057 『追い詰められる現実』
「ったく、キリがないわね……!」
「しゃーないだろ、奇襲されたんだから」
ユウとテスが本部の方向へ向かった直後、こっちにも数々の機械生命体が流れ込んできて対応に追われていた。イシェスタも同じく本部に向かおうとするのだけど、予想よりも数が多くて手こずってしまう。
今は近接武器を乱暴に振るう事で何とか耐えているものの、完全に排除するにはどれだけの時間が掛かるかは分からない。早く救援に向かわなきゃ二人が危ないと言うのに。
――せめて他の隊が向かっていればいいけど……。
脳裏でそう呟く。イシェスタ達は無理でも、まだ機械生命体の脅威が及んでない所にいる隊員が向かってくれていれば……。
そう考えながらも目の前の機械生命体を破壊する。
「イシェスタ、お前の力でどうにか出来ないのか?」
「出来なくはないですけど、アレは本当のピンチに陥った時だけです! それに、奴らに使うとなるとここら一帯が……!」
「だよな!」
ここを乗り越える手段は十分にある訳なのだけど、その代償はあまりにも大きい。まだ“その時”じゃないと判断して力を保留した。
アリサとガリラッタは近接武器が短剣とかしかないから苦戦する分、多くの機械生命体はイシェスタ個人が請け負った。
他の隊も応戦しているから次第と数は減って行く。その分本部の方角へ向っているという事になるのだけど。やっぱり奴らは人が多い方角へ流れていくのだろうか。
直後、超大型との戦闘の流れ弾が飛んで来て咄嗟に回避する。
「――イシェスタ、右に飛んで!!」
「ッ!!」
アリサの指示通りにすると今さっきまで自分の立っていた所に巨大な部品が激突して轟音を響かせた。ついでにそれで二、三体の機械生命体が潰れてくれる。
同時に背後を取った個体を見ずに切り裂くとアリサから指示を出された。
「イシェスタ、ここはもう大丈夫だからユウ達の援護に行きなさい!」
「えっ!?」
「今のあいつらにはあんたの力が必要なの! 行きなさい!!」
「……了解!!」
そう言って走り始める。建物の屋上から何の躊躇もなく飛び出し、ワイヤーの上に鎌を乗っけてジップラインの様に移動していく。でも、その最中にある物を見付けて視界を動かした。
建物の陰に隠れていた人影を。
だからワイヤーから手を離してその正体を確かめた。ソレが脅威かも分からないのに、ただ安全を確保する為に。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
複数人の雄たけびが聞こえる中で、リコリスも咆哮しながら超大型へ突っ込んで行った。光線剣の出力を最大にして迫って来る巨大な腕を回転しながら切り裂き、可能な限りのダメージを与える。他の隊長の攻撃も相まって個々のダメージは少ない物の、着実にダメージは稼げていた。
そして追撃のレールガンも直撃してまたもや部品が落下していく。
「押せ! 押せ~~~ッ!!」
爆発物が無くなれば地上で待機している即席の補給隊のもとへ向かって可能な限り持ち出し、そして全力で投げつける作業の返し。と言ってもリコリスの場合は近接攻撃の方がダメージが出るからそっちの方で攻撃するのだけど。
戦いながら横目で見ただけだけど、地上にいる隊もかなり苦戦を強いられている様だ。そりゃ、超大型の取り巻きだけじゃなく迷彩技術を使って現れた空挺部隊を相手にしているのだから当たり前な気もするけど。
ほんの一秒だけでもかなりの数が本部へ向かっている事が判明している。他の余裕がある隊もそこへ向かって迎撃をしてくれてるのだろうけど、せめてそこにユウがいない事を祈った。
まぁ、彼の事だからどうせ真っ先に突っ込んでそうだが。
「おるあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
そんな事を考えつつも脳天に最大出力で巨大な刃と化した光線剣を叩き込み、目の部分と思われる部分を斬り飛ばした。けれどやっぱり目としての役割は果たしていない様で、その部品がなくなっても奴の動きに変化が加わる事はなかった。
だから舌打ちしつつも他の所も高速で振りながら斬り続ける。
でも、そうしていると伸びて来た小さな腕に捕まって振り回されて。
「あ、しまっ!?」
武装を発動させて振り抜こうとしてもぎっちり掴んでいるから抜け出す事が出来ず、足元のパーツを斬る事でようやく解放される。直後に何度も回転しながら吹き飛び、最終的にビルの屋上に激突する事で停止する。
「いってて……」
「随分なやられようね」
すると他の隊の隊長……友達とも言える女性が手を差し伸べた。だからその手を掴んで起き上がる。すぐ戻らなきゃいけないのだけど、リコリスはある程度の戦況を聞くべく彼女に聞いた。
「一応聞くけど、戦況は?」
「マズい。早いとこあいつを倒さないと他の隊のカバーに回れないわ」
「だよね。じゃあ、行きますか!!」
「頑張ってねー」
「あんたも頑張るの!」
そんな軽口を叩きながらも全力で浮かび上がり、脚から脳天にかけてを一閃する。直後にまた回転しながらも脳天に刃を叩きつける。
そうしているとリコリスの様な巨大な剣を握った隊長が奴の腕を斬り落とし、全員で寄ってたかっても落とせなかった腕を根元から斬りおとした。故にその切断面から数々の攻撃が撃ち込まれ、一斉に大爆発を引き起こす。
――せめてこのまま倒せればいいんだけど……。
脳裏でそう呟きつつも周囲を旋回する。ちょっとでも距離を開ければ謎の隙間から遠距離攻撃を繰り出してくるから間合いを開けて飛ぶのだけど。
あまりにも時間をかけすぎるとアリサ達が押されかねない。だからリコリスは攻撃し続けた。
レールガンの攻撃も相まって超大型の部品はどんどん地上へと落ちていき、全員で包囲する。このままのペースなら倒せるだろうけど、重大なのは倒したその先だ。奴を倒した後に被害がどれだけ出ているかとか、どれだけの速度で残党を倒せるかどうか。それで結果が変わってくる。
そう思っているとあるものを見つけて停止した。
「ん……? ねぇ、なんか穴空いてない?」
「穴なんかそこらじゅうに小さいの空いてるだろ」
「それじゃない。ほらあそこ」
そうしてリコリスが指をさすと他の隊長もそこを見た。奴の腹辺りに人が入れるくらいの穴が開いていて、そこから蒸気のようなものが出てきていたのだ。すると他の隊長も反応して顔を合わせた。
「あれってまさか……」
「うん。機械生命体の内部がどうなってるかはわからないけど、装甲が硬いからもしかしたら内側から破壊できるかも」
「でもそれってかなりの賭けじゃないか?」
「うん。かなりの賭けになる。でも、何もしなきゃ何も始まらないでしょ」
既にあの中に突っ込む覚悟は決まっていた。だからそういうと彼は少し困惑したような表情をする。そりゃ、内部が何もわからない超大型の中に突っ込もうだなんて困惑するに決まってるだろう。
けれど装甲が硬いのなら内側が弱点だと思うし、超大型を早く倒せるのならそっちの方がどう転んでもいいはずだ。だからこそ彼は頷くと自分も突っ込む覚悟を決める。
「……わかった。付き合ってやるよ」
「サンキュ」
そうして二人で即席の作戦を作ると全隊長に伝え、それぞれが納得して援護してくれる事を決めてくれた。レールガンを放ち続けるサークも納得する。だから二人して姿勢を低くすると飛び出す態勢をつくった。
――でもその瞬間に長い腕が伸びてきて片方が掴まれる。
「あ、しまっ!?」
「っ!?」
さっきのリコリスと同じように空中を振り回されながらも足元を切ろうとするけど、持っている武器が短くて届かないみたいだった。だから助けに行こうとするのだけどその瞬間に止められて。
「待ってて! 今――」
「来るな!」
「え……?」
「後で行く! お前は一人で行け!!」
「……分かった!」
そう言ってリコリスは一人で突っ込み、何か不都合なことでもあるのか激しくなる攻撃を掻い潜って奴の中へと突っ込んだ。リコリスの特殊武装は入らなさそうだったから折り畳んでスライディングしながら突入する。
直後に巨大な腕が穴の部分をひさぐ形で叩きつけ、リコリスはそに風圧でさらに奥へと押しやられる。
「うわぁ!? っとと……」
何度も回転しながら落ち着くと立ち上がって周囲を見た。一軒家五、六個分以上の大きさだから内部は結構デカイと思っていたけど、ここが機械生命体の内部だという事を除けば普通の工場にいるような感覚だ。赤いランプも付いているし。
通路としても普通の出来栄えな事に驚きつつもM16A1を構えて進み始めた。
まだ憶測でしかないけど、こういう巨大な敵には核というかコアのような物が備わっているのが通常だ。見取り図も何もない中でどうにかして見つけ出さないと。大抵中心にある物だけど今回はどうなのだろうか。
「せめて階段とか見つけられればいいんだけど……」
そう呟きつつも奥へ進み続けた。構造が分からない以上全速力で走る事は出来ないし、敵がどこにいるかも分からない以上……っていうか機械生命体の内部にいるのだからソナーが働かない以上、奴らがどこから襲って来るかも分からない。
一応後続で付いて来る人の為に壁に跡を付けながら進む。
外ではまだ激しい戦闘が続いているのだろう。足場全体が傾いては大きくバランスを崩した。だから踏ん張っては壁を蹴って前へ進み続ける。果たしてこの内部が部屋とか通路として機能しているのかは謎だけど、何かしらが見つかればいいなと思って跡を刻んだ。
すると突き当りに大きな扉が見えて立ち止まった。まずは耳を立てて何かがいるかを確認し、扉の奥に何かがいる事を察知するとグレネードを取り出してピンを加えた。
そして思いっきり蹴り上げるとドアを吹き飛ばし、全力で中に向かって投げつけた。……でも、その直後に内部を見て驚愕する。それも心の底からギョッとする程。
直後、内部にいた大量の機械生命体達は一気にリコリスへ牙を剥いた。




