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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter2 始まりの刻限
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029  『課せられた任務』

「えっ、なに、何でベルファークさんがここに!?」


「なぁに。ふらりと立ち寄っただけさ。その先で君がいたからこそ声をかけさせてもらった」


 立ち上がって驚愕する程の衝撃。その反応を見てベルファークは軽く噴き出すと穏やかに笑って見せた。あの厳しそうな顔がするとは到底思えない微笑み。それを見て更に驚愕する。

 しかし彼はリベレーターの最高責任者。大統領みたいなものだ。だからこそユウは慣れない手つきで敬礼すると声を震わせながらもそれっぽい事を言おうとした。


「こっ、この度はお声をかけていただき、誠に――――」


「今日の私は非番だ。別にそこまで礼儀正しくしなくてもいいさ」


「ですけど……」


「まぁまぁ座って。リラックスリラックス」


 初めて会った時とは別人の様な言動。あの時のアレは業務用の顔なのか、と疑問に思いつつ肩の力は抜けきらないまま座った。

 すると彼は手を組んでユウを見つめると安心そうに喋り出した。


「……うん。何も無さそうで何よりだ」


「――――」


 けれどユウはその言葉に何も答えられなかったから。理由は色々とあったけど、何よりも例の件から話が始まった事だった。

 これからも増え続けるであろうトラウマの一つ。推薦試験の件は話に触れる度に記憶を呼び覚まして心に刃を突き立てる。

 それを分かっているからこそベルファークは容易な心配はせずに言った。


「実は、君に一つ提案があってここに来た」


「え? でもさっきふらりと立ち寄ったって……」


「アレは建前。私の秘書が今も何処かでここを見てるかもしれないのでね」


「い、意外と大変なんですね」


 そんな建前を用意する程の用事って事なのだろう。普通こういうのって物凄く重大な話だからこそユウは覚悟しつつもその話を聞いた。だって最高責任者が自らの足で出向いて来たのだ。そんなの聞かない方が失礼という物。

 さっきみたいに鋭い眼光を向けると真正面から言った。


「――君の実力は凄い物だ。だから、我々の部隊に招待したい」


「え?」


「射撃能力、反応速度、共に凄い物だ。その実力をこっちで育てたい。もちろん条件をクリアしてからの話になるが、どうだろうか」


「…………」


 悪い話ではない。ユウも今は強くなる事を目標に毎日トレーニングをしているし、この世界では弱肉強食が基本中の基本。死なない為にも、そして死なせない為にも、強くなるのは何ら悪い事ではない。

 彼も秘書に隠れて来てるって事は正規の物じゃないはず。つまり個人的にユウを期待しているのだ。彼にとっても強い兵士がいるのは困る事じゃないから。


 普通に見るのなら断る理由はどこにもない。最高責任者が期待してくれてる事は凄い嬉しいし、それ程なまでにユウの実力を見込んでくれている。

 でも、ユウはその誘いを断った。


「断ります。合理的にも常識的にもその誘いを受ける事が最善だって事は理解してるんです。……でも、初めて見付けた守りたい人達の傍で、強くなって行きたい」


 これは完全なる私情だ。大切な選択の前で私情を挟んじゃいけないのは知っている。でも、どうしてもその選択をしたかった。理屈では分かっていても心がそれを受け入れない。

 もしかしたら単にみんなと離れたくないだけかもしれない。だからこそベルファークの誘いを受け入れる事は出来なかった。

 すると彼はユウの選択を呑み込んでくれて。


「……そうか。それも一つの選択だな」


「ごめんなさい。俺――――」


「いいんだ。選択は誰に出来る。私はその選択を受け入れよう」


 本当は彼だって悔しいはずだ。ユウの覚悟がまだ弱いのも知っているのに、何度も頼めばきっとその選択をしたのに、それでもベルファークはユウの選択を受け入れてくれた。

 申し訳ない気持ちでいっぱいになる。せっかく誘ってくれたのに。

 そうしているとベルファークは少しだけ噴き出して笑って見せた。


「はははっ。君は優しいんだな」


「や、優しい……?」


「例え覚悟して断った選択だとしても、相手に申し訳なさを感じる。それは優しいって事の裏付けになるんじゃないか?」


「…………」


 優しい、と一言で言われてもあまり実感が沸かない。それどころかあまり人から言われた事がないからそう思う事も出来なかった。

 最初は他に何か話しがあるかと思ったのだけど、本当のこれを話しに来ただけの様で、ベルファークは立ち上がるとリコリスと同じ様にお金を置いて歩いて行こうとしてしまう。


「私が話したいのはこれだけだ。じゃ、バレる前に変えるとするよ。――神様を信じると良い」


 けれどユウはそうして帰ろうとするベルファークの腕を掴んだ。本当ならこういうのは無礼に当たるのだろうけど、それでもユウはどうしても聞きたい事が出来て彼に問いかける。

 それも本当はしたくないけど、腕を力強く握りながら、最大限の警戒を込めて。


「……ベルファークさん、あんた、何者ですか」


 彼は今「神様を信じると良い」と言った。もしかしたら“信じる者は救われる”を別の言い方で表しただけかもしれないし、カミサマという単語に過剰反応し過ぎているだけなのかも知れない。この世界で何よりも信じないのは何者でもない、あのカミサマだけだから。

 するとベルファークは不思議そうな視線でユウを見つめる。


 恐らくリコリスは報告書とかでカミサマの事に付いては話してないのだろう。この世界にも宗教的なのは存在してるのかもしれないし、彼はカミサマの事を本気で信じてるのかも知れない。だからこそ反応せざるを得なかった。もしかしたらカミサマの事を何か知っているかも知れないから。

 警戒と疑惑の視線を向け続ける。すると彼は何かを察した様な表情をして話し出した。


「……何か誤解を生んでしまった様なら申し訳ない。私はリベレーター最高責任者のベルファーク・リズショアラだよ」


「カミサマに付いては?」


「ああ、私は神を信仰する一族に生まれてね。いわゆる習わしなんだ」


「――――」


 きちんと説明してくれた。今はそれだけで十分だった。だからこそ腕を離して深く頭を下げる。普通ならこういうのは凄く無礼な振る舞いだろうし、許されない行いだろうから。けれどベルファークは突如疑ったユウを許すどころか頭をポンポンと撫でて励ましてくれる。

 もしかしたらカミサマについて何か聞けるかも知れない。そう思ったからこそユウは問いかけた。


「……この世界のカミサマって、何者なんですか」


「私は慈悲深い神様だと聞いている。不安定な世界で天災が発生する中、人類の拠点が滅ぼされないのは神様が天災から護ってくれているからだと」


「天災……。確か、俗にいう自然災害と同等の……」


「そうだ。巨大竜巻だったり、豪風雨だったり、どちらにせよその場に起きれば地形が変動する程の被害をもたらす存在。この街が無事なのは、神様が天災から護ってくれてるかららしい」


 そんなのある訳がない。あのカミサマが街を守る? 例え一億歩譲ってもあり得ないだろう。悪戯にユウを騙しこんな世界へ放り込み、後は知らんぷりの最低なカミサマが慈悲深い? それならまだ向こうの世界で関わった最悪な人達の方が好感が持てる。


 嘘つきのカミサマなんかが人類を守る理由なんてないだろう。だって意味もなくユウをいたずらに放り込んだのだから、彼女にとってきっとこの世界がどうなろうと知った事ではないはずだ。もし騙されずにいなければ、きっと今頃嫌な記憶をなくして平凡な家族の元に生まれて――――。

 聞きたい事は大体聞けた。だからユウは顔を伏せながらもかすれた声で言う。


「……出過ぎた真似をしてしまい、すいません」


「構わないさ。それに、私も普通の人として接してくれた方が嬉しいからね。それじゃあ、またいつか会おう」


 ベルファークはそう言うと肩をポンポンと叩いて歩いて行った。何と言うか、彼には申し訳ない事をした。誘いを断っただけじゃなく思いっきり疑い警戒してしまったのだから。

 リコリスにバレたら怒られるだろうなぁ、と思いながユウもパトロールに戻ろうとする。でも、突如街中に響いた悲鳴によってそれは急遽予定変更された。


「っ!? おじちゃん、お金ここに置いとくからね!!」


「え、お客さん!?」


 するとユウは立ち上がっては肩にかけた銃を手に走り始めた。声の不安定さからそこそこ距離がある事は確実。となれば周囲にいたレジスタンスから情報を聞き出しつつ現地に向かうしかないか。

 道行く人が一心不乱に走るユウを見つめつつ同じところへ向かうレジスタンスに呼びかけた。


「声、どっから聞こえたか分かるか?」


「あの方角です! 恐らく、ここから真っ直ぐ!」


「OK、サンキュー助かった!」


 そう聞くとユウは姿勢を下げて更に走る速度を上げる。最初は事件が起きたら喜ぶかと思ったけど、案外そうでもない。むしろ早く助けなきゃって使命感が焦燥感を掻き立てる。この世界は何が起こっても不思議じゃないのだから。

 今さっきみたいにレジスタンスから情報を聞きながら走っていくとある場所に辿り着き、ユウ同様にほかのレジスタンスも集まっていた。


 場所は街の端で、活発な街並みから暗い街並みに変わる境目と言う様な場所だった。いわゆるスラムの入り口って奴だろうか。

 ここから声がしたって事は近くにいる事は確実。ユウは銃を持つとこの中で一番権限を持つ者として指示を出した。


「みんなは周辺を探してくれ。俺は少し奥辺りを探してみる。で、何か見つけたら合図を出してくれ」


「了解!」


 誰かに指示を出すのはこれが初めてだけど、みんな素直に従って動いてくれた。

 こういうのは大体奥に逃げる物だ。かつ隠れやすい場所があればそこに留まり騒ぎが収まるまで待つのが基本的。だからこそ危険な場所にユウは一人で踏み込んだ。

 もちろん一人で解決できるだなんて思っちゃいない。故に耳に付けたA.F.Fのボタンを押すとみんなに信号を飛ばした。


 少しの間だけ奥に進むと一つの廃ビルが見えて来て、周囲にあった工事用の柵から人影が見えて立ち止まる。そしてM4A1を構えると忠告した。


「そこの奴、出てこい。今なら痛い思いをしなくても済むぞ」


「あァ、バレてんのかよ」


「…………!」


 すると如何にも不良と言う様な輩が柵の陰から出て来る。それも少女を人質に取りながら。彼は下唇に付いたピアスを舌なめずりすると不吉な笑みを浮かべながらもユウを見つめた。人質がいるのなら手が出せないと思い込んでいるから。


 この日、初めてユウに課された任務が始まった。

 己にとっての試練でもある、最悪の初任務が。

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