026 『不器用な心配性』
あれから二週間が過ぎた。
崩れかけていた精神は徐々に落ち着きを取り戻し、今となっては普通に会話する程度には復活していった。ただあの件以降かなりのトラウマになってしまったらしく未だその傷は癒えきらない。
しかしある日、その恐怖を乗り越えてユウは何があったのかを話してくれた。
試験は途中まで順調だった事。途中で大量の機械生命体が集う広場に辿り着き、奇襲を食らってみんなが死んでいった事。そしてユウすらも死にそうになった――――いや、死んだ事も。
彼によると確実に死んだらしい。完全に脳天に刃を突き下ろされて絶命したと。
でもユウは今を生きているし、ゾンビという訳でもない。だからこそ記憶の不安定さが生んだ歪みと言う結論に至った。――書類上の報告では。
真偽の魔眼でその話が嘘じゃない事は既に確認済み。だからこそ信じられなかったけど、本当にそう言う事が起ったからこそユウがあそこまで絶望していたのだと知る。
そりゃ、本来一度しか味わえない死とその絶望を受けて尚生きているのだからあれだけ取り乱したって当然だろう。
何がどうであれ理由は分からないままだ。だからこそリコリスは報告書には死んだという結果は書かずに上記の様な文章を書いて提出した。
そのおかげで明かされなかった謎もかなり進み、機械生命体が集合して何か妙な事をしているという確証も取れた。ユウの情報は無駄ではなかったという訳だ。
それからという物、ユウは悩み泣きながらも自分の抱えている恐怖を伝える事でかなり解放されたようだった。未だ心の傷は残りつづける訳だけど、それでも表情には一定の余裕が生まれる。
と言う経緯を踏み、そこから更に一週間が過ぎた。
―――――――――
「中々早かったわね」
「うん。早めに戻ってくれて本当に良かった」
リコリスからの報告を聞いてみんなは心の底から安心したみたいだった。
ガリラッタやテスも異常がない事にホッとして安堵のため息をついている。やっぱりみんな心配だったんだ。きっとこれを言ったら喜ぶだろうなぁ、と思いつつも話を進める。
「それでユウはどうなったんだ? 入隊、出来るのか?」
「そこら辺は上で相談中だって。後一週間もしない内に結果を出すらしい。でも、仮に入隊できたとしてもユウはまだ病院に泊まらせる。ドクターもそれがいいって言ってた」
「なるほどな」
今のユウはようやく話せる程度で、まだ銃を握っていい段階ではない。だからこそ病院に留まらせてメンタルケアを続けさせるそうだ。もちろんリコリスも同伴で。
もう少しの辛抱、といった所だろうか。
それからある程度の話を終わらせるとリコリスはいつも通りの作業に戻ろうと椅子に座ろうとする。けれどその時にアリサが待ったをかける。
「リコリス」
「うん?」
「どうせなら話し相手になってあげれば? もしかしたら寂しんでるかもよ」
「あ、アリサがそんな提案を!? 何か悪い物でも食べた!?」
「強いていてばあんたのいない間にプリンを五個は食べたわ」
さり気なくリコリスの分まで食べてる発言をしながらもドヤ顔でそう言う。色々とツッコミたい所はあるけど、リコリスは別の事を考えては静かに呟く。話し合うと言っても、その内容に自信がなかったから。
「でも私、何を話していいのか分からない」
「コミュ障じゃないんだから……。最初は“良いお天気ですね”とでも言っておけばいいんじゃない?」
「今日曇りですが」
「例えよ」
そんなやり取りをしているとアリサは背中をバシバシと叩いてリコリスを無理やりにでも病院に向かわせようとする。
普段ならこんな事はしないはずなのに今回に限ってやるなんて、何かしらの違和感を抱えるけど、これも彼女の善意なんだと受け入れて部屋を飛び出した。
「……分かった。行って来る!!」
「そうしなさい」
そう言って意気揚々と飛び出した。せっかくアリサがくれたチャンスなのだ。怪しくても物にしなくては。……しかし、部屋から離れていたからこそリコリスは気づかなかった。アリサが何をたくらんでいるのかを。
アリサはリコリスを追い出すと手を腰に当てて言った。
「よし。やるわよ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「って言ってましたけど、何やってるんですか?」
「決まってるじゃない。偵察よ」
「明らかに対象がおかしいですよね!?」
数十分後。アリサ達はせっせと何かしらの荷物を抱えてとあるビルへ向かい、屋上に到達するなり狙撃銃を構えてスコープを覗いた。だからこそイシェスタはその奇行にツッコミつつも止める様に努力しようとする。
でもまぁ、みんなの悪巧みを止められる訳なんて無くて。
「テスもリコリスが滑る所見たいよね?」
「うん。見たい」
「駄目だこの先輩。早く何とかしないと……」
そう問いかけられるとテスは意気揚々と狙撃銃を構えた。それも凄いノリノリで。
こうして乗り気になった二人はイシェスタには止められなくて、最後の希望となったガリラッタに視線を向けて助けを求めようとした。でもまぁ、結果は既に決定されてる訳で。
「ガリラッタさん、どうにか――――」
「しゃーねぇな付き合ってやるよ」
「ちょおっ!?」
しかも雰囲気を出す為にグラサンを付けてどこからか取り出した葉巻も加えている。どこから取り出したのかは後でツッコミを入れるとして、イシェスタは真っ先に狙撃銃を三つも用意してある事にツッコミを入れた。
「って言うかどこから狙撃銃持って来たんですか?」
「こんなの銃倉庫にいくらでもあるわ」
「確かにそうですけど……」
「だからよ」
「それ理由になってる様でなってないですよね」
確かにアリサの言う通り狙撃銃と言った系統の物は倉庫にいくらでもある。整備士が週一で銃を磨いてくれるから常に綺麗な状態を保てているし、マガジンもほぼすべての種類が完璧に埋まっている。だから持って来れるのは分かるのだけど、それはイシェスタの求める理由ではない。
「っていうかそもそも遠くから見つめるのなら普通に双眼鏡でいいじゃないですか」
「こっちの方が味あるでしょ」
「まぁ確かにありますけど」
「ちなみにもう一丁あるけどどうする?」
「…………」
するとアリサはバックの中からもう一丁の狙撃銃を取り出してイシェスタにみせた。最初は否定する訳だけど、もうここまできたら良いかなって言う暴論に至ってイシェスタも横たわっては狙撃銃を構えた。
「まぁやりますけど! もう止めないですよ!!」
「それでこそイシェスタだ」
そうしてみんなと同じ様にスコープの倍率を上げてユウの病室を見た。傍から見たら四人で寝転がり狙撃銃を構えているのだから変な風にみられるだろう。何やってるんだろう、自分……。
しかし構えている最中にふとした事に気づいて発案者であるアリサに問いかけるのだけど、彼女は無線機を出しながらとんでもない事を言う。
「あれ、でもどうやって会話聞くんですか?」
「安心しなさい、そこら辺は抜かりないわ。リコリスに簡易盗聴器をくっ付けておいた。しかもスパイがよく使うヤツ」
「何で当たり前にそう言うの持ってるんですか……」
こういう時に限って用意周到なアリサにツッコもうとするけど、もうそんな気も起きずにスコープを除く。そしてアリサは四人の真ん中に無線機を置くと電源を入れ向こうの音声を流した。
するとリコリスが病室に入って来て、ユウはそれに気づき表情を明るくした。
「あ、入って来た」
『リコリス……』
『おはよ、ユウ』
やっぱりユウからすればリコリスはそれなりに頼りになる存在なのだろうか。さっきまでとは打って変わって表情が明るくなる。
遠すぎるからだろうか、流石に音声には少しばかりのノイズが混じっているけど、それでもみんなは耳を澄まして二人の会話を聞き続けた。……のだけど、そこから既に危うい雰囲気が流れ出ていて。
『どうして急に?』
『アリサが会ってこいって言うからね。それにユウも一人より誰かと一緒にいた方がいいでしょ?』
『まぁそうだけど……』
『…………』
「おい、早速突っかかったぞ」
「何やってんのあのバカ」
会って早々話題が途絶えた。だからあまりにも早く突っ掛った事に驚愕しているとアリサがそう愚痴を漏らす。いや、コミュ障でもないのに何で? そんな疑問を全員で抱きつつもリコリスが次に何と言うかを待ち続けた。
するとリコリスは早速アリサに教えて貰った最終兵器を解き放つ。
『い……』
『い?』
『いい天気ですね』
「「――――」」
『……外曇りだけど』
きっとみんなこう思っただろう。「え、ここでソレ言う?」と。もちろんイシェスタもそう思ったからこそ驚愕して少しの間だけ体を硬直させた。
まさか本当にその言葉を使うだなんて思わなかったからこそ三人も少しの間だけ応答停止した。やがてアリサは引き金に指をかけると鋭い眼光でスコープを覗きながら言う。
「――ドたまぶち抜いていいかしら」
「駄目ですよ!?」
「大丈夫。これちゃんと実弾だから楽に死ねるわ」
「うわ、マジだ……」
そう言うとテスがマガジンを抜いて確かめた。まさかと思ってイシェスタのも確かめるけど、そこには確実に実弾が入っていて。
いやまぁ決して悪い選択とは言えない。例え街中にいるとしてもこの前みたいにテロが起こる可能性があるし、いつでも戦闘出来る様に備えなきゃいけない。そうは言ってもまさか本当に実弾が入っているとは……。セーフティが掛かってるとは言え咄嗟に引き金から指を離す。
そんな風にしていると二人の会話は進み始め、アリサは引き金から指を離した。これもアリサ恒例のブラックジョークというヤツなのだけど、やはり慣れないと言うか何というか。
その後は他愛ない会話をしつつも何とかユウの機嫌を取り続けた。それを四人で盗聴し続ける。のだけど、ある話題を機に三人は一斉に狙撃銃をしまった。
「……ここまでにしましょうか」
「そうだな」
「え? えっ?」
普通に楽しそうな話題に入ったばかりだというのに、三人は何かを察して立ち上がる。だから何が起こったのかを察せずに立ち上がるとアリサは教えてくれる。
「顔見てみなさい。顔」
「顔……?」
そうして膝に銃口を乗っけてスコープを覗きこんだ。するとリコリスもユウも次第と乗って来たみたいで、二人とも楽しそうな表情を浮かべながら話題に花を咲かせていた。
つまりはそう言う事なんだ。あれだけ暗い表情をしていたユウが明るく喋っている。それはリコリスだからこそ為せる事で、ああしている以上アリサが望むような事は起らないだろう。だからこそイシェスタも納得して立ち上がると狙撃銃をしまった。
「こっから先を覗きこむのは不用心って奴よ」
「良い事言ってる様でやってた事十分不用心じゃありませんでした?」
「今までのは滑った時に援護する為だったのよ」
「その場の思い付きで言い逃れしないでください!」
そうツッコミつつ三人の後を追う。
しかし、気になるのはユウが復活するかどうかだ。生きる意味を失ってるユウにとってこれから先、どうなるのか――――。そんな事を考えつつ本部に戻った。リコリスが戻って来る前に本部へ戻らなきゃ怪しまれるだろうから。
まぁ、どの道簡易盗聴器がバレてアリサが怒られたのは、定番の事だ。
今回から第二章の“前半”が開幕します。ここからは登場キャラも増えていきますので、この物語に関する謎や絶望感なども増していく……事でしょう!
まだまだ続きますので、この作品をよろしくお願いします。




