071 『一縷の希望』
「次第と集まって来たな……。大丈夫か?」
「まだまだ、全然平気です……!」
「キツそうか」
周囲を見てみると既に複数個の火災旋風が移動を開始していて、それぞれで広場に集おうとしていた。だからユウはみんなからの連絡を貰いながらもイシェスタの様子を確かめる。
いくら魔法を使えると言っても約千度以上もの火力を操るのは容易ではないらしい。その証としてイシェスタの表情は歪み苦しそうな物へと変貌していた。
広場へはまだまだ距離がある。このペースじゃ途中で力尽きて火災旋風が暴走すると言うオチだろうか。いくらビル風があって安定してるとはいえ、この先へ行けば瓦礫のみの実に風通しのいい空間が存在する。そこで力尽きたら火災旋風がどこへ行くかなんてわからない。
そうなればどれだけの被害が生まれるだろうか。
「イシェスタ、頑張れ! ゴールはもう見えてるぞ!」
「まぁ、そこまで行っても完全なゴールじゃないんですけどねッ!」
「軽口を叩ける余裕はあるのな……」
まだ精神的には余裕とでも言いたいのだろう。彼女は軽口を叩きながらも誘導し続けた。……しかし、そう簡単に事が運ぶわけがない。
だからこそ建物の陰から四人の正規軍が現れて銃口を向けた。
「……イシェスタはそっちに集中しててくれ。こっちは俺に任せろ」
「お願いします!」
ここで失敗すれば全て奴らの思い通りになる。それだけは何としてでも避けなきゃいけない。故にM4A1を握ると同じくして銃口を奴らに向けた。その間にイシェスタは火災旋風と共に移動していく。
こうして現れてる以上他のとこにも出現しているはずだ。必ず一人は護衛を付けるというイシェスタの予想は正しかった訳だ。
ゆっくりと息を吸って肺いっぱいに空気を送り込む。そして満タンまで吸い込んだ途端に呼吸を止め、その瞬間に引き金を引きつつも走り出す。同時に放たれた銃弾が脚を掠めるけど、滑り込みながらも胴体に銃弾を撃ち込み、隙さえ生まれれば脳天に拳銃を撃って即死させる。
それで一人を殺し、まだ無傷の一人に向かって突っ込み怯んでいる隙に銃口で喉元を突き、最後に引き金を引いて死なせた。
残った二人は飛び上がって片方の背中をへし折り、咄嗟に起き上がらせて盾にしては拳銃の方で残りの一人の脳天に弾丸を撃ちこむ。そんな風にして僅かな負傷で四人を制圧した。
だからイシェスタのもとへ向かうのだけど、困難は次々と現れて。
「今度は小型のか……!」
彼女の背後に現れた複数の機械生命体。それを対処すべくユウは腰から剣を引き抜くと雷を発生させて前方へと撃ち出した。最初は狙いも疎かだったけど、今となればもう慣れたものだ。
故に即座に対処すると彼女の背中を守る為に背後へを回った。
「イシェスタ、大丈夫か?」
「少しキツイです……!」
そりゃ、他の人達は十分に休憩した後にこの作戦をやっているのに対し、イシェスタは超大型の相手から離れてすぐにこの作戦をやっているのだ。こうなって当然の結果である。
気が付けばみんなも既に広場へと集まりそうになっていて、残るはイシェスタのみとなっていた。
――だからこそ彼女は奥の手を使う。
「仕方ない。アレを使いますか」
「あれ? もしかして秘密兵器的な?」
「まぁ、似たような物です!」
すると懐から二つの球体が出現し、それはイシェスタの肩ら辺で停止して結界の様な物を張り出した。最初はドーム状のバリアだったものの、次第と形を変えていき小さく収束していき、やがて五角形バリアを生成するとイシェスタの前へと移動させた。
直後に火災旋風の様子が一変してより細く高くなって行く。
「えっと、これって……?」
「これが私の武装、【浮遊式魔術促進ユニット:ロード・グリモワール】です」
「あれ。でも武装は大きな鎌があったはずじゃ?」
「あの鎌は近接武器です。私の本命武装はこっちですから」
「おぉう……」
その用意周到さに驚く。魔術師は接近されたら不利だからこそ近接武器も用意し、離れて疲れた時には魔術促進の武装を使用するとは……。
おそらくバリアを通すと威力が増すと言う様な仕組みのはずだ。と言っても今回は火災旋風に干渉しているのだからユウの思っている原理とは違うだろうけど。
特殊武装の支援もあってかイシェスタは余裕を取り戻したようで、移動する速度を上げては火災旋風も動かす。そして既に集っていた広場へ持っていき、通信を開くと合図と共に広場の中心へと投げつける。
「みなさん、今です!!」
すると計六個の火災旋風が重なってもみくちゃにされていく。直後に物凄い轟音と暴風が全員を襲い、互いに反発し合ってははじき出されそうになっていた。
だからこそイシェスタは無理やり周囲の火災旋風に自分のを捻じ込んで肥大化させる。そうしていると他のも融合して大きくなり、やがて六個の火災旋風は一つに重なった。
直後、巨大な火災旋風は周囲の地面や木々を根こそぎ持っていきながらも天高くまで上昇していく。故にユウは通信で付近にいる全リベレーターに問いかける。
「全員、準備はいいか!」
『オーケー』
『いつでも行けるぜ』
「おし。じゃあ……ゴー!!」
瞬間、超大型の体の側面が大爆発を起こして大きく傾いた。上手く行くか不安だったけど、全員で協力させてありったけの爆弾を側面に仕掛けておいてよかった。やがて爆破の衝撃に耐えきれず体が大きく斜めって言った。
次第と火災旋風に近づいてはその炎の中心へと投げ込まれ――――なかった。
全員が困惑する。だって超大型は直立したまま微動だにしないし、後もう少しと言うところで炎に触れると言うのに、ギリギリまで近づいては必死に堪えていた。
だからそんな事になるだなんて思わず全員が困惑した。
「え――――」
『倒れ、ない……?』
この瞬間を待ちわびていた全員が硬直する。イシェスタ達も倒れて来ない超大型に困惑を隠しきれない様で、一瞬だけでも火災旋風が起きく揺らいだ。
すると通信の奥で誰かが鋭く叫んだ。
『――原因をさぐれ!』
その言葉で全員が動き始める。側面側にいたリベレーターは超大型の足元を調べ始め、ユウはパイプを伝って地面に降りては横へとまわり込んだ。それで何かが見つかると思ったから。
結果的にはその何かってのを見付けた訳だけど、それは予想よりも遥か斜め上の事態を行く事になって。
本来の作戦は超大型の側面を爆破させ、その爆風で火災旋風に突っ込ませると言う作戦だった。だけど“こうなって”いるのなら、まぁ、当然の結果だ。
側面から回り込んだ人達も何が起こっているのかを理解したようで、ユウから見える人達も足元を覗いては驚愕していた。だからこそ通信で何が起こっているのかを伝えた。
『何、どうなってるの!?』
「……こいつは膝がないんだ」
『は?』
「だから膝が……足の関節がないんだ。だから火災旋風に倒れる事は決してない。今まですっぽりはまってたから見えなかったけど、コイツは棒が穴に刺さった様に突っ掛ってるんだ」
『はぁ!?』
するとアリサ達が驚愕した。それだけじゃない。その他にも通信を静かに聞いていたラナやその他の人達もあまりの驚きの声を上げる。
地中から現れたんだから立ち上がる動作で体を出したんだと思い込んでいた。でも実際には違うんだ。こいつは元々地中に存在していたんじゃない。この形状から見るに、確実に元から存在していた訳じゃない。こいつはきっといきなり出現して――――。
「っ!?」
そんな思考を遮るかのように背後の建物が爆発した。でもそっちに爆弾は設置されていないはず。となると必然的に誰が爆破させたかは明らかになる訳で、ユウは即座に後ろへ向くとその張本人を視界の中に捉えた。
こっちにむかって手を翳すあの魔術師を。
「お前……」
「見つけたぞ、同胞」
ユウの事を同胞と呼びながらも殺す気で手を翳す。せめて同胞と呼ばれるのなら殺さないで欲しい所だけど、ここまで来るともう呼び名なんて関係ないのだろう。彼女の瞳からそう言った事が伝わって来る。
こんなところで邪魔される訳にはいかない。だからこそユウは銃口を構えるのだけど、当然そんな程度の脅しじゃ止まらない訳で。
「ここで終わりにしてやる」
「それはちょっといただけないな。これが俺達にとって唯一の生命線なんだ」
彼女は複数の部下を引き連れてこの場へと現れた。そしてこっち側の目的を理解しているからこそやるべきことはたった一つ。火災旋風を操作している魔術師の排除だ。
その為に走り出した部下に向かって発砲するのだけど、突如薄い氷に肩までを覆われて身動きでき失くされてしまう。
「させな――――ってうおっ、冷たっ!?」
「流石姐さんだぜ! おい、押しきれ!!」
正規軍の一人がそう言うと周囲のが魔術師に向かって突撃し始めた。当然させたくはないのだけど、腹まで凍らされているから動く事なんてできなくて、せめて銃で抵抗しようとしても石が途轍もない速度で飛んでくるからM4A1が粉々に撃ち抜かれる。
やがて近づいて来た彼女が話しかけた。
「お前達はここで終わる」
「どう、して……!」
「お前達が敵だからだ。――安心しろ。痛みはない」
そうして彼女は氷の剣を作りユウの心臓へと突き立てた。確かに心臓を一突きなら痛みはないと思うけど、今だけは死ねない理由が明確の存在する。だからユウは精一杯抵抗する為に氷を砕いて腕を動かそうとした。その度に凍り付いた皮膚が剥されて血すらも凍って行く。
もうじき正規軍の部下達がイシェスタ達へ到着する。みんなは全員そろって全力で干渉しないといけないのだから、当然手が離せるわけじゃない。故に突き立てられた剣に誰も抵抗できず殺されそうになった。
駄目だ。させない。そうは思っても激痛と冷たさがユウに枷をかけて動かしてくれない。早くしないとみんなが殺されてしまうと言うのに。痛みなんて感じなければ。
――頼む。誰か……!
歯を食いしばりながらも必死に抵抗する。でも到底届く様な距離じゃない。アリサ達は側面方向にいるし、仮に銃弾が届いたとしても正規軍が止まらなきゃ元も子もない。だからこそここは一番近くにいるユウが何とかしなければいけないのだけど。
やがて氷の剣はユウの心臓目掛けて振り下ろされて――――。
その時だった。
「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」
「っ!」
張り裂けそうなくらいに響くリコリスの声。それに全員が反応しては微かにでも立ち止まり、どこから来るのかと偵察を始めた。
けれどリコリスは地上なんかにはいない。だって彼女は全隊長の中でもなかなかの機動力を持つ隊長なのだ。だからこそ、リコリスは上空から全速力で降下しながらも現れる。それも右足を突き出して蹴りを入れる態勢で。
直後、リコリスと魔術師が正面衝突を果たして途轍もない衝撃波が周囲を駆け抜けた。




