056 『奇襲』
大型軍用輸送機がある程度近づいた直後、本部の方から地対空ミサイルがやって来て大通りで停止した。そして荷台にあった巨大なミサイルを斜めにすると輸送機に狙いを定め、ブースターが起動してジェットエンジン同様の音が響き始める。
そんな光景を間近で見られるだなんて思わなくて、ユウはつい見入っていた。
「あれが地対空ミサイル……」
「まだまだ全力じゃないけど、ミサイル防衛じゃ凄い性能を誇るんだ。名はMIM-104 ペトリオット。略してパトリオットミサイル!!」
「何か聞いた事ある!」
どこかで聞いた事がある気がする名前を聞きながらも発射されたロケットを目で辿った。高速で吹き飛んでは一直線に輸送機の元へ向かって行き、もうすぐ着弾しそうという所まで接近する。
のだけど、その瞬間にアリサが小声で注意するから即座に耳を塞いだ。
「一応、耳塞いどいた方がいいわよ」
「えっ」
直後にミサイルが輸送機に直撃して激しい爆音を響かせた。それも耳を塞いでいてもその爆音が聞こえる程。銃声である程度慣れたとは思っていたけど、やっぱりこういう爆発物って耳がやられるんだ。実際銃声だけでも鼓膜がやられるって聞いた事あるし。
こっちにも微かな風が飛んでくる中で輸送機を見ると粉々になりながらも大爆発して散り散りになっていった。これである程度は侵略も免れるだろうか。
大げさな登場だった割には呆気なく壊されて呆然とするけど、それも作戦を有利に進める為だと言い聞かせた。と言っても違和感は抜けきらないけど。
テスは短剣を手に取ると言った。
「さてと。じゃあ俺達は地中からやって来るかも知れない奴らを警戒しますか」
「そうね。サボって侵略されましたじゃ夢見が悪いもの」
二人はそう言って移動していく。といっても屋根や屋上を足場にだから忍者みたいな動作になるが。ユウとイシェスタは一応その場に止まり、必要があれば援護しに行くと言う方向性で動きを固めた。
でも、どうしてもリコリス達が気になって仕方がない。援護する人手が足り過ぎてるからこうして離れた場所で立ち尽くしている訳だけど、やっぱり気になってしまう。その思いは仕草にも出てた模様。
「そんなに気になるのなら援護しに行ったらどうですか?」
「あいや、俺が行った所で出来る事はないだろうし、銃弾とか爆弾の補給は十二分に間に合ってる。返って逆効果になるかも知れない」
「まぁ、そう考えるのが妥当ですよねぇ」
確かに人が多いと手数が増えて便利になるかも知れないけど、あまりにも多すぎると統率が取れなくなる可能性が高い。それだけは何としても避けなきゃいけない。イシェスタも同じ考えに至った様だった。
そう考えた時だ。イシェスタが異変を感じ取ったのは。
「どうした?」
「いえ、今一瞬だけ周囲の光が揺らいだ様な……」
「揺らいだ?」
そう言われて周囲を見渡す。と言っても特に光が揺らいだという感覚はないし、何の変化もなかった。でも悪戯でそんな事を言うとも思えない。という事は確実に何か――――。
瞬間、ほんの一瞬だけ周囲が真っ暗になってその場にいた全員が異変に気付いた。
「今の影なんだ!? どこから!?」
「分からないです。でも、影となると……」
「――おい、上だ!!」
すると周囲にいた誰かがそう叫び、ユウ達は釣られて咄嗟に空を見た。最初は何もなかった。けれど影が出て来たという事は少なくとも太陽の光が遮断されたという事だ。つまり、今の異変の正体は上空にいる事になる。
直後だ。もう一度影が現れ、最悪としか言えないソレが姿を現したのは。
「ガリラッタさん、あれ……」
「ああ。間違いない」
「うっそぉ~ん……」
三人で上空を見つめる。だってそこに現れたのはさっき見たばかりの大型軍用輸送機で、何もない所から編集でフェードを付け加えたような登場の仕方をしたのだ。だからこそそんな登場をするだなんて思わなくて驚愕する。
嫌な予感をバリッバリに感じながら。
現れたのは三機の大型輸送機。それも通常の物とは異なる様で、如何にも爆弾が落ちますよと言う様な落とし穴形式の構造をしていた。
圧倒的な存在感を見せつける輸送機に本部は即座に反応し、準備なしに放てる銃器を全て放って輸送機に攻撃を始めた。その音を聞いてユウ達も銃が許す限りの銃弾を叩き込む。離れた所に魔術師もいるようで、所々から炎とか氷の槍が放たれている。
けれど完全に撃ち落とす事は出来ず、輸送機の底が開いては内側から大量の小型機械生命体が落下して来た。それも律儀に全員がホバー移動が出来る装置かパラシュートを持参しつつ。
だから一気に絶望感が高まりつつも着地地点を予測して視線を移動させた。――リベレーター本部へと。
「あいつらまさか!?」
「そのまさかだ。ユウ、飛ばせ!!」
「ッ!!」
するとガリラッタからそう指示が入り、ユウは即行で武装を起動させた。直後に飛び乗っては手摺を全力で掴み本部へ向かおうとした。
その時にテスがもう片方の武装に飛び乗って手摺を掴む。
「ふごぁっ!」
「ちょっ、テス!?」
「一人より二人の方が良いだろッ?」
「まぁそうだけど……」
圧倒的な風圧を真正面から受けて凄い表情になる。だから少しだけ減速させると態勢を整え、ちゃんと座った直後からまた速度を戻した。
流石に警備兵やレジスタンス、最終手段で訓練兵もいるとは言え、あれだけの数を相手に出来るとは思えない。如何にして早く撃退できるかがカギだろう。やがて大広場に辿り着くとユウとテスは飛び降りて地面を滑ると陣形を固める警備兵の前で停止した。
「ズザーっとね!」
「言ってる場合か!」
効果音を口で奏でるテスにツッコミしつつも即座に銃を構える。直後に引き金を引いてやって来る機会生命体を撃ち落とした。でも、やっぱり数が多すぎる訳で。
「駄目そうか……。一斉射撃、頼めるか?」
「了解です!」
「おし。じゃあ、撃て!!!」
するとテスの合図で警備兵が空挺部隊に一斉射撃を始めた。直後に大量の弾丸が打ち放たれては降下して来る機械生命体を撃ち抜いていく。とはいっても三機の大型輸送機に小型が大量に詰め込まれていた訳なのだから、当然それだけじゃ全然足りず数多くの小型が地面に足を付ける。
そして全員が目を赤く光らせると牙を剥き、武器を出してユウ達を殺す準備を整えた。
「テス、これって……」
「ああ。絶体絶命とはこの事だな。ベルファークさんに指示を仰げ!」
「はっ、はい!」
テスはそう言うと一人のレジスタンスを下がらせた。ここからは援軍が到着するかどうかの最中でどれだけ耐えれるかの勝負だ。リコリス達は超大型に手こずっているし、アリサ達はすぐに来る事が出来ないだろう。
最低でも五分は稼げれば良い方だろうか。
そう思っているとテスは背負っていたモノを掴んで変形させていった。
「え、何ソレ」
「俺の特殊武装。弓とか剣とかヌンチャクとか、様々な形に変形できるんだよっと」
イシェスタみたいな物かと思ったけど、扱いが違うらしい。その証拠として手元の機械が剣の柄を模ると蒼色の刃が出現する。光線……ではないらしい。謎の物質で作られた刃だ。
とにかくユウも剣を構えると重心を前に動かした。
そして、同時に前へ踏み込むと機械生命体は一斉に進行を開始する。
「「らあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」」
ユウは自分すらも呑み込みそうな雷の刃を生成し、テスは刃の部分を巨大化させて思いっきり前方へ撃ち出した。瞬間、雷に当たった機械生命体は動かなくなり、刃に割かれた個体は一刀両断される。
でも今ので殲滅できたのはほんの三割。まだまだ街の奥に控えているこの現状じゃ悪い出だしだ。
一応全ての武装を展開させて死角をカバーし戦うのだけど、それでも圧倒的な数に圧されそうになる。そりゃ多勢に無勢どころの話じゃないのだから当たり前なのだけど。
いくら小型とは言え奴らの振るう攻撃は全てが危険。掠る程度なら問題はないけど、見た目とは想像できないくらいの馬鹿力で振るうから刃が荒くても胴体を真っ二つにされかねない。更に一度掴れば食われる未来は確定するだろうし、絶対に生きたまま食われたくなんてない。
――数が多すぎる。このままじゃ……!
一体を相手にしていれば必ず背後を取られる。この状況を脱するとしても、一度に十体もの数を相手にしなきゃ勝機はないだろう。
今は乱雑に高威力の攻撃を振り回す事で何とか保っているけど、バッテリーにも限度という物がある。あまり過信し過ぎると痛い目を見るはず。
「らああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
剣を突き上げると大量に放電し、周囲の機械生命体を一度にショートさせる。せめて足元に水でもあれば一度に倒す事が出来るのだけど、今は快晴なので期待はできない。
戦況が次第と厳しくなる中で二人して戦い続けた。
「ったく、こいつら! 斬っても斬ってもどんどん増えて来やがる!!」
「そりゃ輸送機にパンッパンの状態で詰められてたんだから当たり前だ!」
離れた所から警備兵の援護射撃が始まるけど、それでも完全に倒す事は出来ない。倒せば倒す程敵の数は増えていき、数々の個体がユウ達を殺そうと牙を剥く。中に突っ込みながらも腕を食いちぎろうとしてくる輩もいた。
だから早く増援が来れる事を願ってひたすらに耐え続けた。
向こうも向こうで大変な事になっているのも知らずに。
――みんな、早く……!
脳裏でそう呟く。既に二人の体力も限界に直面しそうになっていたから。
でも、直後に小型の残骸に足をつっかからせてバランスを崩した。その瞬間に突っ込んで来た小型が牙を剥いて――――。




