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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter4 選択と代償
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197  『脅威との遭遇』

 近接武器がない。その事実は少なからずユウに大きなダメージを与えていた。だって銃があっても基本的に近接戦を好むユウにナイフの一本もないのだ。銃が使えない訳じゃないけど、やっぱり武器が縛られるのはそれなりに辛い。

 だからユウはエトリアから一時的にナイフを貸してもらいながらも壁に頭を打ちつける。


「まさかここ大一番って時に近接武器を忘れるとは……」


「で、でも私の分がありますから」


「いやいや、そういうけどエトリアさんよ、ナイフって結構大事なんだぞ? 確かに戦闘は銃が基本だけど強い奴らは近接の方が得意だったりするし、そうなった時に自分の得意武器を失くしたとしてもナイフは必須なんだ」


 そんなユウを見てエトリアはなだめてくれるものの、ナイフの重要性を語ると彼女は表情を一変させた。そりゃエトリアはただ近接戦の仕方を学んだだけであって実戦じゃまだ経験をしていない。ユウもそうだったから言えるけどナイフと言うのは案外大事な物なのだ。それに最悪ナイフ一本でもあればサバイバルが出来る~とか推薦試験の時に聞かされたし。


「せめてリコリスみたいな武器があればなぁ。……ん?」


 さり気なく装備の備蓄が甘いタワーに愚痴を言いながらも壁に背中を預けてずるずると座り込む。リコリスの光線剣なら通常攻撃でも高威力だしエネルギーの刃だから折れる事はない。つまりエネルギーさえ切れない限り壊れる事はなくて……。そこまで考えた時だ。ポケットの中に何か石の様な物がつまってると分かったのは。


 確かポケットにはリザリーからの手紙を入れていたはずだけど、石なんか入っていただろうか。いや、ただ忙しくて気づいていなかっただけか。大きさ的によく押さないと石だって分からない大きさだ。どうしてそんな物を入れるんだろうと思いつつポケットから取り出す。


「何か入ってる……。何だろ」


 こんな時にやるべき事でないのは分かってる。でもベルファークの憶測だと残り十分くらいだし、相当織り込まれてる手紙でもない限り読むのに時間は掛からないだろう。それに今となってはこの世界の文字もかなり読めるようになって来たし。そんなこんなで手紙を開くのだけど、まず最初に小さな石が床に落ちて小さな音を立てる。


「石? いや、水晶……かな?」


 落ちたのは小指程しかない小さな水晶で、瑠璃色のソレは光に反射して綺麗な色を放っていた。それに透けている上に水晶越しの光景は万華鏡の様に分割されては屈曲されている。これが何かの役に立つって事なのだろうか。

 手紙を見てみるとやはり宛先はリザリーの様で、急いで書いたからか文章が汚いけど、それでも読もうと眼を細める。


 でも、そこにはこう短く記されただけ。


「【困った時はその水晶を使って】……? え、それだけ?」


 向こうの状況が書いてあるのかと思いきや書かれているのは一行だけ。だから少し残念に思いながらも水晶を見つめる。しかし、困った時に使ってとは言っても使い方なんて分からないし、律儀に取扱い説明書が載っている訳でもない。砕いたりすればいいのだろうか。

 そうしているとエトリアが問いかけて来る。


「ユウさん、それは?」


「ああこれ? まぁ何というか、ライバルがくれた物だよ」


「ライバル?」


「そう、ライバル」


 一応リザリーの事は伏せつつそう言う。だっていくら仲間とか一目惚れをされた相手であっても敵と手を組んだ事があるだなんて流石に言えないし、その事は現状でリコリスとノアしか話してない。ベルファークなら話さなくても勝手に理解するだろうし。

 使い方は依然分からないままだけど、とりあえず首にかけられそうだから首にかけるとナイフを指で扱いながらも立ち上がる。


「……そろそろ準備しよう」


「そうですね。侵入経路は限られてますけど、どうやって入って来るのかは分かりませんし」


 このタワーは地上を塞がれると侵入経路は一つに縛られる。それがユウとエトリア、そしてベルファークのいるここ、展望台兼バルコニーだ。実際ここへはユウも双鶴で入って来た訳だし、飛行さえ出来れば誰でも侵入できる可能性を秘めている。それなりの対策はされているらしいけど。


 ……でも、問題は別にある。今現在、地上にいる部隊はベルファークの指示の下陣形を展開していつ敵が良い様にと構えているはずだ。地下にいる奴らも捕まってる頃だろうからしばらくもしない内に情報が手に入る。そうなればもっと対策は出来るし守る事も可能かも知れない。

 けれどその全てを崩しかねないのがあの狙撃手なわけで。


 ――闇夜に潜み、完全なる意識外から攻撃する狙撃手、か……。


 ショッピングモールでの戦闘を思い出す。あの時も完全なる意識外からの狙撃をされて焦った物だ。そして今回の狙撃もソレに酷似した物を感じる。脱獄したなんて事はないけど、もし弟子とかが出て来るのなら。


「――来る」


「え?」


 ふと、無意識に小さくそう言うとエトリアが反応した。

 感じる。強い気配が近づいて来るのを。これもいくつかの死線を潜り抜けた代償か祝福か、ベルファークやエクレシアの言う例の傭兵が近づいてきているのを察知した。それも《A.F.F》の熱源探知を抜きにしてでも。だからユウは反射的にナイフを握り締めた。


 瞬間、展望台の床が破壊されては人影が飛び出してくる。その人影はタワー内部からの光に照らされていて、容姿は確認出来ない物の、黒いローブに紅色の剣を持っている事だけは確認出来た。そこからやはりエクレシアの相手をした敵なんだと確信する。

 そして目の前にして更に相手のオーラが強くなる。即座に勝てないって思わせるくらいに。


 故に開幕一番から拳銃を向けると真意の弾丸を放って先手必勝を決めようとする。けれど放たれた純白のビームは同時に放たれた紅緋の一閃によって弾かれ遥か彼方へ飛ばされてしまう。

 その時に理解した。ユウが奴に勝てる事はないんだって。


「なっ――――!?」


 弾かれた。その事実はユウは確実に動揺させる。だって真意の弾丸は鋼鉄すらも粉砕し撃ち抜く様な威力を秘めているのだ。それなのに全力の一撃が弾かれた。当然自信を失う訳で――――。

 もう一度駆け抜ける紅緋の一閃。ユウは即座に足を動かすと神速でエトリアを運んでは少しでも遠ざかろうとする。直後、バルコニーは完全崩壊しその周囲も粉々に破壊される。


「冗談キツイって、マジで……」


「ユウさん!?」


 直接的な攻撃は食らっていない。けれど攻撃の反動や衝撃波だけで額から血が流れる程の威力。そりゃ、そんなのが放たれたらバルコニーは全壊するし周囲も破壊される訳だ。

 勝機は既に失った。残るは持久戦のみ。

 腕の中に抱いていたエトリアを離してナイフを握り締める。


 真意の弾丸をも弾いてしまう程の一撃。正直な事を言えばそんなの考えたくもないし認めたくもない。しかし今現実にその現象が起こっている訳で、奴の周囲にある壊された壁が何よりもの証だ。


「戦車の砲撃でも壊れないっていう壁が壊されるとか、どんだけムリゲーだよ」


 そう呟きつつも立ち上がる。きっとこればっかりは真意を使ったってどうにかなる問題ではない。個人が有する反応速度や判断力、適応力、応用力、その全てを試されるだろう。そして相手は既に仲間と協力しエクレシアとニグレドに深手を負わせているという功績を持っている。それこそまさにムリゲーそのものだ。


「一応聞くけど、抵抗しないのなら見逃してくれる?」


「無論だ。我々の目的はお前達の殲滅ではない。このタワーを破壊する事だけだ」


「なるほどね……。だからって、好き勝手にやらせる訳にはいかないけど!」


 出来る事なら見逃して欲しい物だ。けれどこっちはタワーを破壊させない為にここにいる。絶対に無傷では済まないけど、負傷した末に撃退まで持って行けるのなら……欲を言えば束縛まで持って行けるのなら本望だ。

 最初から全身全霊で行かなきゃ死ぬ。だから真意を発動させると双鶴と一緒に敵の真正面から突っ込んだ。


 逆手に持ったナイフに真意を纏わせて思いっきり前方へ撃ち出す。まず最初にこれだけで普通の兵士だったら木っ端みじんになる威力だ。……だというのに、奴はもう一度紅緋の一閃を解き放つと真意を完全に切り裂いて衝撃波を背後へ逃がす。その後に互いの刃がぶつかっても微動だにしなかった。


 ――真意……じゃない。となると、本当に信じたくないけどこいつ自身の力で?


 今までも真意を使わず真意に対抗した人はいた。ノアやリザリーと言った魔術適正度の高い人達がそうだ。防衛作戦の時にいた例の魔術師もそれになぞらえているはず。

 その人達は真意にも匹敵するくらいに魔術を鍛え上げているのだ。つまり、今目の前にいる傭兵も、魔術か何かを真意に匹敵するくらいに極め抜いた実力者になる。何より直剣とナイフだ。軽さや脆さは目に見えている訳で、敵は少し押し切るだけでナイフを弾く。


「っあ!?」


 直後に飛んで来る回し蹴り。当然仰け反った状態で回避が出来る訳もなく、脇腹に容赦なく攻撃を食らって吹き飛んで行く。肺の中の空気が無理やり吐き出される気持ち悪い感覚。それを噛みしめながらも何度かボールの様に転がると何回目かの回転を機に床へ手を突いて起き上がる。


 でも顔を上げた瞬間には紅緋の一閃が眼の前まで接近していて、中距離の攻撃も可能なんだと悟って即座に飛び上がった。

 オーラを纏った攻撃は超高威力な上に中距離攻撃も可能とかどんだけぶっ壊れ性能を見せつければ気が済むと言うのか。しかもこれが真意じゃないのだから驚きものだ。初期のリザリーみたいな事を言うけど人間がここまで強くなれるだなんて思ってもみなかった。


「じゃあこれで……ッ!!」


 そう言って双鶴に触れると二つ同時に真意を上乗せして解き放つ。更に第二形態のおまけつきだ。通常ならこれでユウもこのタワーの壁を壊せるはず。その一撃を耐えられるかどうかで本当に勝敗が決まって来る。

 頼むからこれで一撃でも入ってくれ。必死にそう願った。


「――舐めるなッ!!」


 でも、その願いは真正面から打ち崩される事になる。

 奴はそう叫んだ瞬間に飛んで来た斬撃。それは第二形態になり真意を乗せた双鶴を同等の威力で相殺し、あまつさえ衝撃波だけでも周囲の装飾や脆い壁を壊してユウ達を吹き飛ばす。だから二人は何も出来ずに壁に叩きつけられた。

 正直、真意って言われた方がまだ現実逃避がしやすい。


 やがて奴は紅色の刃を振るわせると壁に叩きつけられたユウを真っ直ぐに見て宣言する。自分がどれだけ脅威的な存在なのかを。


「容赦はしない。覚悟しろ」

気が付いたらまるまる一週間も経っていた。それ程なまでに忙しかったって事なのだろうか……。まだまだ更新ペースは戻らないと思うけど、それでも地道にやっていきますよー。

べっ、別に小説書ける時間を某鉱石病を治すクソ重い雰囲気のゲームのイベントをやってたわけじゃないんだからね!(早口)勘違いしないでよね!

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