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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter2 始まりの刻限
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039  『交渉』

「これはこれは、かなり直接的な質問だ事……」


「回りくどく言われるよりマシだろ?」


「確かにね。じゃあ答えてあげるぞ」


 正々堂々と正規軍の情報を抜き出そうとすると、ラディは何の躊躇いもなく答えてくれた。っていうかやっぱりそう言う情報も持っているんだ。噂の内容は本当だったって事だろう。

 だからその情報に期待するのだけど、提示された情報にはユウの期待する事は一つもなくて、ついその場で聞き返す。


「――ないぞ。そんなの」


「そっか。……え、今ないって?」


「うん。そんなのないぞ」


「なっ!?」


 一瞬だけ脳で情報を処理するのが送れる。だから少しのタイムラグを得て即行で反応した。だって、その答えはあまりにも不自然過ぎるから。

 最初は嘘を付いてると思って何としてでも情報を引き出そうとする。けれどラディの瞳は真剣で、それが嘘じゃないんだって事が本質的に理解出来た。


「正規軍だぞ!? 黒いローブ着てて、変な仮面付けてて、武器を持ってる!」


「知ってる。でも正規軍の居場所なんてこの街にはどこにもないぞ。一つに留まっていれば必ず見つかる。だから正規軍は常に街中を移動しながら監視の目を避けてるんだぞ」


「そんな……!」


 確かに彼女の言う事は正しい。この街は例え路地裏であろうと監視カメラが設置してあるし、正規軍からすればこの街にはどこにも居場所がない。だからこそ生き延びる為に移動し続けなきゃいけないのだから。

 しかしそれはかなりの体力を必要とするはずだ。特にラディでも居場所を特定できないのなら完璧に特定する事は既に不可能に近い。


「この街にいる正規軍は特殊な訓練を受けた工作隠密行動隊。例えプロが探したって完全な居場所は掴めないだろうね。なんたって私以上の隠蔽術と逃走術を持ってるんだから」


「そんな奴らを相手にしてたのか。そりゃ警戒する訳だ……」


 今一度正規軍がどれだけ危険な連中なのかを理解する。ラディ以上の隠密が出来る集団。そんなの言っただけじゃ不可能だってなるけど、現にラディでも追えないからこそこんな結果が生まれてるのだろう。厄介な上に居場所が掴めないだなんて本当にマズい状況になりそうだ。

 しかし完全に希望がないわけでもなく。


「でも、手掛かりならある」


「手掛かり?」


「これが正規軍を見た地点と彼らが進んで行った方向。これだけでも、君達にとっては十分頼りになる情報なんじゃないかな?」


 ラディはスマホをいじるとマップを表示させた。そこには路地裏や建物の隙間にピンが立てられていて、全体を通しても六つと少なく広範囲だったけど、頼りになる情報なのには変わりない。

 続けてピンをタップするとその日付も表示させる。


「こっちが一昨日で、こっちが先週」


「意外と最近なんだな」


「そりゃどこかの誰かさんがショッピングモールで大暴れしたからね」


「え?」


「普段なら正規軍は静かなの。でも、そこで君が大暴れした末に取り逃がしたもんだから他の正規軍が活発になって来てるんだぞ」


 そう聞いて少しだけ戦慄する。それって最近の正規軍がおかしいって言われる原因ってユウのせいなのか。あのショッピングモール時にアルテと爆殺女を取り逃がしてしまったからあんな事に……?

 となるとかなりの大問題だ。この状況はユウが作ってしまったといっても過言ではないのだから。


「さて。それを聞いて君はどうする?」


「……そりゃ、どうにかして抑えるしかないだろ。俺のせいで作られた状況でもあるんだし。出来る限りの努力はする」


 するとラディはいかにも計画通りと言う様な顔で頷く。何か、最初っから彼女の操り車にされている気がしてたまらない。

 努力すると言っても追う事はほぼ不可能なのだからユウに出来るのは準備万端で待つ事だけだ。だから向こうがどう出るかで結末も変わって来る。


 そう思っているとある事に気が付いてラディに問いかけた。流石にこれは無理だと思うけど、《影の情報屋》の名を信用して迷いなく問う。


「そーだ。ラディ、今起ってる正規軍の進行の事、知ってるか?」


「もちろん知ってるぞ」


「正規軍の目的って、もしかしてリベレーターの戦力を街から減らしてっ気に畳み掛ける作戦だったりって分かるか?」


 難しい事を言うとラディは顎に手を当てて考え始めた。そりゃ情報屋と言えど相手の心を読めるわけではないし、その件に限ってはラディが知らなくたってなんらおかしな事ではない。

 だからこそ彼女は顔を左右に振って返答がない事を表す。……のだけど、それにも手掛かりはしっかりと用意されていて。


「流石の私でもそこまでは分からないかな。でもおおよその見当は付いてるぞ」


「付いてるんだ……」


「それがコレだぞ」


 彼女はスマホをもう一度いじって別のファイルを出すと何枚かの写真を見せてくれる。それは正規軍が進行する準備をしている写真や、妙に軽装で出陣している正規軍の姿があった。宣戦布告をした直後の出撃にしてはあまりにも不自然過ぎる。

 とりあえず最初に一番の疑問をぶつけては次に他の問いを投げつけた。


「……これ、どうやって撮った?」


「《影の情報屋》は謎に満ちてるんだぞ」


「そうですか。じゃあ、正規軍は戦う気がないって事でいいんだよな?」


「少なくとも彼らの行動はそう見て取れる。ほら、戦闘特化のアンドロイドも少ないし」


「…………」


 戦闘特化のアンドロイド。そう言われて今一度ここが異世界なのだという認識が薄れる。いやまぁ、今に始まった話ではないのだけど……。

 しかし戦闘を想定してない装備である事は確実だ。何と言うか、これじゃあ敵をおびき寄せる為だけにこうしている様に見える。まるで囮ですよと言う様に。


「正規軍の戦闘可能人数は最低でも軽く三万を超える。そう考えると不可解過ぎる」


「え、三万!? そんなに!?」


「ああ、普通の人には分からないんだっけ。最低でもそれくらいはいるぞ」


 その情報を元に考えるのなら囮と考えた方がいいだろう。いわば扇動部隊というヤツだろうか。イシェスタは最低でも三千は上回ると言っていた。リベレーターを攻撃するつもりならそれじゃあ全然足りないはず。となればやっぱり――――。


「何かしらの囮の可能性……」


「が高いって訳」


 出来れば予想通りに行ってほしくはない。けれど上手く行きそうな時ほど必ず邪魔が入るこの世界じゃどうなるかなんて全く予想できない。街の真ん中で爆発が起こっても不自然ではないのだから。

 でも、何よりも不安な原因が目の前にあって。


「……どしたの? そんなに見つめられると緊張しちゃうなぁ~」


 その事には何も言わずラディを睨み続ける。確かに今はマズイ現状だ。リベレーターの戦力が半分程度いなくなっている今、暴動でも起こされちゃ鎮圧が出来ないのだから。しかしそれ以上に危険な存在が眼の前にいる。となればもちろん警戒はする訳で。

 やがてユウはもう一度拳銃に左手を伸ばすと言った。それも最大限の警戒をしながら。


「なぁ、ラディ。お前は……どっちの味方なんだ」


「どっちの味方、ねぇ?」


 すると彼女は不吉な笑みを浮かべた。

 ラディが善意を持ちこの街を守ろうとしている優しい人間ならこんな事をする必要なんてない。でも、リベレーターにも正規軍にも情報を売る様な、どっちに対しても中立な立場であるのなら話は別だ。

 しかし状況は最も悪い方向に向いてしまって。


「――中立、だぞ」


「っ!!」


 その言葉に奥歯を噛みしめた。という事はもし正規軍から高額報酬を出されれば情報を受け流す可能性が高い。合わない可能性を信じたいけど、ネットを見ると一日に一回は彼女を目撃したと言う情報が入っている。まぁ全部話しかける事すらも出来なかったらしいけど。

 けれど情報を流される確率が一%でもある限り油断はできない。


「一応聞くんだけど、この街を守るつもりって、ある?」


「ないな」


「っ……! どうして!?」


「私には守る理由がないからだぞ」


 しかしどれだけ言っても答えは変わらない。だからラディは依然鋭い眼光をユウに浴びせ続けた。けれどこっちとてそうされると色々と不都合がある。故に何とかしてラディを納得させようとするのだけど、その言葉は全然届かなくて。


「理由がないって、それだけでこの街を危険に晒して――――」


「この街を守れると、本当にそう思ってるのか?」


「それ、どういう事だ」


「私が守りたいのは私の中の大切な人だけ。――君の都合に付き合う義理はどこにもない」


 これ以上は何を言っても意味がない。その事が分かったからこそユウは言葉を詰まらせた。中立であるからして最悪の結果を迎える可能性は高い。それもラディ自体が元から守る気がないのだからきっと悪い方に転がるだろう。

 するとラディは協力してくれなくて奥歯を噛みしめるユウを見ながらも言い放った。


「……君はこの世界を知らなすぎる」


「え?」


「きっと知ると思う。この世界がどれだけ残酷で、どれだけ希望が灯らないのか。その時が来れば実感するぞ。自分がどれだけ無力なのか。――全ての人が他人に構う程余裕を持ってる訳じゃない。望み過ぎると痛い目を見るぞ」


 さっきまで軽い口調で話していた彼女の言葉が一気に重くなる。それもまだ純粋にしか世界を見ていないユウにとっては、重苦しい程。

 だから何も言えなくなって座り込んだ。ユウはまだこの世界の事を理解しきれてないんだって思い知らされたから。


 全ての人が他人に構う余裕を持っている訳ではない。それはあまりにも重たく、そして絶望的な言葉だ。ラディもそのうちの一人なんだろう。それ程なまでにこの世界に――――絶望に追い詰められている。

 出来る物なら何とかしてあげたいと考えた。けれどそこまでの絶望をユウが払うだなんて勘違いも甚だしくて、きっと何をやっても解放してあげる事は出来ないだろう。だからこそユウは問いかけた。


「……どうしたら、力を貸してくれる?」


 するとラディは意外だと言う様な表情でユウを見た。そりゃ、ここまで協力は出来ないと言われているのに、諦めずに問いかけられればそんな反応になるだろう。

 でもユウの瞳を見ると彼女は口元に微笑みを浮かべる。そして挑戦的な笑みを浮かべると言った。


「――“常連”になれれば、ね」


「常連、って事は、要するに気にいられればいいのか?」


「そうだぞ。私が守りたいと思えるような人間になれれば手は貸す。いや、この場合は情報を貸す、の方が正しいかな。何にせよ君のやりたい為の情報を上げる事を約束するぞ」


 ようやく一筋の光。それを聞いて考えを改めた。

 希望があるのならそれをやる為に努力しなきゃいけない。この街を守る為にも、みんなを守る為にも。だからやってみせるとやる気がみなぎるのだけど、ラディは最後にもう一度瞳に鋭い光を灯らせるとトーンを変えて言った。


「ただし、そうなれる可能性はゼロにも等しいけどね」

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