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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter2 始まりの刻限
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049  『プレミアの対策』

「ど、どうしよコレ……」


「どうしようっておま……どうする?」


 テスがプレミアの頭を拾うとユウが問いかけ、彼はえらく視線を泳がせながらもそう返した。こんな状況になったのはテスも初めてだったらしく、急な展開に戸惑っている様だった。

 とりあえずプレミアの体を見ると配線からぽっくり行ってる事に驚愕する。

 やがてテスは焦り散らかしながらもプレミアの頭を持って胴体に無理やりねじ込もうとした。いや、明らかに無理でしょ。


「も、もしかしたらコレくっ付けただけで案外治るんじゃないか? ほら、外れた時も結構簡単に外れ―――――」


 しかし激しい電撃音と共に機械系が出しちゃいけない音を出して二人の身体が硬直する。そりゃ導線がバチバチいってる所に無理やりねじ込めばショートするのも当然だ。

 だからテスは更に焦ると木のちょっとした間に頭を突っ込んで現実逃避をし始める。


「テス。これって……」


「落ち着けユウ。とっ、とと、とりあえずタイムマシンに……」


「お前が落ち着け!」


 そうして木の間からタイムマシンに乗ろうとするテスを引っこ抜くとどうするべきかを考える。流石に友好的な村で村長を殺したなんてバレたら一大事どころじゃ済まされないだろう。だってリーダーが殺されるのだから、ここにいる機械生命体も敵対する可能性が高い。

 だからといってどうにかなりそうな訳がなくて。


「いつもガリラッタとかとつるんでるんだからなんかこう、配線の治し方とか知らないの?」


「知らん!」


「誇るなぁッ!」


 問いかけるとドヤ顔で答えるからツッコミとしてビンタを食らわせる。ならどうにかして誤魔化すしかないけど、どうやって誤魔化すか……。と考え始めた時に体が動かないんだからどうしようもないという結論に至る。

 あ、終わった、コレ。


 するとテスは何かいいアイデアでも浮かんだかのようにポンと手を叩いて周囲を見渡した。そして村のみんなが集めたと思われるガラクタの中からある物を取り出すとユウに手渡す。


「あ、そうだ! えっと……ユウ、これでどうだ!」


「これって……」


「鹿マスクだ」


「無理があるわ!」


 渡されたのは鹿マスク。いや、流石に無理があり過ぎるでしょ……。そんな呆れたユウを放って置きテスは一緒に置いてあった棒などと組み合わせるとプレミアの胴体に被せる。

 そして安定化させると自分に言い聞かせた。


「ほい出来た」


「無理ある! 流石に無理ある!」


「そんな事ねぇよ。ほら、何かプレミアってこんな顔してたろ?」


「言い聞かせにも程がある!」


 灰色の胴体にもっさもさの毛並。ハッキリ言ってありえない組み合わせだ。言い聞かせにも程があるけど、テスはこの状況を乗り切る為に信じ込んだ。

 けれどユウは鹿マスクを取ると言う。


「もっと別の物で代用しろよ! なんかこう、もっと別の!」


「じゃあこれで」


 そうして渡されたのは熊マスク。確かにさっきよりは黒くなったし近づいたけど、それでも熊の顔を機械生命体の胴体にぶっさすのはいかなものか……。

 だからツッコミを入れながらも熊マスクを投げ捨てた。


「そう言う問題じゃないから! 色寄せただけじゃん!」


「だって近くにはそれくらいしかないし……」


「ないの!?」


 改めて周囲を見てみるも確かに代用品みたいな物は存在する。どこからか集めて来たのか、錆びた機械生命体の腕や足のパーツは見つかるけど、プレミアと同じ頭をしたパーツだけは見当たらなかった。

 となればいっその事元の顔を突っ込んで誤魔化しか道はないか。

 そう考えていれば木の陰から声が聞こえてビクッと体を震わせる。


「あの~、大丈夫ですか」


「「っ!?」」


「おいどうすんだよユウ! あとパス!!」


「ふぇっ!? どうするって、え~っと、その~……!」


 迷っていると足音は次第と近づいて来る。だから二人で迷いながらもこの場をどう切り抜けるかと必死に考えた。

 さすがに隠さないとマズい。だからこそユウは強硬手段に出た。体を大きく仰け反らせて両腕を天に掲げ、そして息を止めた瞬間にソレをプレミアの胴体に突き刺した。


「大きな音がしましたけ――――」


「おるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」


 それによって鹿マスクをぶっ刺されたプレミアが完成する。テスは一応プレミアの顔を背中に隠すと尋常じゃない冷や汗を掻きながら立ち尽くした。

 やがて別の個体がひょこっと顔を覗かせると真っ先に鹿マスクが視界に入る。


「……プレミア、様?」


「そ、そうだけど、どうしたんだ?」


「いえ。ここまで毛皮の多い姿でしたかと……」


「よく見てみろ、元からこんな顔だったろ。記憶領域にバグでも起こってるんじゃないか? 俺の知り合いに詳しい奴がいるから、今度紹介してあげるよ」


「そうですか。会ったばかりなのに、ありがとうございます!」


 ――誤魔化せてる!?


 記憶領域のせいにするのはどうかと思うけど、まぁ、上手く行ってるからいか。実際当人からしたらそう言われちゃ信じるしかないのだろうし。

 だからユウはその流れで動かなくなったプレミアの体を持ちあげようとすると苦笑いを浮かべながらも言った。


「と、とりあえず俺達はまだ話とか色々する予定だから、まだ――――」


 しかしもっと驚愕する事が起ったのはこれからだ。だって顔を引っこ抜かれて動かなくなったはずなのに、何事もなかったかのように歩き出してその場から離れていくのだから。そんな現象が起こるだなんて知らなかった二人は呆け顔で硬直する。


「あれ、もういいんですか?」


 そう問いかけるとプレミアは頷いた。いや、ほんとに鹿マスクに何とも思わないのか……。と思っているとプレミアは別の個体と共に家の方まで歩いて行った。だから取り残されたユウとテスはそこに立ち尽くす。

 次に取れたプレミアの頭を見ると呟いた。


「……どうしよ、これ」


「捨てる訳にもいかないし、放っとく訳にもいかないしな……」


 身体が行ってしまった以上今だけはくっ付ける訳にはいかないだろう。ああして誤魔化したんだから「頭落ちましたよ~!」作戦も意味ないはず。となるとどうにかしてまた接触しなくてはいけない。じゃあその接触の仕方だが……そもそもの話として街中から機械生命体のパーツを持ち帰っちゃ問題になりかねない。たった今どうにかしないと。

 そう考えていればプレミアは顔だけの状態で話し始める。


「何とかして直さな――――」


「それなら良い方法がありますよ」


「そっか。それなら助か……えっ」


 手元から聞こえた声に二人で視線を向ける。するとテスの手に握られたプテミアの顔は瞳が軽く光り、まだ電源が生きている事を表していた。けれど顔だけになって配線も外れたんだから機械生命体は生きていけないはず。それなのにどうして。

 そんな疑問が浮かぶのだけど、それよりも早く二人は驚愕する。


「「しゃっ、喋った―――――――ッ!?」」


 即行で裏返すと配線を確認する。しかし雑に切れた配線からは今だ火花がバチバチしていて、明らかに機械がしてはいけない状態まで陥っていた。

 でももう一回裏返すとプレミアの眼は輝いていて。何だかもう訳が分からない展開になって来た事に二人して戸惑う。そうしているとプレミアは話しかけた。


「あの、大丈夫ですか?」


「それはこっちの台詞だ! だっておまっ、配線! 普通にバチバチ言ってるぞ!!」


「ああ、これですか? 実は頭に内臓バッテリーがあるので大丈夫なんです。それに記憶メモリも生きてるようですし」


「だからってこの姿は……」


「私達、基本的にバックアップが取れないのでこうなっても言い様に自分で改造してるんですよ。電源が無くなっても記憶メモリさえ無事なら何とかなりますし」


 プレミアはさぞこれが当たり前ですよみたいな話し方で喋る。いやまあ納得できなくはないのだけど、頭の方に内臓バッテリーを仕込むって、よくやったものだ。人間でいう脳みそに生命維持装置をぶち込むようなものなのだから。

 人とそんなに関われない以上自分達で行ったはず。よく脳を弄り回す様な度胸があったなと逆に感心する。


 とりあえずプレミアが生きている事に全力で安堵するけど、話はこれで終わらない。今は鹿マスクで誤魔化している物の、いつかは交換しなきゃいけないのだ。ならそれをどうするかだけど……。

 そう考えているとプレミアはさっきの続きを話し出す。


「で、続きですけど、私の家まで潜り込む事が出来れば何とかなるはずです」


「プレミアの家?」


「はい。私達は普通の人間と同じように家に住んでメンテナンスをしたりして過ごしてるんです。ですから、私の家に潜り込み、この顔を棚の上に置く事が出来れば代用パーツとして……」


「なるほど。そう言う事か」


 プレミアの言う事には納得できる。しかしそこに辿り着くまでに隠れられる所はなさそうだからどうにかして潜り込まなきゃいけない。と、そこでユウはごく一般的な考えを閃いた。


「じゃあこういうのはどうだ? 名付けて、「これプレミアの代用に使ってください」作戦!」


「要するにプレミアの代用パーツとしてこの顔を渡すって事か。作戦名は却下だけど一番やりやすい手法としてはそれくらいしかないか」


 さり気なく作戦名を却下されながらも作戦自体は肯定される。だから一安心しつつも続々と作戦を立てる。まぁ、それらは落ち着いていれば普通に出た作戦なのだけど。

 そうしてプレミアの頭を渡す方法を考え終ると、二人はこの場の機械生命体を敵に回さなくて済む方法に安堵のため息をついた。流石にここの機械生命体まで敵にまわしちゃ大変な事になるだろうから。


 やがて少しばかりの余裕が出来ると状況にも対応し始め、ようやく完全に現実を認める事が出来る。だからこそテスは問いかけた。さっき問いかけようとしたことを。


「……悪いけどプレミア、一つだけ聞きたい事があるんだ」


「さっきの事、ですよね」


「ああ。――作戦を知ってるって話だ。」


 するとプレミアは少しの間黙り込んだ。バッテリーが残り少ないって言うのなら今すぐにでも作戦を実行しに行くけど、余裕があるのならそれを知りたい。だってそれを知る事が出来れば、機械生命体の事を理解出来ずとも作戦の意図は知れるはずだから。

 リベレーターに横流ししてる情報とはそれらの事なのだろう。リベレーターが隠している辺り機密事項的な扱いなのは確実。プレミアもそれを理解しているはずだ。

 それなのに話してくれた。奴らが何を考えているのか。


「……それを話すのなら、まずは私達とは別の個体を話さなければいけません」


 だから解説し始める。機械生命体がどんな存在で、何をしようとしているのかを。

 もしかしたら真実の手掛かりにもなるかも知れない情報を――――。

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