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Lost Re;collection  作者: 大根沢庵
Chapter4 選択と代償
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195  『革命軍』

『我々は傭兵の人権復興を目指す革命軍です。捨て駒にされる傭兵の……人権度外視の体制を正す為にここへやって来ました』


 タワー内にその声が流れ、同時にモニターやテレビにはリベレーターとも正規軍とも違う腕章を付けた人達が映って来る。全員が肌に醜い傷を負い、今までどれだけの戦場を駆け抜けたかを表している。中にはマスクを被って素顔を見せない人までいた。その隙間から見える火傷の跡だけで理由が容易に想像できる。

 ユウとエトリアはその映像を見つめ続けていた。


 画面に映った男達はただ真っ直ぐにこっちを見つめていて、微かな光が灯るその瞳からは本気で訴えようとしてるんだって理解させる視線を放っていた。

 やがて戦闘に立っていた男は手を動かすと演説を始める。でも、管制室にいるこっちとしてはあまりにも異常な光景であって。


『これまで、我々傭兵は奴隷同然の扱いを受けて来ました。戦場では囮や無理難題の作戦を強いられ、都市では迫害を――――』


「待って、このタワーで映像を流すのならここを占拠しなきゃできないはずじゃ!?」


「っ!?」


 ユウがそう言った事によってエトリアもその異常性に気づく。

 ここは管制室。タワー内の全ての情報が揃っていると言っても過言ではない。ベルファークから貰った資料によると情報の発信はここからでしか出来ないと書かれているし、外部からの接続は完全に不可能で、ハッキング対策としてセキュリティもかなり頑丈になっていると書いてある。そしてユウとエトリアはここにいるのに何故モニターに映像が流れるのか――――。


『ですが安心してください。即刻この場にいる皆を危険には晒さないし、先ほどから伝わっている振動その物に害はありません』


「その物にはって事は、やっぱり何かを企んでるのか……! エトリア、システムのチェック!」


「はい!」


 モニター越しに革命軍の話を聞きながらもシステムに異常がないかを確認する。もし仮にハッキングされているのだとすればシステムが自動的にエラーだの警報だのを出してくれるはずだ。それなのに何もなしにハッキングされるだなんて事は考えにくい。


『しかし、我々の目的は傭兵の人権復興です。同じ人間でありながら、傭兵と言う肩書と身分だけで奴隷同然の扱いや差別を受ける。それは傭兵として、同じ命を持つ人間として、到底認められる物ではない!』


「――い、異常、ありません!」


「やっぱりそうか。ったく、どうやってこの映像を……!」


 革命軍の面々に悪意がないのは分かる。敬語だったり危害を加えるつもりはなかったり、やり方は乱暴だけど、ソレを正す為にこうするしか手がないと言うのも理解出来る。それに彼らの言い分は理に適っている。ネシアやニグレドと言った専属の傭兵は別でも、どこにも属さない傭兵は奴隷同然だと聞いた。その考えがおかしいとユウも前々から思っていた訳だし。


 しかし突き詰めれば傭兵というのはそういう“物”にもなってしまう。だって傭兵は都合のいい戦争道具で、必要になれば雇い、いらなくなれば捨てるだけ。金で命を買われるも同然なのだからその待遇はあまりにも残酷な物で……。

 イシェスタの話を聞いた時もそうだったけど、どの世界に行ったって差別は変わらない。必ずどちらかが蹴落とされてしまうのだ。

 それが『絶対的不条理』の名の下に生成された自然の摂理……ルール。


『ですので、我々は一時間後にこのタワーを破壊します』


「そりゃ、ここまで大掛かりな事をしたんだからそれくらいはするか」


『再度申しましょう。我々の目的は傭兵の人権復興です。この場にいるあなた達に危害を加えるつもりはなく、これは“抗議”なのです。だから、みなさんは即刻この場から避難してください』


「優しいと捉えればいいのか、仕方ないと捉えればいいのか、分かりませんね……」


「傭兵にも心はある。そう伝えたいんだと思う。何より、俺も同じ立場だったら、同じ事をすると思うから」


 彼の話を聞きながらも少しだけ考える。ユウも彼らと同じ身であったのなら、きっと同じ事をしていただろう。不公平だと。あんまりだと。そう訴えていたはず。だからこそ、これは世界に蔓延った“仕方のない事”の内の一つでしかないのだ。

 救いがないからこそ絶望しか訪れない。故に仕方のない事と片付けるしかない訳で。


『それでは、みなさんの賢明な判断を祈ります』


 その言葉を最後に映像はプツリと途切れた。だからユウとエトリアはそのモニターをじっと見つめたまま黙り込んでいて、監視カメラに映る人達も困惑しては黙り込んでいた。

 当然だろう。だって、記念すべき日にテロの予告をされたのだから。

 しかし今はそれ以上にやらなければいけない事がある。


「――しばらくしたらここを離れよう」


「え? どうしてですか?」


「このタワーの関係者は、今の映像を見て管制室が制圧されたって考えるはず。でも実際には俺達が制圧しシステムをチェックしても異常はなかった。つまり顔は違くとも実行犯は俺達って思うはずだ。これはかなりの緊急事態。当然焦らなきゃいけない。いくらリベレーターの腕章を付けてるとは言え、彼らに冷静な判断が出来る?」


「…………」


 するとユウの推測を聞いて黙り込んだ。まぁそんな反応になっても仕方ない。いくら冷静に判断しているとは言えエトリアにとっては未来予知にも等しい推測だし、何よりもあの人に似た思考になってるのだから。


「……指揮官みたいですね」


「最近自分でもそう思う。何というか、推測が鋭くなってきたと言うか……。まぁ今はいい。必要な情報だけを拾って行こう」


 そう言って隣に座ってタワーの異常などを調べようとするのだけど、その時にベルファークの映っているモニターを見て少しばかり反応する。彼はこっちを……厳密には監視カメラを見て強い視線を向けては頷いた。恐らく、ユウがベルファークの狙いを見抜いた辺りからこう反応する事も予測済みなのだろう。最早恐ろしいばかりだ。


 要するに速く逃げろって事なのだろう。ユウとエトリアはショートカット用の通路を使ったけど、あれを使って降りるにせよ梯子を使わなきゃいけないからそれなりに時間はかかる。計算すると残り時間は五分か十分。それまでの間にタワーの異常を調べなければ。


「でも、革命軍の事はどうするんですか?」


「そこら辺はエクレシアとかリコリス達が何とかしてくれる。俺達は今の俺達にしか出来ない事に集中するんだ」


「わ、分かりました!」


 それからエトリアが監視カメラでの確認を行い、ユウはシステムチェックとかの作業で確認を行った。しかし制限時間内に状況確認は出来る物なのだろうか。色々とチェックが多いし、仮に情報をゲット出来たとしてもギリギリかそれ以上に緊迫した状況になる可能性が高い。

 出来るだけ急ぎながらも情報収集に専念した。


 ――指揮官はコレを読んでた。読んでいて、攻撃されると分かっていて、このタワーを囮に選んだ。更に警備が薄いのはノアを活躍させるためなはず。どこまで読めてるのかは分からないけど、でも、もし相手の数までは読めてなかったのだとしたら……?


 ユウがタワーに向かう時と四人で戦っていた時の狙撃は傭兵の物だろう。どうやってあんな威力の物を掴めてるのかは知らないけど、とにもかくにも対策をしないとどうしようもない。少し前にエクレシアが向かっているから大丈夫だと願いたい所だ。

 そう思ってた時だ。理由を察したのは。


「……そういう、事だったのか」


「え?」


「クソッ! やられた!!」


 コンソールの隣にある机に拳を叩きつけて叫ぶ。状況を隅々まで読んでいるのはこっちだけだと思っていたが、どうやら向こうもそれなりの手慣れがいる様だ。それも場合によってはベルファークとタメを張る程の実力の持ち主が。


「ユウさん、どうしたんですか?」


「ハッキング防止のシステムが全てロックされてる」


「っ!?」


「そりゃ、異常がないかを調べる為のシステムすらも機能停止してたら異常は見つからないしエラーも起きないか。ただ問題なのはどうやってこの短時間でパスワードを聞いたのか……」


 そう言って振り向いた。倒れている職員の腰に拳銃が残っていると言う事は、少なくとも反応するまもなく気絶させられたと言う事だ。それにこんな重大なシステムのパスワードをただの職員が知っているとは思えない。だからと言ってこの短時間でパスワードを割り当てられるはずもなく、状況を見ると“事前に知っていた”としか言えない状況になってしまう。

 するとエクレシアから電話が掛かって来て、ユウは手を動かしながらも応答した。


「もしもし、エクレシア?」


『あー、よかった、そっちは無事?』


「こっちは大丈夫。今の所は問題ない。今の所は、だけどね。そっちは――――」


『ごめん。ボクはちょっと深手を負っちゃってさ』


「そうなんだ。……え? えぇっ!?」


 しかしエクレシアがそう言い切った直後に同じ言葉が再生され、ようやく現実を認識してはエクレシアが負傷していたんだと驚愕する。だって彼女は第一大隊二番隊隊長だ。それ程の人が簡単に深手を負うはずがない。それに相手は傭兵だ。彼女に深手を負わせるだなんて到底考えられない。

 でもそれが事実の様で。


『あれから狙撃してくる敵を倒そうと思ったんだけど、一人の傭兵に邪魔されちゃってさ。一応ニグレドさんと一緒に一時撤退まで持ち込んだんだけど二人一緒に負傷しちゃって……』


「そんな、エクレシアが!?」


『一応状況は把握してる。だからこそ言うけど、その傭兵が来た時……仮にボクが万全の状態だとしても、多分致命傷は避けられない』


「んなっ……」


『その傭兵は黒のローブを羽織って緋色の剣を使って来る。よく聞いて、仮にとんでもないオーラを持った傭兵が現れたら、一瞬でも躊躇しないで。じゃないとやられるのはそっちだから』


「…………」


 エクレシアがそこまで言うのだ。きっとユウなんかでは想像も出来ないくらいに強いのだろう。そんな敵がタワーの前まで接近していただなんて、考えただけでもゾッとする話だ。

 しかし動かなければ何にもならない。だからユウはタイムリミットギリギリになるまで粘るとある物を見付ける。それはこの現象を説明するに相応しい物でもあって、ユウはそれを確認すると全てのウィンドウを閉じてエトリアに言う。


「エトリア、行こう!」


「はっ、はい!」


 ショートカット用の通路の通路からは複数の足音が聞こえるし、後数秒でここに入って来るはず。来た時には敵も味方も倒れてるのはおかしいだろうけど、それでも誤解されるよりかはマシだと思って即刻この場を立ち去った。

 近接武器であるナイフを忘れながら。

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