021 『築く絆』
「い、意外と何とかなる物なんだね」
「そりゃ一斉射撃を行えばな」
一瞬にして機械生命体の群れが片付いた後、それぞれで意外と呆気なかった事に驚いていた。けれど問題はこれからと言ってもいい。この中で誰よりも冷酷でいられるユウは立ち上がるとみんなを見つめながらも言った。
「銃声を聞きつけて他の機械生命体が駆けつけて来るかも知れない。早いとこ移動しよう」
「ああ。そうだな」
やっぱり実戦があるとないじゃかなりの差が生まれるのだろう。みんなユウの冷静さに驚いているみたいだった。
まぁ、ユウの場合は実戦があったからと言うよりかは元から何にも興味がない性格だからって言った方が正しいかも知れない。その言い方なら僅かばかり語弊がある気もするけど。
ユウの言葉で立ち上がるとみんなは即行で大通りを駆け抜けた。すると銃声を聞きつけた機械生命体がゆっくりとながら駆けつけて来て、周囲をうろちょろし始める。それを確認してヘリアンの指示を仰いだ。
「ヘリアン、次はどうする」
「え? ああ、えっと、通常通り先に進もう」
「おーけー」
そう聞いて歩き始めるのだけど、何故かみんな動かずユウの背中を見つめていた。だから振り返ると不思議そうな視線を受けて首をかしげる。
「……どうした? 早く行かないのか?」
「いや、なんというかさ」
「ユウって意外と冷静なんだな~って」
みんなからはそう見えているのかと知りつつも考える。個人的に冷静さを保っているつもりはないし、むしをこれが自然体だ。だからこそ冷静を実感せずにいる。
するとユウの顔を見たヘリアンは何かを確信した様子で提案した。
のだけど、ユウはそれを即座に却下してみせる。
「……ユウ。一つ提案があるんだけ――――」
「だが断る」
「え?」
まだ内容も話してないのに却下されるのだから驚いても当然。ヘリアンは目を皿にしてユウを見つめていた。その他の三人も同じ様に見つめる。
でも、内容を言わなくたって彼が何と言おうとしてたのかは大体予想出来る。ユウだって同じ光景を見ればそうしただろうから。
「指揮を変わってくれ、だろ。俺が冷静だからちゃんとした判断が出来るって考えなら、それは間違ってる」
「え、だって……」
「俺は死ぬのも殺すのも怖くない。だから冷静でいられるだけだ。まだ指揮能力も低いしリーダーシップもない。多分、指揮を取ればこの小隊は統率が崩れるだろ。……それに俺じゃなくても、一番いい判断が出来る人間がここにいる」
自分の短所を相手に突き付けフォローさせる。少しばかり強引だけど、この場でユウが指揮権を握るよりかは遥かにマシになるはずだ。
本来ならここで立ち話をしてる場合ではない。でも互いの事を知る為にも、ユウは一番話したくなかった事を話してヘリアンに自信を持たせる。
「もう一度言うけど、俺は死ぬのも殺すのも怖くない。だから戦う事に何の躊躇もない。そんな俺をこの中で一番効率よく使えるのは――――ヘリアン、お前だ」
すると彼の肩を軽く叩いて激励した。これでいい。ユウが指揮権を握ればみんなも自分と同じって考えるだろうから、きっと無茶な作戦を繰り出すはず。今だけはそう自覚出来た。
時間がないからこそユウは肩を強く叩くと問いかける。
「返事は!」
「い、イエッサー!!」
「これじゃあどっちがリーダーなのか分からないよ」
そうして話を巻き戻すともう一度ヘリアンが先頭に立って歩き始めた。
今のペースでも一つ目の補給地点に間に合うかどうかの距離だし、食糧だって有限なのだ。なるべく早く進まなくては。
それからしばらくは無言で移動するだけの時間が続いた。ユウ自身も緊張しているのだろう。一秒を長く感じながらも確実に一歩を踏み出し、慣れて来た作業を繰り返して補給地点を目指す。
機械生命体が五体以内であれば逃げる事を最優先に考え、五体以上であれば交戦する事を視野に入れつつ逃走経路を確保する。そんな方向で動き続けた。
やがて太陽が真上に差しかかった辺りでとある広場まで到着し、周囲に機械生命体がいない事を確認してその場に止まる事を決める。
「クリア。敵影なし」
「よし、じゃあここで少し休憩するか。と言っても食い終ったらすぐに移動だが」
ヘリアンはそう言いつつも荷物の中にあったレーションを渡してくれる。何か、こうして今にも崩れそうなビルに挟まれレーションを渡されると本当に紛争地の中にいる様な気分になる。似たような物なのだけど。
しかし数回しかチャンスのない休憩時間なのは確かだ。だからこそみんな座り込むと壁や木に背中を預けてレーションを齧る。
「これが昼飯か。今までどれだけ自分が優遇されてたのかが思い知らされる……」
「まぁ街中じゃ基本的に肉と米だからな」
これから任務があれば何度もコレを食べる事になるのだろうか。そう思って食べるのだけど、予想よりも味に刺激があって一口目でびっくりする。こういうのは大体無味の場合が殆どだし、マズイ事が普通みたいな印象だったから目を皿にした。
「あれ、意外と美味しい。レーションってマズイんだとばかり思ってた」
「確かに前まではその通りでしたけど、今は味の改良が進められて刺激のある味になってるんです。それに無味なものばかりだと士気にも影響してきますし」
「ふ~ん。シノリって意外と詳しいんだな」
するとシノリは照れくさそうに微笑みながらも頭を掻いた。
味はクッキーに近い感じだろうか。仄かに甘くサッパリとしていて、食感もサクサクしていて悪くない。確かにこれなら無味の物を食べるより遥かに士気が上がりそうだ。
だからこそお腹が減っていた事もあってすぐに食べきってしまい、物足りなさを残して手の中は空になってしまった。
みんなもすぐに食べ終わっては足りなさそうな顔をしている。まぁ、ここら辺の感覚はじきになれるだろう。
ヘリアンの指示通りにみんなは銃を持って立ち上がり、移動を再開しようと歩き出す。
――でも、その時に何かが崩れる様な音を聞いて周囲を見渡した。
「どうした?」
「物音がする。近くに何かいるぞ」
そう言うと四人は咄嗟に臨戦態勢に入って銃を構えた。ソナーがない以上、視覚と聴覚で判断するしかない。敵がどこから来るかで対応の仕方も変わるのだけど……。
「――っ!? 上だ!!!」
瞬間、上にいる事に気づいて咄嗟に顔を上げた。するとビルから飛び降りて来る機械生命体の姿が見えて、ユウは奴らの真下にいたファニルを若干ラリアットっぽい技で吹き飛ばしつつも潰されるのを回避する。
そして大きな振動と共に地面に着地した二体の機械生命体はユウ達を見るなり目を光らせた。
別れたのはユウとファニル、ヘリアンとグレアとシノリだ。
ユウは近接戦闘も得意としているから問題はないだろうけど、別れた三人がどう対応するのがカギだ。銃で対応するのか近接武器で対応するのか。
反射的にM4A1を構えるのだけど、腕を大きく横に振る事で銃の使用を却下させて距離を詰める。だから後ろに大きく飛ぶと拳が地面に直撃して大きく亀裂が入った。
「そんな、何で上から!?」
「多分ビルの中から奇襲のチャンスを伺ってたんだろ。ちょっと下がっててくれ!」
そう言って腰から剣を引き抜くと銀色の輝きを放つ刃を振り回した。近接武器を握った中で唯一しっくりした対機械生命体用の武器だ。超合金圧縮ブレードなる名前らしいけど、放電機能のあるバッテリーを内蔵しているらしく、任意のタイミングで雷を放ち機械生命体の動力回路を焼切る武器でもある。
だからこそもう一度振り下ろされた腕を足場に脳天に突き刺すと電気を流した。
続いて足に力を入れるとその場から大きく飛び上がってもう一体の機械生命体を同じ要領で倒す。大量の電気を浴びて倒れてはその背中を踏み込むと、脳天に突き刺さった剣を回収して慣れた手つきで鞘に仕舞う。
その光景を四人で見つめていた。
「……ユウってさ、結構運動神経いいんだな」
「そこだけだよ。逆に体力はみんなより下になる。ほら、移動するぞ」
まぁ、みんなは数か月に渡って鍛え続けている訳だし、ユウは体力面を捨て技術面での上達に努めた。当然と言えば当然の差だ。
さっきの件もあってかなり順応してくれたらしく、今度は硬直する時間も少なくなり、みんなは気を取り直してその場を移動した。
「しかし、まさかビルの中から飛び降りて来るとは思わなかった」
「知能がある分行動範囲も広いんだ。今度からはもっと警戒して休憩しなきゃいけない」
「それ休憩って言うのかな……」
索敵中心のグレイも心底びっくりしたのだろう。今だ上を警戒しつつそう喋った。ファニルも次からの休憩が楽しみどころか嫌そうな顔をしている。シノリなんか既に無言で警戒している。
ユウとヘリアンが先頭になって歩く中、ふと彼が肘で脇腹を突いて来るから反応した。
「ユウ、さっきのどうやって見抜いたんだ? やっぱり直感とかか?」
「えっと、ガラガラって瓦礫が崩れる様な音がしたからだな。それから周囲にいないとなると上かなって考えに至った」
「なるほどな。勉強になる」
するとヘリアンは何度か頷きながらも頭にその事をインプットしたみたいだった。
そんな風に会話をしていると気になった事が出来てふと質問した。
「……ヘリアンは何の為にリベレーターに入りたいんだ?」
「お金の為だ。リベレーターでお金を稼いで母さんに仕送りする。俺の家、結構貧乏でさ、どうしてもお金が必要だったんだ」
「へぇ~」
そりゃ、リベレーターに入る理由なんて沢山あるだろう。実際にヘリアンみたいにお金の為であれば誰かを守る為にって純粋な理由を持つ人もいる。中でもユウはかなり捻れ曲がってる部類だけど。
今度は当然の如く向こうから質問され、ユウは少し戸惑いながらも答えた。
それも嘘の答えを今だけの目標にするのもついでに。
「ユウはどうしてリベレーターに?」
「え? えっと……誰かを守る為に、かな」
するとヘリアンは目を皿にして驚いて見せた。そりゃ、死ぬも殺すも怖くない人が誰かを守る為に、なんて理由で話したらそんな反応にもなるだろう。
けれど表情を戻すと彼は言った。今までの言動を見てなお、ユウを優しい人と捉えて。
「……優しいんだな。ユウは」




