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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter2 始まりの刻限
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053  『開戦準備』

「みんな聞いてくれ! 先に知らされてるとは思うけど、今から街の中心部にみんなを輸送する! だから慌てず落ち着いて行動してくれ!」


「ユウってこういうの適任なのね……」


「これでも最近は毎日街に出歩いてますからね。みんなも顔を知ってるんですよ、きっと」


 本部の前に人を集めた後、ユウは自ら進んで誘導役を買って出た。そして概要をみんなにしている間に後ろから何かを言われる。ユウって驚かれる程コミュ力ない様に見えているのだろうか。

 こういうのは初めてだったから不安だったのだけど、何度か騒ぎを解決からだろうか、みんなは案外素直にユウの言葉に従ってくれる。


 この管轄区域に住む住人は少なくても一万を軽く超えると言う辺りからまだ全ての人は集まってないはず。ある程度人が集まったらまた説明しなきゃ。

 そう考えていると横からラナが出て来てみんなに伝えた。


「ハロー。ナタシア総合管理局最高責任者のラナ・リリスカです。今回は私達が皆さんの輸送を担当しますので、よろしくお願いします!」


 初めて会う人とは「ハロー」の挨拶から始めるのだろうか。所々で敬語だったり敬語じゃなかったりする口調に顔をしかめるけど、みんなは特に怪しまずに頭を下げた。そして肩をポンポン叩くと耳元で囁く。


「やるね」


「……! ありがとうございます」


 よくみんなから信頼を勝ち取った、って意味でいいはず。ラナは微笑みを浮かべるとそのままトラックの方へ歩いて行き、誘導を一任する。だからユウはもっと活躍する為にと先頭に立ってみんなをトラックへと誘導した。


「それじゃあ前に立ってる人から移動してくれ。子供もいるから、あまり狭すぎないようにな!」


 実際の避難活動ってこんな感じ何だろうなぁ、と思いつつも次々と住民がトラックの中へと移動していく。こういうのは緊迫感故に何人かは不安そうな顔をする物だけど、ユウが明るく接しているおかげか、誰一人として不安そうな表情はしていなかった。

 不安は人から人へ感染していく物だからこればっかりはありがたい。


 すると人混みの中からこっちを見つめている誰かがいて、その視線に導かれてユウは誰が見ているのかを辿った。直後に黒髪の少女と目線があって彼女は飛び出した。ついでにバーのマスターも連れて。

 だからユウは少しだけかがむと少女に目線を合わせた。


「ユウさん!」


「どうした? 何かあったか?」


「それはこっちの台詞! 何か、起るの……?」


「――――」


 純粋な瞳にどう答えるか迷った。だって恐怖の対象でしかない機械生命体が迫って来ているとは到底言えないし、仮に言ったとしてもその話が広がったら混乱を招きかねない。

 だからユウは頭を撫でると説得力も何もない言葉で言う。最近教わった強気な笑顔で。


「絶対に大丈夫だ。安心してくれ」


「……うん!」


 普通なら納得できるはずなんてないのに頷いてくれる。それ程ユウを信頼してくれてるって事なのか、はたまたリベレーターとして信頼してくれてるのか。

 なんにせよ従ってくれたのは良かった。

 するとテスが隣に並んで問いかける。


「今のがよく遊んでる女の子って奴か?」


「ああ。とってもいい子なんだよ」


「……ユウってさ、そう言う事――――」


「しないからッ!!」


 確かにこの世界じゃそういうアレなアレになってもおかしくはないけど全力で否定する。あんな純粋な子を汚す気はこれっきしもないし。

 取り合えずそう言う思考に辿り着いたテスの腹に肘を撃ち込みながらもみんなの誘導を続ける。


「はいはーい、順番に乗ってね~」


「それアトラクションに乗せる従業員のやり方じゃ?」


 あとこれを五、六回続ければユウ達の第一任務は完遂という事になる。こういうのは輸送してる最中に奇襲される物だけど、この世界はどうなのだろうか。カミサマはベルファークの言った通りこの街を守ってくれるのか。はたまたユウをこの世界に放り込んだ時みたいに無慈悲な運命に書き換えるのか。


 ――あの軍勢が囮か、本命か……。


 最終的にあの時の正規軍の進軍は無意味な物となっている。今の所は、だけど。あの意味のない進軍は何かを仕組む為の囮と推測されているけど、真実は正規軍しか分からない。しかも捉えた正規軍が正義だ云々カンヌん言って答えないのだからタチが悪い。

 だからこそ今回の進軍もかなり警戒されている。実はアレ囮なんじゃないかって。――進軍に気を取らせて本隊は意識外から攻撃させる。ユウでも思いつく手軽な作戦だ。と言ってもシンプルだからこそ被害は絶大なのだけど。


 ――もしカミサマが運命すらも操れるというのなら。絶望の運命を望んでるのなら……。


 そんなの避けて貰いたい所だけど、あの性格上絶対にロクな結果にはならないだろう。神頼みしたって変わらない。というよりも神に頼る事なんて絶対にない。

 なら、精一杯抗うまでだ。例え届かなくたって、死んでも這い上がってあいつの首元噛み千切ってやる。じゃなきゃユウをこの世界に放り込んだ借りを返せないって物だ。


 というような憎悪じみた想いを抱きながらも空を睨んだ。今もきっとこの世界を見下しているであろうカミサマを。



 ――――――――――



 あれから数時間後。比較的壁に近い住人の避難は滞りなく終わり、住人が避難した所にはリベレーターが配置された。外が見える場所には大隊が。そこから中隊、小隊と順々に配置され、救援があれば助けに向かうと言うスタンスで戦うそうだ。

 ちなみに十七小隊は避難所とは近過ぎず遠すぎずの距離で配置された。それも建物の屋上に。これなら仮に避難所を襲撃されても何とかなるだろうか。


 しかし既に戦闘準備が整っている訳じゃない。今は配置を確認してるだけで後々渡されるちゃんとした装備を付けなきゃいけない。それも外に出る時専用の装備を。

 だからそれまでの間に銃の点検をしていると隣に座っていたリコリスから問いかけられる。


「……ユウってさ、ホントにM4A1にだけは詳しいんだね」


「まぁな。俺でも不思議でしかないんだ。どうしてこれだけ詳しいんだろうって」


 そうしてM4A1を前に掲げた。真っ黒な色彩に見慣れたフォルム。……でも、そこには違う光景も混じっている気がしてならない。既にこの銃で人を殺した。けどその時に何も感じなくて、むしろせいせいした感覚すらも抱いたのは――――。

 反射的にその先は考えたくなくて思考を閉じる。その思考から逃れる様に今度はこっちから問いかけた。


「リコリスの銃は何て名前だっけ」


「私のはM16A1。色々と取扱いが良くて重宝してるんだ~」


「あれ、でもそれって次世代型とか無かったっけ」


「あるよ。でも何年も使ってる内に愛嬌が沸いちゃってさ。離すに離せなくなっちゃった」


 そう言ってリコリスはM16A1に頬ずりする。

 確かM4カービンみたいにシリーズ化されている様な銃だった気がする。全体的な名称はM16自動小銃だっけ。アメリカ軍の主力小銃として採用され、派生型も含めて広く使われているのだとかなんとか。その色から「ブラックライフル」との異名も持つ。


 リコリスが使っているのはM16A1だけど、改良に改良を重ねたM16A4と言うのも存在した。ユウは微かな違いがあって使うのはやめたけど、改良されているのだからそっちを使えばいいのに。

 まぁ、慣れてる方が使いやすいという考えは分かるけど。

 そこまで考えた時にある程度の疑問を抱いて質問した。


「……リコリスって、戦闘経験年々目?」


「さぁ。何年に見える?」


 外見で見るのならリコリスはユウと同じ十七か十八に見える。けれど手放せない程愛嬌が沸く時間と言うのは長いはず。リコリスは若くして隊長になったのもあるし、それまでの間に戦い続けたのだろう。なら、最低でも十五か十四の頃には戦い続けてなきゃ立場上おかしい。特例があればまた別の話になるけど。

 ユウは顎に手を当てると深く考えて言った。


「ざっと五年とか」


 改良型に手を出せない程愛嬌が沸き、隊長になる程の実力を獲得する。それをやるのには五年の月日が妥当といった所だろう。小隊のリーダーでも十分エリートクラスだと言うし。

 結構いい線を行ったと思ったのだけど、リコリスはくすっと笑うとその情報はシークレットのまま非公開にする。


「どうでしょう」


「シークレットにするなら聞いた意味ないじゃん……」


「その情報はまだ解禁できないの。まぁ、その時が来たら教えるよ」


 そう言って立ち上がると街を見下ろした。今から血みどろの戦いが始まるかも知れないと言うのに、他の隊は元気そうに話し合っている。その他にも地上で待機している整備士やレジスタンス、訓練兵なんかも何かについて話していた。

 こんな光景が血みどろになるだなんて少し考えにくい。だって、みんなこんなにも楽しく話し合っているというのに。

 と、考えていると近づいて来たガリラッタ言う。


「特殊防弾ベストが人数分来たってさ。それも俺達が使うマガジン込みで」


「私達の使うマガジンって……別々なのによくそこまでしてくれたね」


「それ程俺達の事信頼してくれてるんだろ。まぁ、この街の中じゃリベレーターが唯一の主力なんだ。頑張らなきゃみんなは守れん」


「だね。じゃあ、取って来るよ」


 リコリスはそう言って腰に特殊武装を付けると飛び上がった。一見重そうに見えるけど、あれだけ軽い動きが出来るのだから少し羨ましい。重量はどうであれ。

 そんな光景を見ているとガリラッタはひとりでに喋り始める。


「……ユウ。この街を見てどう思う?」


「え? そりゃ、守りたいって思うだろ。みんなの笑顔を絶望には変えたくない」


「思う“だろ”、か」


 何か意味ありげな事でも言うのだろうか。横目で彼を見ながらも脳裏でそんな事を考える。するとガリラッタは予想通りユウに教訓にも近しい言葉を投げかけた。

 そして、この世界じゃ当たり前の言葉を。


「お前って、後悔した事あるか?」


「……あるよ。何度だって、何百回だって。逆に後悔しない人間なんかいないだろ」


「その通りだ。この世界には、後悔しない人間なんていない」


 そりゃ、こんな絶望的な世界で後悔しないなんてありえない。どれだけ貴族の立ち場に生まれようと、何もかもを思い通りに出来ない限り――――カミサマでもない限り絶対に後悔するだろう。というより、まずはこの世界に生まれた事に後悔するはずだ。だからこそみんなは必死に前を向いて生きている。

 でも、ガリラッタはまだ完全なる絶望を知らないユウに残酷な言葉を告げて。


「ユウ。よく聞け。――この笑い声が明日には土の中にあるかも知れないんだ。だから、この世界に後悔しない人間なんていない」


「…………」


 比較的平和な世界に住んでいたユウからしてみればあまりにも重く苦しい言葉。それが当たり前なのを知って尚ユウは奥歯を噛みしめた。そんな残酷な事が当たり前であるこの世界が嫌いだから。それを許容する、あのカミサマが憎かったから。


「俺は――――」


 だからその事について口を開こうとするのだけど、直後に巨大な地震が襲ってこの場にいる全員のバランスを崩させた。みんなは必死になって何かしらに抱き着いて建物から落ちないようにする。ユウも当然そうするのだけど、突如《A.F.F》の警報が鳴り響いて驚愕する。

 だって、現れた赤のウィンドウには【WARNING】と【CHORD-9.0197】と書かれていたのだから――――。


 直後。離れた所にある地面が割れてある物が飛び出した。

 工業施設の部品を所構わず継ぎ接ぎした様な見た目の、巨大なロボット。そう、推薦試験の時に現れた、超大型機械生命体が。

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