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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter2 始まりの刻限
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041  『取引相手』

 夜。

 ユウは電気を消してベッドに寝転がっていた。そして何をするべきかと考え続ける。どうすればラディのお気に入りになれるのか。どうすれば情報屋の常連になれるのか。

 そんな気になる人の追っかけみたいな気分を味わいながら対策を練る。

 ちなみにリコリスはみんなに《影の情報屋》の事を話しに行ったみたいで、明日には全員に話しが通ってるらしいから安心して欲しいとの事。


「お気に入り、ねぇ」


 こういうのって大抵その人にまつわる事件解決したり過去を乗り越えさせる事で信頼を勝ち取る事が出来る物だ。でもこの世界にそんな常識は当てはまらない。だって、誰が何を失おうと全てこの世界じゃ当たり前の出来事なのだ。当たり前だという事は、ユウが何をしたって変わる事はない。

 ――助けられないのだ。何かを失う過去が当たり前の世界なのだから。


 この世界は絶望で成り立っている。その中で希望を探すだなんて砂漠の中から一粒の砂を探すような物。そう例えられてしまう程、希望なんてどこにも存在しない。誰もを救えるありきたりなヒーローなんて、存在する訳がない。


「絶望……」


 機械生命体や感染者、正規軍だけが脅威なんじゃない。その他にもこの街に蔓延る犯罪者や過激派もいる。いくら街が外より安全と言ってもいつ殺されたっておかしくない。常に死の恐怖に怯え、それを認めたくないからこそ前を向いて生きている。

 絶望に抗おうとしてるのだろうけど、抗えば抗う程どれだけ大きい物なのかが目に見えて分かる。それがこの世界の心理だ。


「俺もそんな事出来たらよかったのにな」


 そう言いつつもリストバンドを外して“ソレ”を見る。前の世界で強がる事が出来ていれば、どれだけ楽だっただろうか。自分は大丈夫なんだって、平気なんだって、自己矛盾で崩壊していった方がずっと楽だったかもしれない。

 もし、あの時に手を取れていたなら―――――。


 そこまで考えた途端に睡魔が襲って来て、ユウは何の抵抗も出来ずに夢の世界へと誘われた。他にも考えなきゃいけない事があるのは分かってる。でも、どうしても抗えなかった。

 自然と目を閉じては真っ暗な空間に意識を落とされてどうしようもない深層まで潜り込んで行く。そして、夢の世界へ……。



 ――――――――――



「《光の情報屋》って知ってる?」


「何、その厨二めいた名称の情報屋は」


 翌日。

 執務室で作業をしているとリコリスからそう言われ、ユウは何の躊躇もなくそう言い返した。っていうかそんな情報屋存在するのか。

 すると向かい側で座っていたテスが説明してくれる。


「ユウは《影の情報屋》に会っただろ? でもその人は神出鬼没で誰も素顔を見た事がない。けれど表面上で活躍する情報屋もいるんだよ」


「それがその《光の情報屋》って訳?」


「そうそう」


「安直っていうかネーミングセンス皆無だな……」


 まぁ由来は分からなくもない。影の反対は光なのだから。その事から《影の情報屋》に対して対抗心を抱いている事も見て取れるし、表面上で活躍してる時点で既に目的が見えている。

 ただ聞いただけでもないらしく、本題はここからだった。


「で、その《光の情報屋》がどうしたんだ?」


「《光の情報屋》は《影の情報屋》と違ってネット上でかなり活躍しててね、普通に依頼があれば現地に赴いて取引するの。それくらい人目につくんだって。で、今回向こう側からユウと話したいって依頼が来たの」


「…………」


「まぁ、そりゃ警戒するよな」


 しかしその話を聞いて根っこから疑うとテスが同情の言葉をかけてくれる。

 ラディの件で情報屋に対しての信頼が落ちている今、警戒せずにはいられない。果たしてその情報屋が安全なのか危険なのかなんて分からないからこそユウの警戒心は多かなって言った。

 いくら表面上で活躍してると言っても性格が悪ければ協力するつもりはない。だからその人に関して情報を聞き出した。


「表面上でって事は多くの人と対面してるんだよな。みんなどんな性格って言うんだ?」


「安心・安全・信頼を大切にやってるんだって。まぁその正体に難ありだけど……」


「どういう事だ?」


 すると深くまでは知らないらしいテスが問いかけた。

 表に出てるのなら正体なんてバレバレだろうに、どうしてその正体に難があるのだろう。そう思っているとごもっともな理由を言う。


「その人、変装のプロフェッショナルなんだって。だから会う度に違う顔・声・服装・性格で現れるらしい。だからこそ一度もその正体を暴かれた事はないらしいよ。噂じゃ複数人説が出るくらい違うんだって」


「やっぱそこら辺は警戒するよなぁ。んでも違う顔ってどうやってんだ?」


「今まで何人もの人がその情報を聞き出そうとしたけど、機密事項だって言われるんだって」


「当然と言えば当然の判断だな」


 そんな会話を聞きながらも脳裏で考える。聞いた感じだとただのマスクって可能性は低いだろうし、やっぱり科学技術で何とかしているのだろうか。量子バリアが可能な世界観なのだからそれくらいやってのけてもおかしくない気がする。

 と考えていればリコリスから問いかけられた。


「どうする?」


「う~ん……」


 情報屋は危ないって認識しかないけど、今まで被害者とかが出てないって事はそれほど安全って事だし、別にあっても支障はないだろうか。

 何はともあれ既に分かり切ってる理由を聞いた。


「ちなみにその理由って?」


「他の兵士とかの質をよくする為にユウから体験談とかの情報を聞きたいとさ」


「まぁそうなるよな……」


「そりゃ、ユウはリベレーターの中じゃ特殊な部類に入るからな」


 ラディも言っていたみたいに、ユウはかなり特殊な人間になるらしい。見習い期間中に正規軍と戦闘し、推薦試験では爆破地点の中心にいたのにも関わらず無傷で生還し、入隊時ではもう一度正規軍の魔術師と戦闘した。

 いずれも生還できる事ではないのはユウでも分かってる。だからこそみんな勘違いしてるのだ。ユウには何か特別な力でもあるんじゃないかって。


 しかし現実はその逆。ただ運と無茶無謀が重なって奇跡的に生還できただけだ。死ぬのが怖くないからこそ体は硬直しない。だから敵の攻撃を避ける事が出来る。そんな小さな積み重ねがユウを生かした。そこに特別な力も凄い実力も宿ってはいない。

 正直ユウとしては質問されても「運が良かっただけ」になってしまうから困るのだけど、一つだけ気になる事があって質問する。


「……その人、交渉する時って何を対価にするんだ?」


「え? 基本的にはお金だけど、たまには渡す情報に見合った相手の情報でも可能だって聞いたけど……何する気?」


「ちょっと思いついた事があってさ」


 どうせ素顔は見れないのだ。なら何をしたって大丈夫だろう。そんな適当な思考を抱きつつもリコリスの方を向いた。もしその人から正規軍やリベレーターの事を聞き出せれば何かが変わるはず。

 だから自信満々に言った。


「こっちが情報を渡すんだから向こうも情報を渡す。それが条件だって伝えてくれ」


 するとユウが何をする気なのかを見抜いた二人は少しだけ目を皿にした。そりゃ、プロの情報屋相手に心理戦を挑むような物なのだから当然の反応だ。

 きっと相手は高レベルの話術を使って来る。ユウが意図していなくたって言葉の一門一句の中に情報が含まれている事をその人は見逃さないはず。だからその人と取引をするという事は、いかに無意識で情報を漏らさないかで優位が変わる。イカサマがばれなければいい様に相手が気づかないで引き出した情報は取引には入らないだろうから。


「どういう事かは分かってるんだ?」


「昨日の件で散々思い知らされたから大丈夫。何とかなる!」


 そう言って背中を伸ばした。ラディで情報屋がどんな物かは大体思い知らされたし、警戒心も強い今なら大丈夫なはずだ。こっちこそ一門一句に気を付けなければいけない所があるけど、相手の感情を読むのなら代の得意分野である。

 リコリスはすぐにタブレットで連絡を取ると追加条件を言い渡し、過保護なまでに心配した。


「OK。じゃあその条件ともう一つ付け足して伝えとく」


「もう一つ? なにそれ」


「私も同行する」


「えっ」


 一人だけで行くつもりだったから面を食らう。でもリコリスって割と緩いイメージがあるし、すぐに情報が抜き取られそうなきがするのだけど……。そんな言葉は表情に出ていた様で、リコリスはむすーっと頬を膨らませると不満そうに言う。


「一応言うけど、私だってこれでも数々の死線を潜り抜けて来た実力者なんだよ? そう簡単に抜き取らせるかっての」


「ああ、そう……」


「さては信用してないな?」


 その言葉には答えずに眼を背けた。何か、初めて出会った時にアリサが日ごろの行いだと言っていた理由が分かる気がする。

 すると今まで黙って聞いていたテスが補足してくれた。


「リコリスの言う事は本当だ。確かに普段はあんなナリだけど、いざという時だけは頼りになるから安心しろ。いざという時はだけどな」


「よーし全然褒めてないね!」


 しかしテスの言葉で更に信憑性が欠けながらも一応その言葉を信用する。正直な事を言えば不安でしかない。だっていつもふわふわしているリコリスだし、何と言うか、やっぱり不安と言うか心配というか。そんな事を考えながらも立ち上がるリコリスを見つめた。


「とにかく二つ返事でOKは貰ったから、早速待ち合わせ場所まで行こうか。もちろん武装は忘れないでよ」


「分かってる。いつ戦闘が起きてもいいようにって構えるんだろ」


 そう言ってユウも準備をすべく歩き始めた。

 相手がどういう人かが分からない以上無暗に質問するのはよくないだろう。ならやっぱり、相手の土俵に引き込まれやすいけど受け身の姿勢で話すしかない。

 そんな事を考えながらもM4A1を持ち特殊武装を背負った。


 今回は味方で在って欲しいと願いながら。

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