037 『スラムでの抗争』
「――来ますよ!」
「ああ!!」
イシェスタがそう言った直後、ギャング達は一斉に攻撃を開始した。普通こういうのって数が多くても三十人程度なはずなのだけど、彼らの数は明らかに五十を上回っている。いくらエセスラムだと言ってもそこまでの人数で生活できる物なのだろうか。
あるいは、このエセスラムそのものがギャングの支配下になっているのだとしたら――――。そう考えているとイシェスタの振った大鎌によって一斉に数人が吹き飛んだ。
「せぇいッ!!!」
だからユウも大きく踏み込んでは剣を高く振り上げ、雷を纏わせながらもゴルフスイングの様に全力で前に撃ち出した。すると雷の斬撃はアスファルトを軽く削りながらもギャング達の体を貫いて行く。
隙を突いて近づいて来るギャング達は全て特殊武装で対処し、何度も轟音を響かせてはギャング達を捌いて行った。
そんな風に強大な力を振るっていると数でも勝てないと理解し、倒れた仲間達を引きずって後ずさりしていく。だからユウは左手にM4A1を持ちつつも背中合わせになったイシェスタに問いかける。
「なぁ、やっぱり数多いよな」
「多いですね。これは別の街からも流れて来てる可能性が大きいかも……」
「一応聞くんだけどギャングってどんくらいいるの?」
「正確な数は不明です」
「うっへぇ……」
正確な数が分からないんじゃどうしようもないんじゃないのか。だからそんな現実にため息をつきながらも警戒し続ける彼らを見つめ続けた。
しかし正規軍がいないのなら別に向こうが引いてもいいのだけど、その様子はない様子。
イシェスタはこの機に倒してしまおうと言っていた。しかしこの数を対処できるかどうかと聞かれたら分からない訳で、無傷で凌ぐことは不可能だろう。彼女も同じことを思っている様で表情が険しくなっていた。
他の街からも来ているのなら流石にマズイ。撤退するのなら今の内なのだけど……。
「やるしかない、か?」
「そうですね。仮にこれ以上騒ぎを起こされちゃひとたまりもありませんから、正規軍とは関係ないですけど、やれるのなら一石二鳥です」
「りょーかい。ここは欲張るが吉か」
正直言って逃げ出したい。でも今は欲張る事を最優先に剣を構える。確かにこの先こいつらが事件を起こすかなんてわからないし、少し可哀想だけど、この先を考えると彼らの為にも倒さなきゃいけない。
だから近接戦になると踏んで剣を両手で構えるとギャング達も構え始めた。それから一斉に咆哮すると突っ込んで来た。
「やっぱりそう来るよな。じゃあ、遠慮なく……!」
剣を振り上げると雷を放出してあの時までとは言わずとも雷の刃を召喚して見せた。それから大きく踏み込んで横に振ると突っ込んで来たギャング達を丸焦げにさせる。
イシェスタの方も大鎌を使って対抗しているらしく、一振りする度に何人も吹き飛ばして行った。それもこれが少女の出す威力かって思いながら。
この調子ならもうすぐすれば片付けられるだろうか。いくら人数が多いと言ってもここまで大きな技を繰り返していれば数も減っていくだろう。
その他にも特殊武装で何も吹き飛ばしていくとついに両手で数えられる数まで減って行った。まだまだ数がいるかも知れないけど、それでも五十人以上も一気に捕まえられるのならいい事が起るはずだ。っていうかそう信じたい。
……と思っていたのだけど、そういう事はないらしい。
「イシェスタ、なんか来た」
「え?」
そうしていると街の奥から大柄の男が歩いて来る。反対側からは長い鎖のモーニングスターを持った女性が迫って来た。両者とも圧倒的なオーラを放ちながら。
だから一時的に戦闘を中断するともう一度背中合わせになった。
「あれが親玉って事なんですかね。いけそうですか?」
「怖い」
「素直でよろしい」
するとイシェスタは斜めに移動すると立ち位置を反対にした。ユウが女に向くように。イシェスタが男に向くように。正直言って女の方でもかなり不安だ。体の大きさ的にはガリラッタにも近しいけどオーラだけは桁違いだった。っていうかここまで大柄の女性が存在する事自体に驚く。
勝てるだろうか。あんな相手に。そう思っているとイシェスタは背中を叩いて元気づけてくれる。
「今まで通りにやるだけですよ」
「その今まで通りが入院通いな訳なのですが……」
「あ、そうでしたね。じゃあこれが記念すべきNO入院の一回目にするだけです!」
そう言うと背中を叩いて互いに走り出す。イシェスタは大鎌を振り回しながら巨大な棍棒を持った大男に立ち向かい、ユウは速度を殺さずに女の方へ走り出した。
きっと普通じゃ敵わない。だから最大限に電撃を発動させると女はモーニングスターを振り回しながらも言った。
「アンタかい、よくもあたしの仲間をやってくれたね!!」
「これもこの街の秩序を守る為なんだ!」
飛んで来たモーニングスターを一個の武装で弾き、もう一つで牽制すると避けた先に対応して刃を振り下ろした。しかし物凄い器用さでモーニングスターを操ると鎖で牽制し、鉄球で攻撃すると言うスタンスで攻撃を仕掛けて来る。
でも、次に彼女の言った言葉で心に妙な物が刺さって。
「――じゃあ、何もやってないのに濡れ衣着せられてそう言われる気持ちは理解してるのかい?」
「っ……」
直後に拳が飛んで来て受け流す。続けて急降下して来た鉄球をよければ腰にあったナイフを投げつけ、間一髪で弾いた隙を突き、もう一度鉄球を投げ飛ばした。だから二つの武装で真正面から止めると威力を相殺する。
――こいつ、強い……!
分かってた事だ。きっと彼女には無傷じゃ勝てっこないと。
きっと真正面から挑んだって返り討ちにされて終わるだろう。どうせ今回も前みたいにボロボロになって勝つだけ。何かの為にって理由だけで、馬鹿みたいに激痛に飛び込んで――――。
死ぬのは怖くない。でも、痛みと死ぬのが怖くないのは別物だ。痛覚は機能しているのだから刺されれば痛いし、もちろん痛い思いはしたくない。何で戦う度にああなってしまうのだろうなんて何度も考えた。その度に出て来る答えは実力不足。ユウが弱いからみんなに心配をかける。ユウが弱いからこそみんなを死なせる。
「ギャングだの荒くれ者だの言われてるが、彼らは何もやってない! それなのに悪者だと言われる仲間の気持ちが、リベレーターなんかに分かるのかい!」
だからって強くなろうとしても更に強い敵が出て来るばかりだ。今となっては機械生命体は一人でも相手に出来るだろうけど、そこまで強くなっても遥かに凌駕する敵がこうして出て来る。それって、強くなる意味があるのだろうか――――。
彼女の言葉を聞きながらも電撃と武装を上手く操り行動不能にしようと攻撃し続けた。
「ここまで追い込んだのはアンタ達なのに、どうしてあたし達が悪者にならなきゃいけない!」
「完全に別件って訳か……」
彼女の言葉が本物なら正規軍もギャングも関係ない、完全なる別件って訳だ。イシェスタはギャングだから捕まえた方が良いと言っていたけど、果たしてそれは正解なのかどうか。
それなら攻撃した理由がただ恨みで攻撃したってのもあるし、何よりユウ達をここから追い出す為だという事も理解出来る。
今からじゃ難しいと思うけど条件付きで和解する事も可能なはず。そう考えた。この敵対している状態で和解はさすがに不可能だけど、もし相手を倒して大人しくさせる事が出来れば。
イシェスタも同じ事を考えたのだろう。視界端に映った彼女は大鎌で大男のうなじを強く叩いては軽く気絶させた。
――そう言う事か。じゃあ俺も!
電撃で牽制した直後に武装で攻撃。全力で飛ばした武装が脇腹に直撃すると彼女は肺の中の空気を全て掃き出し、接近するユウに気づけないままよろけた。だからこそ飛ばした武装を足場に彼女を飛び越えると剣の腹で思いっきり脳天を叩いた。
それから何回転かして受身を取るとようやくその場は静かになる。
意外と呆気なかった戦闘に唖然としつつも近づいて来るイシェスタに問いかけた。
「……で、この人達どうするんだ? 自分達は何もやってないって言うけど」
「確かに言ってましたね。多分、暴れてたのはこの人達と間接的に関わりを持った人なんだと思います。こんなに強ければ暴れてリストに載りそうですけど、こんな顔見た事もないですし」
「一応鎮圧したって事はやっぱり逮捕するのか?」
「いえ、最初は取り調べですね。それから彼らの処罰を決めます。言葉通り何もしてないのなら施設に送りここよりも良い生活をしてもらう予定です」
問答無用で処すと思ってたからホッとする。
なんか、彼らには悪い事をした。いくら最初は誤解していたからとは言え、全員気絶させるのは流石にやり過ぎただろうか。まぁその内の大半はイシェスタが鎮圧していた訳だけど。
「……なんかさ、骨折り損のくたびれ儲けじゃないか?」
「それは言わないお約束です」
元々正規軍がいるかどうかを確かめる為にここまで来たのに全く別件の連中と交戦するなんて、まさしく骨折り損のくたびれ儲けってヤツだ。彼女にとっては街の平和も守れて一石二鳥なのだろうけど、ユウにとっては何か巻き込まれた感が物凄い。
果たしてこれは最善の結果なのか悩ましい所だ。
と、普段ならそこで思考を終わらせていただろう。けれど今回は建物の陰からこっちを覗いている人影を見付けて咄嗟のその方角を見た。するとその人は急いで逃げる様に、もしくは誘導するかのように背を向けて走っていった。それも灰色のローブを羽織りながら。
だからユウは即座にその人の跡を追う。
「あ、待て!」
「ユウさん!?」
そうするともちろんイシェスタが振り向いて引き留めようとする。けれどレジスタンスが到着するまで動けないし、彼女は最終的にユウを見送ってその場にとどまった。
ユウは謎の人を追って建物の隙間まで誘導される。
謎の人には少しだけ気がかりがあった。あの時……あのバーで出会った《影の情報屋》。その人も同じく灰色のローブをしていたから。
街を歩けばローブを羽織ってる人なんて山ほどいる。だから身を隠すには絶好の服装だ。故にもしかしたら人違い名だけかも知れない。でも、それでも一縷の望みをかけて跡を追い続けた。
「待ってくれ! ちょっと――――ってあれ?」
しかし曲がり角を曲がった瞬間からその人の姿は見えずに行き止まる。あの時と全く同じ感覚。だからこそ追いかけてた人が《影の情報屋》だという確証が取れるのだけど、話す以前に当人は全く見えなくて。
やがて背後に誰かが接近すると耳元で囁いた。それも、ユウの視線感知すらも逃れる程の存在感で。
「――なるほどなるほど。そう言う事かぁ」
「っ!?」
しかし振り返っても誰も居ない。
だから疑問を抱くと何も言ってないのに彼女はソレに応えてくれた。それも、丁寧にナイフを突きつけながら。
「動かない方がいいぞ? チクってされたくなければなっ」
声だけは可愛らしいのに、情報屋は意外と危うい人であった。




