050 『真実かもしれない事』
「機械生命体には大体二種類の個体が存在します」
「それが自我を持ってるか持ってないか、だろ?」
「はい。その中から更に枝分かれで分岐し、一つの集団が存在するんです。機械生命体の大元……要するに機械生命体の本拠地でもある集団が」
ユウは通常の個体なら理解出来るけど、外にいる機械生命体に関しては無知にも等しい知識量だ。だからこそテスは一瞬で納得しユウは首をかしげる。まぁ、外に集団ではびこっている個体達と思って間違いないだろう。資料は筆記課題にもあったし。
でもただそれを刺してるという訳でもないらしかった。もっと大きな、機械生命体の大元になる様な、巨大な集団……。想像しただけでも鳥肌が立ってくる。
「機械生命体のネットワーク……《N.L.F》と呼ばれているソレは、その集団が管理してるんです。無数の機械生命体で構成され、王国とも呼べる規模の巨大な組織――――アドミンに」
「アドミン、ねぇ」
それって確かアドミニストレータとかいう最高権限保持者の短縮名だったっけ。よくパソコンとかで使われる名前だったはず。要するにネットワークの最高権限者って言いたいのだろう。
機械生命体の王国。聞いただけだと絶対にロクでもない組織なのは確定的だ。
「ですからアドミンは《N.L.F》を完全にとは言わない物の管理してるんです。他の機械生命体から送られて来る大量の情報を処理し、いる物といらない物で分け、本物の知性に近づこうとしてます」
「要するにアドミンって奴らは基本的に他の機械生命体が拾って来る情報を集めて人間になろうとしてる。でいいんだよな?」
「その認識で大丈夫です」
機械が人間になる。その言葉は哲学的でユウが理解出来る物ではなかった。機械は機械。人間は人間。それしか考える事が出来ないから。
でも自我があるからこそ何かに近づこうとする。その意志は出来る気がした。
やがてプレミアは続けて言う。
「でもそれだけじゃ足りないんです。機械生命体が欲しがっているのは人類の記録。根源から現在に至るまでの全て。あとそれだけが足りないんです。だから機械生命体は人類を攻撃して――――」
「待て待て! それじゃあさっきと話が違わなくないか!? だってさっき、プレミアは人類が攻撃したからって……」
しかしテスはプレミアを黙らせると説明を求めた。
確かにプレミアはさっき人類が攻撃したから機械生命体も敵対したと言った。でもそれじゃあ今の説明とは噛み合わない。まぁ、ある程度の解釈は存在するけど。
するとその疑問に合わせても解説してくれる。
「それもあります。でも、自我があるからこそ人間に近づこうとしたんです。自分達を生み出した『創造主』は人間である。そう思い込んでますから」
「……子は親に似るってヤツか?」
「そういうヤツです」
「親子以前に何もかもが違うんですけど……」
さり気なくそうツッコみつつも説明を聞き続ける。
子が親を真似て近づこうとするのはよくある事だ。だからこそ機械生命体もそうしてるんだろう。誕生が書かれてないからこそ憶測で仮説を立て、空想上の親に近づこうとする。……何と言うか、可哀想だ。
しかしプレミアが言いたい事は理解出来た。
「人類の記録を取る為に攻撃する。それでいいんだよな」
「はい。ネットワークに接続してないので完全には理解出来ませんが、それで間違いないと思います」
「じゃあ奴らが人を食うのは?」
「恐らく、人の体を構成する為のデータを取る為かと……」
まだ恐らくの範疇ではあるけど、結果的にあの仮説は正しかった訳だ。要するに人を食うのは人の形を作る為にデータとして記録し、ネットワークにデータを送信する。そうして人に関しての情報を集めていたのだろう。それをアドミンが管理していると。
しかしそれだけでは足りないからこそ人類に攻撃を仕掛けて根幹に関する情報を集めようとする……。そう言う事のはず。
なら交渉でもすればいいじゃないか。そうすれば互いに犠牲を出さずに済み、上手く行けば和解だって出来るかも知れないのに。テスも同じ考えに至ったようで、ユウと似た言葉でプレミアに質問した。
けれどプレミアからの返答は残酷な物で。
「じゃあ話し合いで解決すればいい話だろ。別に強硬手段を取らなくたって――――」
「それが無理なんです。不可能なんです。当初はどうだったか分かりません。でも――――今は、自我で規則を破った個体以外は、全ての個体に根幹から人類を攻撃するようプログラミングされているんです」
根幹から。という事は全ての機械生命体が自我に目覚めない限りこの戦いは終わらないんだろう。そう知らされて二人は絶句する。
一体どうして。誰が何の為に。その考えは当然辿り着くべき思考だった。
「それは、誰が?」
「分かりません。ただ一つ言える事は、自我を持ちかつ全ての個体を操作できる権限を持った存在がいる事だけです。私達が呼ぶ『創造主』にも近しい存在が」
「創造主……」
機械生命体を作った張本人って事だろうか。それなら納得できなくもない。まぁ、もし本当ならその人の思考を理解する様な事は絶対にないだろうけど。というより理解したくもない。
しかし人間の寿命は有限。仮に創造主が人間だとしても既に死んでいるはずだ。となるとやっぱりそれに代わる個体がいるのか、はたまたその人が機械生命体にすり替わったのか。こんな世界観なのだからそれくらいやって見せてもおかしくなさそうだ。
「プレミアはその内の“一人”って事だよな。それで、こうしてるって事は……」
「はい。私は機械生命体の中でも特殊な個体になります。彼らにとっては脅威以外の何物でもないでしょう。ですから、私はこう言われています。“番外個体”と」
結束の中から抜けて情報を横流しされる危険性がある。それは他の個体にとって厄介な物だろう。リベレーターの中にスパイがいる様な物なのだから。
するとプレミアがどれだけ危ない立ち位置にいるのかを見抜いたテスは問いかける。
「あれ、でもプレミアはネットワークに接続できるんだよな? 今は切っていたとしてもネットワークに繋いだらハッキングとか……」
「当然受けます。私は最優先破壊対象ですから、ネットワークに接続された瞬間に無数の個体が私に牙を剥きます。その中で隠れながらデータを集めているんです。ここにいる個体は全て同じ扱いを受けてますから」
「なるほどな。データ一つ抜き取るだけでも命懸けって訳か」
話し方からして今までも数々のデータをリベレーターに流しているはずだ。そのおかげで救えた命も多いはず。
でも、いくらここに住まわせてもらう為とはいえそこまでの危険を冒すだなんて、少々優しすぎではないだろうか。更に生産物も渡していると言っていたし、自分だけにしか被害が行かないのは承知の上でも、やっぱりただ目的の為じゃない気がする。
だからこそ問いかけた。
「なぁ、プレミア。一つだけ聞きたい事があるんだ」
「何でしょう?」
「どうしてそこまでして貢献するんだ。だって、住むだけなら何度も危険を冒す必要はない。それなのにどうして――――」
「私の意志で危険を冒してるんです。私の選択で、創造主に抗ってるんです」
しかし帰って来たのは力強い言葉。それを聞いてユウは黙り込んだ。
自らの意志と選択で。言う事自体は簡単でも決して簡単な事ではないだろう。だってそれは世界を敵に回すと言ってるのと何ら変わらないのだから。
それに根底からプログラミングされているのにプレミアは平気という事は、自我の力……つまり自分の意志だけでそのプログラムを破ったという事になる。
自分を縛り付ける物から自力での脱出。それは途方もない努力を必要としたはずだ。逆に言えばプレミアはそのプログラムに逆らえる程の優しさを持ち合わせるっていう事になる。人類が自分達にどんな感情を向けているかも理解しているのに、恨まれているのに、それでも人類を手助けしたいと思える程。
「……私も最初は自我の無い個体と同じでした。自我のある個体に従い、人を殺し続けるだけの存在。でも、ある日不思議な光景を見たんです」
「不思議な光景?」
「見た事ない光景でした。一面に美しい花が咲き誇る花園に佇み、目の前には古ぼけた遺跡と誰かが佇んでいるんです。そして彼女はこう言いました。――君は何色だと。その瞬間、私に自我が芽生えたんです」
「…………」
聞いただけじゃそこまで想像できない言葉だ。光景自体は脳裏に浮かぶものの、無機質な物から突然自我が芽生える感覚。それだけは共感する事が出来なかった。
しかし“彼女”というのは誰なのか……。
テスも同じことを考えた。
「彼女? って事はその人が機械生命体の創造主なのか……?」
「よくある展開じゃそのパターンが多いけどな。プレミアはどう思った?」
「分からない、です。創造主にしてはそれらしいオーラもなく、別の存在だとしても何かが違いました。ただ覚えてる事は、その人が凄く優しかった事だけ」
「優しい、ねぇ」
機械生命体に関しての情報は皆無にも等しい。だからこそ今はプレミアの情報を真実として信じるしかなかった。
きっとプレミアはこういう情報や奴らが立ている作戦をリベレーター……もといベルファークに流しているのだろう。それをここで知れるだなんて普通なら豪運過ぎる展開だ。
――その人が創造主ならどうして……。何でプレミアにコンタクトを……?
謎は謎のまま終わってしまう。だからユウの思考は途中で立ち止まってしまう。それはテスも同じ様で、深く考えては断念した様だった。
やがてユウ達の元にやってきたメールで今が任務中なのを思い出す。
「メール? 誰からだ――――ってまずっ!?」
「あああああああっ!?」
飛んで来たメールは今回依頼を出して来た小隊のリーダーからで、作戦は無事に終わったとの報告を受けた。だからそれを見て慌てた二人は急いで立ち上がっては準備を整える。GPSでどこにいたかなんて事にはならないだろうけど、サボっていた事がバレたら一大事どころじゃ済まされないだろうから。
テスは荷物から紙を取ってこの世界の文字を書くとプレミアの頭をおもりに気づかれやすい所に置く。
「えっ、テスさん?」
「悪い。俺達任務中だったんだ! またな!!」
そう言って銃を持つと一気に森の中を走り始めて集合地点まで急ぐ。機械生命体に会っていただなんてバレたら場合によっちゃ終身刑もあり得る。だって人類の敵と友好的に接していた訳なのだから。
……幸い、バレる事はなかったもののサボっていたという認識になり少しだけ怒られたのは別の話。そしてその話を聞いたリコリスからもっと怒られたのは更に別の話だ。




