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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter1 灰と硝煙の世界
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019  『死なない理由』

「で、結局どうしたの?」


「自分の命を心から大事にする事。それを条件にした」


「ふ~ん」


 あれから数日。

 リコリスはいつも通り書類を書きながらもアリサの問いかけに答えた。ちなみにその向かいではテスがスマホを使って何かをいじっている。

 するとアリサは続けて問いかるのだけど、リコリスは何も隠さずに思いのままを答える。


「リコリス的には出来ると思う?」


「多分出来ない。ユウも私が真偽の魔眼を持ってる事は知ってるから嘘は付けないはず」


「結構容赦ないのね……」


 そう答えるとアリサはリコリスの判断に若干引いて見せる。でもそうでもしないとユウは絶対に無茶をするし、死ぬ事に何の躊躇いもないだろう。彼にとっては残酷な事だけど、これしか方法はない。

 更に嘘を付けないんだからよりタチは悪いはずだ。

 やがて話を聞いていたテスは静かに呟く。


「でも死なせない為にするのはそれが最善の方法だ。まぁ、ユウ本人にとっちゃ死ぬよりも辛い事にもなりかねないけど」


「分かってる。生きる意味を一瞬でも絶たれる苦しみは理解してるから」


 生存本能が機能してない――――自然体で生きたいって言う想いが抱けないユウにとってこれほどなまでに辛い事はないだろう。だって、何かに縋らなきゃ生きていけないのにそれが絶たれているのだから。

 それに人の根底はそう簡単に変わりはしない。だからこそ今のユウは絶対に推薦試験を受ける事は出来ないだろう。

 こればっかりは時間が解決してくれるのを待つしかない。


 死ぬのが怖くないって事は自分がどれだけ危険な状況でも突っ込めるって事の裏返しにもなる。更に他人は守りたいなんて言うんだからもっとタチが悪い。

 言い方は酷いけど、そういう人ほど戦場じゃ死ぬ事になるから。


「じゃあもし仮に自分の命を心から大切にするって誓えたらどうするの?」


「その時は大人しく推薦試験に出させる。体力面が心配だけど、その他の能力と他の受験者にカバーしてもらうしかない」


「ま、条件付きで約束しちゃってるからな」


 個人的には出て貰いたくなんてない。推薦試験は早い代わりに死ぬ確率が一番高い試験だ。今のユウが挑んだ所で、例え生きて帰ったとしても重症の後遺症で戦えなくなる可能性だって高い。過去には片腕を失って生還した人もいたし。

 すると今度はテスが質問し、即座にアリサが答える。


「そう言えば今期の推薦試験ってどんな内容だったっけ」


「確か廃都市からの帰還だったはずよ。東方面に五キロだか十キロ離れた所から指定された補給地点を辿って壁の中まで戻って来るって内容」


「なるほど。いくら弱い機械生命体しかいないとはいえ、中々にハードな事するな」


「そうじゃなきゃ実力が試せないからね。それに最近は軍隊を成して指揮を取る機械生命体もいるって聞くし、一筋縄じゃいかないはず。どう打って出るかが肝ね」


 その会話を聞きつつも考える。あの事件で協力していた所を見るに協調性は問題ないだろう。咄嗟に起死回生の一手を打ったところを見るに頭も回ると見ていい。

 問題はやっぱり体力面だけだろうか。

 そう考えていると扉を何度かノックされてアリサが答える。


「入って良いわよ」


「アリサが答えるんだ?」


 すると入って来たイシェスタは何枚かの資料を抱えつつも焦ったような表情をしていて、少しだけ息を切らしながらもリコリスを見つめると用件を言った。


「り、リコリスさん。ユウさんが話したい事があると……」



 ――――――――――



「それで、話したい事って何?」


「リコリス……」


 あの後すぐにユウのいる病院へと駆けつけ、扉を開いては即座にそう問いかける。この前とは違って元気そうになったユウはもう点滴に繋がれていなくて、包帯を巻かれたまま体を起こして外を見つめていた。

 やがてユウは表情を入れ替えると話し始める。


「例の条件に付いて話があるんだ」


「うん」


 まぁ、今の時期でリコリスに話があるといったらそれしかないだろう。それを分かっていたからこそリコリスは椅子に座るとユウの話を聞いた。

 と言っても最初は説明から始める様子。


「あれからずっと考えてた。俺は何をしたいのかって。特に何かをやりたい訳でもない。痛い思いをしたい訳でもない。俺は、ただカミサマに騙されてこの世界に投げ込まれただけなんだ。だから、何をすればいいのかなって」


 すると早速ユウの表情は曇って行く。そりゃ、世界を救うとかの目的があるのならいざ知れず、何の目的もなくこの世界に投げ込まれたのだからそんな考えになったって仕方ないだろう。更にユウは元から生きる意味を見失い、それを自覚していないのだから。


「リコリスに死なないでって言われてから考えが変わってさ。今まで自分が死んだって誰も何も思わない。そう決めつけてた。でも、たった一人でも死んで欲しくないって思ってくれる人がいるんだって気づいた」


「私だけじゃない。きっと、みんなも同じ思いだよ。ユウはもう私達の仲間なの。だからこそみんなの想いは同じ」


「ああ。……でも、やっぱり死ぬ事は怖くない。その考えだけは捻じ曲げられなかった。きっと俺はこのままじゃあの時みたいな事をすると思う」


「…………」


 ふと掛けていた毛布を強く握り締める。

 今回ばかりは理解してるんだ。自分の根底は覆せないって。奥歯を噛みしめては悔しそうな表情を見せている。

 しかし変わらないだけでもないらしい。


「だからこう考えたんだ。――リコリスやみんなに悲しんでほしくない。誰も失わせたくない。その為には俺は死んじゃいけないんだって」


「それがユウの答えって事?」


「そうだ。……ダメ、かな」


 そう聞かれて考え込む。ユウが考え続けた果てに辿り着いた答えはリコリスの望む物ではなかったって訳だ。リコリスが望んだのは自分自身を大切にする事。それだけだから。

 ユウの答えは第三者を利用した物に過ぎない。早い話しが結局は何も変わってないという事になる。ただ死なない為の理由をこじ付けにも等しい言い訳で決めているだけ。それだけじゃきっと戦場に出ても変わらないだろう。

 やがてユウは続けて喋った。


「俺さ、死ぬ事は怖くない上に、敵を殺す事も怖くないんだ。自分が敵だと定めた誰かなら躊躇なく殺せる」


「ユウ……」


「今回の件は結果的に殺してはないけど、俺は――――向こうの世界じゃ人殺しをした事がある」


 急に明かされた過去の一部。それを聞いて驚愕した。

 だって前に聞いた話じゃ人殺しは完全なる罪だし、ユウにとって誰かを殺す理由なんてないはずだ。それなのにどうして。

 そんな疑問を放ってユウは話し続ける。


「だからこそ命の価値は分かってるんだ。一人の命を奪う事がどれだけ重い事なのか、俺もその一人って事も、全部分かってる。それなのに死ぬ事が怖くないだとか、人殺しが怖くないだとか、説得力が皆無なのは俺が一番よく知ってる」


 まさにその通りだった。命の価値が分かっているのなら普通はそんな事にならない。つまり、ユウは異常な人間だという事になる。

 確かにユウという人間性はヒーローとも呼べる性質を持ち合わせてる。自己犠牲な程かけ離れた『綺麗事』はそうそうないから。


 でも、それを裏返せばユウの狂気性が露わになってしまうのも事実だ。命を賭してでも誰かを守りたい優しさ。死ぬのも殺すのも怖くない、殺人鬼にも似た狂気。ユウと言う人間はその二つの性質を持ち合わせているのだから。

 総じて言えばユウは“狂犬”だ。静止させない限り戦う事を――殺す事を止めず、それ以外は自身が死ぬまで止まらない狂犬。


「でも“誰かを守りたい”。その気持ちに嘘はないんだ。誰も守れた事はないけど、だから……」


「…………」


 誰も守れた事はない。その言葉を聞いて黙り込んだ。

 聞けば聞く程不思議になって来る。好奇心が湧き上がる程に。だってユウのいた世界はここと比べれば遥かに平和で争いのない世界なはずだ。それなのにどうしてここまで思い詰める様な出来事が起きるのか、それが気になってしまう。


 当然これだけの理由で行かせていいわけがない。リーダーとして、教育係として、ここは止めてあげるべき。

 だけど、どうしても止めたくなくなってしまう。自分の愚かさや無力さを知りながらもまだ諦めたくないって吠えているのだから。


「誰も守れないって事はないんじゃないかな」


「え?」


「少なくとも今回の件で三人は捕まえられた。もし彼らを逃していたら今回と同じような事をしていたかもしれない。間接的にだけど、ユウは誰かを守れたと思う」


 正規軍の宣戦布告。それはリベレーターからすればかなり大きな問題となり得る。それも最高責任者が頭を抱えて悩む程に。

 だからこそ、例え三人であっても捕まえられた功績はかなり大きい。

 ……後押しをする気はなかった。でも、ユウならもしかして。


「だからこれからもきっと守れる。誰かを守ろうとする人は、強い人だから」


「リコリス……?」


「一応言っておくけど、納得した訳じゃない。でも、私はユウを信じる」


 そう言って立ち上がった。ユウはその動作を目で追いながらも期待の眼差しでこっちを見て来る。元々その気はなかったのだけどやってあげたいと思ってしまったし、何よりも期待されちゃ応えるしかないだろう。

 だからこそ扉を開けて振り向くと一言だけ言い残して部屋を出て行った。


「死んだりしたら許さないんだから」


 そうして扉を閉める。次に扉に背中を預けると大きなため息をついた。言ってしまった以上もう後戻りはできないし、ユウを信じるしかない。

 すると扉の隣で待っていたアリサは問いかける。


「良かったの? 残り半月でトレーニングも出来ないし、何より当日になればユウは病み上がりの状態で挑む事になるのよ?」


「今回の件で現界は知ったはず。それに少なくとも死なない理由は出来た。もう死んでいいなんて思わないはずだよ。まぁ、手は打つけどね」


「ふ~ん」


「さてとっ。ベルファークさんはどんな反応するかな」


「驚くでしょうね」


 呟きながらも歩いて病院を後にする。残り半月でトレーニングも出来ないとなれば打てる手は一つだけ。かなり出費が嵩む事になるけど、こうなればもうやけくそってヤツだ。

 後始末が面倒くさい事になりそうだけどユウが死なない為なら構わない。そんな心意気で決意した。

 だって、これがユウの選んだ道なんだから。

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