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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter2 始まりの刻限
66/445

065  『最後の一手』

 数分前――――。


「結構応急措置するの得意なんだな」


「前にネットで見ましたから」


 エトリアに応急措置をされる中、ユウはソナーを起動させながらもみんなと連絡を取れるか試していた。みんなの信号を検知出来てるって事はその逆も然り。動かなくても時期に救援が来るだろう。まぁ、それよりも早く機械生命体が探し当てるのが早いだろうけど。

 テスは未だ機械生命体から逃走中の様で、瓦礫の上を移動して難を逃れているみたいだ。


 彼女にとってこの傷はかなりグロテスクな物のはず。肉が抉られているし、神経らしき物も見えている訳なのだから。それなのにエトリアは吐きそうになるのを我慢しながらも治療をしてくれていた。

 大きな傷の所には包帯を巻き、小さな傷の所には自分のやユウの服を切って出来た布を巻いてくれる。だからそんな彼女の頭を撫でながらも安心させた。


「ありがとうな。ほんっとうに助かる」


「いえ。こんなの全然……。逆に言えば私のせいでこうなったと言っても過言じゃないんです。こんな程度じゃ足りません」


 そう言いながらも止血剤や様々なツールを駆使して素早く治療してくれる。まだ応急措置の知識が“布を強く巻き付ける”程度のユウにとってはかなりありがたい事だ。今思えばよくそんなんで筆記課題をクリアできたなって思う。

 やがて大きな傷はあらかた塞ぐとユウは手を掴んで制止させた。


「ここまででいい」


「え? でも……」


「続きをやるにしても移動してから。そろそろ潮時だ」


 すると立ち上がっては建物の陰に隠れて道路を見た。正規軍は歩きにくい瓦礫を歩かないはず。つまり道路にさえ誰も居なければここから逃げる事が可能――――。と思っていたのだけど、そう上手くは行かないらしい。


「運が悪いこって……」


 舌打ちしながらもそう言う。だって正規軍が道路の真ん中を歩いているだけじゃ飽き足らず、如何にも強いですよと言う様なオーラを放ちつつもこっちに歩いて来るのだ。それを見て全身を凍らせる。

 ……違う。強そうなオーラじゃない。もっと別の次元にある物だ。だからそれを受けて体を硬直させた。


「ッ――――」


 何て言えばいいだろう。“自然体の殺意”とでもいうべきだろうか。普通に歩いているだけでも殺意を周囲にまき散らし、近づくもの全てを硬直させていく。ユウももちろん同じ様に硬直した。

 今まで死ぬのが怖くないとは思ってたけど、今だけはその言葉が通じる状況じゃない。本能が警告してるんだ。彼女とだけは絶対に戦うなって。今までにない以上の何かがユウの体を食らい尽くす。それも一歩たりとも動けなくなるほど。


 ――なんだあいつ。今まで会った誰より違うオーラを放ってる。……動け。動けよ。


 何度そう念じても体が動く事はない。ずっと震えたままその場に立ち尽くすだけだ。だからエトリアが後ろから問いかけて来るのだけど、それでも答えられる事が出来なくて。

 やがて歩いて来る人の容姿を見て違和感を抱いた。


 長い白銀の髪に同色の狐耳。真紅の瞳に長い耳と鋭い牙。そして凛とした容姿。真っ白なコートに身を包んでいた。見た目だけならリベレーターとも思えるのだけど、右腕に付けている腕章のマークが違う事で正規軍と見抜いた。

 でも、何よりも驚いたものがあって。


 ――どこかで……?


 彼女と会ったのは初めてなはずだ。それなのになぜかその姿に既視感を覚える。一体どこで見ただろうか。そう思ってこの世界にはいってからの記憶を探す。

 ……でもそんな事を考えてる場合じゃない。リコリスならこの状況をどう打破するか。それを考えてから体が動くようになり、ユウはエトリアの体を抱きしめると排水管の陰に隠れた。


「ユウさ――――」


「しっ」


 この距離じゃもう逃げられない。だから隠れてやり過ごそうと判断して息を殺した。微かな呼吸すらも効かせないように極限まで呼吸を抑え、少し苦しいだろうけど、彼女の口元に手を当てて音を漏らさないようにした。

 するとエトリアも殺意を感じ取ったのか、ピクリと体を震わせては硬直する。


 やがて彼女はユウ達の背後を通り過ぎそうになっていた。それだけでも死神が背筋をなぞる感覚をひしひしと感じとり、生命の危機を肌で感じる。今までにない以上の危険を。

 彼女の死角に入るまで後五秒、四秒、三秒、二秒、一秒――――。

 その時に真紅の瞳と目線が会う。


「ッ!?」


 瞬間、手を翳されては掌が真っ赤に染まり、それは炎を出しながらも超高火力まで上がって行った。だから即座に離れては武装を盾にしてダメージを減らそうとする。

 しかしその威力は絶大で、アルテよりも数十倍の威力を持ってして大爆発を引き起こし、それに当てられた二人はかなりの速度で大通りまで吹っ飛ばされた。だからユウが下になると何度も跳ねて壁に激突する。


「がッ……! エトリア、大丈夫か!?」


「なん、と、か……」


 普通の人間が食らっていい威力ではない。ユウはある程度の耐性があったから大丈夫だったけど、ユウがクッションになってもエトリアにとっては激痛が流れる程の威力だったのには変わりない。だから表情を歪めながらも苦しんでいた。

 魔術師相手じゃ分が悪すぎる。ここはもうエトリアだけでも逃がすしか……。そう考えている瞬間にも彼女は攻撃の手を緩めず再び掌から大爆発を起こす。


 だから左に大きく飛ぶことで回避するのだけど、それだけでもビルを一つ破壊する程の威力を持っていた。あまりにも桁違いな強さに動揺しながらも立ち上がるとエトリアを抱えて走り始める。

 今回ばかりは敵う相手ではない。戦えば数秒としない内に灰となるだろう。

 でも、彼女はそれすらも許してくれなくて。


「逃がさない」


 今度は一歩だけ踏み出すと大量の氷を生み出し、武装に乗ろうとしていたユウを拘束しようと氷漬けにしようとする。だからそれをさせない為にも手摺を掴んで大きく上昇するも、今度は火と風を使った技術で見えない弾丸を撃ち出して腕を撃ち抜こうとする。


 ――複数の属性を使えるのか!?


 今まであった魔術師と言えばアルテだけだった。彼が魔術師なのに炎しか使わなかったのは適正があるからだと思っていたのだけど、この世界の魔法は適正うんぬんではないのだろうか。まぁ、仮にそうだとしても単に彼女が全ての属性に適性があるって理由もあるのだけど。

 何はともあれ絶え間なく迫りくる様々な攻撃を避けつつもユウは本部の方へと急ごうとした。


 でも急に武装のエンジンが弱くなってしまいゆっくりと落下し始める。まさかさっきの一撃で壊れたのかと思って振り返るが、単にエンジン部分に氷が生成されているだけで、そのせいで出力が落ちているみたいだった。

 だからもう一つの武装に乗り換えるも結果は同じ。さっき以上の氷を生成されてユウは為す術もなく地上へと撃ち落とされた。


 何とかエトリアだけは無傷でやり過ごすものの、ユウは不格好な姿勢で着地したせいで足首に異常を来す。

 そして彼女の方を見ると今にももう一度攻撃を仕掛けそうになっていて。


 ――避けられない……!


「安心しろ。せめて苦しまぬよう、一撃で葬ってやる。――絶望から救済しよう」


 それが彼女自身の慈悲なのかは分からない。ただ一つだけ言える事は、彼女も何かしらの方法で誰かを救いたいと願ってるという事だけだった。

 確かにこの世界じゃ死も救済の一つに入るのかもしれない。絶望しかない訳だし、諦める以上の道はどこにもない上に、生きている限りその絶望や苦しみは絶え間なく蝕み続ける。ならいっその事死んでしまった方がいいのかもしれない。

 といっても、ユウはそんなの願い下げだが。


「だが断る!」


 せめて一秒でも時間を稼ぐためにグレネードを投げつける。すると彼女は爆破した瞬間に大きく体を逸らし、微かな隙が生まれた。これまでにないくらいの絶好のチャンス。それを逃さない為にもユウはどこかしらの裏路地に入り込んだ。

 真っ直ぐ逃げちゃダメだ。爆発でも氷でも風でも、複雑なルートでは追って来れないはず。となれば裏路地を上手くつたって本部を目指すしかない。


「あの、ユウさん……」


「悪いけど今だけは後にしてくれ!」


 エトリアの言葉を遮りつつも本部の方へ走った。あの強さじゃ飛ぶ事さえも許されない。つまり走っていくしか彼女の魔の手から逃れる方法はない――――。

 まぁ、それすらも破綻する訳だけど。


「――言ったはずだ。逃さないと」


「っ!?」


 大通りを抜けてまた次の裏路地へ入ろうとした時、瞬間移動でも使ったのか、先回りしていた彼女に攻撃される。わざと足を滑らせる事で直撃は避けるけど、余波だけでもかなりの距離を吹き飛ばされて転がった。

 やがて彼女は悠然とした歩みで近寄ると真紅の瞳で真っ直ぐに捉える。


 ――駄目だ。エトリアだけは絶対に守らないと……!


 体力も弾丸も気力も残り少ない状態でどうやって。そんな疑問が生まれる。身体だってボロボロだし、もう走れそうにない。そんな中でどうすればエトリアを守る事が――――。

 瞬間、見覚えのある景色で周囲を見渡した。


「ユウ、さん……?」


 そう問いかけられるも答えない。

 ここ、確か第三小隊の管轄区域だったっけ。いつのまにそこまで迷い込んだのかは定かではないけど、ついこの間も来たばかりだから一つの考えが浮かぶ。この状況でエトリアだけを生かせるかも知れない方法が。

 これ自身もかなりの賭けになってしまうけど、もうこれしかない。

 だからユウはエトリアの瞳を見ると指示を出した。


「エトリア。これを使ってくれ」


「これって……?」


「これを使えば俺の武装が一時的に使える様になる。初めてだから不安かもしれないけど、武装に乗ってこの道を一直線に駆け抜けるんだ。すると森が見えてくるから、そこを突っ切れ」


 彼女には一度でもユウの武装に乗った経験がある。それだけでも扱い方は変わるはずだ。

 その先の言葉がいいずらかったけど、ユウは迫って来る彼女が攻撃する前にと何が待ち受けているのかを言った。


「――その先には機械生命体がいる」


「っ!?」


「でも聞いてくれ。そいつらは決して俺達には敵対しない。だからそこへ辿り着いたらこういうんだ。「ユウの指示でにげて来た」って。そうすれば、奴らは必ずエトリアを匿ってくれる。……俺の言う事、信じられるか?」


 予備の《A.F.F》を渡しつつもそう問いかけた。

 普通なら信じられなくて当然の事だ。だってエトリアにとっては今さっきも殺されそうになったばかりで、本来敵である奴らに助けて貰えって言われてるのだから。拒絶したって仕方ない。

 それなのに頷いてくれた。普通なら信じられないユウの言葉を。

 だから頭を撫でるとエトリアの覚悟を肯定した。


「よし、良い子だ強い子だ! 信じてくれてありがとう」


「……話し合いは終わったか?」


「ああ。ちょうどな」


 問いかけて来た彼女にそう返す。エトリアをプレミアの所まで送るには最低でも彼女の全注意をひきつけなきゃいけない。言うだけは簡単でもやるのは途轍もなく難しい事だ。

 でもそれをやらなきゃ二人ともここで死ぬ。だから、ユウも覚悟を決めると火傷した腕で剣を引き抜いた。

 やがて、あの時の様にバッテリーの全てを使い果たして雷の剣を作る。


「――行け!!」


 そう言って雷の剣を振り下ろすとエトリアは武装を全速力で起動させた。同時に彼女はユウの攻撃を軽く受け止める。

 でも、その時には既にエトリアは森の方角へ飛んで行って――――。

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