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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter2 始まりの刻限
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046  『気になる謎』

「それじゃあ、行って来るよ」


「いってら~」


 準備を整えてそう言うとガリラッタから軽く返される。みんなは予定があるからユウとテスを選んだと思っていたのに、意外と暇そうなみんなは二人を見送りしてくれていた。それだったらユウじゃなくアリサとかでもいいはずなのに。

 未だ重く感じる武装を背負うと本部の入り口を出て行こうとした。――しかし、その瞬間にアリサから声をかけて止められる。


「あ、待って」


「ん……なに?」


「ユウ。ちょっとこっち来てくれないかしら」


「おや、アリサが自らユウを指名とは珍しい」


「余計な事言うな」


 そんな会話をしつつもユウはアリサに連れられて執務室まで連れて行かれる。今から出発と言う時なのに何の用だろう。そう思っていると扉を閉めたアリサは小さく呟いた。それも、ユウにとっては少し不可解な言葉を。


「流石にないとは思うけど、一応言っておくことがあるのよ」


「ああ」


「――もし任務中に正規軍が介入して来て大きな戦闘になったら、絶対にテスに指揮権を渡さないで」


「え……」


 そう言われてユウは黙り込んだ。だって、ユウはまだ戦闘経験もみんなと比べて最善の判断を出来ないかもしれないのだから。実際その件で前に叱られたばかりだし。だからこそどうしてそんな事を言うのか不思議でならなかった。

 二人のスペックを見ればテスの方が断然上。判断力も戦闘力も桁違いだ。それなのになぜ……。そんな疑問はまたもや理解出来ない言葉で明かされる。


「それ、どういう事だよ。何でテスが――――」


「詳しくはまだ言えない。でも、もしそうなったら絶対にあいつに指揮権を握らせないで。分かった?」


「……分かった」


 もちろん理解なんて出来ない。疑問ばかりだし謎は残り、質問だってしたかった。けれど今はいずれ明かされると信じて頷いた。

 テスがどんな過去を持ってるかなんて分からない。この世界じゃ壮絶な過去を持ってる事は当たり前みたいな感じなのだから。


 言えないという事は本人が隠しているか、ユウに言うのはまだ早いって事なのだろう。もし後者ならユウの想像以上に残酷な過去がある事に――――。

 踏み込む領域じゃない。そう言い聞かせて入口へと戻って行った。


「お、結構短かったな。何話してたんだ?」


「何てことないよ。暴れるなって釘刺されただけ。銃口突き付けられながらな」


「えげつない事するんだな……」


 そう説明すると全員が引いた目線を彼女に向ける。のだけど、そこら辺はアリサだからか、みんなはすぐに視線を直しながらもユウとテスに手を振った。

 なんか、みんながそう言うのに慣れてる事にある種の恐怖を感じて来る。いずれはユウもなれるんだろうなぁとか思いつつもテスと一緒に目標地点へと向かった。ユウにとっては初めての合同任務を遂行する為に。



 ――――――――――



 既にあれから数時間が過ぎた。ユウとテスはとっくのとうに任務を開始していて、指定された区域を巡回し続ける。怪しい所は隅から隅まで探索するのだから本物の警察になっている気分だ。と言ってもリベレーター自体が警察みたいな物なのだけど。

 定期的に入る状況報告では既に何人かを逮捕したとの報告が入っていた。ギャングみたいな奴らからただの荒くれ者まで様々の様子。


 しかしまだ犯罪者集団が捕まったと言う報告はない。資料には犯罪者集団の名前や人数がしっかりと載ってると言うのに。という事は少なくともユウ達が巡回している可能性が高い。だから二人の間で緊張感は高まっていた。

 のだけどそんな最中にテスが問いかけて来て。


「さっきから落ち着かないんだな」


「そりゃ、俺達の巡回する所に犯罪者集団がいると思うと――――」


「そこじゃない」


 やっぱりテスなら見抜いて当然か。ユウがテスの過去について知りたい事くらい。

 彼は立ち止まって振り返ったユウを見ると真剣な眼差しで見つめて来る。蒼色の瞳が一直線に漆黒の瞳を捉えていた。


「ユウ。お前、何か気になってる事でもあるのか?」


「……どうしてそう思う?」


「だって今のお前は明らかに今までとは違う。今まではのほほんとして大人しかったけど、今は何かを気にかけてる。だからそう思った」


 思ってはいたけど、そう言うのって隠してるつもりでも仕草に出るものなんだ。そう思いながらも図星だった事に少しだけ面を食らう。

 テスに気づかれてしまった以上もう隠し事は出来ないだろう。しかしまだ互いを理解しきってない中で過去や重大な所に踏み込むと言うのは不用心すぎるのではないのか。


 ここでテスに過去を聞くのか怪しまれるのを覚悟で嘘を貫き通すか。どうしてテスに指揮権を握らせ手をいけないのか、それを早く解明させたい。でも、それをする為にはユウが聞くには早い情報のはず。それを今聞いていいはずがない。

 だからユウは口を開いた。


「俺は――――」


 しかし突如聞こえた悲鳴に反応して咄嗟に振り返った。そして同時に走り始めると全力で悲鳴が上がった所まで走り始める。

 そう言えばこの前もこんな感じで始まったよなぁ、なんて思いながら全力疾走していると座り込んでいる女性がいて、テスは真っ先に女性に駆け寄るとユウは周囲を警戒した。


「どうしました?」


「き、急に男の人が出て来て、それでバックを……。あっちの方に……」


「ユウ!」


「おーけー!」


 するとテスが短く叫び、追尾しろという合図と共にユウは武装を展開して走り始めた。裏路地でも直線状なら武装が仕えるのだけど、どうなのだろう。

 そうして建物の裏側に入り込むと確かに人影が逃げる所を捉え、ユウはその後を追って建物の角を曲がった。


 ――これはアレをやるチャンス……!


 そう思いながらも動きを最小限に抑えて後を追う。けれどある程度まで進めば彼は行き止まりに直面してしまい、慣れてない様子の裏路地に戸惑い果てた。

 だからこそユウは滑り込むように現れるととあるポーズを決めた。

 右腕を下げ、左手で腕章を相手に見えるよう横に引っ張る。そしてあの台詞を放った。


「リベレーターですの! どうぞ大人しくお縄――――にぃっ!?」


 しかしその台詞は投げつけられたナイフによって強制中断される。男は腰からもう二本のナイフを持つとかなりの手際で投げつけ、的確に剣先をユウのいた所へ命中させた。それも一本に至ってはコンクリートの壁に突き刺さる程の鋭さで。

 だから即座に態勢を変えて銃を持つと男は距離を詰める。


 ――銃の対処法も知ってるのか!


 一体どれだけのナイフを持っているのか、また腰からナイフを取り出すと巧みに操っては指先で回転させながらも連続で攻撃した。抵抗するのなら無力化してもいい。その言葉を思い出して後転するついでに片方のナイフを弾き、腰から剣を取り出して電撃を発生させた。


「なっ、電!?」


「おらぁッ!!」


 そうして思いっきり振りかぶると大量の電撃は周囲を迸り、コンクリートの壁を削りながらも壁を伝い地面を伝い、磁力の強さで砂鉄や鉄部品を浮かせながらも敵を丸焦げにする。

 するとちょうど轟音を聞いたテスが駆けつけるのだけど、その場を見て少しだけ硬直した。


「ユウ、大丈、夫……みたいだな……」


 たった一撃で沈んだ敵と抉れた壁を見て呆然とする。抉れるといっても銃弾が壁に当たった程度だし、前みたいに大きく抉れている訳じゃないから大丈夫、なはずだ。

 やがてテスは腰のポケットから手錠を取り出すと倒れている人の手にかけて小さいパイプにもう片方を繋げた。次にスマホを取り出すとレジスタンスに連絡を入れ、《A.F.F》の熱源探知などを使って索敵を始めた。


「とりあえずこいつはこれで大丈夫だろ。他に誰かいるかもしれない。探し出すぞ」


「ああ」


 ユウも同じくマッピング機能を使って周囲の地形を把握する。そこから隠れるならどこがいいだろうと考え始めた。

 と思っていたのだけど、建物の陰から何かがこっちを覗くのを見付けて即座に追いかけた。


「テス、何かいた!」


「じゃあ追うか」


 そうして二人で走り始め、こっちを覗いていた誰かを追い始める。やっぱりこういう薄暗い建物の陰とかって隠れやすいのだろう。ユウは一直線に逃げ続けるソレを追いながらも考え続けた。

 リベレーターは速く走れるかつ疲れにくい走り方を学んでいるから常人に比べれば早い方なのだけど、逃げ続ける誰かは一向に追いつかせてはくれなかった。それどころか角を曲がる度に不鮮明な影を見て、それを元に追いかけるので精一杯。中々の逃走術だ。


 道中で剥き出しになったパイプや排水管などが見えても一向に止まる事はなく、二人はパルクールさながらの動きで全て突っ掛らずに避け切った。

 のだけど、ある程度近づくと違和感に気づいて。


「……なんか、変な音しないか?」


「えっ?」


 薄っすらと見える影では人間に見えなくもないのだけど、妙に人間とは掛け離れている様な気がして、近づく度に妙な音も耳に届いた。

 動く度にガシャン、ガシャン、と機械質な音が響いて来る。

 テスも同じ様に耳を澄ますと同じ様な反応をした。


「ああ、言われてみれば確かに……。って、森に出るぞ」


 すると二人は森に飛び出し立ち止まった。直後にテスは熱源探知を発動させると逃げ続ける何かの位置を特定し、走り始めようと足を動かす。――けど、その瞬間に驚き顔で硬直して、目を皿にしながら森の奥を見つめた。


「どうした、テス?」


「ユウ。ソナーを作動させてみろ」


「え? ――――ッ!?」


 疑問に思いながらユウもソナーを発動させる。しかしその瞬間に警報音と共に視界に現れたウィンドウを見て驚愕した。

 だって、その赤色のウィンドウには【WARNING】と書かれただけじゃなく、機械生命体を感知した事を表す【CHORD-9.0197】と表記されていたのだから。


「CHORD-9.0197って、機械生命体の感知反応!? 何で!?」


「分からない。とにかく行くぞ!!」


 もしそうなら任務以上の大騒ぎになる可能性が果てしなく高い。この街には機械生命体が入れない様探知機能を付けているというけど、それすらも掻い潜る事が出来るって事なのだから。もしそうならここ以外にも機械生命体が潜伏している可能性が高い。

 人類の敵である以上、排除しなければ安全は訪れないだろう。


 さっき以上に走る速度を上げると探知した方角へ全力疾走し続ける。こればっかりは手加減する事は許されない。だからユウは既にM4A1の引き金に指をかけると森の中から飛び出した。そして、真っ先に視界へ入った機械生命体へと銃弾を浴びせて――――。

 そんな事、する必要なかった。


「は――――?」


 だって、現れた機械生命体は皆、既に白旗を上げていたのだから。

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