054 『絶望の始まり』
何が起きたのか分からなかった。いや、ならいっその事分かりたくなんてなかった。だって地面から飛び出して来たのは超大型機械生命体で、推薦試験の時に現れたのと全く同じサイズで――――。
その姿を見た時からユウは無意識に叫んだ。
「あいつ、あの時の!?」
何で奴がここに。そんな疑問は当然だ。
だってここはリベレーターが管理し、全体に機械生命体のソナーがしつけられている様な厳重警備している街だ。例え真下に機械生命体がいたとしても絶対にソナーが検知するはず。それなのに何で。
仮に何百年も前から地中に眠っていて今目覚めた~とかの説明なら現れた理由が分かる。でもあの大きさなんだから絶対に見つかるに決まってる。仮に地中を掘って来たとしてもあの巨体じゃかなりの振動が伝わるはずだ。それこそ地中何百キロじゃない限り。
じゃあどうして今まで見つからずにこうして現れたのかって疑問になるのだけど、そこが一向に不明のままだ。
「どうしてこんなところに機械生命体が!?」
「四の五の言ってないで行くぞ! 無傷でも何でも足止めするんだ!!」
すると周囲の小隊は即座に状況を判断し、損害を減らすべく超大型機械生命体へと立ち向かった。当然十七小隊も超大型のもとへ向かっていく。
だから少しばかり出遅れたものの、ユウも立ち尽くしていたイシェスタの手を引いて走り始めた。
「イシェスタ、行くぞ!」
「はっ、はい!」
即座に特殊武装を起動させて飛び乗り、手摺を掴んで落とされないようにすると全速力で超大型のもとへ向かった。同じく移動メインの武装を使う隊員達が我先にと超大型へ接近していく。
ユウはM4A1を片手に射程距離内まで接近すると無駄でも何でも撃ち始めた。
――こいつが現れたって事は、やっぱりあの進軍は囮だったのか!!
リベレーターは確実に虚を突かれたものの、襲撃される可能性は十二分に考え着いていた。手段はどうであれ、現れるのなら街の中心部辺りなんじゃないかって。
だからこそ次々に中隊も駆けつけて超大型への攻撃を試みる。
高速移動して来たリコリスも射程距離内に入るなりM16A1を乱射し始めた。
「撃て――――ッ!! 機動力のある者は、極力注意を引き付けるんだ!!」
「了解!!」
とある中隊の指示に従って機動力のある全員が行動し始める。攻撃して注意をひきつける者や、無理やり視界に入って注意をひきつける者まで。ちなみにユウは後者だ。
奴の目と思われる所まで移動すると残ったもう一つの武装を展開し、あまりの巨大さに距離感覚が掴みにくい中、三百mギリギリまで移動して全速力で撃ち出した。直後に激しい金属音が響いて部品のいくつかが地面に落ちていく。
――ある程度は攻撃が効くのか……? なら、ロケットとかならもしかして。
そう思った瞬間には同じことを考えた別の隊員がRPG-7を構える。そしてユウが離れるのと同時に眉間に向かって撃ち出し、激しい爆風と共にまたもや部品を吹き飛ばした。
「爆発物だ! 何でもいいから爆発する物をぶつけろ!」
すると宙に浮いていた隊員はグレネードでもロケットでもC-4でも、とにかく爆発する物を一斉に投げつけてダメージを与えた。
でも、資料でしか見た事がないけど超大型機械生命体は討伐するのにかなりの集中火力が必要だったはず。当然ながらこれしきの事で倒れたりはしないだろう。
想像通り爆煙が晴れた瞬間からユウ達を捕捉して巨大な腕を振り上げる。直後に全員が避けた途端に巨大な腕は地面に叩きつけられ、途轍もない衝撃波と共に建物の一撃で粉砕した。その衝撃波だけで周囲の隊員が吹き飛ばされてしまう程。
「っぁ!?」
「ユウ!!」
だから落ちそうになったユウをリコリスが抱えてくれる。それで態勢を立て直しながらも超大型を見た。もう一度次の拳を振り上げようとしているあの巨体を。
そうしているとリコリスが肩を叩きつつも言った。
「ユウ、後は私達に任せて」
「は?」
「こういう奴らを相手にするのは、リーダーの仕事だから!」
すると腰から銀色の筒を取り出して言った。でもそんな小さな筒でどうやって……。そう思っていると周囲から別の隊のリーダーも駆けつけ、何とかして飛べる手段を持つ人は浮遊を。飛べない人は地上で各々の特殊武装を構えた
そして振り向くとユウに向き直り、小さな手を頭に伸ばしてそっと撫でた。それも優しい微笑みを添えて。
「大丈夫。安心して」
「…………」
真紅の瞳が漆黒の瞳を捉える。そこには凄く優しい色が浮かんでいて、本当にユウの事を安心させようとしているのかが伺えた。
信頼に値する瞳――――。だからこそユウは頷いた。
でも直後に小さな腕が伸びて来てリコリスの頭を握り潰そうと大きく開いて。
「――リコリス、後ろ!!」
「へーきへーき」
けれど銀色の筒を振るった途端にそれらが全て切り裂かれる。
持っているのは確かに銀色の筒だ。でも、そこからは桃色の光が一mくらいの直線状に伸びていて、小さくジェットエンジンめいた音が聞こえていた。次に伸びて来た攻撃もソレに触れた瞬間から真っ赤な切断面を作りつつも断ち切り、光の尾を引いて停止する。
「え、何ソレ……」
「光線剣。まぁいわゆるビームサーベルかな。触れた物を全て溶かして断ち切る武器だよ。――だいじょーぶ」
するとリコリスはもう一度ユウの頭を撫でてから超大型のもとへ向かっていく。それも降り注ぐ攻撃を全て溶かし斬りながら。だからそんな武器が出て来るなんて思わず唖然としているのだけど、その時から通信が入ってアリサから指示が出される。
『話し合いが終わったなら自分のやれる事をやる!』
「あっ、はい!」
今のユウがやれる事。それは隊長達の援護だろう。銃弾を大量に消費するはずだから離れている補給地点からなるべく早く弾を届ける。それだけだろうか。
そう考えたからこそ補給地点の方角へ向くと一気に武装を飛ばし始めた。
「じゃあ俺はみんなの分の特殊装備を取って来る!」
『OK。時間は?』
「大体十分もあれば大丈夫だと思う」
『分かった。早くね』
「了解!」
小さいことの積み重ねでもきっと大きな結果が生まれるはず。そう信じて手摺を掴むと全速力で武装を飛ばした。
片道五分で着けばいい方だろうか。補給地点と言ってもリベレーター本部だから倉庫の方へ行かなきゃいけないし、もう片方の武装に乗せる物で速度にも影響してくる。今は一台に付き一人分の重量で最高速度だけど、それ以上の重さが乗れば五分で帰れるか――――。
「声……?」
どこかから声が聞こえた気がして少しだけ停止する。驚いた様な声なら分からなくもないのだけど、確実に違う。迫真の叫びで、ある種の絶叫だった。でも、どうしてこんな超大型から離れた所に絶叫なんか。
その理由は一つしかない。
――まさか!?
予定変更して声が聞こえた方角に向かう。
現れたのは超大型だけだろうか。もし本当に地中から穴を掘ってやって来たのだとしたら、そこに別の小型もいるのではないか。そんな憶測を元に飛び続ける。
そして声のした方角を見下ろすと今まさにレジスタンスの一人が小型の機械生命体に殺されそうになっていて、直後に武装を飛ばして鎌を取り出していた小型を粉々に破壊する。次に狭い通路へ降りては倒れていた人に手を出し伸べて立ち上がらせた。
「大丈夫か!?」
「は、はい」
「……一応聞くけどさ、これ以外どれくらい見えた?」
いつでも通信できる様に構えながら彼の回答を待った。でも、その答えはユウの予想を遥かに超える物であって。
「恐らく数千は下らないかと」
「っ!?」
直後に十七小隊の全員に通信を入れる。数千は下らない。その数がどれだけマズい状況を差しているのか、流石のユウでも理解出来た。そして魔の手が避難所に伸びているという事も。
だからみんなに伝えるのだけど、向こうもその事は丁度今知った様子。真っ先にテスが対応しては話し始めた。
「みんな聞いてくれ! 穴から出たのは超大型だけじゃない、小型の奴らも大量に出て――――」
『よかった、そっちにも情報行ってたのか!』
「へ?」
『気を付けろユウ。大量なんて二文字じゃ収まらないぞ! 本部が近いのなら警備に任せてこっちに来い! 一番危ないのは、どっちとも手が届かないそこだ!!』
「しまっ!?」
突如、屋上から飛び降りて来た小型の機械生命体を見て自覚する。そうか、そうだ。危ないのは本部や避難場所なんかじゃない。本部の警備兵にも、配置場所にいるみんなにも手の届かない、上位レジスタンスの配置区域――――。
ユウは剣から放電させると思いっきり振りかざして前方に撃ち出した。それで機械生命体の内部をショートさせつつも取り残された人の手を掴んで走り始めた。
「ここから真っ直ぐ本部へ行け! で、無線で他の奴に連絡! さぁ、ゴー!!」
「りょっ、了解!」
すると彼は無線機を手にしながらも本部の方へ向かって行った。テスはすぐに戻ってこいって言ってたけど、こんな場面を見てしまっては戻るに戻れないじゃないか。そう思ったからこそユウは武装に乗って浮上すると他に攻撃されている人がいないかを探し始める。
ここの区域には上位のレジスタンスしかいないとは言え、武装は近接武器と拳銃くらいしか持っていない。言い方は悪いけど、そんな人たちがたった一人で機械生命体を相手に出来るとはとても思えない。
――せめて誰も死ななきゃいいけど……!
戦闘力が高いからこそ上位のレジスタンスに配属されている。ある程度は信頼できるけど、完全に対応出来る訳じゃない。ピンチならユウが助けてあげないと。
そう思いながらも建物の上を飛び続けた。
横目で超大型の相手をするリコリス達を見続けながら。




