表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter2 始まりの刻限
60/445

059  『少女の殺意』

「いきなり攻撃ですか。少し寂しい気持ちになりますね」


「防弾ベストかよ……」


 銃弾を撃ち込んだにも関わらず彼女は死なず、それどころか怯む事さえもしなかった。即座に防弾ベストを着ている事を見抜いたユウは脳天に狙いを定めるのだけど、彼女はその瞬間から動き始めて急接近する。

 だからこそユウは手を剣の柄に持って行って即座に振り上げた。


 猟奇的な笑みを見せる彼女は懐からナイフを取出し、何の躊躇いもなく心臓に突き刺そうとした。回避されては次に脳天を突き刺そうとし、その次には喉元、最後にもう一度心臓を狙おうとする。それだけでも彼女の殺意が尋常じゃない事を悟る。

 腕が切られるかも知れないと言うのに、全然怯まない彼女は含み笑いをしながらも叫んだ。


「もっと! もっと踊りましょう! 血塗れた舞踏会の中で!!」


「そんな舞踏会があってたまるかっての!!」


 これ以上は相手してられない。そう見切って剣から放電しながらも刃を振りかざした。これじゃあ無力化は出来ないだろうし、彼女を止めるのなら四肢を斬りおとすか完全に殺すくらいだろう。

 だからユウは後者を選んだ。

 ……でも、途轍もない反射速度でその攻撃を回避すると懐に潜り込んではナイフを突き出した。それも頬に掠るくらいの距離で。


 直後、彼女の顔が目と鼻の先まで急接近する。やっぱり異常な瞳だ。純粋に恋をする色を含めながらも憎悪や恨みや憎しみ、何よりも殺意の色が混じっているのだから。いわゆるメンヘラって奴なのだろうか。

 なんにせよ殺す事には変わらないのだから攻撃する。

 手と胸元を掴んでは思いっきり背負い投げをして放り投げ、着地の隙を狙って拳銃を放った。にもかかわらず彼女は痛みを感じないような動作で振り向く。


「いいわぁ……。もっと触れて。付き合いましょうよ!!」


「殺意とか諸々なければそうしてたとこだ!」


「貴方は仲間を倒した! だから今度は私が貴方を倒す番! 私の憎悪や愛情が、貴方を殺すのですわ!!」


「何言ってるのか全然分からん……」


 憎悪だの愛情だの訳が分からない。と言うか本能的に理解したくもないんだろう。

 生死がどうでもいい所を見るとユウも十分狂っているけど、彼女は恐らく同等かそれ以上に狂っている。だって普通なら愛情が沸けば殺そうとはしないはず。それなのに憎悪と愛情が一緒になるだなんてあり得ない。


 彼女はあの時の様に軽い身のこなしで攻撃し続け、圧倒的リーチの差がありながらもユウを追い詰め続けた。ダガーの他にもC-4を使って来るのだから当然な気はするけど。

 一体どこに大量のC-4を隠しているのか、彼女は定期的にばらまきながらも爆発させて熱風や爆風をうまく利用する。

 だから時々高速で飛んでくる攻撃を躱して雷を放った。


「クソッ!!」


 彼女も本気なのだろう。雷を放ったとしても爆発によって遮られ、それどころか爆破の余波でこっちが攻撃される。

 でも、わざと足を滑らせては攻撃を誘い込み、カウンターで腹を思いっきり蹴り飛ばした。


「ッがぁ!?」


「これで……!」


 直後に拳銃を構えて全ての弾を撃ち尽くす。それで左腕や太腿を掠るのだけど、彼女は一向に止まる事はなくダガーを構え直した。それどころか腰の所から複数本のナイフを取り出して投げつける。


「まだまだですわ! 私と一緒に――――」


 けれど彼女は言葉を詰まらせて周囲を見る。本来ならここで脳天を撃ち抜けば万事解決なのだけど、ユウも嫌な予感を感じ取って見回した。だって機械生命体用のソナーに突如反応があったのだから。

 当然やって来るのはテスじゃなく小型の機会生命体。建物の陰や屋上から現れて二人を包囲し、一斉に牙を剥いた。


「マジかよ、これ」


 彼女だけじゃなく機械生命体も相手にしなきゃいけないだなんて最悪以外の何物でもない。どっちからにも命を狙われる以上どうしようないだろう。

 そう思っていだけど、彼女はイラついた様に自分の髪を掴むと次第と声を大きくする。


「ああ、ダメ。駄目ですわ。邪魔なんてさせない。させる訳がない。させたくない。ここは私の独壇場ですのよ。あなた達如きの虫けら、邪魔されてたまるかッ!!!」


 やがて両手で多くの髪を引き抜くと指に絡ませながらも起爆ボタンを取り出して二連続で押した。直後に周囲が一斉に起爆しては途轍もない爆風が押し寄せてバランスを崩す。その威力で周囲の機械生命体は全て吹き飛んだだろうけど、その余波は結構ダメージを蓄積させた。

 黒煙が立ち込める中で肺から出された空気を求めて大きく息を吸うのだけど、ここじゃ駄目だと判断して咄嗟に布で口元を覆う。

 すると猟奇的な笑い声が前方から聞こえて来て。


「あははははははっ! 良いですわぁ! もっと、もっと粉々になりなさい! 殺して壊して食って千切って飲み込んで飲み干して殺し尽くして!!」


「殺して二回言ってるし……」


 そう呟きながらも新鮮な空気を求めて黒煙の中から飛び出す。やっぱり爆破地点の真下にいた機械生命体は木っ端みじんになったようで、離れた所に数々のパーツが転がっていた。

 せっかく距離を離せた今がチャンス。そう思って走り始める。


 ――今の内にテス達に連絡を……。


 けれど何かのパーツが外れる音が響き、咄嗟に後ろへ振り向いた。すると黒煙の中からナイフが飛び出して来るのが見えて咄嗟に弾くのだけど、直後に三発の銃弾が放たれて内二発を腕と足に食らう。そして今度はダガーじゃなく拳銃を構えながら出て来た彼女は湯然とした歩みで近づいて来る。

 だからM4A1を構えながらも問いかけた。


「……お前、もしかして四次元ポケット持ってたりする?」


「そんなの持ってませんわ。っていうか、持っていたらこんな回りくどい真似しませんもの」


 そうしているとまたもや機械生命体が周囲に群がって来る。上手く使えば彼女だけに攻撃を仕向ける事も出来るのだろうけど、彼女の事だ、どうせ爆破で全て解決するに決まってる。

 やがてさっきの爆破で出来た掠り傷を親指で撫でると言う。


「あらあら。これでは手間がかかりますわ」


「なら手伝ってくれると嬉しいんだけどな……」


「いいですわよ。正直言って、ゴミ共の事は邪魔で仕方ありませんでしたから」


「え――――?」


 ジョークで言ったつもりなのに彼女は真剣な眼差しで答えてくれる。何か、もう彼女が何をやりたいのか分からなくなってくる。ただ破壊衝動に飢えているだけなのか、ユウを殺したいのかも。

 けれど手伝ってくれるのならそれで――――。最初はそう思っていた。

 でも彼女は別の黒い起爆ボタンを取り出すと不敵な笑みを浮かべながらも喋って。


「現在、機械生命体はこのナタシア市の全域に広がってますの。それを排除すると言うのなら方法はたった一つですわ」


「――お前、まさか!?」


「そう。そのまさかですわ!!!」


 すると彼女は目を輝かせながらも答え、黒の起爆ボタンを天高く振り上げた。だからユウはM4A1を彼女の手元にある起爆ボタンに向けた。ここで殺しても起爆される可能性があるのなら、先にボタンの方を破壊した方が良いから。

 でも、間に合わなくて。


「ゴー!」


 そうして振り下ろしながらも力強くスイッチを押すと全方位から爆破を表す炎の色が浮かび上がる。ここら周辺じゃない。この街半域に及ぶ、大量の一斉起爆――――。

 鼓膜を破る程の轟音に全身が包まれる。当然ユウの周囲にあったビルや建物も起爆され、それでガスボンベや管が破裂してさらなる大爆発を引き起こす。周囲にも同じ様に大爆発を起こしていた。


 更に魔の手はそれだけに及ばず、避難所の方角にも飛んでいた様だった。その証拠として避難所からは一際大きい爆発が起って天高く爆音が轟く。

 あまりのうるささに鼓膜へダメージが行き、膝を付いて大きく怯んだ。同時に石の破片や爆風が全身に叩きつけられて血を流す。ユウは道の真ん中にいたからこれくらいで済んだけど、アリサ達はきっと……。


 脳裏でそう考えていると彼女は周囲の光景に高揚感を高めつつもどうやってこんな大爆発を起こしたのかを説明してくれる。それも絶望感を増す為に丁寧な解説で。


「どうやってこんな数を、って顔してますわね。単純ですわ。――何十日もかけて仕組んだのですのよ。機械生命体の大侵略作戦が立てられた時から」


「立てられた時から? それって、どういう……」


「貴方には特別に話してあげます。今回の大侵略。実は正規軍が指揮してるんですのよ」


「っ!?」


 突如明かされた真実。それを聞いて驚愕した。

 だって機械生命体の指揮はアドミンが行っている。そこに正規軍が割り込む余地はないはずだ。それなのにどうしてそんな事を。

 彼女はダガーを指先で回転させつつも言う。


「機械生命体が自らの目的で突撃させたと誤認させ、潜伏している私達はその隙にリベレーターを暗殺。ついでに街も破壊して大量の捕虜を手に入れる。最後に最高責任者であるベルファーク・リズショアラの首を取れば私達の任務は終了ですわ」


「じゃあ、この前の正規軍の大進行は?」


「私達が至る所に爆弾を設置する為。本当ならおじ様と先輩がいてくれればよかったのですけど、捕まっちゃいましたしね。代わりに私が指揮を取ってたんですのよ」


 今まで起こした行動の謎が全て繋がる。まぁ、そんな様な事だろうとは分かっていたけど。でも実際にその通りだとは思わなかった。

 となれば本気でマズイ事になる。だって、全てが仕組まれた事なのだから。

 そして彼女は接近すると刃を突き立てる。


「さて。これで話す事は終わりですわ。これにてほとんどのリベレーターやレジスタンス。機械生命体が身動きできなくなったはず。心苦しいですけど、貴方にも死んでもらいますの」


「心苦しんだったら広い心で見逃してくれよ……」


「駄目です。貴方は私が殺すと、決めてるんですから!!」


 すると未だ怯んでいるユウに特攻をかます。それも絶対に殺すと言わんばかりにダガーを振りかぶりながら。だから反撃しようとするのだけど、彼女は体中に銃弾が撃ち込まれたって怯むことなく突っ込んだ。だからガダーで首を軽く裂き、連続で攻撃をかますと銃を全て吹き飛ばして地面へと押し倒す。

 やがて身動きが出来ないようにしてから首に手を掛けると彼女は高揚とした表情で喋りかけた。


「ああ、ずっとこの時を待ってました。貴方の命をこの手で少しずつ削り取る時が……!」


「ぐっ……が、ぅあッ」


「最後に何か言いたい事があれば言っていいんですよ? まぁ、誰にも届きませんが」


 けれど彼女は手の力を解く事はなく首を絞め続けた。それも本当に殺す気なのだろう。一呼吸も出来ないくらい力強く。

 もがいていても意味はなく、次第と意識は薄くなって行った。このタイミングじゃ誰も助けに来れない。来れるはずがない。だからユウの命は少しずつ削られて――――。

 それは最後の手段がなければ、の話だが。

 彼女の手を掴むとかすれた声で言う。


「さよなら、だ……!」


 すると最終手段を使って彼女を“殺した”。左から飛んで来た武装によって彼女の頭蓋は砕かれ、壁の方に吹き飛ばされては武装に顔面を潰されて一瞬で死んだ。

 だから新鮮な空気を求めて周囲の炎で熱くなった息を吸う。

 やがて落ち着いた時から顔がペシャンコになった彼女を見て呟く。


「……せめて殺意がなければ、分かり合えたかも知れないな」

彼女とユウの狂気度ですが、個人的には同じくらいだと思ってます。

彼の場合は生死なんてどうでもよく、いつ死んでもよくて人を殺すのも怖くない。それは人として機能してない事だと思いますから。

彼女の場合は純粋な狂気っていうか、色々ねじまがった結果ですね。末期のヤンデレって言った方がいいかもしれない。

もし二人が仲間になったら意気投合した……かも知れない。良い相棒にはなれそう。その他が少しヤバイけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ