060 『絡みゆく感情』
一斉起爆によってナタシア市の半分は壊滅状態に陥った。それだけならよかったけど、ガス管の爆発などによる炎上によって二次災害が発生し、街全体に火の手が回っている。まるで超大型地震でもあったかの地獄絵図にユウは絶望の色を浮かべた。
これが全て数人程度の規模で引き起こされたんだから、本当に恐ろしい。
「せめてみんなの信号を……」
一つ目の難を逃れたユウは早速生存確認を始め、十七小隊の信号が動いているかを確かめた。詳しくは理解してないけど、GPSのうんたらかんたらがアレして結構細かい動きも描写されるらしいから、微かでも動いていれば生きていると言う証拠になる。
テスは避難所の近くで激しい動きをしていた。アリサとガリラッタは二人まとめて移動していて、他の信号に近づいてるという事は救助でもしているのだろう。イシェスタも他の信号と共に行動を共にしている。でもリコリスの信号だけが動かずに停止していた。
だからユウは即座にリコリスへ通信を入れる。
「リコリス大丈夫か!? リコリス! ……なぁ、リコリス!!」
どれだけ呼びかけたって答えてくれない。聞こえるのは耳障りなノイズと小さな足音だけ。大丈夫だと信じたいけど、機械質の足音がソレを許さない。そこに機械生命体がいる事の証明になってしまうから。
リコリスの事だ。きっと何か事情があってこうしているのだろう。……そう信じなきゃ士気を保てそうになかった。
やがてアリサの方から通信が入る。
『ユウ、あんた無事!?』
「ああ。何とか……」
『よかった。なら今すぐテスと合流して。私達は後からそっちに向かうから』
「おーけー」
取り合えず生きている事に安堵したのだろう。通話越しでもアリサが安堵しているのはすぐに分かった。直後にガリラッタが軽く噴き出したのも。
アリサも既にマップでみんなの動きを把握しているのだろう。だからこそ付け加えながらも言った。
『一応言うけど、リコリスの事は私達に任せておいて。イシェスタもそっちの方角に行ってるのは分かってるでしょ? 早く合流しなさいよ問題児』
「分かってるっての……!」
結果的に不可抗力での単独行動になってしまった。これはまた怒られるだろうなぁ、なんてのんきな事を考えながらも武装を飛ばしてテスと合流すべく浮かび上がった。
崩壊した建物の中に機械生命体が見える辺り、彼女がある程度の数を倒したのは本当だったようだ。認めたくないけど助けられたのは確かだ。……その代償として何人が犠牲になり負傷したのかは分からないままだけど。
テスの信号がある避難所の方へ行くと無線機を手にしたテスがいたものの、何か慌ただしい様子に違和感を覚える。だからすぐに近づくと向こう側から反応し、問いかけると何が起こったのかを説明してくれる。
でもそれは決して簡単に片づけられる話ではなくて。
「ユウ! よかった、無事……じゃないみたいだけど、生きてるのならよかった!」
「状況は?」
「上段抜きでかなりマズい事になった。――さっきの爆発で避難所の入り口が爆破されたんだよ」
「は!?」
そう聞いて驚愕する。だって避難所は途轍もなく分厚い装甲で出来ていて、何十個の爆薬でも云々カンヌんと言われていたのに、どうして通常の爆発でそんな事が起るのか。
「だっ、だって避難所の壁は爆破をもほにゃららで……!」
「俺もそう聞いてた。でもなったんだよ」
直後に重い体を引きずって爆破された方角へ走る。するとドアがあったと思われる所が乱雑に開かれ、周囲には焦げた跡が大量にあった。そしてその中には身を寄せ合う住人がいて。
このままじゃ本当にマズい。だってこの隙間から機械生命体が入り込んだらこの人達を全員食らい尽くして――――。
「あの爆殺女……!」
機械生命体を倒してくれた事には感謝するけど、街を破壊した事と避難所の壁に穴を開けた事だけは絶対に許さない。本当にリベレーターの事を憎んでるんだ。
このままじゃ他の正規軍が突入してくるかもしれない。どうにかしてここの守りを固められればとおもっていたのだけど、この状況じゃそれもままならないだろう。今いる人数の一.五……いや、三倍はいなきゃ安定しないだろう。
絶対に攻撃させる訳にはいかない。だからといってそれを出来る程の戦力がいるかどうか。その答えは当然NOだ。
そして運命がそう簡単に逃してくれる訳がなくて。
「正規、軍……」
「待て待て待て……!」
ここぞとばかりに集う正規軍。それを見て絶望の色に染まっていく兵士達。果たしてこの場を死者なしで守り切れるか。そんな事を考えながらも剣を構えた。
奴らが構えていたのは銃を基本とした様々な武器。遠ければ撃たれ、近ければ斬られるという事なのだろう。
正規軍の目的はリベレーターを滅ぼす事。きっと降参したって奴らは許してなんかくれないだろう。だってそれだけが奴らの正義なのだから。
となると今できるのは全力で抗う事だけ。
「来るぞ!」
直後、正規軍は一斉に銃を構えてユウ達とその後ろにいた住民を撃ち殺そうとした。二つの武装じゃ完全に守る事なんてできない。だから賭けになるけど、ユウ以外が助かるのなら。……そう、思っていた。
咄嗟に飛び出した見習い兵士の少年。彼は大きな盾を地面に突き立てるとそこから薄青色のバリアを展開させ、見事に全員を銃弾の雨から護って見せた。次に振り返ると叫ぶ。
「――ここは僕に任せてください!」
「分かった。頼むぞ少年!!」
するとテスは即座に反応して弾が切れた瞬間に飛び出し、ユウは先に武装を飛ばして牽制を行った。その後にも続々とバリアの陰から兵士が飛び出して正規軍に向かっていく。残りの数人はバリアや柱の陰からの射撃で前衛を援護する。
テスの手に握られた武器は変形しては形を変え、連続してヌンチャクを取り付けた様な見た目になる。それも先端に斧みたいな刃を付けながら。それを振って変則的な攻撃を繰り出して正規軍を惑わせた。その背後から飛び出して雷で焼いて行く。
他にもリベレーターは様々な武器を使って正規軍を圧倒していった。
ユウも武装を使って数々の正規軍を薙ぎ倒し、掠り傷が出来る物の臆せずに斬り続ける。住人が見ているからグロテスクな物は避けようと思ったのだけど、ここまで来ると仕方がない。だからこそ高速で首を刎ねては連続で殺して行った。
やがて短い攻防戦の末に何とか一時しのぎをする事に成功する。
「ふぅ。これで何と……かっ!?」
「今度は何だよ!!!」
ようやく一息つける。そう思っていたのだけど、激しい振動が周囲を襲って咄嗟に振り向いた。テスも愚痴を漏らしながら何が原因なのかを探ろうとする。
でも、その原因は嫌でも視界に入って。
超大型機械生命体。ソレは気が付けばえらくボロボロになっていて、もう少し火力を集めれば倒せそうなくらいに弱くなっていた。でも、重大なのはそれじゃない。
「……ユウ。ちょっと頬つねってくれないか」
「夢じゃないっつーの。ってか自分でやりなさい!」
現実だと認識したくないテスがそう言い、ユウは膝に蹴りを入れて痛みを加える。
――周囲から様々なパーツを掻き集めているんだ。どういった原理で集めているのかなんて到底分からない。でも倒壊した建物から排水管や鉄筋等のパーツを引き寄せるとそれを自身の腕として使い始める。
だから大きく振りかぶって地面を叩くとその衝撃波だけでも周囲の軽い物を吹き飛ばす。
小型の機械生命体も同様に吹き飛ばされるのだけど、その中には風圧を利用してこっちに飛んでくる個体もいて、数十体が接近すると起き上がった瞬間から牙を剥いて立ち上がった。
そして小型に便乗する為に倒壊したビルの瓦礫から正規軍が銃口を向けて来る。
「ったく……。みんな、もうひと頑張りだ!」
「「応ッ!!」」
リベレーターの一人がそう言うと全員で威勢よく返す。と言っても、ここで敵の波を押さえても少し経てばまたこんな感じの波がとずれるのだろうけど。
それでも守らなきゃいけないからこそ全員は動き出す。
さっきの訓練兵がバリアを展開する事でもう一度攻撃を開始し、まず最初に機械生命体を蹴散らして瓦礫の上にいる正規軍へと突っ込んだ。
テスは不規則にしなる攻撃で小型を貫いては爆発させ、ユウは武装を足場に飛び上がっては左手にM4A1、右手に剣を携えて隙の無い攻撃を浴びせた。もちろん着地した隙を狙って攻撃されるのだけど、そこは他の隊員が援護してくれる。
でも、代償も無く倒せる訳じゃない。戦う度に全員の体力は削られていくし、相手は殺す気で挑んでいるのだ。そう簡単に倒させてはくれない。
だから前線で戦っているユウにも傷が増えていく。
やがて一人の正規軍が逃げるからユウも跡を追った。
「っ! 待て!」
「おい、あまり追い詰め過ぎると噛まれるぞ!!」
そんなテスの静止を聞く事もなく跡を追う。だってここで逃せばまた潜伏されるかも知れない。たった今この瞬間だけが奴らを倒すチャンスなのだ。なら、徹底的に潰しておかないと。
そう考えたからこそユウは武装を飛ばしては瓦礫を崩し逃げ場をなくす。
「っ!?」
「もう逃げ場はない。諦めろ。……投降を拒む奴に、容赦は出来ない」
こんな状況なのだから微かでも抵抗するようなら殺さなきゃいけない。みんなは無力化を第一に考えるだろうけど、ユウはみんなの安全を確保する為にそうする事を選ぶ。――だからこそ、自分自身でこの世界の絶望を肌で感じる。
地獄か死か。その選択は絶望以外の何物でもないから。
でも彼は最後の抵抗で足掻こうとして。
「諦めろだと……。ふざけるな。この裏切り者共めが!」
「裏切り者、か……」
「お前らが何人の仲間を殺した! お前らが何人もの罪なき人達を不幸にした!!」
ユウが知らないリベレーターの事を話されて黙り込む。そしてそれを「仕方のない事」だなんて軽い言葉で片付けられないのを、即座に悟る。
彼は拳を握って立ち上がると言った。
「お前らがいなければ誰も不幸にならなかった! お前らさえいなければ、誰も何も失わずにいた! だから俺は、俺達は……っ! お前ら如きに捕まるのなら、俺は仲間を守る為に化け物にでも何でもなってやる!!」
すると彼は懐から注射器の様な物を取り出した。中には紫色の液体が入っていて、ソレを何の躊躇もなく自分の心臓部分に突き刺した。そして全ての液体を体内に入れる。
「っ!? お前、今何を!?」
「見てるがいい……! 俺達が牙を……モルモットにも牙がある事を教えてやる!」
直後に彼は苦しそうな表情をして前かがみになり、全身を抑える様に両手で自分の肩を掴む。その異様な光景にユウは立ち尽くした。人が何かしらで強制的に屈服させられる様を見るのは、これが初めてだったから。
やがて彼の腕や顔からは紫色の物資が飛び出し、内側から皮膚を破って血を流す。やがて全身がゴムに銃を撃ち込んだように無茶苦茶になると、次第とソレは人の形を失くして肥大化していった。同時に付けていた仮面が音を立てて落下する。
「何で――――」
信じられなかった。目の前の光景が。
忘れられる訳がない。一度見たら嫌でも脳裏に焼き付く光景だ。
これが正規軍の正義と言うのなら称賛せざるを得ないだろう。だって彼は仲間を護る為だけに、自らを犠牲に化け物へと姿を変えたのだから。
突如現れた紫色の化け物に向かって、ユウは呟いた。
「感染者……!?」




