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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter2 始まりの刻限
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030  『嫌な再会』

「意味ないと思うけど一応言うぞ。その人を離せ」


「分かってんじゃねェか。せっかく捕まえた人質なんだ。簡単に話す訳ねぇだろォ?」


 やっぱりこういう輩に忠告しても意味はないんだ。

 すると彼は鋭利なナイフを少女の首元に突き立てながらも刀身を舐める。本当にそう言う動作をする人がいる事に引きつつも考えた。

 この状況、レジスタンスを呼べば一瞬にして包囲できるだろう。そうすれば数で掛かる事が出来る。でもそれは奴が一人なら成立する作戦だ。


 ――背後に二人。右の建物に一人。左の廃ビルに一人、か。


 《A.F.F》の熱源探知がなくったって視線だけで分かる。既にユウの周囲は包囲されてるんだって事を。恐らく奴の仲間なのだろう。人質を利用して誘い込み、一気に袋叩きにすることが目的のはず。スラムじゃ証拠隠滅さえすれば簡単に踏み入れないのだから、当然の作戦といった所だろうか。

 奴もユウが作戦にハマっている事に余裕の笑みを浮かべていた。


「最後の忠告だ。その人を離せ」


「さもなくば撃つかァ? いいぜ、撃てよ。撃てるもんならなァ!!」


 すると彼は少女にナイフを突き立てながらも胴体を丸出しにして撃ちやすいようにしてくれる。普通ならこれでも撃たないのが常識だろう。でも、ああいう輩にかける慈悲がないユウにとってはとてもありがたい事だ。

 だからこそ引き金を引いた。


「じゃあ撃たせて貰おうか。――お前の仲間を」


 突如周囲の仲間が動き出す。ソレを音だけで感知して腰のホルダーからM1911を取り出して背後の二人に乱射。左右から近づいて来る二人には片方にM4A1の弾を撃ち込み、もう一人は回し蹴りを脳天に食らわせて地面に叩きつけた。

 約十秒。訓練の成果を如何なく発揮しては即行で四人を制圧した。そして驚いた顔でこちらを見つめる奴にもう一度銃を構えた。


「どうせお前は何かしらの手段を使って銃弾を防ぐんだろ、こんな風に」


 そうして引き金を引くと発射された弾丸は甲高い音を立てて弾かれた。まぁ、あそこまで分かり易くされると罠だって事は流石に分かる。


「それで弾が届かなくて驚愕した俺を四人で襲撃。袋叩きにしようって魂胆だろ?」


「ふはっ。よくわかったじゃねェか」


「でもこれで仲間はいなくなった。しばらくすれば銃声を聞いてレジスタンスも駆けつけて来る。お前はどうする気だ」


 客観的に見れば状況は極めてこっちが有利だ。銃が効かないとはいえ、こっちにはまだ剣やグレネードもある。もし見えないバリア的な物があるのなら爆発で吹き飛ばさなきゃいけない。どうやってそのバリアを展開してるんだって話になるけど。

 すると彼は威勢よく言う。


「お前を潰せば俺はァ助かるんだ。容赦なくブチ殺すぜ」


「だろうと思ったよ」


 今大事なのはどれだけ時間を稼げるかだ。そして、その稼いだ時間の中でどれだけ奴の謎を解明できるか。それが勝負の分かれ目となる。

 原理は全然わからないけど銃弾を無効化する事だけは確かなのだ。この世界に異能力がない限り奴だけでバリアを張るだなんてあり得ないとなると残った可能性は、


 ――魔術か、科学か。


 もし奴が魔法を使えるのならそれっぽいバリアを張れるのも頷けるし、何かしらの機械を使っているのならそれもそれで納得できる。ホログラムを展開できるのだから量子バリア的な物を展開出来たっておかしくはない。

 何にせよ、どの道その謎を暴いて攻略しなければいけないのは確かな事で。


「どうした? 怖気づいたかァ?」


「いや、どうやったらその顔面に拳を殴りつけられるのかと思ってな」


 そろそろ時間を稼ぐのも限界だろう。みんなにも位置情報を送ってあるから後々来るとは思うけど、それまでの間にどうにかなるかどうか。

 条件的にも人道的にもこの事件は解決しなきゃいけない。じゃあ、どうやって奴を無効化すれば……。すると痺れを切らした奴はついにナイフで少女の首を斬ろうとした。


「オメェもしつけぇなァ! いい加減にしねぇとぶっ殺すぞ!」


「――ッ!!」


 瞬時に引き金を引いて少しでも怯ませる。やはり火花を発生させて弾かれるけど、その瞬間に薄っすらとだけど妙な模様が見えた。ソレは奴を円状に覆う様な形になっていて、やはり量子バリア的な物を張ってあったのだ。

 そうとわかればやれる事はただ一つ。科学の武器には科学の武器で対応するだけ。

 急接近して腰から剣を振り抜くと思いっきり振り下ろした。


「らああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」


「電撃……? ハッ! そんな程度でこのバリアが破れるとでも思ってんのかよ!!」


 科学にはあまり詳しくないけど、仮に量子だとするのなら電子で何とかなるのではないだろうか。語感が似てるからそう思ってるだけだが。

 電撃の威力を最大まで引き上げると周囲に弾かれた電撃が周囲に飛び散って地面を抉って行った。その反動で自分自身にも反動が来るけど、電気抵抗の摩擦熱に耐えながらも刃を振り切った。するとバリアは粉々に砕け散って奴の守りががら空きになる。


「なっ!?」


「――ッ!!」


 だからこそユウは思いっきり蹴りを食らわせると奴を吹き飛ばして少女から離れさせる。幸い大きなけがはないみたいだ。ナイフで斬られた首元から少しの血が出るだけで。

 直後にやって来たレジスタンスたちへ少女を預けるとユウは奴に集中した。


「ごめん、この子頼んだ! 後は俺に任せてくれ!」


「りょ、了解しました!!」


 そうして蹴り飛ばした彼を見た。腰ら辺から機械の破片が散らばっている所を見るに、やっぱり量子バリアを展開できる機械を持っていたのだろう。どこからそんな凄い物を持ち出したのかって疑問に思うけど。

 何はともあれこれで無力化は出来たハズ。あとは逮捕するだけだ。


「さて、バリアも破られた訳だけど、抵抗しないのなら痛い目に合わなくて済むぞ」


 もう銃弾を遮る物は何もない。だからこそユウは銃口を奴の脳天に構えた。これで抵抗するようなら四肢を撃ち抜いて身動きを取れなくさせればいい。悪い奴にかける慈悲なんて元からない訳だし。

 自分が追い詰められているのを分かっているはずだ。それなのに彼は口元に笑みを浮かべると大きく高笑いして狂ったように空を仰ぐ。


「痛い目だァ……? 俺はなあ、この世で一番大っ嫌いなのはそう言って上から見下す輩なんだよ。そいつをぶち殺せるンなら死んだって構わねェ!!」


 下を出し涎を散らしながらナイフを突き出す。それも剥き出された眼球に殺すって字が見えるくらいの殺意で。

 死んだって構わない。その言葉はユウにある種のスイッチを入れた。

 ナイフを避けると足を蹴ってバランスを崩させ、腕を前に引っ張って顔面から地面に叩きつけた。それから起き上がる奴の口に銃口を突っ込んで言う。


「じゃあ、死んでくれ」


 ――死者の眼。奴の瞳に映ったユウの眼は、まさにそれだった。だからこそ奴は瞬間的に恐怖した顔を浮かべて顔を左右に振る。やっぱり人は死ぬ前になったら恐怖する生物なんだ。そうなるとユウは人間じゃないって事になるけど、今はどうだっていい。

 周囲に銃声が鳴り響くと今さっきまで激しく動いていた奴の身体は動かなくなり、うなじら辺から血を流して黙り込んだ。


「これで終わりっと。始末書になるのか報告書になるのか……」


 事件はこれで解決しただろう。近くには他の熱源もないし、視線や存在も感じない。これにてリベレーターに入る為の条件は全てクリアしたって訳だ。

 まぁ、それが普通ならって話だけど。

 しかし奴の腹から僅かに見えた粘土の様な何かに反応する。それが何だろうと思って脚で軽く服をめくると、そこにはC-4が隠されていて。


「っ!?」


 ――違う、こいつ、囮だ!!


 そう察っして即座に後方へ飛び出す。けれどその時には既にC-4は爆破していて、ユウは途轍もない爆風と共に吹き飛ばされた。その爆風は周囲の建物にまで影響を与え、脆いガラスなどは全て砕け散った。

 ユウが知る中でC-4を使う人間なんて一人しかいない。でも、そんなはずが――――。その予想は残念な事に当たってしまう。


「――熱源!?」


 突如表示された熱源のアラート。それに反応して体を左に振ると真横に炎が通り、それは地面に触れるとアスファルトを焦がす程の高熱さを持っていた。

 こんな攻撃、一度見たら忘れる訳がない。だからその方角に振り向くと例の黒ローブを被った人がいて奥歯を噛みしめる。


「正規軍……!」


「一か月ぶりだな」


 この前の件で消飛ばした片腕はまだ治ってないみたいで、左腕だけが存在しない様子。それだけが唯一の救いといった所だろうか。

 直線上はまずい。どこかに身を隠さなきゃ。

 でも、一体どこに――――。


「何でお前達がここにいる。どうしてこんな、捨て駒みたいに人を……!」


「我らも命令故に従っている。仕方のない事だ」


「それだけで片付けていい訳がないだろ!?」


「ならお前はどうなのだ。今さっき、そいつをアリの様に殺したではないか」


「……!」


 確かにアリを踏む様な感覚で引き金を引いた。その感覚は今もまだ残っている。つまりやってる事は同じなのだ。捨て駒みたいに扱い、アリの様に殺すのは。

 何も言えないからこそ別の言葉で話題を逸らす。今気にしなきゃいけないのはどうしてここにいるのかなのだから。


「何でここにいる。何の目的でここに来た!」


「もう忘れてしまったのか。これは宣戦布告と――――」


「そうじゃない! お前達はあの件で片腕を失ったんだろ! ならどうしてまだここにいるんだよ!」


 普通なら腕を失えば戻って治療を受けるのが最優先のはずだ。いくら応急措置で済んでいるとしても必ずいつかはボロが出る。この街の医療技術を借りる訳にもいかないからこそもうこの街にはいないと思い込んでたのに。

 すると彼は肉を潰し紐で紫色になるくらい強く結んだ腕を見せつけながらも言った。彼らがどれだけ狂っているのかを。


「我らも捨て駒だからだ。どこで死のうと何をして生きようと、何も意味はない。我らの存在意味はたった一つ。任務を遂行する事だけだ」


「お前はそれでいいのか。捨て駒なのを知ってて、それで――――」


「構わん。我らが主の為ならば、身も心も捨てる事など簡単だ」


「…………」


 主って言うのは恐らく正規軍の最高責任者の事だろう。つまり彼らは捨て駒にされているのを知って尚主のために尽くそうとしているんだ。

 やがて彼は右手を翳すとそこに炎を集めながらも言った。


「――それが、我らの正義だ」


 直後、溜め込まれた炎は爆発と同時に解き放たれた。

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