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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter2 始まりの刻限
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028  『触れ合う人々』

「事件が起きねぇ……」


「そりゃ平和だからね。事件を起こそうとするのなんて余程覚悟のある人か正規軍だけだよ」


 合同訓練をクリアしてからしばらく。入隊条件を言い渡されてから既に一か月だ。これによりこの世界にやって来てから約三か月が経ったって訳だ。それだけの時間があれば流石にこの世界にもなれる訳だけど、それでも仕組みや絶望さについては未だに順応出来ていない。

 初任務を待つのもそうだ。こっちとしては焦らされる感覚に陥る為一秒一秒がもどかしく感じてしまう。


 今は指導役兼世話係でもあるリコリスと一緒にパトロールに出ていた訳だけど、何もないからこそとある店にお邪魔して休憩している所だ。そしてユウが机に突っ伏しながらもそう呟いていた。

 しかしリコリスの言う事も確かだ。レジスタンスが常時警備を続ける中で何か犯罪を犯そうものなら高確率でレジスタンスが止めに入る。それで事件を起こす気にはなれないだろう。


 街の平和を守る為にリベレーターに入ろうとしているのだ。それなにこんな事を思うのは本末転倒所の話じゃないけど、早く事件が起こって欲しいと密かに願い続ける。

 リコリスもその心境を察していて。


「気持ちは分かるよ、気持ちは。私も似たような感じだったし」


「分かって良いのかソレ。……にしても何もなさ過ぎじゃないのか。だってもう三日だぞ。三日も経って引ったくりの一つもなしだぞ!」


 普通、小隊と言うのは街の中で起る事件解決に動くのが一般的だ。たまにユウを助けた時みたいに遠征調査へ出向く事もあるらしいけど、それは月一感覚らしい。それも大抵が地質調査とか機械生命体・感染者の定期排除だとかなんとか。いくら任務をクリアする事と言っても今のユウがそれに同行する事は許されず、今のユウに出来るのは街中で起きる事件の解決のみとなる。


 ちなみに事件解決も立派な任務遂行の一つらしく、引ったくり一件でも解決すればいいらしい。ただそう言った簡単な事件はレジスタンスや市民によって解決されてしまうためあまり期待できないらしいが。

 ユウはジュースを飲みきると再び机に突っ伏した。

 するとリコリスが軽口を叩いて言う。


「じゃあ逆に事件よ起こるなって願い続ければフラグが立つんじゃない?」


「あー、逆説的に?」


「っていうかそう思う方が正しいけどね」


 まさしくその通りで返す言葉もない。だからこそユウは眼を背けると軽く口笛を吹いてごまかした。だってユウは人を守る立場にある訳だし。

 そうしてリコリスはユウの反応を楽しむとお金を置いて立ち上がった。


「じゃ、私はそろそろ戻るから、後はお願いね」


「ああ。りょーかい」


 世話係と言ってもリコリスはリーダーだ。やらなきゃいけない仕事があるのにユウに時間を割いてくれている。ここまでしてくれると謝罪を言いたくて仕方がないのだけど、まぁ、それを望んでないからこそ何も言わないのが筋という物。


「後はお願いっつっても何も起きないんじゃねぇ……」


 そう呟いてジュースを飲み干すと後ろから複数の視線を感じて振り向いた。まさか狙われてるのか!? なんて期待しつつも振り返るとそこには何人かの子供がいて、みんなユウの事を憧れの眼差しで見つめていた。

 だからどうしたのかと聞くと子供達は純粋な想いで答えて。


「どした? 何かあったのか?」


「ううん。兄ちゃんリベレーター何でしょ? 俺、リベレーター見るの初めてなんだ!」


「あー、そう言う事ね」


 その言葉で何を言いたいのかを全て察した。

 確かにリベレーターはあまり街で見かけない印象だ。実際レジスタンスの人達が見回りをしている訳だし、リベレーターが街に出向く時なんて余程暇なときか事件が起きた時だけだろう。

 そしてリベレーターに憧れ入る人は多いと聞く。合同訓練の時にも話を聞いた半分の人が人を守る姿に憧れたと言っていたし。

 以上から子供の憧れの対象になるのは当然の事……。


 特に何も起こらないだろうし、暇つぶしに話し相手になってもらおうと向き直った。それから彼らに微笑みを浮かべると彼らはユウに問いかけ、それに対して正直に答えた。


「ねぇねぇ、リベレーターって何するの!?」


「そうだな。基本的には本部から来る任務を完遂するのが仕事かな。それ以外はこうして街をパトロールして、事件がないかを確認してるんだ」


「じゃあお兄ちゃんは今暇なの?」


「そう言う事になるな」


 やっぱり想像通り、彼らにとってリベレーターとは憧れの対象なんだ。まぁ日本での東大みたいな物だろうし、難関でも憧れる人は強く惹かれるのだろう。

 だからこそユウの話に眼を輝かせながら聞いてくれる。


 ――そういえば、誰かに話しを聞いてもらうのって物凄い久しぶりだな。


 反射的に脳裏でそう呟いた。

 生前はほとんど誰とも話した事がないし、むしろ煙たがれる様な生活を送っていた。だから誰かがここまで興味津々になって話を聞いてくれることが嬉しかった。こっちも次第にリベレーターの話に花を咲かせる程に。


 普通の会話なら何度もした。でも、ここまで聞き入ってくれる人達なんて誰も居なくて、騙されておいて何だけどここに来てよかったかもと少しだけ思える。

 ずっと独りぼっちだったからこそ、そう思った。


「そこで敵がずばーんとやって来て、俺が仲間を庇いつつ銃を乱射。直後に敵はHPがゼロになって倒れたって訳よ」


「おぉ~!」


 ユウの話……と言うよりかは経験談を聞く少年少女はみんな聞く度に目を輝かせる。しかし話すのが楽しいと思う中でもう一つの考えが脳裏で渦巻いていた。

 果たしてこのまま憧れさせていいのかという事。

 リベレーターに入る以上戦う事は避けられない。戦いは人が死ぬ。その光景を、純粋な想いを持つ彼らが耐えられるかどうか――――。


 あの時、機械生命体はヘリアンの体を生きたまま食らい、グレアの内臓を取り出して千切り体内に取り込んでいた。どうして機械が肉を食べる? そんな疑問はもちろんついて回る。

 その意図は今の所不明だけど、仮説として肉を取り込んでエネルギーにしてるとか、データとして残し何かに使おうとしてるとか、様々な説が飛び交っている。まぁどれも現実性がなさ過ぎて互いの説で否定し合っているが。


 それだけでも十分トラウマ級の光景だと言うのに外に出れば感染者も待ち受けているのだ。幸いと言っていいのか、ユウはそこそこ生理的耐久があったから末期まで症状が進んだ姿にも耐えられたけど、普通の人が見れば姿だけでもトラウマになるだろう。

 分かっていながらやらせるのは酷って奴じゃないだろうか。


 と、そんな事を考えていると話題はユウの装備に移って興味津々に銃を見た。だから今度は銃について解説を始める。丁度執筆課題で詳しくなったことだし。

 しかし今度はユウが耳に付けている物に変更して。


「その耳に付けてるのはなに?」


「ああ、これはまぁ、簡単に言うと大型の無線機だな。ここの伸びてる所から脳に電気で干渉して、様々な補佐をしてくれるんだ。無線はもちろん地形把握とか熱源探知とか」


「すっご! それすっご!」


「うん。俺も思った」


 最初に渡された時は本当にびっくりした。だって装着するだけで視覚が補強され、街を歩くだけでも様々な情報が飛び出して来るのだから。話によると視覚困難の人でも鮮明に見えるって言うのだから、最先端の技術は凄いと思う。

 これ一つで使用者同士の連絡はもちろんさっきも言ったように地形把握とAR上でのマッピング、熱源探知やナビなんかもしてくれる。


 と、そんな話をしていればメールが届いたからAR上でクリックするのだけど、傍から見れば空中に指をなぞらせてるだけなのでもちろん質問される。


「何やってるの?」


「メールが届いた。ちょっと待っ――――」


 けれどその内容を見て黙り込む。

 差出人はリコリスからだ。内容は事件が起こる“かも”しれないという物。【最近とある廃ビルを拠点としてるゴロつきが活発化しているらしく、その範囲内と言うのが十七小隊の管轄区域なので警戒する様に】と書かれていた。ちなみに【PS.頑張りな】というメッセージも添えられていた。

 ようやく手に入れた情報だ。いても経ってもいられずすぐに移動しようとするのだけど、立ち上がって勘定を済ませようとした直後に声をかけられて反応する。


「おや、ユウ君じゃないか」


「え? えっと、誰……だ……?」


 振り返ってはその姿を確かめる。大柄な体型に薄いひげ。そして掻き上げの白髪に目元に付いた鋭い傷。しかし柔らかい表情。服はバカンスに来たかのような緩い服装で、いかにも休みを満喫している様な雰囲気だった。

 どこかで見た事がある様な……。


「俺達どこかで会いましたっけ」


「会ったとも。どこだと思う?」


「えっと、確か意外と前だったような。最近出来事が多くて上書きされやすいからなぁ」


 そうしていると彼は椅子に座って飲み物を注文し始める。今さっき行こうとした件も即座に起ると言う訳でもないだろうし、彼の事が気になるからユウも座って面と向かった。

 すると子供達には少々刺激の強い顔に背後の少年少女は一斉に逃げ去って行った。


「あ、みんな行っちゃった……」


「はははっ。子供の反応は分かり易いな。……それで、最近の様子はどうだ?」


「今は事件が起こらないか待ってます、けど、あなたもリベレーターなんです?」


「そうとも」


 必死になって思い出そうとする。けれど上手く思い出せないし、最近の出来事が多くて三か月前でも掠れているからよく分からない。だからもっと記憶の奥に潜ろうと集中しようとする。

 すると彼は自ら答えを明かした。


「じゃあ、この顔に見覚えはないかね」


「うお、怖っ。……怖い? 確か、リベレーターに入る時の――――」


 その顔に導かれる様に記憶がよみがえる。この世界に来たばっかりの頃に、この先どうするかと問われた時に向けられた威厳バリバリの顔。

 確かその人の名前ってベルファーク何とかって偉い人じゃ……。

 瞬間、ユウは文字通り全てが真っ白になる程の衝撃を受けて一時的に幽体離脱した。


「ああああぁぁぁぁぁぁぁっ!? ベルファークさん!?」


「そうとも」


 十七小隊とかいうちんけな小隊の管轄区域に、リベレーターの最高責任者であるベルファークは突如現れたのであった。

 そしてさっきの怖い顔をすぐにやめて柔らかい表情を浮かべた。

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