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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter2 始まりの刻限
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045  『問題児』

 夜。

 リコリスは今日起った事件の資料を見つめていた。そこにはユウが解決した事や、その為に代償となった物、そしてそれを修復する為の費用が書いてある。だからリコリスは概要を見て頭を抱えた。

 次に小さく呟いた。


「あんの馬鹿……」


「馬鹿いうな。大切な仲間だろ」


「だってこの被害額だよ!? いくら余裕と言えど一人で!!」


「仕方ないわよ。リコリスだって最初は大暴れして億単位の費用払わせたでしょ」


「ぐっ……」


 しかしガリラッタやアリサにそう言われて黙り込む。

 修復費用を払う事自体は余裕だ。だってそう言うのはリベレーターが払う決まりだし。でも入ってから間もないと言うのに、まさかここまでの損害を出すとは思わなかった。……リコリスはこれよりも酷い事をしていた訳だけど。

 何も言えないまま少しの間だけ黙り込むと別の言葉に変換する。


「しっかし、ショッピングモールの件といい廃ビルの件といい今回の件といい、何か戦闘する度に損害出してるよね」


「まるでリコリスみたいね」


「ちょぉっと!?」


 アリサはさり気なく皮肉を言いながらもリコリスのせいにしようとする。まぁそうだとしても分からなくもないのだけど。

 確かに彼女の言う通りリコリスだって戦闘をするたびにそこそこの損害は出してる。といっても流石にショッピングモールで一斉起爆なんて真似はしないけど。

 しかしアリサもユウの戦績を見て言う。


「でも、リコリス以上の問題児なのは確定ね」


「さり気なく私を問題児に仕立て上げないで?」


「多分次辺りに損害を出したら始末書出されるんじゃない? リコリスもね」


「よっし強調してやる!!」


 始末書だけは絶対に嫌だ。だからこそリコリスは立ち上がってこれ以上損害を出さない戦闘をさせる様に決意する。だってユウの責任はリーダーであるリコリスの責任でもある訳だし。

 そんな決意の瞬間をガリラッタとアリサは大人げねぇとか言いたそうな目で見て来る。

 やがてもう一度椅子に座ると小さく呟いた。


「とは言ったものの、こういうのって実戦を積ませなきゃ無理だしなぁ……」


「一番被害が少ないのが先の事件だけどここからどうなるかが肝だ。どうする気だ?」


「今はよく言い聞かせる程度でいいんじゃないの? あまりやり過ぎると逆効果になるわよ」


 それに対してガリラッタとアリサが問いかける。どうすると言われてもリコリスには叱ると注意しか出来ないし、多分みんなも同じ事しか出来ないはずだ。自腹でレンタルした訓練用VRも今は手元にない上にユウに始末書の大変さを教えたって効果はない。

 となれば打てる手段は……。


「一つだけ、可能性がある」


「それって?」


「――よく言い聞かせる」


「それ私が今言ったばっかりよね」


 まぁ、それが一番効率的な物なのは変わりない。ユウもわざとやったんじゃないはずだし、損害を出すのが悪い事と捉えてくれているのならそれで十分だ。故に次はもっと注意すると言ってくれるのなら更に十分。

 そんな思考に辿り着くとリコリスは立ち上がって執務室を出ようとする。


「直接言いに行くの?」


「回りくどいのは嫌でしょ」


「確かに」


 するとアリサにそう問いかけられるから短く答えた。ユウとて遠回しに伝えられるよりもハッキリ言われた方が身になるはずだ。と言ってもその手法は相手の心境によって変わって来るけど。

 だからリコリスはすぐにユウの部屋へと駆けつけた。速めに話しを終わらせる為に。


 だって、もう始末書書くの嫌なんだもん。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 翌日。

 リコリスからこっぴどく叱られた後、今度は直談判されて「絶対するなよ」とハッキリ言われた。それも凄く真剣な表情で。きっとそれ程なまでにユウを心配してくれてるのだろう。

 そんな経緯の夜を超えてユウは街を歩いていた。


 今日も今日とて街のパトロール。という名目の下子供達と戯れる。それがユウの生活ルーティンと化していた。だからこそいつも子供達が待っている喫茶店に足を運ぼうとするのだけど、その時に声をかけられて立ち止まる。

 するとその先にはクロストルが手を振りながらこっちに走って来ていて。


「あ、クロストル」


「やあ。奇遇だね」


 ユウ用に合わせてくれたのか、はたまたこの変装で出かけていたら偶然出くわしたのか、クロストルは駆け寄ると前に出会った時と何ら変わらない爽やかな笑みを見せる。普通嘘の笑みは即行で見抜けるのだけど、彼の場合は嘘であっても本当の笑みに感じるのだから怖い物だ。

 やがて彼は一言問いかけるとさり気なくユウから情報を抜き取る。


「今からどこ行くんだ?」


「ああ、仲のいい子供達の所に行って遊んだり――――って、情報を抜き出すな!」


 すると彼はしてやったりと言う様な顔でクスクスと笑う。やっぱり情報屋相手に警戒心なしで会話をするとすぐに情報を引き出されてしまうのだから、もっと気を引き締めて行かなきゃいけない。

 しかしクロストルは軽く手を振って謝ると続けた。


「悪い悪い。これも情報屋の性だ。君とは本当に偶然会ったまでさ、すまない。それじゃあ俺はこの先をいくから」


「あ、ああ……」


 なんか通りすがりにいじられて唖然とする。あんなにも短い会話の中でも三つの情報を抜き取ったのだ。ユウが子供達と会う事を楽しみにしている事。その子供達と遊びたい事。リベレーターの仕事をサボっている事。ここまでは認識していたってクロストルなのだから自分ですら気づかない情報を抜き取られている可能性も高い。全く、会う度に会うのが嫌になる相手だ。


 振り回された事を自覚するとユウは歩き始める。追尾してくるわけでもないだろうし、用がないなら子供達のもとへ向かうまでだ。

 そう思っていた。彼女と出くわすまでは。


 人混みの中を歩く中である人とすれ違う。灰色のローブにかすかに見えた金色の瞳。いつの間にか接近して来ていたラディはユウとすれ違うと、一番近づいたタイミングでユウにしか聞こえない声量で言った。それもあまりの情報に立ち止まってしまう程。


「――《光の情報屋》には気を付けろ」


「っ!?」


 咄嗟に振り替えってどういう意味かを聞こうとする。しかし振り返った先にラディは影も形も無く、その言葉だけを残してどこかへ消えてしまった。

 《光の情報屋》の名を出すと言う事はやっぱりあの時の会話は見られていたのだろう。まぁ、ラディなら普通にやってのけてもおかしくないだけど。


「気を付けろって……」


 いきなりそう言われても困惑する訳で、ユウは人混みの中で立ち止まりながらもどうしてそんな事を言ったのかを考えた。

 クロストルは素顔を隠してる。つまりその素顔に気を付けろって意味なのか、クロストルという人間自体に気を付けろという意味なのか、脳裏で必死に回転し続けた。ユウの目では彼が悪い人には見えない。というよりそんな事思いたくもない。


 けれどラディが嘘を付くとも思えなくて、どうしたらいいのかと迷い果てた。クロストルの人間性を信じるべきか。ラディの言葉を信じるべきか。

 だから今の言葉を確かめようと彼女の後を追おうとするも手掛かりなんて一つもないからすぐに諦める。またふらりと現れてくれるのを待つしかないのだろう。

 やがてユウは小さく呟いた。どうしてそんな事を言ったのかって。


「どういう事だよ、ラデイ……」



 ――――――――――



 夜。

 ユウはいつも通りに本部に戻ってはいつも通りにトレーニングを済まし、いつも通りに風呂へ入りっては残りの自由時間を好きに過ごしていた。

 風呂上がりにはキンッキンに冷えたミルクやコーヒーが待ち構えていて、本物の銭湯へ来ている様な感覚に包まれる。妙に和を感じさせる着替え室だし、流石本部の施設といった所だろうか。

 そしてテスとふわふわの布で頭を拭いていると入って来たガリラッタに出会い頭でこういわれる。


「よっ、問題児」


「そんな、俺問題児だって思われてたのか……」


「問題児って言われててウケる」


「ユウの方だよ!」


 そんな感じで妙な茶番を挟むとユウの方に矛先を向けられて軽く驚く。いやまぁ、今までの戦績を見れば十分問題児と言われてもおかしくないか。

 どうやらガリラッタはただ風呂に入りに来たついでにからかった訳じゃないらしく、咳き込んで間を開けると二人に任務の話をしだした。


「問題児二人には明日やってもらう任務があってな。それを伝えに来た」


「さり気なく問題児の括りに入れられた!?」


「任務概要は第三小隊の管轄区域で行われる捜査。どうやらそこじゃ問題になってる犯罪者達が多すぎて対処出来ないらしく、今回協力要請を受けて承諾した。そして、それをやるのは普段暇そうにしてる二人って事だ」


「なるほど。要するに暇なら働けって訳か。ちなみに他の小隊は参加するのか?」


「ああ。他には第八小隊と第十小隊、そして第十一小隊も参加するそうだ」


 そこまでして手を借りたいって事は、相当強い上に多いのだろう。五つの小隊が集まって行われる作戦。それは普通の作戦と比べて大掛かりな物になるに違いない。

 と言っても、ここでユウとテスにしか伝えない辺り他の小隊もそうなのだろう。参加する隊がバラバラなのも他の小隊が自分達の仕事で忙しいからのはず。それ程なまでに他の隊も余裕がないんだ。


「対象は発見し次第逮捕。抵抗するようなら無力化してもいいとの事だ。暴れ好きな二人にゃうってつけだろ?」


「そーだな。最近は戦闘出来る任務も少ないし、期待するとすっか」


「いや、俺は暴れ好きって訳じゃないんだけど……」


 しかしユウの言葉は綺麗に受け流したガリラッタは続けて話を続けた。流石リコリス達を相手にしているだけある。スルースキルが半端ない。

 どうやらその任務には計三十人の兵士が参加する事になるらしく、場合によって次々と増えていくそうだ。その中の二人がユウとテスになる。リコリスによると戦闘の可能性も高いから反応速度の速い二人を選んだそうだ。


 というのは建前で、本音はユウに損害を出さない戦闘を行わせる事だろう。

 その証拠としてあらかた話し終わったガリラッタは部屋から出て行こうとするのだけど、最後にこう言い残した。


「念の為釘を刺しておくが、戦闘では損害を出すなよ」


「お、お~け~……」


 要するに、この作戦はユウにとって一つの試練って訳だ。

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