063 『散り行く希望』
「あ、ユウさん!」
「おお。意外な再会」
四人がトラックの上に乗って周囲を警戒し、ユウが中に入って警戒するというスタンスを取ったのだけど、中に入った途端に黒髪の少女とバーのマスターに出会って少しだけびっくりする。
子供は先に運ばれる物だとばかり思っていたけどそうでもないらしい。
やがて彼女は人の間を縫って近づくと不安そうな表情で問いかける。
「大丈夫なんですか? みんな疲れてるみたいですけど……」
「平気平気。全然大丈夫だよ」
だから頭を撫でながらもそう答えた。一応、先の戦いで出来た傷は上着で隠しながら。傷だらけの状態でそう言われても説得力なんてないだろうし、不安にさせるのなら避けた方が良い。
すると彼女は微笑んでユウの言葉を信じてくれた。
そうしているとトラックは本部へ向けて発進し、微かな振動と共に景色が動いて行った。だからいつ奇襲されても言い様にと銃口を常に外へ向けたまま通信を聞く。
仮に上からの奇襲があったとしても四人が対応してくれるはずだし、後ろから接近しようものならM4A1の5.56x45mm NATO弾が奴らの脳天を撃ち抜くだけ。
「まだ問題はないよな」
『ああ。今の所は、な』
奇襲の可能性を考慮しているからこそルートは毎回別の道を通っていくそうだ。遠回りになったとしても近道を使い過ぎて奇襲されても面倒くさいし。
ユウの武装で飛ばして数分の道だからトラックの全速力で四分か五分といった所だろうか。そこらへんで到着すればいい方だ。
――既に数十台のトラックが通ってる。となればある程度の予測はできるはず。つまり、敵が来るとするなら、やっぱり上……!
空中からヘリで索敵してくれているのならわざわざ警戒するリスクもない。でも今は超大型機械生命体がいるから空へ飛べない状況らしく、下手をすると地上の機械生命体に撃ち落とされる可能性もあるらしい。
とてもじゃないけどそんな状況でヘリが飛ばせるとは思えない。
テス達も無言になって索敵に集中し、ソナー以外にも敵がどこから現れるのかと全神経を研ぎ澄ましていた。だからユウも後方で少しでも動く影があれば撃つ気で引き金に手を掛ける。
でもその瞬間、警報音とソナーが反応する事で全員が更に警戒体制へと入った。
ユウもいつでも抜剣出来る様に構える。
「ユウさん? どうし―――――」
「しっ」
問いかけて来る彼女の口元へ人差し指を突き出しつつも黙らせる。機械生命体が来るとするのなら上だ。そして仮にトラックが通過したとしても後を追いかけてくるはず。そこを狙い撃てばいい。
と、そう思っていた。激しい地鳴りがするまでは。
「うわっ!?」
突如ユウ達を襲った地震。それによって車はある程度のバランスを崩して左右に大きく振られ、屋根にいたテス達は振り落とされない為に必死にしがみついた。
でもそれ以上の出来事が直後に現れて。
「――――ッ!?」
トラック全体が持ち上がる。いや、押し上げられているのか。地面が大きく盛り上がってはトラックが全体的に持ち上げられ、宙に投げ捨てられる。
このままじゃマズイ。そう思ってもユウにはどうする事も出来なくて、何人もが外に投げ出されながらもトラックは逆さまになって停止した。もちろんユウも外に投げ出されて全身を地面に強打させらる。
その衝撃で肺の空気が全て吐き出され、何度も転がりながらようやく停止する。
痛いどころの話じゃない。全身が焼ける様だ。灼熱の炎に全身をあぶられている感覚になりながらものた打ち回り、顔面が硬い地面と衝突する事でようやく自分がうつ伏せになっているのだと理解する。
やがて起き上がると同じ様に外へ投げ出された人が横たわっていて、中には酷い出血をしている人もいた。だからユウは額から血を流しつつもその人のそばに駆け寄る。
「なっ、大丈夫か!?」
「いてぇ……。いてぇよ……!」
額からかなりの出血。腕は折れ他にも何本かの骨が折れているみたいだった。周囲の人達も同様に横たわっては難を逃れたリベレーターに応急措置を施される。
けれどテスはトラックに駆け寄りながらもユウに叫び、いち早くこの場を脱出する為の手段を伝えた。
「ユウ! 武装でトラック起こせるか!」
「やってみる!」
すると武装を起動させて無理やり反転したトラックを起こそうとする。運転席に乗っていた警備兵も必死になって起こそうとし、そこへ武装が割り込む事で徐々に持ち上がって行った。
直後に他の隊員は負傷した人達を抱えてトラックへ近づき、起き上がったトラックの中へ怪我人を運び込んだ。これで後はエンジンが付けば何とかなるけど……そこは問題ないみたいだった。ただ問題なのは既に周囲を覆い尽くした機械生命体の数で。
「――――」
さっき以上の絶望に包まれる。
まだ怪我人も運べてなというのに、たった五人しかいないと言うのに、囲んだ機械生命体の数は軽く五十を超えていた。だから今どれだけの絶望に覆われているのかを察する。
その他にも数々の機械生命体が未だ燃え続ける炎の中から登場する。全ての個体が眼を赤く光らせて牙を剥きながらも。
やがて前かがみになると全ての個体が一斉に駆け出してはユウ達目掛けて突進してくる。その瞬間から戦える全員で武装を展開し、ここを切り抜ける為に攻撃し始めた。
ユウも武装を手当たり次第に飛ばして攻撃し、腕が焼ける程の雷を放っては建物ごと断ち切る。そうして大量の個体を一気に片付ける。
でも、運命は希望を許してはくれない。
攻撃の隙間を掻い潜って走り込んだ機械生命体は倒れた住人に牙を立て、肉を抉って骨を噛み砕いた。だからいち早く助けようとするのだけど、そうすると自分の防御が薄くなって脇腹を噛み千切られる。襲い来る大量の機械生命体はユウに他者を守る事を許さず、自分しか守れない様に仕向けて来る。
背後から聞こえる大量の悲鳴と絶叫。そして肉を食らう鈍い音。
テスが本気を出したって対処できる数じゃない。だからこそ五人の攻撃を掻い潜る機械生命体は倒れている人を食らい、トラックの中にまで接近しそうになっていた。
故にテスが鋭く指示を出す。
「――行け! 早く!!」
正直待ってくれって言いたかった。でもこれ以上犠牲を増やす訳にはいかないし、ここで機械生命体達を足止めするのが最善の方法なのには変わりない。だから絶望の中に取り残される感覚を得ながらも走っていくトラックを見送った。
そして命の危機は既に目の前まで接近して来ていて、リベレーターの内一人が態勢を崩して機械生命体に全身を食われる。
「あっ、待って。待て待て、まッ――――」
それから先は文字通り喉が裂ける絶叫が響いた。全身に数十もの小型が群がり、肉を食っては周囲に血を撒き散らす。数秒と経たないうちに全身の皮膚は剥されてしまい、真っ赤でグロテスクな肉と内臓が混じったミンチを口に頬張る。
次に目を抉り取っては顎を引き裂き、喉に手を突っ込んで食道を掴み、内側から胃や内臓を引きずり出した。最後に頭蓋を掴んでは粉々に砕きこぼれた脳みそをすすって――――。
「ぐ、ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!!」
我を忘れてひたすらに剣を振るう。これ以上の犠牲は許されないのだから。
でも、ユウの意志に反して一人、また一人と倒されては全身を食われミンチにされていく。だからその度に焦燥感と絶望がユウを食い尽くす。不思議だ。痛みは感じないのに皮膚は刻一刻と剥されていく。自分の身を守る事すらも忘れ、怒りと焦燥に身を任せて剣を振り続けた。
狂ってる。体を食いちぎられつつも戦い続けるのだ。自分自身でもどうしてそんな事が出来るのかと不思議で仕方なかった。
瞬間、ある光景を見てユウは咄嗟に動きを変える。
黒髪の少女がトラックから身を乗り出したばかりに落下してしまったのだ。何人かが助けようとするけど、トラックは全力走行をしているのだから到底助けられない。だから彼女は全身を強打しながらも道路に一人投げ出されてしまった。
当然、格好の餌が現れたのだから機械生命体の標的は変わって来る。
だからこそユウは動いた。
「ッ――――!!!」
自己の防御を捨てて全力を振り絞る。もう一度腕が焼ける程の雷の刃を出現させ、振り上げる形で飛ぶ斬撃を放った。
直後に雷の斬撃は周囲の機械生命体を全てショートさせてアスファルトを穿った。だからこそその隙にテスとユウ、そしてもう一人は動きだし、各々で戦線離脱を図る。
テスは避難所の方角へ。もう一人は本部の方角へ。そしてユウは黒髪の少女を抱えて何もない方角へ逃げ込んでしまう。方角的にも距離的にも機械生命体から逃げるにはそれしか手がなかったのだ。惜しいけど、後で隙を見て合流するしかない。
少女を全力で掴みながらも武装にしがみ付き、どこでもいいから機械生命体がいない所へと逃げ込んだ。
やがて狭い路地裏に身を投げ出すと自分が下敷きになりながらも不時着し、何度か転がってようやく停止した。すると少女はユウに近づいて必死に名前を呼んだ。
「ユウさん、大丈夫ですか!? ユウさ――――」
でもその傷を見た瞬間に絶句する。そりゃ、普通至る所が皮膚が千切られる光景なんて見れる訳がない。だからあまりにもグロテスクなユウの身体は彼女に悪い影響を与えた。その証として彼女は俯いて地面に黄土色の胃液を吐く。
ユウは必死に体を持ちあげて壁に背を預けるとみんなの位置を確認した。
――よかった。無事みたいだな……。
どうやって移動しているのか、テスはかなりの速度で建物間を移動していく。もう一人も全力疾走で機械生命体を撒いているらしく、一直線に本部の方角まで走っていった。これじゃあしばらくは助けに来れないだろう。
となれば一人でどうにかするしかないのだけど、この負傷で彼女を守り切れるかどうか。
今の彼女に頼むのはあまりにも残酷過ぎるかも知れない。でもこの状況を乗り切る為にはこれしか方法が残ってないのも事実。
ユウは血が付いた手を伸ばすのだけど、咄嗟に引っ込めて代わりに話しかけた。
「君……そういえば、まだ名前聞いてなかったっけ」
「エトリア、です」
「そっか。じゃあエトリア、少しやってもらいたい事があるんだけど、いいかな」
すると彼女は顔をしかめてユウを見た。
この状況を切り抜けるのは容易じゃない。必ず移動しなきゃ小型に見つかるだろうし、武装で飛んだとしても今は正規軍が活発に動いてる。もしそうしたとしても撃ち落とされるのがオチだろう。
だからユウは上着を掴むと腰のホルダーを見せつけた。
「ここに拳銃がある。――それで自分の身を守ってくれ」




