問題になったとかなっていないとか。

 こればっかりは紙ではなくデジタルに頼っていた業と言えるだろう。


 更に発電所にもダメージは行き届き、ソーラー発電とかがない施設では重大な電力不足となった。医療施設や本部では超大型大容量サブ電源があったから無事だったらしいが、その他の施設は電力が行き届かない中運営しなきゃいけないと言う苦難を強いられた。


 何よりも重大なのは死傷者の数だ。

 リベレーターは二千三百人の負傷者。五百人前後の重傷者。そして千二百四十六人の死者が出た。それも訓練兵は含めないでの数で。

 レジスタンスは千五百人の負傷者。二百三十人の重傷者。千七百二人の死者が出た。

 一般人は二百十人の負傷者。二十人の重傷者。五十人の死者が出た。

 ちなみに、行方不明者は三百五人だそう。


 つまりこの作戦で二千九百八十八人が犠牲となったという事だ。約三千人の犠牲。その損害は重く生存者の肩にのしかかる。

 ……上記の犠牲を以って、『ナタシア市侵略防衛作戦』は幕を閉じた。


 この虚しい戦いがこの先にも続くんだって考えると気が狂いそうになる。人を殺す事には慣れているはずなのに、まさかここまでの虚無感や罪悪感が積もるだなんて。

 人を殺した数だけ心が荒んで行く気がする。これがこの世界の戦いなら――――。


 きっと、カミサマだけは絶対に許さないだろう。

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