042 『光の情報屋』
「ここだね。待ち合わせ場所」
「本当にこんなところに来るのか……?」
情報屋の打ち合わせ場所なんて人気の少ない所とか建物の陰とかだと思っていたけど、指定されたのは人気の多いとある喫茶店の前。時計の真下という定番の位置に辿り着くとユウは周囲を見渡した。
時間的にもそろそろ合流する頃だろうか。というより、二つ返事でOKをした割には思ったより時間を掛けるあたり、やっぱり変装するのにはそれなりの時間が必要なのだろうか。まぁ誰も見付けられない程の変装なのだから当然な気もするけど。
するとこっちに向かって来る男が見えて、二人はその方角へ振り向いた。薄青色の短い髪に薄いTシャツと短パン、そしてタンクトップの上着にキャップ帽という、いかにも夏を先取りしましたみたいな服装の男はユウとリコリスを見るなり走り寄って来た。
そして爽やかそうな顔を見せながらも言う。
「すまない、待たせてしまった!」
「え、ええと……あなたが例の?」
「そう。通称《光の情報屋》だ」
思ったよりも晴れやかな仕方で登場した彼に二人は困惑する。だって情報屋というからにはもっと静かで落ち着きのある性格だと思っていたから。……いや、違う。既にこれが変装している状態なんだ。顔も声も性格も服も、今目に見えている全てが本当の彼ではない。正体を暴かれない為の布石なんだ。
だからそんな反応を見て彼は喋り出した。
「どうしたんだ?」
「いや、その、意外だったというか……」
今の彼は素の状態に見える。何も隠さず心のまま行動している様だ。でもこれが嘘なのだからその演技力に驚愕する。だってこんなの、もう多重人格のソレとしか言い様がないのだから。
確かにこれなら正体が暴かれない訳だ。
「それじゃあ早速だけど行くとしようか」
「行くって、どこに?」
「決まってるじゃないか。喫茶店だよ、あそこ」
すると彼は親指で目の前にあった喫茶店を指さした。だからこそ二人はまさかの喫茶店に驚愕して声を上げる。
「えっ!? こういうのってもっとうこう、薄暗くて湿っぽい場所に移動するんじゃないの!?」
「確かにそれも味があって良い。でもこういうのは静かな場所で話すよりも騒がしい中で話した方が見つかりにくいんだ。周囲に音がある分、ある程度は会話を掻き消してくれるからね」
「ほぇ~……」
ただ静かな場所で会話するだけだと思っていたから呆然とする。やっぱりこういうのって意外と考えられている物なのだろう。思った以上に対策が練られている事に驚いた。
そうしているとユウはある物に視線が言って問いかける。
「えっと、その荷物は?」
「ああ、これ? これは色んな道具が入ってる。外に出てる間は色んなことが起るかも知れないからね」
「意外と慎重なのね」
「情報屋は常に慎重なんだよ。きっと他の情報屋もそうさ。――《影の情報屋》もね」
すると彼の瞳が一瞬だけ曇る。やっぱり《光の情報屋》と名乗るからにはラディに対抗心を燃やしているのだろう。そこも気になるけど、きっとそれ以上は有料になるから黙り込んだ。その対価として色んな物を抜き取られても嫌だし。
三人は喫茶店に行って適当に注文し、周囲で他の人の話し声が響く中で彼は手を組むとまず最初に名乗り始めた。
「それじゃあ名乗ろうか。俺はクロストル。今回君達に依頼した《光の情報屋》だよ」
「こっちの事は知ってると思うけど、私はリコリス。こっちはユウ」
そう言うとクロストル頷いて既に知っている事を現した。やっぱり情報屋と呼ばれる程なのだから依頼相手の事は調べて当然だったか。名前は書いてないのに会った頃には既に名前を知ってるのだから情報屋の実力という物は本当に恐ろしい。
やがてユウは世間話を挟まれる前に早速本題へと移行する。まぁ、少し茶番を挟みながらだけど。
「それで、その光……、光の、情報……っ」
「笑うな!!」
顔を背けて軽く噴き出すとそうツッコまれる。
するとクロストルは自ら《光の情報屋》と名乗った経緯を話し出した。それはあまりにも挑戦的で、あまりにも程遠くて。
「一応言っておくが、俺が《光の情報屋》を名乗ったのは《影の情報屋》が嫌いだからだ。元々は普通の情報屋だったが、突如現れて俺が積み上げた物を一気に追い越した。だから《光の情報屋》って名乗っただけだ」
「へ、へぇ~……」
この言葉が果たして自然に出た物なのか意図して出た物なのか、十分気になるけど今は黙って話を進めた。咳払いして間を開けると今度はちゃんとした表情で話し始める。
クロストルも冷静に答えてくれた。
「それで、クロストルはどんな情報を聞きたいんだ?」
「かなり直球なんだな」
「前に同じ様な人に振り回されたばっかりでさ」
来るまでに調べた事だけど、この街には少なくとも情報屋は六人はいる。その他にも情報屋の助手を務める人だったり、マイナーな情報屋も複数人いる様だ。だからこそクロストルはその言葉に反応する事はなかった。
するとクロストルは質問通りに答える。
「――君が生き延びれた理由や技術の概要を知りたい」
「誰の依頼で?」
「依頼じゃない。これは俺個人の意思で行ってる」
「って事はやっぱりあんたも俺の事が個人的に気になるんだな」
「ああ。それに後々君の情報で質の良い兵士が出来るかも知れないからね。それくらい君の戦績は特殊だ。その時の為に、ね」
「考える事は同じって訳だ」
本来有名な情報屋に狙われるのは嬉しい事のはずだ。それ程なまでに注目されているのだから。でもこの状況を喜んでいいのかというと――――。
どうしても隠さなきゃいけない事があるのだから到底喜べない。
リコリスと顔を合わせて頷くとユウは真実を喋り始めた。ラディの場合はユウの事なら何でもみたいな雰囲気だったけど、クロストルの場合はユウの実力に付いてだ。だからこそ話す事は何もない
「悪いけど、話せる事はほとんどないよ。俺は実力で生き延びたんじゃない。ただ運が良かっただけだ」
言葉の一門一句をリコリスは聞き逃さない。だからってユウも完全に頼る訳じゃないけど、常に意識を張りながら喋り続けた。
するとクロストルは当然の疑問を言う。
「だが君は正規軍の魔術師相手に生き残った。それは紛れもなく――――」
「前の事件で右腕がなかった。それが前提条件だった。それ以外はごく普通の技術で切り抜けただけだよ」
「じゃあ、その体験談だけでも……」
「体験談は話す。でもそこにあんたの望む物はないと思うけど、いい?」
「おーけー。それでいい」
そう言うとクロストルは指でオーケーサインをした。まぁ、彼としては少しでも情報が抜き取れればそれでもいいのだろう。ユウの話を聞けることに喜んでいるみたいだった。
横目でリコリスを見ると頷いてくれる。だからユウも話し始めた。今までの戦いに会った全ての出来事を。それも彼にとっては半分以上が普通の体験だった訳だけど。
でも、そんな体験談でも他の情報と等価交換に値する事だけは確かみたいだった。
――――――――――
「……で、こんどはこっちが話を聞く番だ」
「ああ。約束は守る。何を聞きたい?」
「――正規軍の事とリベレーターの事。そして、あんたが中立かどうかだ」
「っ」
するとリコリスが少しだけ反応した。
正規軍はまだ分かるだろう。一応敵である訳だし、今最も注意しなければいけない組織なのだから。でもリベレーターの一員であるのと同時にその情報を引き出すのは少し不可解なはずだ。
だからこそリコリスは不安そうな視線を向けながらも問いかけた。
「ユウ、まさか、リベレーターを……?」
「信じてない訳じゃない。ただ正規軍と戦って分かったんだ。――あいつらはただ命令されてやってるんじゃなくて、それぞれの正義で戦ってるんだって。疑問に思っちゃうんだよ」
「でもそれをリベレーターの一員の前で聞き出そうとするのは凄い度胸だな」
「どの道誰かしらには質問する気だったんだ。もちろん、リコリスにも」
彼らはただの悪な訳じゃない。彼らにとっては自分が正義で、ユウ達が悪なのだ。こっちから見たら向こうが悪な様に。
この世界には悪なんて物は存在しない。正義と正義がぶつかり合って争いが起きているだけなのだ。じゃあ、どうしてそんな事になり、その原因をリベレーターは隠し続けるのか――――。
するとクロストルはまず最初にリベレーターの事について話し始めた。
「それじゃあリベレーターの事から話そうか。と言っても、君の求める答えはないけどね」
「どういう事だソレ」
「隠蔽されてるんだよ。真実が」
「っ――――」
その言葉を聞いて更にリベレーター自体の信憑性が薄れる。リコリスはそれを知ってか知らずか、喉を鳴らして真剣な瞳でその話を聞いていた。
真実が隠蔽される。その事実じたいが公言してるような物ではないか。何か裏があるんだって。クロストルも同じことを思った様でユウと似た考えを話した。
「正規軍とリベレーターが敵対する理由。それは一切公言されてない。――それが俺の知り得る全てだ」
「嘘は、ついてないみたいだね」
するとリコリスが深紅の瞳で彼を見ながらもそう言った。彼女の魔眼が反応しないって事は本当にそう言う事なんだろう。
そこまでして隠し通す真実とはどういう物なのか。
ふと、あの時に出会ったベルファークの顔を思い出す。
――何で隠してるんだ。
記憶の中の彼に呼びかけつつも少しだけ考える。原因が分かっているのなら解決できるんじゃないのか。例えそれが難しい事であったとしても、互いに敵対し犠牲が出ないのであればそれでめでたしでいいのに。プライドが許さないのか、それすらも真実が許してくれないのか、ユウには理解出来るはずもないから黙り込んだ。
続けてクロストルは正規軍の事も話した。
「それじゃあ続けて正規軍について。何が知りたい?」
「この街にいる数と、昨日起った囮の進行と、奴らの狙い」
「だと思ったよ」
そう言うと彼は既にとそうしていた様で、やっぱりかと言う様な表情を浮かべていた。まぁそれに限ってはラディでも分からなかった訳だし、クロストルでも分かるかどうか――――。そう思っていた。
すると彼は自信満々に微笑みながらも言い始めた。正規軍に関する情報を。
「いいよ。俺の知る限りの情報を話そう。この街に潜む正規軍の数は大体……百を超えるね」




