052 『変動する事態』
翌日。
ユウは起きて早々いつも通りに執務室へ行くのだけど、そこにリコリスの姿はなく机にはイシェスタが座っていた。そして彼女が事務作業をしているからリコリスはどこかにいっているのだと理解する。
何と言うか、彼女も頼まれた事は断りずらい性格なのだろう。その性格も相まって苦労人に見える。
用事だと言う事は分かっていたけど、ユウはイシェスタに問いかけた。
「……一応聞くけど、リコリスは?」
「何だか早朝に本部の方で全隊の集合命令があったそうです。リコリスさんは「大した事じゃないっしょ(声真似)」とかほざいてましたけど」
「全隊の集合命令なのにそんな軽いテンションで行ったのか……」
まだ聞いただけだけど、全小隊の集合命令と言うのが二か月に一回。全中隊の集合命令が半年に一回。全大隊の集合命令が年に一回と聞く。となれば今回の集合命令がどれだけ特例中の特例かが理解出来る。
だと言うのにそんな軽い気持ちで行くだなんて、ある意味ではリコリスらしいと言った所だろうか。
ユウは書類整理を手伝いながらも続けて問いかける。
「みんなは?」
「まだ起きてないみたいです」
「みんならしいな」
最早定番みたいなやり取りになって苦笑いを浮かべる。リコリスが特例中の特例で本部へ行ったというのに見向きもしないとは。逆にこうしてリコリスの変わりに作業をしているイシェスタがどれだけ出来る子なのかが手に取るように分かる。
彼女がいてよかった。心からそう思う。
そうしているとイシェスタのスマホにリコリスから電話が掛かって来て、すぐに通話をONにしてどういう状況なのかを聞こうとした。
しかし向こうから大声で話しかけられるから眠気も飛ぶくらいの衝撃を受ける。
「あ、リコリスさん、今――――」
『今みんな起きてたりする!?』
「おっ、起きてはないです……」
あまりのうるささに耳を掴んで音を防いだ。いや、それで聞こえるのだろうか。ケモ耳の他にも普通の耳が付いてる~とかならまた話は変わってくるのだろうけど。
するとリコリスは慌てた様子で喋り出して。
『今すぐみんなを起こして集合させて! 緊急命令!!』
「っ! 分かりました!」
でもその言葉に反応して二人は即座にスイッチを入れ替え、即行で執務室から飛び出してはみんなが寝ている部屋へと走り続けた。イシェスタはアリサを起こす為に。ユウはテスとガリラッタを起こす為に。
リコリスがあそこまで焦るって事はよほどの事があった証拠だ。
それこそメールをすればいいのに電話で集合を駆ける程の出来事が。
――――――――――
その後、ユウは起こしても起きなかった二人にゲンコツを食らわせて毛布を剥ぎ取り、ガンッガンにクーラーを効かせる事でようやく二人を執務室まで移動させた。直後にプリンの話をして目の色が変わったのは別のお話。
やがて全員が執務室に集まるとリコリスは喋り出す。
『集まったね。じゃあ単刀直入に言うけど……この街、襲撃されそうになってるの』
「「なぁっ!?」」
すると全員が全く同じ反応をする。そりゃ、この前正規軍が進軍していたのだからそんな反応になったって当然だろう。ユウも同じく驚愕して目を皿にした。
直後にガリラッタが問いかけるのだけど、どうやらユウ達が考えている事とは少し違う様子。
「それって正規軍が!? ついに!?」
『いや、襲撃って言っても正規軍じゃない。今こっちに進軍して来てるのは機械生命体だって』
「機械生命体って、何で今……」
反射的にテスがそう言うのだけど、心当たりしかないテスとユウは即座にその意図を理解した。だって昨日にその話をプレミアからされたばっかりじゃないか。
もしそうなら本当にマズい事になるかも知れない。だからこそユウは食い気味になってリコリスへ問いかけた。
「数は? ってかどうやって!?」
『手法は偵察隊が発見したみたい。でその数は……』
「数は……?」
『――約、五万』
するとその数を聞いて全員が絶句する。いや、絶句しないはずがない。だってリベレーターの総勢は訓令兵も含めて約一万といった所。十七小隊は立ち上げられたばっかりで人数もかなり少ないけど、平均で小隊は百人。中隊で五百。大隊で二千五百といった所だろう。向こうの世界とは配属人数が変わっていくのは、まぁ、色々と文化の違いって訳だろう。
だからこそ圧倒的戦力の差に絶望する。
「五万って、どっからそんな数が……」
『どうやら奴らには指揮官がいるみたいなの。今の所そいつが周囲にいた機械生命体を集めて動かしてるんじゃないかって話になってる』
プレミアが言っていた事と同じだ。自我を持った個体が他の個体を操るんだから。
そして今回の情報は偵察隊が見つけたと言っていたけど、恐らくはプレミアから流された情報だろう。それを隠すべく偵察隊の手柄にしたはずだ。と言っても確認しないまま召集する訳にはいかないから実際に偵察隊に確認して貰ったのだろうけど。
つまりプレミアは昨日の内からネットワークに潜り込んで情報を盗んだんだ。となると、ネットワークにも記載される程の作戦って事は、プレミアが言っていたアドミンとやらが指揮を取っているに違いない。だからこそ五万もの勢力を集められたはずだ。
要するにこれは奴らにとって人間に近づく為の一手。致し方ない犠牲だ。
それを分かっているからこそテスはユウを見ると一緒に頷いた。
「奴らが街に到着する予測時間は?」
『明日の早朝になるんじゃないかって言われてる』
「タイムリミットは一日か……。そこまでにどれだけ準備出来るかだな」
アリサが内容を聞くとガリラッタが即座に考え事を始める。時間的にも厳しいだろうか。一日で住人を避難させ、迎撃準備を整え、戦闘開始をするのは。
住人の移動にも動員を使うし、各隊に付いている整備士だけで襲撃の準備を整えるのも無理がある気がする。
「警報はいつ出す予定だ?」
『十時ごろだって。その頃から移動を開始するらしいから大型トラックがそっちに行く。住人を誘導してあげて』
「OK、分かった」
今は八時半。一時間半後にどれだけ準備が出来ているかが肝になるだろう。それに住人の不安もあるだろうし、どうにかして不安がないように移動させる手段を考えなくちゃ。イシェスタも同じ事を考えている様で黙り込んでいた。
でもいきなり襲撃を仕掛けるだなんて、時期的にも最悪と言うほかないだろう。だって七月は訓練兵の為に人員を使うと聞くし、その他にも多くの事で人手を使っている。とてもじゃないけど襲撃に耐えられる様な時期とは思えない。
もしそれを把握してこの季節に奇襲を仕掛けたのだとしたら。アドミンとやらはかなり高度な思考を持っている事になるだろう。それも五万の兵力を操る程の――――。
全ての機械生命体が意志の力でプログラムを破壊出来ればいいのに。反射的にそう考える。そうすることが出来たならどれだけの絶望が減らせただろう。……まぁ、考えても無駄な事なのだけど。
その後はただ無言で準備するだけの時間が過ぎた。
みんな緊張してるんだ。数多くの機械生命体と交戦する事に。
そして、この街を守れるかという不安に。
――――――――――
「来た来た。あれが運搬用のトラックだな。随分デカいこって」
「これでもここの管轄に住む住人を移動させるのは十往復もしなきゃいけないんだから、運転手も大変よね。と言っても自動運転がある訳だけど」
一時間半後、十時まであと十分と言った所だろうか。その時間になれば五台の大型トラックがやって来て、それは十七小隊の本部前で停止した。
やがて扉が開くとそこから銃をかけた一人の女性と護衛らしき武装した人達が下りて来る。一人だけ軽装という事は彼女もリベレーターなのだろうか。そう思っていると戦闘に立ったガリラッタに話しかける。
「ハロー。ナタシア総合管理局の最高責任者、ラナ・リリスカです」
「最高責任っ……。が、ガリラッタです……」
予想外の人物がやって来て軽く動揺でもしたのだろう。ガリラッタは体を硬直させながらも差し延ばされた手を握って握手を交わした。まぁ、総合管理局の一員ってだけでも凄いのにそこの最高責任者なんて言われたらそんな反応になっても当然か。
その証拠としてユウを含めた全員が驚愕する。
眩く長い金髪を赤のリボンでポニーテールに縛り、支給品の上着に赤黒い軍服を羽織っていた。そして何より十七小隊の女性陣よりも遥かに大きなモノを持っている。……その影響か出会い頭でアリサが卑下する様な視線を向けていた。
「あれ、私出会い頭に何かしちゃいました?」
「ああいえ、アレはこういう感じが平常運転なんで気にしないでください」
すると即座にガリラッタがカバーに入りつつも上手い具合にアリサの視線を遮断した。そのまま話を進めて住人の避難をどうするかで提案し合う。っていうか現地で提案するんだ……。
と、ここまでは良かったのだけど、ラナの視線が一瞬だけユウに映るとガリラッタとの会話をぶった切ってユウに急接近してくる。
「あ~! あなたが最近噂の新人君って奴ですね!」
「え、えっ?」
「管理局でも噂になってるんですよ! 大暴れして功績を全部台無しにしてる荒っぽい新人君がいるって!」
「それ悪い意味で噂になってません!?」
ま、まぁ今までの戦績を見ればそんな噂になったって仕方ないだろう。だって戦う度に損害を出しているし、一度は正規軍を捕まえたという大きな痕跡があるものの、それも今まで暴れた分と埋め合わせしてほとんどチャラになった訳だし。
しかしその噂通りだとユウが不良とかヤクザみたいな印象になるのではないか。そう考えつつも彼女の話を聞いた。
「いやぁ~、まさか十七小隊にいるとは思いませんでした。ベルファークさんがよく抜け出す訳です」
「えっ? ベルファークさんの事情知ってるんですか?」
「そりゃそうですよ。だって私が秘書ですもん」
「えっ」
その時、アルテと戦う前に出会ったベルファークとの会話を思い出す。あの時にあれだけ警戒していたのは彼女の事だったのか。何と言うか、総合管理局の最高責任者が秘書なら警戒してて当たり前な気がする。やっぱり苦労人なんだなぁと改めて認識した。
と、そんな事をしていると移動開始時間に近づき、街中にベルの音が鳴り響いた。
これから緊迫する、準備開始のベルが。
ここから後半がスタートします。
前半や第一章以上の絶望や暗めの展開が待っているので、ご期待ください!




