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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter2 始まりの刻限
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048  『友好的な機械』

 機械生命体の全て。そう問いかけた時、プレミアは黙り込んだ。そして聞いていたテスも同じく黙ってはプレミアの反応を見る。

 けれど黙ったまま答えない。考える為に思考回路を使っているのだろうか。

 やがて、しばらくたった後にプレミアは答えた。


「全てと言うのは、誕生から現在までですか?」


「そうだ」


「……なら、すいません。私達のデータにもネットワークにも、誕生した瞬間は記録されてないのです」


「え?」


 けれど変って来たのは予想とは違った受け答え。それに困惑した。だって機械生命体なら自身の誕生を理解していてもおかしくないし、ネットワークがあるのなら余計におかしな事になるのだけど、何でそんな答えがでたのだろう。

 その答えは単純だった。


「機械生命体にネットワーク……? ならその情報があってもおかしくないはずだろ」


「……消されてるんです。その項目だけが真っ白に」


 ネットワークがどういう構造化は分からない。でもパソコンと同じ原理ならかなりの大問題になるのではないか。自我を持つ機械生命体がいる中で自分達の誕生が載っていないなんて、そんな事は管理者でもない限りありえないはずだ。

 プレミアは続けて言う。


「でも、その項目には代わりにこう書いてあります。【『創造主』に栄光あれ】と」


「創造主……」


 それが機械生命体を作った人なのか、はたまた精霊とかカミサマとかを差しているのかは分からない。ただ一つだけ分かる事は、こんな事になるのを知っていて作っているはずなのだからかなり性根の腐っているヤツだという事だけだった。

 テスの治療に専念しながらも続ける。


「じゃあ機械生命体が作られた理由は?」


「それも同じ文章で埋まってます」


「なら作られた場所……もきっと同じ文だよな」


「すいません……」


 さっきの会話でプレミアが嘘を付ける様な立場にはないと判断したからこそ、二人はその反応を信じ込んだ。といっても機械生命体の事が分かった訳じゃないのだけど。

 根幹に関する事は全て削除され一定の文に置き換わる。それをやった人……いや、恐らくモノの考えは全く読めない。洗脳教育でもしたいのか不都合な事でもあるのだろうか。


 まぁ、プロのハッカーもいるのだからそこら辺は本当に情報があれば全て解決している事だろう。更にプレミアが機械生命体のネットワークに接続出来てかつリベレーターに情報を受け流ししてるのだから。だからこそ本当に情報がないんだって事が分かる。

 誰が何の目的でそうしたのか――――。

 やがて二人で顔を合わせると質問を変えた。


「じゃあ、どうしてプレミアは平和を好んでるんだ? 見た所特別って訳でもないし、他の機械生命体と一緒の様に見えるけど……」


「それは私に自我があるから、としか説明のしようがないです」


 AIに自我なんてない。そう思っていたからこそそう聞くと反発しそうになってしまう。でもこの世界の技術が向こうの世界よりも遥かに高い事は事実だ。それくらいやって見せたって違和感はない……のか?

 するとテスが間髪入れず疑問を提示する。


「偏に自我って言うけど、そんな事ありえるのか? いやまぁ、プレミアからは本当に自我がある様に見えるけど、機械生命体に自我なんて……」


「それがありえるんです。私以外にも自我を開花させている個体は数多くいますから。自我を持たない個体は自我を持つ個体に従う。そういうジンクスが組まれてるんです」


「って事は、たまに集団でいる機械生命体達は全てが自我を持つ個体の支配下にあるって事なのか?」


「そう言う事になります」


 となると推薦試験の時に見たあの集団は自我を持った個体の元に集ったのだろう。何とも厄介なジンクスである事か。

 指揮系統が生きている以上相手の取る作戦はより高度な物になる。雨の日に囲まれたのもそう言う事なのだろう。ユウ達の進行先を誘導して罠にハメたと。


「でも肝心の自我はどうやって開花するんだ? 何かトリガーでもあるのか、偶然?」


「その理由は明確ではありません。今の所ただの確率となってますが……」


「なるほど。となるとその確立とやらは大きそうだな」


「ええ。ネットワークの情報には約五十%の確率らしいです」


「ごじゅっ!?」


 プレミアがそう言った途端に二人で驚愕する。だって本当にその確率なら一万体のうち五千体が自我を持っているという事になる。そうなると残った五千体が自我を持った個体に集い、運が悪い場合は一つの街が作られる可能性だって――――。

 それから先は考えたくもなかった。だから思考を無理やり断ち切り説明の続きを聞いた。


 しかしその時からプレミアは動きを止め、少しの間だけ制止する。名前を呼んでも反応はなく、ようやく動いたと思えばプレミアは空を見つめ、黄昏るような眼差しで大空を見つめた。

 それもかなり不可解な事を。


「……自我が芽生えてから時々思う事があるんです」


「何だ?」


「自分の中にもう一つの何かがいてたまらない。自分が、何かの複製体である気がしてたまらないんです」


「「…………」」


 ユウとテスはどう反応していいのかも分からずに黙り込んだ。

 あまりにも高性能な故に自我が目覚めるという原理なら理解出来なくもない。自分を個別の存在だと理解するのは、自我にも等しい事のはずだから。

 けれど複製体だからこそ自我が芽生えるのならそっちの方が納得出来る様な――――。


「自我のあったデータを元に機械生命体を作った。……どうかな」


「可能性はゼロにも等しい。もしそうなら原点はどうして自我を芽生えさせたって話になるからな」


 それを聞いて憶測を立てるのだけど、テスは即座に否定しては理由まで説明してくれる。けれどこれくらいしか理由を説明出来ないのも確かだ。

 まぁ、テスの言う事も一理あるけど。

 やっぱり最終的には全ての謎は鶏が先か雛が先かに行きつくんだ。


「元々、機械生命体の誕生自体が分からないんじゃ考察のしようがない。せめて意図さえ分かればいいんだけどな……」


 テスはそう言いながらも額を押さえる。

 この世界の一般的な認識じゃ機械生命体は人類を攻撃する為に作られたと言われている。一応、【何処かの誰かが敵対する所を見て勝手に決めつけた】と補足は入っているが。

 しかしあの姿を見るとそうにしか見えない。人を見つけ次第殺し、食らい、取り込む。その光景はまさに人類を滅ぼす為だけに作られた様に見えるから。

 でもプレミアは言って。


「これは私の推測ですが、一つだけ可能性があります」


「お、推測でもいい。聞かせてくれ」


「……機械生命体の製作意図なんて、無かったんじゃないかなって」


 だからそう言った瞬間に二人で黙り込んだ。あの光景を見て意味がないとは思えない。だって、奴らは確実に人類を滅ぼす気満々で、ユウも「ニンゲン、コロス」という感情も何もない言葉を聞いた。なのにどうして。

 自身のデータを参考にしながらもプレミアは考える。


「元々、機械生命体は何の意図もなく作られた。けれど人間が攻撃した事で機械生命体は人類に攻撃をはじめ、敵対したんじゃないかと……」


「つまりプレミアは人間のせいって言いたいんだな」


「あいや、そういう……訳でもないというかそう言いたい事はあるんですけどそれは違うと言うか……」


「あー、別に怒ってる訳じゃないから大丈夫だ」


 テスはそう言いながらもプレミアを落ち着かせる。

 もしその通りだと言うのなら納得はできなくもない。だって未知の物を見れば警戒するだろうし、場合によっては攻撃するかも知れないから。


 機械生命体が現れたのは剣と魔法の時代での話。今となってはメカメカしい見た目は世界観もあり馴染んでいるものの、ファンタジー全開だったはずの当時じゃかなり異質な存在だった事に間違いないだろう。だからこそ攻撃してしまい現在まで敵対が続いている――――。

 理解出来る様な、出来ないような微妙なラインだ。


「でもユウより説得力があるのは確かだ」


「ちょっ」


「そのデータが存在しない分あやふやになるのは仕方ないとして、それならこの世界の基板が作られた理由も分からんでもない。機械生命体に対抗する為に人類がこうなったように、機械生命体も対抗する為にああなったって説明になるんだから」


 まぁ、その通りである。自我があるのなら死にたくないと考えるのは当然の事なのだから、機械生命体も殺されない様に強くならなきゃいけない。そんないたちごっこが重なり合って今の世界が作られたのだろう。と言っても今の世界は感染者とか正規軍とか、様々な脅威が蔓延っているのだけど。

 あらかたテスの治療を済ませると彼は問いかけた。


「……さっき、ネットワークって言ったよな」


「はい」


「って事はプレミアは機械生命体の情報が集まるネットワークに接続できるって事でいいんだよな」


「その通りです。そして、その中には機械生命体が組んでいる作戦概要も乗ってるんです」


「っ!?」


 するとテスは包帯を巻いていたユウをそっちのけで動きだし、痛むはずなのに立ち上がってはプレミアの肩をガッシリと掴んだ。そして何度も大きく揺らしながらも問いかける。

 のだけど……。


「じゃ、じゃあプレミアは奴らが行おうとしてる事を知ってるんだな!?」


「そっ、そう言う事になりますけど、あの、いったん止めてもらってもいいですか!? この体古いので激しくされると―――――あっ」


 言葉が途切れた瞬間からプレミアの頭はポーンと吹き飛んで木にぶち当たり、ガシャガシャと機械にとって鳴ってはいけない音を立てながらも地面に落ちた。それも所々をへこませながら。

 だから二人の時間が一時的に制止する。真っ白になりつつもようやく頭が状況を理解すると取り返しのつかない事をしてしまったと自覚して――――。


 二人して大きく口を開けて絶句した。

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